騎士、雨の中にて
よろしくお願いします!
「あたし、あんたが好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きでたまらないの」
「うん、一回で分かるから落ち着け」
ヤバい。衝撃で思考停止もさせてくれない。女の子の好意のぶつけ方ってみんなこうなの? お嬢様もそうだったけど、何でこんな壊れた魔導レコーダーみたいなんだよ。
落ち着け、いや、無理だな。
隊長が俺を好きなのもビックリだけど、この妙な既視感に俺は震えを止めることができなかった。
「分かったら、そこを退きなさい」
「いや、何で分かったら退くんだよ! ていうか、分かんねぇし!」
今のところ分かったのは隊長が俺のことを好きらしいということだ。しかし、どうしてそれが宮廷破壊に繋がるのか、それが分からない。
「あんたはあの女に縛り付けられてるわ、だからあの女を殺すのよ」
「いや、だからそれは俺ももう納得したって話しただろ」
「そんな筈ない!! だって、シキはあいつが死ねばあたしの元に帰ってくるんでしょう?」
何がどうなればその思考に辿り着けるんだ。
「むしろ隊長がお嬢様を殺したら、俺はあなたを殺すよ」
「嘘よ」
嘘じゃねぇよ。
「悪いんだけどさ、隊長。俺は隊長の好意は受け止められない。そもそも隊長だって昔は俺を振り回していて、罵詈雑言だっただろ。それで好意に気付くことができるほど、俺は経験豊富じゃない」
「知ってるわよ、そんなこと!!」
気付けば、俺も隊長も武器を下ろして構えを解いている。雨が降り始めた。雨は容赦無く俺と隊長を濡らしていく。
「知ってるわよ……そんなこと、とっくに知ってた……」
隊長の表情は分からない。でも、泣いているのだろう、声が震えている。
「あたしも最初はそんなつもりなかった。あんたを振り回すのが楽しいだけだって、困った顔にさせたいって、そんなことしか考えてなかった」
「……」
ただ隊長の嘆きを黙って聞く。
雨は益々勢いを増していき、隊長の涙を隠すかのようだった。
「デートした時もそう。どこに行けばいいのかなんて分からないから、山賊を狩りに行くなんて馬鹿みたい」
「いや、それは馬鹿だよ本当に」
「う、うっさい! 乙女心の分かんない奴ね!」
そんな蛮族みたいな乙女心は知っててたまるか。
「あの女は魔女よ。シキを堕落させる魔女、殺すのにそれ以上の理由なんて必要ないわ」
「下らねぇな」
本当に下らない理由だった。そんなつまらないことで宮廷を破壊しようとしたのか、この人が? ありえない。
「何をされた、隊長」
「別に何も。ただあたしの意思よ」
「そんなわけあるか」
この人はそういう私情に流される人じゃない。じゃなきゃ、中央騎士団の3番隊隊長なんてポストに就くことができるはずもない。内心を別にして職務は果たしていた筈だ。
「何か悪いもんでも食ったんだろ。吐き出させてやるから安心してな」
「あんたにあたしの何が分かる!!?」
周囲の土が盛り上がり、土槍と化して襲い掛かってくる。しかし、キレがない。ただ放たれただけだ。前進回避して大鎌を弾き飛ばす。俺はそのまま大鎌を大剣もろともぶん投げて、隊長に殴り掛かる。
「分かるか!! 俺の知ってるラニア・アリシアはそういうメソメソした女じゃねぇんだよ!!」
「じゃあ、あんたはあたしを知らなかっただけよ! 本当はあんたに守られたいし、エスコートされたいの!!!」
顔をぶん殴ったら、殴り返される。腹を殴ったら、殴り返される。胸倉を掴んで、引き倒す。もうお互いに泥塗れだった。
「なら最初からそう言え!!」
「守ってくれないくせに何よ!!」
「そうだな! もうちょい早く言えや!」
今更すぎる。馬乗りになって、隊長の両腕を脚で拘束して、その顔の横に腕をつく。
「もう覚悟は決めちまったよ。定員オーバーだ」
「だから、その定員を殺してそこにあたしが入るのよ」
いい加減にしろ、この分からずや。
「諦めろ、いい男なんざごまんといるぞ」
「いい男に興味がない、あんたを愛したの」
「そうか、応えてやれなくてごめんな」
いっそ冷徹なまでの拒絶だった。でも、無理だ。俺は少なくともこの人にそういう目を向けたことはない。
「あぁ、だから言うんじゃなかった。結果なんてあの屋敷に行った日には分かっていたのに」
全てがどうでもいいとでも言いたげな表情、さっきから隊長の喜怒哀楽が不安定すぎる。一体何をされたらこうなるんだ? 何かしらの魔術にかけられていることは疑いようもない。だが、人の精神に作用する魔術なんて聞いたこともない。
「ねぇ、どうしてあたしじゃ駄目なの?」
「あんたが駄目とかじゃない。何度も言わせんな、俺が決めたんだ」
「最初に好きって言ってもらっただけで?」
「……そうだな」
そうだ、結局お嬢様を守ろうと決めたのは好きと言ってくれたから。それ以上の理由なんてない。薄っぺらい理由だろう、それでも決めたからには揺れない。
でも、この問答を力強く断言できる程、俺は言葉で隊長を傷付けたいと思えず、驚く程に弱々しい答え方だった。
「じゃあ、あたしが先に言ってたら、あんたは守ってくれたの?」
「……分からねぇよ」
分かるわけがない。そんなもしもを俺は考えたこともなかった。だって、そんなもしもを考えても仕方がない。意味がない。
もうやめてくれ、隊長。そんな声で俺に質問をしないでくれ。俺の言葉は、あなたを傷付けることしかできないんだよ。
「分からないからそのもしもは否定はしねぇ、でも、今の俺はお嬢様の騎士として在ることを選んだ」
「フフ……アハ……アハハ……アハハハハハハハハハハハハ!!!!!」
発狂。そう言う他にない狂笑だった。お嬢様が喜んだ時のような高笑い、その筈なのにまるで駄々を捏ねて泣く赤子のような響きだった。
「アハ……それならもういいの。生きている限り手に入らないなら、もう死体でいいわ」
隊長の声がこれまでにない程、底冷えしたものになっていた。
刹那、持ち主のいない筈の大鎌が俺の命を刈り取りに飛び込んできた。
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