騎士、夜会にて酒を楽しむ
よろしくお願いします!
「シドゥーレ王立学園の有志諸君に集まってもらい、私は大変嬉しく思う。今夜、皆に素敵な出会いがあることを祈念し、挨拶にかえさせてもらおう」
ウーサー様の挨拶は滞り無く行われた。やっぱり場慣れしているんだな、王子様って。半分以上聞き流してたけどね。その後、他の来賓からも挨拶があり、乾杯の運びとなった。今日の夜会はまず立食パーティーを行った後に、舞踏会としてダンスもするらしい。テーブルに並べられた料理はどれもとても美味しそうで、今日の目的を忘れそうだった。
ウェイターからそれぞれグラスが配られるのを受け取り、皆がそのグラスを掲げる。ていうか、これお酒じゃない? お嬢様は確か16歳だけど、よかったんだっけ?
「……お嬢様、お酒って呑んで良いんですか?」
「シキ、法律の最低限の知識は持っておきなさい。ヤドラ王国の飲酒可能年齢は15歳からよ」
「すいません……俺は昔から呑んでたんで、そこら辺は疎いんですよ」
「それ位は知っておきなさい、馬鹿丸出しよ」
正論って時として人の心を傷付けますね。酒を飲む前から水分が瞳から出ていきそう。
しかし、乾杯もウーサー様がやるのね。挨拶も場慣れする位だし、大変だよね。俺なら緊張して吐きそうになると思うから、絶対に無理だ。
「……では、乾杯をさせていただく。今後のシドゥーレ王立学園の益々の発展と活躍を祈念して、乾杯!!」
「「「「乾杯!!!」」」
ウーサー様の乾杯の音頭(その前の話の内容は忘れた)に続き皆で唱和し、近くの人達とグラスをカチンと音を立てて軽くぶつける。そして、そこからグイッと一気に飲み干す! 美味い!! この酒、めっちゃくちゃ美味い!!! お代わりもらおう。
俺が一気に何杯も呑んでいることが気になるのか、お嬢様が俺に苦言を呈してくる。
「シキ、わたくしたちの目的を忘れて飲み過ぎないようになさい」
「へへへ、分かってますって! あ、すいません、お代わり頂いてもいいですか? 美味い! もう一杯もらっていいですか?」
「久し振りに本気でムカつくわね……」
お嬢様が何か怒ってる気がするけど、お酒が美味いからいいや。久しぶりの上等な酒だ、テンションも上がるというもの。今夜は飲み明かさなきゃ損だな、おい! 第二王子様に喧嘩売るにしても、景気付けにしっかり呑んでおかないとな!
「お嬢様も呑みましょうよ! 俺とってきますから!」
「だから、この後のことを考えなさいと」
「俺の酒、飲めないんですかぁ? 一緒に乾杯しましょうよ!」
「仕方ないわね、早くなさい」
わーい。
「……これは不可抗力よ、決してほろ酔いのシキの可愛さに屈したわけではないわ」
お嬢様が何か言ってるけど、そんなことより早くお嬢様に飲み物取ってこないといかんよな! 執事だし! あ、ドリンクくださーい!
「お嬢様、この肉めっちゃ美味いですよ! アイゼン料理長も唸るレベルです」
「一口もらうわ」
「分かりました! はい、あーん」
「やだ、これからずっとシキは酔わせていようかしら」
何だかお嬢様も興が乗ってきたようで、この夜会を楽しみ始めたようだ。よきかなよきかな、せっかくのパーティーだもの。楽しんだもん勝ちだよな。あ、あの魚料理も美味そう。料理の名前全然わかんねぇ!
「あっちもこっちも美味いもんだらけで、最高だな!」
「そうね、それも一口頂戴」
「はい、あーんして下さい」
「そうよ、今夜のシキは分かってるわね」
しかし、俺ばっかりお嬢様に食べ物をあげてる気がする。ちょっとずるい気もするし、お嬢様の皿にある料理を貰おう。
「お嬢様、そっちの料理も一口ください」
「えぇ、ほら口を開けなさい」
「あーん」
「もう今夜はこれで終わりでいい気がするわ」
夜会って凄い楽しいんだなぁ。そりゃ貴族様たちもやりたがるわけだよ。昔、騎士団で護衛任務にばかり派遣されていた時はふざけんなと思っていたけど、こんな楽しいなら許すよ。
「シキ、楽しんでいるな」
「ヴェルク様! いいですね、夜会って。初めて参加しましたが、ご飯もお酒も美味しいんで最高に楽しいです」
「いや、普通はそこまで問答無用で飲んだり食べたりはしないものなのだがな……。シキとスカーレット嬢は注目を凄まじく浴びているぞ。それにスカーレット嬢とそこまで親しげにするのも不味いのではないか?」
ヴェルク様の言い分ももっともだ。頷きながらヴェルク様の空いているグラスにボトルの酒を注ぐ。気をつけながら酒を飲もう、かんぱーい!
