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騎士、学園にて外堀が埋められ始める

よろしくお願いします!

「ふむ。面識のある者が多いが、初対面の者もいる。ここは一先ず自己紹介を行うべきだろう」

「そうですわね。自己紹介と自分の得意な分野、それから戦闘に参加するのか否かも話すべきだと思いますわ」

「違いない。どういう風にイゾン大森林を抜けるかの方針を決める必要もあるし、そういった自身の強みなどを話すのは肝要だろう」


 グループ編成の後、各自でミーティングを進めよということで俺たちはテーブルに集まっていた。そして、ごもっともな会話がグループの実質リーダー達によって進められていく。いいよね、こういう上の人がグイグイ進行してくれるの。俺とか面倒過ぎて、大体リーダー任せだよ。まぁ、大概の人ってそんなもんだけど、この人たちは上に据えられるのが確定しているような方々だからなぁ。


 実際、グループの他の方々は、2人の会話に黙って頷いているだけだ。ティアベル様に至っては、顔を青くして俯いている。大丈夫かな、この人……。


「では、俺から自己紹介をしよう。ヴェルク・イージスだ。知っている者も多いと思うが、近衛騎士団団長であるラギア・イージスの息子だ。俺自身の自慢にはならんがな。爵位は侯爵にあたるな。得意なことは風魔術と連携した近接戦闘だ。戦闘にはもちろん参加だ。」


 やっぱり自分のことを話すの慣れてるんだろうな、スラスラと言葉が出てきているし。でも、親のこと話すのは嫌そうだ。自分の手柄でもないことを話すのは苦痛なんだろう。


「エリザ・スカーレットですわ。大公家にあたりますわね。得意分野は火魔術ですが、戦闘には参加致しませんわ」


 簡潔だったが、それ以上言うこともないというのが本音なのだろう。


「スカーレット嬢の火魔術は強力だと聞いていたが、森では使えないし、不参加なのも仕方があるまい」

「えぇ、それにヴェルク様はわたくしなどいなくても、シキがいれば良いのでしょう?」

「それは言い過ぎだが、シキが参加するというなら、エリザ嬢の力がなくともお釣りがくるとは思っている」

「勿体なきお言葉、このシキ、感謝致します」


 本当に勿体ないお言葉だね。俺、連携とか全然できないよ?


「それはともかく自己紹介を進めていこう」

「はい、では僕から。僕はザディス・リヤルゴです。家は伯爵家で、父が近衛騎士団の関係で、ヴェルク様にはお世話になっております。得意な分野は剣による近接戦闘です。戦闘は参加致します」

「次は私ですね。私は、コーズ・ドロントです。家はザディスと同様に伯爵家で、風魔術による中距離からの支援ができます。戦闘には参加します」


 ザディス様とコーズ様による自己紹介を終えて、残すところはティアベル様だけなのだが……。目を回してやがる。この人、元々誰と組んで平穏に過ごすつもりだったんだ?


 仕方ないので、コソッとティアベル様に耳打ちしようとする。が、それより先にお嬢様がティアベル様に声を掛けた。


「ティアベルさん、緊張しなくていいわ。わたくしも居ますし、リラックスなさい」


 いや、それがプレッシャーだと思うんですわ。お嬢様、威圧感凄いし。跪け、愚民ども! って雰囲気が漂い過ぎて、丁寧に喋っても見下してる感あるもん。


「うひぃっ!? は、はい。緊張せずに喋らせていただきます! アーシャ・ティアベルと申します! 歳は16歳で、実家はパン屋、得意なことはパンを焼くこと、戦闘参加です!!!」


 すんごい早口だった。逆に噛まなかったのかな……。


「あら?」

「はい! 申し訳ございません!! ごめんなさい、お許しください!!!」

「いくらわたくしでもそこまで唐突に謝られると驚きますわね……」


 だよね。普段の会話の9割が俺とだし、そこまで平身低頭だと驚きますよね。

 というか、ティアベル様は前はここまでビビってなかった気がする。何かお嬢様とあったのか?


