騎士、屋敷にて再び痴態を晒す
よろしくお願いします。
出迎えたくねぇ。ぶっちゃけその思いでいっぱいだった。というか、道場破りみたいに屋敷に突撃して来んな。
「居るのは分かってるのよ!! 出て来い!!! シキィ!! 騎士団がお前を許さないわ!」
声がデカい。あと主語もデカい。
「シキ、知り合いかしら?」
「騎士団時代の俺がいた部隊の隊長ですね……」
「あぁ、アレがそうなの」
アレて。
「知ってたんじゃないですか? お嬢様が西の戦線に飛ばしたんでしょ?」
「知らないわ。会話したわけでも見たわけでもないもの」
知らん人を最前線に放り込んだのか、この人。ヤバいよ。
「お嬢様、多分もうすぐあの人やって来るんで、早めに屋敷に戻って下さい」
「門は閉まってるわよ? 入って来れないし、入ったら入ったで貴族の家に不法侵入よ?」
そうなんだけど、あの人はそういう常識が通じないから。
ほら、気配迫ってるもん。門飛び越えやがったな、あの人。そう考えていると既に足音が此方にまで聞こえてきた。いや、もう姿まではっきり見える。あの金髪で胸の貧しい感じは間違いねぇ!
咄嗟にアクセサリーウェポンを起動させる。絶対あの人斬り掛かってくるよ!
ほらぁ!!
「あたし的隊律違反に則り、あんたを殺すわ」
「あたし的って、最早私情だろ!?」
台詞と共に巨大な鎌を振り下ろしてきたので、受け止める。うわっ、ガチだ、この人!!
そのまま連撃を続けられる。剣で受け流したり、回避したりして何とかしているが、相変わらず強いっていうか、前より速くなってない?
「このぉ! 意識を失え! もしくは死ね!」
「殺意全開か! ここスカーレット家の屋敷だぞ、分かってんのか!?」
「何処でも戦場と化す覚悟を持たないなんて、ヘタレになったわね!」
「戦場にしたのはアンタだろ!!」
鎌が全て俺の急所、もしくは脚を狙ってくる。それ相応に対処しなきゃ不味い。大鎌は扱いにくいはずなのに、何でビュンビュン振り回して俺の動きについてきやがるんだ!?
俺も全身全霊なんだが、反撃に転じるチャンスがない。斬り上げを回避し、鎌の柄で腹を殴られる。
「ぐぇ!」
変な声出た。恥ずかしい。
横薙ぎに払い、上に回避しようとする脚を掴む。
「はぁ!?」
横薙ぎの払いで俺が武器を持っていると勘違いしたようだが、アクセサリーウェポンは俺の意思で元に戻せるんだよ!
そのまま軽い身体を振り回して、門の方向へ投げ飛ばす!
「ぶっ飛べ、あほ隊長!!!」
「隊長にあほとは何よって……きゃあぁぁぁぁっ!!」
ざまぁみろ。今のうちにお嬢様には屋敷に戻って頂こうと考え、お嬢様の方を見る。
そこには修羅がいた。いや、お嬢様だった。
「コイツ、シキに斬り掛かるとはいい度胸してるわね、殺すわ」
「こっちも殺意全開かよ!」
やってらんねぇ!!
「シキ、遺言を聞いてあげるわ、早くしなさい」
「焼き殺すから、名乗ることを許すわ」
「2人とも、まずは落ち着いて話し合おうとする気概を持ってください」
どちらも同じ空間にいるはずなのに、まるで会話が成り立っていない……。どちらも殺意を放ち続け、お嬢様に至っては火魔術を既に展開している。というか隊長、戻ってくんのが早過ぎるし、どうしてピンピンしてるんですか? 俺、全力でぶん投げたのに。
「「いやよ」」
「何でそこは息ぴったりなんですか!?」
この2人、思考回路がバーサーカーだから息が合うのだろうか。
「隊長、まずはお嬢様に謝罪をして下さい。中央騎士団3番隊隊長であっても、大公家の門を飛び越えるとか不味いですよ」
「あんた、その気色悪い喋り方は何? 気に入らないわ」
「内容を聞け!!」
俺の喋り方とかどうでもいいだろ!?
普通にヤバいことしてんだよ、あんた!