「まぁ、せっかく注いでもらったものはいただくが、ともあれスカーレット嬢は第二王子殿下の婚約者だろう? 主賓の婚約者とその距離感は……」
「黙りなさい、ヴェルク。去勢するわよ」
「そういうこともあるだろうな!」
まぁ、今夜くらいはいいじゃない。
「シキ、以前の一件では世話になったが、あの時の魔術は何だったのだ?」
お酒が入り、少し頬が上気しているヴェルク様との話題は尽きず、以前の一件での俺の魔術に話が変わった。お互いほろ酔いでとてもいい気分だからか、お嬢様そっちのけで物凄く話は盛り上がっていた。
「おや、それ聞いちゃいます? 身体強化魔術ですよ、あれも」
「しかし、あのような身体が赤く変色する程の魔術は聞いたことがない。俺はてっきり火魔術に適性があって、高温状態により無理矢理能力を引き上げたのかと思ったぞ」
「フフフ、あれは中々会得の難しい魔術でしたからね。そう簡単にネタバラシはできませんね!」
自分の魔術に興味を持ってもらえるの嬉しいな! しかし、あれは本当に割ととっておきなので、ペラペラと話すわけにもいくまい。そこまでももったいぶるような魔術でもないんだけどね! 団長とかも使えるし、何なら団長に教えてもらった魔術なので、ラギア様とかなら多分知っているだろう。
「それよりヴェルク様の風魔術の応用性には驚かされましたよ! もしかして空気の濃度とかも操ることとかまでできちゃうんですか?」
「シキ、あーん」
「いやいや、どうだろうな。こちらもそう易々と話せる程手の内は多くはないからな」
互いにニヤニヤと笑いながら、魔術談義に花を咲かせる。とても楽しい。
「では、シキの体術や剣術の師は誰だ? あの戦い方はジェフと似たところがある」
「あぁ、あの技のベースは傭兵の我流殺法ですよ。基本的に傭兵は相手を殺したもん勝ちなので、かなり自由にやってたんです。そこから団長に武術の基礎を教えてもらって、ああなりました」
「シキ、あーん」
「なるほどな! 通りで剣を躊躇いもなく投げたりするのか、俺の流派では武器を手放すことは死同然と教え込まれてきたから中々その手の発想に慣れなくてな」
確かに、ヴェルク様の槍捌きは父君譲りなのだろうから、武人としての型が多いのだろう。酒を飲み進めながら、そんなことを思う。
「父上ならばそういった小細工にも動じないだろうが、いかんせん俺はまだまだ経験不足だ。咄嗟の判断力は全然培われた気がしない」
「まぁ、そこは慣れもありますからねぇ。でも、ヴェルク様もすぐ慣れますよ」
「シキ、あーん」
「そうだといいが……。シキは日頃どんなトレーニングをしているんだ? 是非参考にさせてもらおう」
「お、じゃあ俺も教えてもらいましょうかね」
そうやって新たにトレーニング談義が盛り上がりそうなところで、背筋に悪寒が走った。
「シキ、あーん」
同じセリフを言い続ける氷の微笑を湛えた修羅がいた。やばい、冷や汗が止まらない。これは不味い。さっき迄はとっても上機嫌だったのに、急転直下で不機嫌の頂点みたいな状態になってやがる。
「……ではシキ、俺はそろそろ行かねばならぬ要件を思い出したので失礼させてもらおう」
「ずりぃ!! さっき迄一緒にあんなに盛り上がってたじゃないですか!?」
「シキ、あーん」
「あぁ、是非ともまた頼もうじゃないか」
「せっこいですよ!」
「シキ、あーん」
この人は「シキ、あーん」しか言えねぇのか!?
「お嬢様、あーんしたら許してくれますか?」
「シキ、あーん」
怖い! 久し振りにガチで怖いやつきた!!
く、くそぅ。こうなりゃヤケクソだ! 一気にグラスの酒を飲み干し、置いてあったボトルの酒も飲み干す!
「い、いただきまぁす!!」
肉が冷めていたのが、余計に怖かったからもう一本ボトルを開けた。うひぃ。
「お嬢様ぁ、俺が悪かったから許してくらはいよぉ」
「ダメよ、もう一本飲みなさい」
「わかりまひた」
「今の言い方はポイント高いわよ、余裕がなさそうで」
やったね。あれから俺はお嬢様の為に酒を飲んだ。嘘だ、ちょっと途中から飲むのが楽しくなってきてた。これは朝までは保たないかも。テーブルには、空にされたボトルが何本も置いてある。これ、さっきの会話だと俺だけが飲まされたみたいなんだけど、実際はお嬢様もかなり呑んでる。この御令嬢、酒に強過ぎる。
「お嬢様、食べさせ合いの次は飲ませ合いでもするつもりですかぁ?」
「えぇ、口移しでね」
「それ、キスしちゃってませんか?」
「口移しはキスじゃないわよ、シキは馬鹿ね」
果たして本当に俺が馬鹿なのか、今の俺には判断できない。口移しってキスみたいなもんじゃないの? もしかして今まで俺の認識は間違っていたのか。
「でも、シキと呑むのも楽しいわね。また屋敷でもしましょうか」
「お、いいですねぇ」
「地下室で繋がれたシキを見て呑む酒は美味しそうだわ」
それ、俺が酒の肴になってんじゃんか。
そんな風にふざけていたら、まさかの存在に声を掛けられた。
「エリザ、随分楽しそうにしているな」
その一言で酔いが覚めたよね、うん。
ありがとうございました!
お酒は適度に楽しみましょう!
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