 あ、そういやティアベル様とショッピングした後、お嬢様とティアベル様が話をしたって言ってたな、あれかぁ。優しく話してくれたって言ってたけど、やはり怖かったんだろう。


「まぁ、いいですわ。わたくしが気になったのは、ティアベルさんが戦闘参加ということです。てっきりわたくしは貴女は不参加だと思ってましたの」

「それは、色々事情がありまして……。実は、平民の枠はこういった戦闘訓練などは絶対参加なんです。特に私は水魔術の治癒魔術に飛び抜けた適性があるらしいので、それを活かすようにと先生方から言われまして……」


 それは確かにそうなるわ。

 魔術の適性は基本的には公開しない。別に話しても良いのだが、個人の裁量に任せられる。適性を話すというのは、手の内明かせと言われてるのと同義なので、嫌がる人も多いのだ。もちろん、騎士団などには報告義務はあるが。


 そして、水魔術の適性自体は特に珍しくもないが、治癒魔術に適性がある者というのは非常に珍しい。確かヤデル王国が擁している治癒魔術の使い手は100人程度だったはずだ。1人はウチの学園にもいるが、何でいるんだろうね。お金の力ってすげーな。


 そんな治癒魔術師をわざわざ戦闘訓練に放り込むのもおかしな話だが、治癒魔術師は追い詰められるとその才を発揮することが多いと言われている。基本的に魔力は体内を循環しているので、自らの身体を癒すことが最も簡単である。だからこそ、自分も周りも追い詰められた瞬間に生存本能が働き、覚醒しやすくなるのだという通説もある。


 死なれたら元も子もないので、こういった護衛ありきの戦闘訓練というのは実際に有効なんだろう。


「そうか。しかし、それはまたツイているな。そういうことであれば、ティアベル嬢はウーサー様とグループを組みそうなものだというのに」

「はい、実際先生にもそれは言われたのですが……。第二王子殿下には近づくこともできず、ポイッと弾かれてしまったんです」


 ヴェルク様の最もな疑問に、ティアベル様が容易にその姿を想像できる答えを返していた。目に浮かぶよ、本当に弾き飛ばされてそうだね……。


「あとは俺たちの付き人についてだな」


 そうして護衛の使用人が次々と紹介されていく。

 これだけの手数があると、このグループの護衛は最低限になりそうだな。裏切りの可能性も大分減るだろうし、ありがたいことだ。


 俺の順番か、サクッと挨拶しますかね。そんな風に意気込んでいた俺の気持ちは、お嬢様に容易く踏みにじられることになった。


「この男は、シキ・トアル。わたくしの最愛の護衛にして、最強の護衛ですわ。さっきから色々話していましたが、結局はシキがいれば問題ありませんわ」


 お嬢様って他人を煽らないと生きていけないの? キレたナイフ過ぎない?

 あと俺を巻き込まないでね。


「エリザ嬢は本当にシキを信頼しているのだな」


 微笑みながらその返しは器デカイなって思います、ヴェルク様。


「えぇ、愛してますもの」


 周りはそれを冗談と受け取ったのか、少し笑っていた。ジェフとティアベル様は笑顔が引き攣っていたが。まぁ、第二王子殿下と婚約していて他の男に愛してるとか本気で受け取らないよね。ブラックジョーク過ぎるけど。


「何にせよ、思いの外バランスの取れた編成になったようだな。遠距離に強い者もいて欲しいが、それは高望みというものだろう。そもそもイゾン大森林の奥地に行くわけでもないのに、そこまで理想的なパーティをグループのみで求めることも酷だろう」


 そのヴェルク様の言葉に、グループメンバーは一様に頷いた。

 遠征授業では、プロの護衛もついてきてくれるみたいだし、遠距離に関してもある程度は何とかなるだろう。後はグループでの連携確認をして、キャンプでの役割分担をする位で済むだろう。