「嫌ね、蛮族は。品性というものがないのかしら?」
「あぁん? 何よ、コイツ? シキの飼い主ってこの女なの?」
「頼むからもう喋るな、あんた!」
お嬢様の嫌味が最もすぎるわ! 品性を母親の元に置いてきたのか。
「何よ、謝れとか喋るなとか注文の多いやつね」
「誰のせいだ! ていうかもう帰ってくんない!? 猛獣2頭とか手に負えねぇよ!」
「シキ、もう一頭は誰を指しているのかしら?」
「アハハ、やだなぁ。自覚なかったんですか?」
手に噛み付かれた。ほら、猛獣じゃん?
「あたしはラニア・アリシア。家は伯爵家。中央騎士団で3番隊の隊長をやってるわ。そういう訳だから、こいつもらってくわね」
「どういう訳だよ」
「あんたに執事は無理だから騎士団に戻すのよ、馬鹿だもの」
とりあえず、屋敷の応接室で話し合おうという俺の提案を強引に押し通し、2人を席に着ける。要した時間はおよそ30分、何でそれだけのことでこんな時間が掛かるんだよ。
そして、自己紹介となった訳だが、案の定話し合いにはならなかった。理性を前世に置いてきたんですか?
「お嬢様、とりあえずこの人が隊長やってるのは真実です。実力は確かで頭もそれなりなんで。……ただ」
「ただ、何かしら?」
「この人はご覧の通り頭がおかしいので、騎士団には実家から押し付けられて所属することになったという意味の分からない経歴をもっています」
「どう見ても金髪の獣だものね、納得したわ」
「あんたたち喧嘩売ってんの!?」
いや、自分を顧みろ。今回は俺、お嬢様の全面的味方だぞ。
「わたくしはエリザ・スカーレット、大公家の娘よ。伯爵家如きで、どうしてわたくしのモノを強奪しようというのかしら?」
モノ扱いしないで。
「何にせよ、隊長も敬語や礼節は学んでいらっしゃるんですから、最低限の態度は取って貰えませんか? このままじゃ本当にただの蛮族ですよ?」
「チッ、まぁそうね。先程は失礼したわ。でも、大公家にコイツは不適格です。なので、返していただくわ」
「もうちょい人としての礼儀を尽くして下さい」
この人、頭蛮族だったけど、ここまでだったっけ? 普通に敬語とか使ってなかったか?
俺の疑問を他所に、そのふてぶてしい態度を見て、お嬢様は何かが得心いったというような表情をしていた。俺、全然分かんない。
「あぁ、そういうこと。獣も恋をするのね、知らなかったわ。それに醜い嫉妬だこと」
「殺すわよ、この泥棒猫が」
ふえぇ、俺にだけ理解できない世界が広がってるよぅ。しかも、その世界めっちゃドロドロしてて怖い。
「普段はシキの顔を見るに、もう少しマシなようだけど、余裕がないのね。哀れだわ」
「あんたにあたしの何が分かるってのよ!」
「分からないわね、取られたくないならもう少し伝わる努力をすべきよ。わたくしはそうしてるわ」
俺には何一つ分かりません。しかし、どうやら舌戦はお嬢様が上手らしい。どうにも隊長が圧されているし、整った顔立ちが歪められている。
兎にも角にも暇なので、どっちも俺のお茶飲んでくれないの悲しい、なんて現実逃避を始める。
「そもそも日常的な暴力を振るう粗野な女に靡く男はいないわ。流行らないわよ、そのキャラ」
「はぁ!? あたしに踏まれたいとか言ってくるゴミはいっぱいいるんですけどぉ!」
「じゃあ、その豚と仲良くしてなさいよ」
あ、隊長半泣きだ。相変わらず口喧嘩は雑魚だな。喧嘩売った男は大体半殺しにするくらい強いのに。
「誰があんな豚どもと仲良くするか! あ、あたしはねぇ……」
「まぁ、いいわ。取り敢えずこれでも聞いて、負けを認めなさい」
コトリとテーブルに置かれたのは、記録魔術の込められた魔導具だった。あれ? これってデジャブってやつ?
そして、再生される俺の痴態。
誰か俺を殺してくれぇ!!!
お嬢様は俺に何か恨みでもあるのだろうか。そんなことを思う長期休暇初日の昼下がりだった。
ありがとうございました。





