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ヤンデレ悪役お嬢様は騎士さまに夢を見る  作者: ジーニー
お嬢様、長期休暇にて修羅場
45/66

騎士、御前にて静かに怒る

よろしくお願いします!

「どうなってやがる!?」


 咄嗟に回避しようとする。しかし、先程まで隊長の両腕を拘束する為に使っていた俺の脚を、今度は隊長が押さえ付けていた。隊長が嗤う、その笑みはゾッとするほど冷たい。


『強化ぁ!!』


 下半身に身体強化を全力で注ぎ込み、何とか隊長の拘束を逃れて右に回避するが遅かった。大鎌の鋒は俺の左肩を捉えて、突き刺さっている。


「い、痛くねぇ!!」

「嘘が下手ね、シキ。泣き叫びたい位痛い癖に」


 しかし、腕が切断されなかったのは不幸中の幸いだ。どうにも土魔術で雑に吹き飛ばしてくれたお陰で、狙いまでは正確じゃなかったようだ。それでも、鎌を引き抜けば、大量の出血は免れない。それでも、抜いて止血しねぇと不味い。


「オラァッ!!」


 根性で引き抜くが、凄まじい痛みだ。血が足りねぇ! まずは上着を脱ぐ。それから念の為に持ってきていた薬草を傷口に当てて、その上着で患部を固定した。気休めだ、意識が持たねぇよ……。


「まだ粘るのね……フフ、それにしても甘いことね。あんた、精々あたしと互角かそれ以下なんだから、殺す気で来ないと死ぬってことを自覚してなかったの?」

「してたが、俺の目的はあんたを殺すことにはねぇ」

「それが甘いのよ、最早国賊よ? あたしは」

「……で? それがどうした」


 まだだ。まだあいつは国家的テロリストでも、犯罪者でもない。俺の傷も深いが、まだ致命傷ではない。俺の能力なら十分に助かる筈だ、たぶん。


「頼まれたんでね、あんたのことを」

「あいつらに?」

「そ、あいつらに」


 その表情が余りにもつまらなさそうで、腹が立つ。


「あいつら、自分たちがヤバくてもあんたの心配してたんだぜ? 部下の鏡だよな」

「そうね、死ねば余計なことも言わなかったのに」

「馬鹿言え、殺せなかったくせに」


 もう見破った。あれは隊長だけど、隊長じゃねぇ。だけど、あいつらが生きて見逃されたのは、隊長にもまだ正気の欠片が残っているからだ。俺がまだ生き残ってるのもそうだ。あの大鎌は俺を殺す、必殺の一撃だった。それが外れて肩に刺さっただけだった。

 まだ隊長は抗おうとしている。戦っている。


「隊長にその首輪は似合わねぇ」

「何の話よ」

「今に分かる」


 あの時、隊長の上に馬乗りになった後に隊長が高笑いをした瞬間、はだけた首元に何かが突き刺さっていた。あれが原因だ。おそらくはヒュドラに付いていた隷属輪の簡略化したもの。隷属輪はヒュドラみたいな獰猛な魔物を飼い慣らす為に感情を鎮静化させていたが、あれは多分逆だ。負の感情か何かを著しく増幅させるものだ。


 それが隊長の首に付けられている。怒りで頭がどうにかなりそうだ。ウチの隊長にあんな下衆なものつけやがって。


「命はやれねぇ、根性見せてやるよ。あんたに扱かれた部下の意地ってやつを見せてやる。『シュバリエ』」

「懲りないのね。それだけ血を流して使えば、あんた本当に死ぬわ」

「忠告ありがたく聞き流してやんよ」


 大剣はいらねぇ。大鎌や魔術を回避し、一瞬の生存を勝ち取ればいい。俺の手は届く。必ず届く。何があっても届かせて見せる!


「そ、まぁ死体になってくれるなら大歓迎ね」

「その予定はねぇ」


 行くぞ。覚悟を決めろ。下半身に力を溜める。溜めて溜めて溜めて…………駆け抜けろ!!

 地面が俺の踏み込みで陥没する。狙うは正面突破。それ以外はない。


「さよなら、シキ」

「おやすみ、隊長」


 あちこちの地面が盛り上がり、大量の土の剣が俺に殺到する。関係ない、俺の速度に追いつけるはずがない。血が再び噴き出る。突き刺された左肩は灼熱で、俺の感覚を痛みで全て塗り潰していく。


「ガァァァぁぁぁッ!」


 時々、早いタイミングで射出された剣が俺を掠めていく。構わない、こんなものは今更だ。致命傷なんかになりはしない!


