騎士、戦闘中にて告白される
よろしくお願いします!
『シュバリエ』
身体を赫く染めて、身体能力を限界まで強化する。
あのアホみたいなデカさになっている鉄鎚をぶち壊すには全力を使い果たすつもりで臨まなければならない。アクセサリーウェポンを顕現させ、振り下ろされる一撃に向かって飛び込み、全力で斬りかかる。
空中での衝突は、長い時間のようで一瞬だった。
「くそが!! 壊れろや!」
押し負ける。凄まじい質量に圧倒される。脆い部分を砕くことはできたが、依然としてその質量は宮廷を破壊し尽くしてなおまだ足りない程の威力を秘めている。
地面に吹き飛ばされ、その衝撃で背中を強打して呼吸ができなくなる。
考えろ……。このままじゃお嬢様どころか国に壊滅的なダメージを与えることになる。
「無駄よ! あんたも知ってるでしょ! あたしの『ディストラクション』の威力を!! このまま全て壊し尽くしてやるわ!」
もう一度飛び込む。まだ鉄鎚はその巨大な質量と高さ故に着弾までの時間はある。加速もしきっていない、俺の一撃で少しは押し戻すこともできている。横っ面をぶん殴って、せめて宮廷に落下するのだけは防がなければならない。
「ああああぁぁぁぁぁ!!」
気合いだ。全身の魔力を脚に回して跳躍し、今度は腕に回してぶん殴る。しかし、僅かに軌道は逸れるだけで覿面な効果を得ることはできない。本当にふざけた魔術だ。
滞空時間を過ぎて落下していくが、そのまま落ちる訳にもいかない。そう何度もチャンスはない。大剣を魔術の精度が低いところに突き刺し、それを足場に最早巨大な破城槌と化している大鎌の上に飛び乗る。
「全部ぶっ壊してやる、こんなもん!!」
アクセサリーウェポンは元の形に戻す時、俺の首元にネックレスとして再び舞い戻る。それを利用して再び顕現させ、土塊を削っていくが焼け石に水だ。強大な一撃が必要だ。破壊された部分の土は魔術で形成されているから、粉々に砕けばそいつらは消えていく。つまり、砕くことさえできれば破片が城を壊すこともない!
「集中しろ……全てを賭けた一撃でぶち壊すしかねぇ」
俺に許された魔術はどこまでいっても身体強化をすることしかできない。ならば、俺ができることはやはり大剣による一撃しかない。その威力を最大限まで高める方法は一つだ。
魔力を高める。アクセサリーウェポンにも俺の身体強化の余剰分の魔力を流し込む。全身から血が噴き出す。死ぬギリギリまで魔力を高めて吸収し続けろ。取り込む魔力はこの土塊に込められた隊長の魔力だ。出来る限りその魔力を取り込めば、少しは脆くなるかもしれない。
「……おえ、気持ちわりぃ、死ぬかも」
身体も大剣も限界まで取り込んだ魔力に悲鳴を上げている。その刀身は俺の身体と同じように赫く染まり、今にも砕け散りそうだ。当たり前だ。僅かな魔力で顕現させられるこの大剣の魔力許容量はそう多くもない。俺の身体も同じだ。以前、イゾン大森林で出会った廃人どもと同様に、俺も魔力量の限界を越えてしまえば、廃人になるだろう。
あぁ、死にそう。さっき迄酒を呑んで良い気分だったのに台無しだ。二日酔いで迎える筈だった朝は、魔力酔いで迎えることになるだろう。
でも、今夜は何も起こらないから。事件も起こらず、あの会場の人たちは呑気に笑って明日を迎えなければいけないのだ。じゃなきゃ、隊長が牢獄に繋がれてしまう。それは元部下だった俺を含めて、あの隊の奴らの望みだ。
「隊長、後でボコボコにぶん殴ってやるからな」
眼を閉じてゆっくりと息を吐き、再び大きく吸い込む。
