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ヤンデレ悪役お嬢様は騎士さまに夢を見る  作者: ジーニー
お嬢様、長期休暇にて修羅場
36/66

お嬢様、屋敷にて御満悦

よろしくお願いします!

 あのおっぱい魔人事件は俺の心に酷く傷をつけた。悲しみ。

 それから数日後、お嬢様はセバスさんとシアさんを連れて、掃除をしている俺に声を掛けてきた。


「シキ、撮影会よ」

「嫌です」


 拒否をしたのだが、お嬢様の後ろからやって来たセバスさんたちは無言で鎧を置いていく。いや、あれ疲れ切ってるだけだ。

 ドサドサと音を立てて置かれるのは、俺の鎧……だけじゃなかった。古今東西、世界中の鎧があった。

 え? 多くない?


「騎士鎧を着たシキの写真が欲しいのよ。世界中から取り寄せられるものは取り寄せたわ」

「いつから準備してたんですか!?」

「無論、遠征授業前によ」

「その時、話題出てませんでしたよね」


 ……いや待て。思い出せ。あの日の会話の流れにヒントが隠されている。


『それにしても服装は燕尾服のままでよかったのかしら?』

『いや、この服が優秀過ぎるんですよ。軽くて丈夫で動きやすいですもん』

『そう、久しぶりに騎士の格好をしているシキが少し見たかったわ』


 お嬢様、もしかして話題誘導してたの?


「思い出したかしら? あの時、少し見たかったと言ったわね」

「え、えぇ……そうですね」


 ニヤリとお嬢様は妖しく笑う。


「あれは嘘よ。見たくて仕方なかったわ」

「嘘ちっさ!」


 しかも、あの後俺の撮影より大切なことなんてないとか言ってるし! 嘘ですらねぇ! ありのままの本音だよ、それ!


「だから取り寄せていたわ。ありとあらゆる鎧が、この時期に届くようにね」

「そこまでします、普通?」


 しねぇよ。


「もちろん、この鎧は後日わたくしの私物となるわ」

「お嬢様、もちろんの意味を知ってますか?」


 言うまでもなく、だよ。言ってもなお分からん言葉の頭に付けんな。


「セバスさん、シアさん、何でこんな意味不明な事に付き合ってしまったんですか!」


 どう見ても誤発注だろ。旦那様もキレるよ。いくらお嬢様の頭がおかしくても、それを諫められる方々の筈なのに。


「いえ、それが全てお嬢様お1人で用意されてしまったのです。スカーレット家の財産にも手を付けずに」

「どうやったらそうなるんです?」

「私にもわかりません……」

「簡単よ、働いたわ」


 もう驚天動地だ。貴族の御令嬢が何で男の鎧姿のために働いてるんですか。


「で、何したんですか?」

「売り子ね」

「ウッソだろ、おい」

「嘘よ」


 何がしてぇんだ、この人。


「学園にいる時、属性魔術のホラス先生がいらっしゃったでしょう?」

「あぁ、いましたね。ホラス先生が関係あるんですか?」

「えぇ、ホラス先生にわたくしの火魔術の情報を提供する代わりに、謝礼をいただいたの」


 そういうことか……。そりゃ、あの人だったらもういくらでも出すだろうよ。


「実験にも付き合ったわ。あの人、理論はあっても火魔術に関しては実践する力はなかったみたいだもの」

「お嬢様、そこまでして俺の鎧姿見たいんですか?」

「見たいわ」


 食い気味に反応しないで。びっくりするから。


「シキ様、どうかお嬢様の為にも一肌脱いで頂けませぬか? この老いぼれからもお願い致します」

「いや、もうやりますって! そこまでされたらやりますよぅ! だから、セバスさんがそんな下手で来ないでください!」


 俺の執事の師匠なのに、そんな下手に出られても困ります!


「そうですか、それはよかった。では、お着替え下さい」


 セバスさんが下げていた頭を上げて、ケロッとした顔でのたまった。

 嵌めたやがったな、ジジイ!!


















 そんなこんなで、俺の撮影会は始まった。


「とりあえず、これが中央騎士団の鎧ですね」

「最高ね、カッコいいわ」


 擦り切れんばかりに魔導具のシャッターを切り続けるお嬢様。魔石がぶっ壊れるんじゃないの、そのペース。

 画像記録が可能な魔導具には魔力の込められた魔石というものが使用されている。以前、お嬢様が使用した記録魔術の魔導具も同様だ。そして、それらは込められた一定の容量以上は使うことができないのだが、お嬢様はそんなことはお構いなしに連写している。