「死ね!」

「嫌だね!!」


 振り下ろされる鎌も回避する。元々、あんなアホみたいな魔術を使ってんだ。ガス欠はお互い様に決まってんだろ!


 そのまま首元に掴みかかるが、勢いをつけ過ぎたのか2人揃って泥塗れの地面を転げ回る。そして、隊長の首回りを触り、妙な感触のする部分を掴み引き抜く。俺の右手には妙な魔導具が握られており、それをそのまま力任せに握り潰す!


「ヘヘ……ざまぁみろってんだ」


 達成感に溢れる。よかった、これで隊長は元に戻るはずだ。へへ……安心したら、血が足りなくてフラフラすんな。急いで俺も隊長も手当てをしなきゃな。もしかしたら隊長は俺の今のタックルで気絶しちゃったかもしれないし。


 そんな風に安堵感に包まれていると、下から俺を非難するような声が聴こえた。あれ、隊長の意識まだあったんです? 良かった良かった。
















「……どこ触ってんのよ、おっぱい魔人」


 そう、俺は隊長に馬乗りになり、右手で魔導具を握り潰し、余った左手は隊長のおっぱいを鷲掴みだった。


「すいませんでしたぁ!!!」


 達成感は台無しだった。














「まぁ、今回は流石に許すわよ」

「あ、ありがとうございます! で、でも正直おっぱいの感触とか鎧で殆ど分かんなかったっていうか……」

「あんたがぶん殴って、鎧は壊れてるんだけど。何? あたしのおっぱいは鎧並みに硬いってこと?」


 ヤバい、選択肢ミスった。


「……ハァ、何であんたなんかに惚れたのかしら」

「さぁ? とにかく、その感じは元に戻ったみたいだな。身体の調子とか大丈夫か?」

「あんたにボコスカに殴られたところが痛い」


 それは仕方ないじゃん?


「冗談よ。問題なさそうね」

「そりゃ良かった。あれで神経やられたとかだとマジで手のつけようがなかったから」

「敵もそこまで本気じゃなかったと思う。やられた時のことは朧げだけど、どうにも思いつきな気がするわ」


 本気じゃなかったねぇ。マジで何を考えてやがるんだか、あのクソ王子様。


「とにかく、隊長の持ってる薬草で最低限の手当ては互いにしようぜ」

「そうね、責任取るのはその後よね」

「は? 責任? 何の?」


 隊長の言いたいことは分かるが、何の為に俺が苦労してたのか分かってないだろ。


「いらんだろ、そんな責任」

「いるでしょ、普通」

「いらん」

「いる」

「いらん」

「くどい、薬草食ってなさい」


 モガァ!?

 直接ねじ込みやがった!!


「あたし、3番隊の隊長なのに不覚を取ったのよ? そんなの辞任しかないじゃない」

「モガモガ(だからぁ)」


 全然分かってねぇ。


「そんなんで辞められても困るだろ、あいつら。何で辞めた俺に頼んできたと思ってんの? あんたに隊長続けて欲しいからでしょうが」

「……だからといって」

「これから挽回しろよ、みっともない所は見なかったことにしてやるから」


 俺の言葉に隊長は黙り込む。黙り込んだのをいいことに、俺は隊長の道具袋から薬草を取り出して口に突っ込んだ。


「モガァ!?」

「そのまま薬草食って寝てろ。そうすりゃ死なねぇだろ?」


 ついでに魔力草を拝借し、俺が食べる。まだやることがある。止血も済んだし、薬草も食って少しはマシになったので、もう少し動けそうだ。


「じゃあ、また迎えに来るから」

「……あんたはどうすんの?」

「決まってんだろ、元凶を潰しに行くんだよ」


 気配はないが、いるはずだ。イゾン大森林の一件で、ヒュドラ以外の死体がなかったのは間違いなくクソ王子が手を回していたからだ。そして、あの悪辣な獣の眼を思い出せば、自然とこういった仲間割れみたいな戦闘を高みの見物をしているだろうと検討がつく。


 俺の怒りに満ちた眼を見て、隊長が俺を止めようと開きかけた口を閉じて別の言葉を掛ける。


「気をつけなさい、後さっきの告白は本当よ」

「それ位は分かるわ。答えはさっきの通りだ」

「そう……残念ね」


 その冷たい答えを最後に、俺は立ち上がり走り出す。


「…………………………あたしもシキとダンス踊りたかったな」


 小さく呟かれた少女の言葉は、確かに俺の耳に届いた。





















「ウーサー・ヤディーレ第2王子、話があります」

「俺に何か用か? シキ・トアル」


 ただ悠然と微笑んで返答するこの男が、俺はどうしても許せなかった。


ありがとうございました!


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