大剣を持ち替える。真下に全力で突き刺すことができるように両手で握る。そして、上体を少しだけ後ろに逸らし、勢いをつけられるようにする。
破城槌の落下までの時間はもう幾ばくもない。これがラストチャンスだ。
「ぶっ壊れろ!!!!」
眼を見開き、魔力を全開放する。そのまま勢い良く剣を振り下ろした。
刹那、爆音と共に巨大な土塊は爆散した。
落下する。意識が消し飛びそうな中で、辺りを見れば土があちこちに飛び散りながら消え去っていく。態勢が整えられない。ヤバい、この高さで頭から落ちたら死ぬ。
それだけはあってはならないと根性で魔力を流し、激痛に顔を顰めながら耐えて態勢を立て直す。着地まで強化しておかないと衝撃で死ぬぞ。
ダンッと大きな音を立てて、何とか着地を成功させた。そして、そのまま余裕そうな顔を作り、未だ高い位置から俺を見下ろす隊長に大剣の切っ先を向けて笑い掛けてやる。
「残念、宮廷の破壊できませんでしたね」
「血塗れのくせに、余裕ぶってんじゃないわよ。脚も腕もガクガクしてるのに」
バレるの早過ぎませんかね。でも、この態度は崩してやらないよ。
「隊長こそあんなアホみたいな魔術使って身体ガタガタだろ。立ってるので精一杯なのはお互い様だろ?」
「減らず口をよくもまぁそこまでして叩くわね。安心なさい……」
台詞の途中で、隊長の姿がブレる。そして、俺の真横から言葉の続きが紡がれる。おい、嘘だろ。
「あんたを嬲り殺す位の体力なら残ってるから」
「ガァッ!?」
蹴り飛ばされる。クソ、防御し損ねた!
「もういい。手に入らない位なら全てを壊すわ」
「何言ってんだ、このアホは……! ガキみてぇなことをギャーギャーと」
「黙れ」
俺の挑発が腹に据えかねたのか、正面から俺に切り掛かってくる。
『シュバリエ』
激痛。全身を突き刺されるような感覚がするが無視だ。隊長の懐に潜り込み、振り下ろされる鎌の柄を右手で掴む。そのまま空いた左手で腹をぶん殴り、怯んだ隊長に足払いを仕掛けて態勢を崩す。
「寝てろや!」
そのまま踏みつけるように脚を振り下ろす!
「女の子の扱いがなってないのよ、あんたは!!」
「普通の女の子は俺の蹴りを片手で止めねぇよ!」
「うるさい、しね!」
そのまま掴んだ俺の足を寝転んだまま引っ張り、思わず倒れそうになる。右手の鎌を振り払われたら、やべぇ。何とか踏ん張り、右手の鎌の柄を巻き込むように横に一回転し、倒れるついでに武器を奪おうとする。
「下らない小細工ね!」
「うるせぇ! 男の子も必死なんだよ!」
回転する俺の身体が蹴り飛ばされる。魔術が切れた。ヤバい、痛すぎる。
ゴロゴロと地面を転がり、互いに距離を取る。ついでに大剣も顕現させておく。何とかしねぇといけねぇ。しかも、隊長の動機なんて未だ謎だし。
「隊長! いい加減答えろ! 何でこんな意味のないことしてんだよ、俺に分かるように説明しろ!」
「言えるわけないじゃない、今更なのよ」
「今更もクソもねぇ! ウジウジイジイジ情けねぇな!」
イライラしてきた。さっきの腹パンだけじゃ足りんぞ。そんなことを考える俺とは裏腹に、隊長は俺の言葉を聞いて、どうでも良さそうな顔をし始めた。もう全てを諦めたと言わんばかりで。
「じゃあもういいわ。話すわよ、どうせあんたは一生察しないでしょうし」
「最初からそうしてくれ……ほんと」
こんな説得で動機を話すことができるなら、最初から話せ。
「あたし、あんたが好きなの。それが今回の動機よ」
「はい?」
愛の告白の筈なのに、隊長の表情は妙に疲れ切っていた。
ありがとうございました!





