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ヤンデレ悪役お嬢様は騎士さまに夢を見る  作者: ジーニー
お嬢様、長期休暇にて修羅場
47/66

騎士、外れの森にて窮地に陥る

よろしくお願いします。

ちょっと短めです。

「さぁ、如何であろうな? 何よりそんなことはもうどうでもいいことではないのか?」


 確かにそうだ。最早こいつが人間を辞めていようが、その正体が何だろうが関係はない。こいつを殺すという意志が揺らぐことはない。

 しかし、それでも今の状況を冷静に考えられない程、俺はその激情に流されてもいない。


 今の俺は、こいつに勝てない。いや、逃げられるかどうかも定かではない。それほどまでの圧倒的な実力差が俺たちの間にはある。元々最初の一撃で感じていたが、こいつは想像以上の化け物だ。


「俺の意志は変わらねぇ。だが、現状を認識できないほど馬鹿でもないってだけだ」

「そうか、貴様はそういう男であったな」

「分かったような口を利くなよ、化け物」


 死ぬわけにはいかない。俺が死ねば、お嬢様は間違いなく俺の後を追うだろう。それだけはあってはならない。

 そうだ、死ぬわけにはいかねぇ。だから、形振り構わず脱兎の如く逃げ出せ。殺すのはまたの機会でいい。


「しかし、もう少し私の遊びに付き合ってもらうぞ」

「やなこった、1人で遊んでな」


 魔力はもう底をついている。僅かに回復していた魔力もさっきの攻防で使い果たした。しかし、俺が逃げる為には『シュバリエ』に頼るしか方法はない。逃げる為に命を賭けるなんて本当に久し振りだ。

 外界の魔力を再び取り込む。僅かでもいい、何とか逃げる為の魔力を捻り出せ。


 永遠のような時間だった。極限の集中のためか雨音さえも聞こえない。一瞬だ、一瞬で出来る限りあの化け物と距離を取れ。速度もあいつのが上なら、逆方向にただ逃げるだけじゃ意味がない。逃げるなら、あいつの意識を少しでも逸らさなければならない。


「……………………………………………………」


 不意に雨の勢いが弱まった。


『シュバリエ!!』


 魔術の発動を叫ぶと同時に、大剣を化け物目掛けて全力でぶん投げる。奴はそれを掴んで受け止めた。

 今しかねぇ!! そのまま走り込み、その掴まれている大剣の柄に思いっ切り蹴りを入れて更に押し込む!! そして、俺はその柄を足場に思いっ切り跳躍する。


「ふむ」

「余裕ぶってろ! クソ野郎!!」


 大剣を再び俺の手に顕現させ、また上空から投げつける。狙いは外さねぇ!! 大剣は奴の足元に叩き込まれ、ぬかるんだ地面の泥を跳ね上げる。卑怯だろうが汚いだろうが、なんとでも言え。これで少しは時間を稼ぐ!


 そのまま化け物の姿が見えない位置に、木々の枝を折りながら着地し、再び全力で駆け出す。

 そうして逃げて逃げて、最早自分が今どこにいるのかさえも分からない場所まで逃げ続け、俺は力尽きて倒れた。


「あー……やべぇ」


 魔力どころかもう指先一つ動かせない。雨に打たれ続けて身体は冷えていく。しかし、それでもあの化け物の目の前にいるよりはまだ助かる可能性があるはずだ。ごめん、お嬢様。悪いけど、少し休んでから戻るよ。ちょっとだけ休ませてくれ、色々報告しなきゃいけないことも後でちゃんとやるから。


 そうして俺は疲れに身を任せて、目蓋を閉じようとする。













「今のは中々良い暇潰しであったな」


 ……嘘だろ、おい。

 そこには息一つ切らしていない、余裕のある姿で化け物が立っていた。












「……な……なんで……いやがる」


 もう俺は呂律も回らない。それに対して、この化け物は涼しい顔で俺を嗤っている。


「いや、なに。良い運動であったぞ? ……そんなことよりいい表情だ。貴様のその表情が私を愉しませる」

「…………しゅみの……わりぃ……やろう…………だ」


 あぁ、今の俺はさぞ絶望した表情をしているに違いない。クソ、約束を嘘にするわけにはいかねぇってのに。どうする? どうしたらいい? いっそのこと命乞いでもしてみるか? 冗談、絶対に嫌だ。それ以外の方法で切り抜けてやる。


「クク……生き残る算段をまだ考えているのか?」

「それの……なにが…………わるい」

「滑稽で惨めだと思っただけだ。安心しろ、まだ貴様は殺さない。こんな所で殺しはしない、そんな勿体無いことをする訳がないだろう?」


 意味が分からん。もうやだ、こいつ。


「貴様はエリザの前で殺すと決めているからな」

「……後悔するぞ、てめぇ」


 これだけははっきり言わせて貰う。お前の思惑なんぞ知らねぇ、必ず後悔する。させてやる。

 生温いことを言いやがって。どんな手を使ってるのかは知らんが、その油断が命取りだ。


「あぁ、私が逆に殺されると? そういうこともあるかもしれんな。だが、それはそれで面白い」

「……くるってんのも……そこまで…………きもちわりぃ」

「なんとでも言うがいい。まぁ、折角だ。腕の一本位は貰っておこうか」


 奴が俺に向かって腕を伸ばす。ふざけんな。今、腕を捥がれたら死ぬだろうが。


「死んだらそこまでだ。期待しているぞ? もし生き残ったのならば、次に会うのは学園だな」

「…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………くそ」


 奴の手がゆっくりと俺の腕に近付いてくる。あぁ、くそ。抵抗できねぇ。


『ディストラクション!!』


 刹那、巨大な岩塊が奴に直撃した。













「間一髪ね。逃げるわよ」


 満身創痍の筈の隊長が俺を抱えて疾駆する。


「隊長……なんで……?」

「あんなフラフラの馬鹿を放って置けるわけないでしょ。……ま、本当はあんたの気配を近くに感じたから、追っ掛けに来ただけなんだけどね。にしても、横にいた奴が犯人なのね? 暗くて顔が見えなかったんだけど」

「………………わるい」


 兎に角助かった。何でか知らんが、奴が追い掛けてくる気配はない。あの場でただ突っ立っているだけで、何もする様子はない。奴は本当に俺を生かしておくつもりだったようだ。


 おそらくだが、これからも奴はこれまでと変わらぬ生活を送るつもりで、俺を弾劾するということもないだろう。そして、時期が来て舞台が整えば、その時にでも仕掛けに来る。あいつは狂っていて、俺達の抵抗を待っている。それだけは間違いない。そして、俺は奴のその余裕に救われた。要するに、俺の完全敗北だ。


 隊長にも詳しい事情を説明したいが、その元気はもう俺にはなかった。













「これも天命というやつか。思いの外、良い暇潰しであった。予定外の事が起こるというのは胸が弾むな」


 愉しげに笑う奴を俺が気付くことはなかった。


 あぁ、覚えていろ。ウーサー・ヤディーレ。次は必ず俺が勝つ。お前だけは俺が斬る。俺はお前を絶対に許さない。


ありがとうございました。

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