「しばらくの間、俺たちは共同体だ。共に協力し、乗り越えていくぞ」


 ヴェルク様はリーダーシップあるなぁ。


「わたくしを困らせることがないように動きなさい」


 お嬢様は孤高を目指してるなぁ。

 そんな感じで、グループミーティングは幕を閉じたのだった。

















 帰り道、ティアベル様と話す機会があったので、何故あんなに緊張していたのか聞いてみた。


「あれはね、スカーレット様と一緒だったのが嬉しくて舞い上がっちゃったの」


 弱味でも握られてんのか。


「それはまたどうしてでしょうか? 弱味でも握られているのですか?」

「わたくしが横に居て、よくそんな事を言えるわね」


 しまった、本音が。


「本当、トアルさん無礼だよね……。本当に嬉しかったんだよ。スカーレット様は私の憧れになったんだもん」

「そうだったのですか。それ、横に居るお嬢様に直接言えばいいのではないですか?」


 何で2人に挟まれて通訳みたいになってんの、俺?


「そうもいかないよ。恥ずかしくてお顔を見るのも躊躇っちゃうよ」

「そう、そこまで言われるなんて嬉しいわ。礼を言いますわ」

「えぇぇ! お、畏れ多いですよぅ!」


 マジで何があったんだろう、めっちゃ気になる。


「ティアベル様って前は尊敬してるって感じではなかった気がするのですが、前お嬢様と話した時に何かあったのですか?」

「それは言えないなぁ、でもトアルさんとスカーレット様の関係について、ちょっと教えていただいたんだよ」


 ニヤニヤ笑いしながら、ティアベル様はそんなことを言い放った。


「奴隷と主人という話ですか?」

「えぇ!? トアルさん、そういう認識なの?! スカーレット様、これは由々しき問題ですよ!」

「そうね、少し認識を改めてもらう必要があるわね」


 そう言うと、ガチャンと手錠で繋がれた。しかも、俺の手と手で繋いだのではない。お嬢様の左手首と俺の右手首に手錠は繋がれていた。


「お嬢様?」

「もう離さないわ」


 物理的にね。


「ス、スカーレット様……凄い情熱的……!!」


 こいつはもうダメだ。脳がやられていやがる。

 お嬢様のアクセル全開の行動をどう解釈したら、そんな風に前向きに捉えられるんだ。


「お嬢様、俺は女子寮には入れませんよ?」

「地下室に行きましょう」


 校則とかモラルとか今更でしたね。

 そのまま引き摺られていき……いや、力強いな!? 止まろ?


「このまま2人は結ばれるんですね!」


 結ばれないよ? 物理的に結ばれ現状に目を逸らしながら、そんな風に心の中で否定をしてみる。


 そんなこんな女子寮の前まで連れて行かれ、女子寮の寮母さんに怒ってもらえたおかげでことなきを得た。お嬢様は殺意に満ち溢れていたが、片腕を封印しては分が悪いようだった。あと俺の上着を献上したのも引いた理由ではある。最早、俺より俺が着たものの方が好きなのでは?


 ようやく解放され、ヘロヘロで使用人寮に戻ろうとした時に、ティアベル様に別れの挨拶と言葉のナイフを贈られた。


「スカーレット様から聞いたよ。今日はグループに誘ってくれてありがとう!」

「あぁ、いえ以前色々お世話していただいたので、そのお返しです」

「そっか、でも本当助かったんだよ。それに嬉しかったし」


 確かに、1人だけ仲間が見つからないってのは心細いだろうな。そう思ってもらえたのなら、お嬢様に意見してよかったと思う。


「またよろしくね! あ、私応援するからね!」

「何をですか?」

「もちろん、2人の未来だよ! スカーレット様からこの前話を聞いてね。凄いなぁって思ったの。身分の差って大変だと思うけど、私は味方だから!!」


 それじゃあ! と元気よく叫びながら、ティアベル様は女子寮に戻って行った。

 ……………………ティアベル様はどうやら強大な敵になったようだった。もしかして、学園でも外堀埋められてない?

ありがとうございました!


次回もよろしくお願いします!

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