「次は近衛騎士団ね。まずは、ヤドラ王国の鎧を制覇していくわ」

「はい」


 死んだ目で答える俺。それを死んだ目で眺めるセバスさんとシアさん。亡者の集まりかよ。

 そんな亡者の集まりの中で、唯一生者の目をしているお嬢様はいつになくご機嫌だ。


「いい、いいわ! やはりシキには高貴な感じもよく似合うわ!!」

「はい」


 シャッターを切り続けるお嬢様、死んだ目をする俺たち。


「次は、ヴァイス共和国の鎧よ! 最高ね! ゴツゴツしたデザインがシキによく似合うわ」

「はい」


 シャッターを切り続けるお嬢様、死んだ目をする俺たち。


「次は、よく分からない島国の民族衣装よ! 不思議な衣装だけど、最高ね! 確か、キモノっていう名前らしいわ。雰囲気が色っぽくなるわね」

「はい」


 シャッターを……以下省略。

 そんな亡者たちと生者の集まりは、ぶっ通しで日が暮れるまで続けられた。

 悪夢だよ。














 悪夢は覚め、屋敷にて俺は休息を取っていた。セバスさんとシアさんも今は休んでいる。他の使用人の方々が、死んだ目をしている俺たちを気遣って、休憩を取ることを許してくれたのだ。優しさで目が滲むよ。

 ちなみに、お嬢様は嬉々として撮った写真を現像している。あの人だけ終始元気だな。


「もう無理だ……眠い」


 そんな言葉を呟いた為か、すぐに俺の意識は眠りに沈んでいった。















 『シキ日記』はもう15冊目にもなる。今日も一冊書き上げてしまった。わたくしの愛のメモリー流石ね。まぁ、今日は仕方ないでしょう。


「だってシキの写真、たくさん撮れたもの。当分夜は困らなさそうだわ」


 わたくしは、それはもう御満悦だった。シキの写真撮影会、ついでにシキの寝顔もバッチリ隠し撮りしている。

 本当は寝込みも襲いたかったのだけど、シキには薬を盛らねば気付かれてしまう。今日は生憎手持ちを切らしていたので、写真を撮るに留めておいたのだ。えらいわ、わたくし。


「あぁ、もう見る度にカッコよくなるんだもの。困るわ、いや、そんなこともないわね」


 シキはカッコよさが留まることを知らない。特にあの一件以来はそれが加速している。もうそろそろシキ以外が眼に入らなくなりそうだ。いえ、元からだったわ。

 しかも1ヶ月会えなかったのだ。わたくしの昂りが最高潮に達してしまうのは自明の理だろう。しかし、シキはもうわたくしと共に在ることを認めた。焦る必要はない。ただひたすらにじっくりとシキに愛を伝えていこう。


 あぁ、それはまるで甘い甘い毒のようね。


「あの女も馬鹿ね、シキに想いを伝えていればまだ分からなかったのかもしれないのに」


 思い出すのは、ラニア・アリシアという愚かな女のことだ。あの女は舞台に上がることもなく散った馬鹿だ。まぁ、そもそもわたくしとシキが結ばれる運命にあるのは決まっていることなのだから、無駄な足掻きでしかないけれど。


 シキは愛を口にされたことが少ないのだろう。そんなことも分からないなんて。言わなくても通じるなんて考えるとは、なんて甘いことかしら。所詮、その程度だ。気にする価値もない。求めることしかできない女なんて、わたくしが歯牙をかける存在ですらないわ。


 そう思うと、あの女に思考を割くのは無駄ね。それよりこの部屋を愉しみましょう。


「この部屋も随分物が増えたわ」


 シキを監禁した地下室の更に奥に位置するこの部屋の存在は、わたくしを除いて誰も知らない。シキにお父様、お兄様とそれにセバスやシアでさえも知らないわたくしだけの部屋だ。


「フフ、ここに居ると癒されるわ……」


 シキの無数の写真、シキの声を記録した魔導具、シキの着た服に鎧もある。部屋の全てがシキだ。幸せすぎる。


 本物がもちろん1番だ。でも、シキ本人にはまだぶつけられない劣情もある。

 いつの日か、この部屋も必要はなくなるのだろう。でも、それまではわたくしの想いをシキの幻想にぶつけるのだ。その日が待ち遠しくて、わたくしは今日もシキを夢に見る。


 わたくしだけの騎士さまの夢を見るのだ。














 何故か寒気がして目が覚めた。

 まだ暑い季節なのに不思議だ。


「中途半端な時間に目が覚めちまったな……」


 シャワーを浴びて、燕尾服に袖を通す。そして、朝の見回りがてら屋敷を散策する。まだ朝日も登っておらず、辺りは薄暗い。

 屋敷の郵便受けを覗き込む。毎朝の仕事だが、早過ぎるだろうか。そう思っていたのだが、中には1通の手紙が入っていた。


「旦那様からだろうか? いや、いつもと封蝋が違うな」


 手紙を手に取り、眺める。お嬢様宛のようだった。この時期、何かあるって話だったっけ?

 そんなことを思いながら、屋敷に戻るのだった。

ありがとうございました!


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