騎士、屋敷にて魔人と成る
よろしくお願いします!
俺の痴態を再生された後、隊長はすっかり黙ってしまった。お嬢様は勝ち誇ったような笑みを浮かべて、お茶を優雅に飲んでいる。すげぇ悪い顔だ。悪魔かな?
「お嬢様、何故こんな辱めを俺が受けなければいけないんです?」
「こういう輩は口で言っても負けを認めないものよ。だから、徹底的に潰すの」
「これ、オレの1人負けじゃないですか」
何で隊長が負けたことになるのか、それが分からない。
「まぁ、理解する必要もないわ。些事よ、こんなもの」
「些事で俺を辱めたんですか?」
なんて酷い人なんだ。やっぱり悪魔だろ。
そんな俺たちのやり取りも聞こえないのか、隊長は俯いて黙ったままだ。この人はこの人で、何を打ちのめされてるんだ。打ちのめされたの、俺よ?
「アリシアさん、ご理解頂けたかしら? わたくしとシキの絆というものが」
「……………………」
追い討ちかけやがった。よく分からんけど。
それはもう重い空気だったので、耐えきれずに思わずお嬢様に話しかけてしまう。話そうとして、すぐに後悔したけど。
「お嬢様、お嬢様が俺をその……慕って……ほら……好意的に見て下さっているのは……うん、知っていますが……はい。隊長は関係ないと思うのですが」
うわ、これすごい恥ずかしい。何で貴女は俺のことを好きじゃないですか? みたいなこと言わなきゃいかんの。言わなきゃよかった。
「シキ、照れているのも可愛いわね。何してもカッコいいのに、反則だわ」
この会話、俺しかダメージないと思うんですけど、違うの?
「フフ、それにトドメを刺してくれるなんて、主人想いなのね。聞きました、アリシアさん? 貴女は関係無いんですって」
「…………………………殺してやる、このクソ女ぁ!! シキを誑かしやがって! 魔女が!!!」
隊長が叫び、大鎌を掴もうとするその手を大剣で抑え込む。
「申し訳ありませんが、隊長といえど、お嬢様に危害を加えるのであれば容赦しません」
「シキ! 何でその女を庇うのよ!! そいつに拉致監禁されて無理矢理契約されたんでしょ!?」
隊長の言葉と共に、手に力が籠るのを大剣越しに感じる。大鎌を手繰り寄せられないように、俺も更に力を込める。
それにしてもなるほど、ようやく合点がいった。隊長がここまで怒り狂ってたのは、俺の為か。無理に服従させられて、騎士として護衛をさせられていると勘違いしているんだな。
隊長、なんだかんだで仲間想いの人だし。頭おかしいけど。
「最初はそうでしたが、今は明確に自分の意思でこの方をお守りしています」
「なんで……? そいつ、シキに酷いことしてる。洗脳でもされたの? 喋り方が違うのも、そのせいなの?」
「いえ、そんなことは全くありませんが?」
「じゃあ、何でなのよ!!!?」
隊長の顔が悲痛に歪む。その叫びは泣いているようで、胸が痛む。でも、もう決めたことだから、答えは変わらない。
「恥ずかしながら、先程再生された言葉が全てです。この人の我儘に付き合おうと決めたんです」
「それが何でって、聞いてるのが分かんないの!?」
「お嬢様、俺の後ろに!!」
隊長の力が爆発的に上昇し、抑え込めなくなってくる。ヤバい、魔術を使う気だ。屋敷ごと吹っ飛んじまう!
何とか思い留まらせようと、仕方なく俺も叫ぶ。
「好きって言ってもらったからだよ!!! だから、俺はこの人に仕えるんだ!」
「………………は? それだけ?」
急速に力が萎むのを感じ、再び大剣で隊長を抑え込む。
よく分からんが、正解を引き当てたらしい。よかった。恥ずかしいけど、本音を言うのは大切だね。
「それだけって、俺、女の子に好きって言ってもらったの初めてですし」
「そんなの! ……あたしだって」
隊長が何かを呟いたようだが、それは俺の耳には届かなかった。
「恥ずかしい理由ですけど、男が女に肩入れする理由は大体それです。下心塗れですし、俺の場合だけかもしれませんが」
「…………じゃあ、あんたは他の女にこれから好きって言われたらどうすんのよ」
「え? 断りますけど?」
「はぁ!? 何でよ!?」
俺の返答に、隊長が納得できないと言わんばかりに叫ぶ。どうしてだよ、そこは納得してよ。
「決まってるじゃない。シキはもうわたくしのモノだからよ」
「あんたには聞いてないわよ、イカれ女」
「隊長、だから言葉が過ぎますって」
もう今更感あるけどさぁ。
「まぁ、最初に言ってくれましたし、振りましたけど」
「は!? あんた振ったのに、あんなこと言ったの!?」
「それを言われると弱いですね、ヘヘ」
「何照れてんのよ! 気色悪い!!」
「可愛いじゃない」
混沌も極まってきた感あるね。
「とにかく、俺はお嬢様の側付きになったことに後悔はありませんよ。怖いですけど、大分慣れましたし」
面倒になってきたので、強引に話をまとめにかかる。そろそろ疲れてきたよ。
「振ったのに?」
「振っても、嬉しかったかどうかとお守りするかどうかは関係無いですよ」
「そもそも振られてないわ」
「話、ややこしくするのやめてもらえません?」
降り出しに戻っちゃうだろ。
「それに決定的な理由があるわ」
「はぁ? 何それ?」
怪訝な顔をする隊長に、お嬢様はそれはもう自信たっぷりに言い放った。
「シキはね、おっぱいが好きなのよ」
見せつけるように、その豊かなお胸を下から抱えるように腕で支えて。
もうね、何も言えませんよ、はい。
「シキは時々舐め回すようにわたくしのおっぱいを見てくるわ」
「見てません」
見てませんよ。いやでも、チラッとはね、チラッとね。
「他の下衆に見られても不快だけど、シキにはむしろフルオープンで見せるのに、バレないように見てくるのよ。バレてるけど」
気をつけよう。本当に。……バレていたのか。でも、男なら見ちゃわない? すいません。
お嬢様のおっぱい演説は続く。
「シキはもう他の女のダラシない、もしくは貧相な身体には戻れないのよ。アリシアさんは……強く生きるといいわ」
「このアマァ!!」
「駄目です! 隊長、駄目ですよ! 強く生きてください!」
「そこはあの女の言葉を否定しなさいよ!!」
掴みかかろうとする隊長を慌てて羽交い締めにする。
お嬢様はそんなやりとりをする隊長のお可愛い胸部を改めて見る。
そして、フッとお嬢様は見下すように隊長を嗤った。ひでぇ。悪の女だ。略して悪女だ。
「シキのアホ! おっぱい魔人! もう知らない!!」
「あっ、こら! 何て捨て台詞で出て行こうとしやがる!!」
隊長はベソかきながら、捨て台詞と共に屋敷を出て行ってしまう。
「わたくしの勝利のようね」
えぇ、そして隊長とおっぱい魔人の敗北です。
ありがとうございました!
少し下品な回ですいませんでした! でも、楽しかったです。
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