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お嬢様、グループ編成にて問答無用

よろしくお願いします!

 登校しながら、ふと思い出した事があったので思わずお嬢様に話しかけてしまった。


「お嬢様、そういえば今日ですよね? 遠征授業のグループ決めるの」

「そういえばそんなこともあったわね」

「割と1年生の大きい行事だと思っていたんですが」


 そう、今日は遠征授業のグループ決めの日なのだが、お嬢様にやる気は皆無だった。他の人たち結構はしゃいでいるんですが……。


「確か遠征先は辺境のキモート地方の辺りですよね?」

「そうね、そこに1週間も滞在するなんてやってられないわ」

「旅行みたいなもんじゃないんですか? もうちょいテンション上がりそうなもんですが」


 俺の考え違いだっただろうか。遠征授業というのは、シドゥーレ王立学園における課外授業だ。地方に遠征し、実地訓練だのなんだのを受ける。グループで協力し、森を抜けたりキャンプをしたりする。要は箱入りのおぼっちゃまに身近な経験として、辺境ではこんなこともあるよと紹介するのが狙いらしい。ノブレスオブリージュってやつだね。もちろん護衛もつく。なので、実質安全に僻地の危険を知りましょうツアーだ。


 しかし、戦闘訓練や魔術訓練を受けている生徒は護衛と共に森で魔物と闘うこともできるらしい。戦闘参加については選択制なので、戦闘を避けることも可能であるということだったが、お嬢様はどうするつもりなのだろうか。火属性の魔術適性はズバ抜けているお嬢様なので、戦闘にも参加できるとは思うのだが。森で火とかやばそうだけどね。


「上がらないわよ。別に闘いなんてしたくもないわ」

「そりゃあそうでしょうけど、お嬢様強いんですしやればいいじゃないですか。成績も加点されるらしいですし」

「そんな野蛮な成績必要ないわ」


 やることなすこと埒外のくせに、なんて物臭なんだ。


「そもそもシキがいれば問題ないわ」

「いや、よくそれ言いますけど、俺別に無敵とかではないですからね?」

「わたくしの為に戦う時の貴方は無敵よ」


 この前のヴェルク様との手合わせの時は寝てたのかな?


「数が多すぎたり、奇襲とか受けたりしたら普通に負けますよ。そもそも俺より強い人とかいっぱいいますし」

「それでも大丈夫なのよ」


 話聞いてるのか、このお嬢様。


「まぁ、その話は置いときましょう。真面目な話、グループ編成は学年全体なんですし、ヴェルク様辺りと組みましょうよ」

「あの男と? どうしてかしら?」

「そりゃあ強いし、信頼できるからですよ」


 そう言うと、お嬢様は露骨に顔を顰めた。


「あの男、脳まで筋肉でできていそうなのに、どうして信じられるのよ」


 それ、あなたの使用人にも刺さりそうな言葉なんでやめませんか。よく言われたなぁ、「脳筋! もう少し位頭を使え!!」って。


「第2王子殿下のこともありますからね。実力があって、信頼できる人が多いに越したことはありませんよ。護衛も金で雇われて裏切る可能性がありますし、グループに強力な助っ人はいた方がいいです」

「そうね……肉壁くらいにはなるかしら?」


 発想がひどい。

 お嬢様、基本的に口悪いもんね。


「それにしても、あの男のことはやけに肩を持つわね。そんなに出会って日も経ってないし、疑問だわ」


 それはごもっともだ。ジェフのことは以前から知っていたとはいえ、ヴェルク様と関わったのはあの手合わせの時くらいである。俺がこんなにもヴェルク様を推すことに、お嬢様が疑問を覚えるのは当然だろう。

 しかし、ヴェルク様はきっと信頼できる。なぜなら、


「筋肉は嘘をつきませんからね。あれは誠実な筋肉です」


からである。当たり前だよね。


「シキのことを生まれて初めて気色が悪いと思いましたわ」

「お嬢様、俺も時には涙を流すことがあります」

「そう、舐め取ってあげるわ」


 ガチで舐めようとしてきた。涙、流れてませんよ?


「とにかく、手合わせでの槍捌きや打ち合いを通して分かることもあるんですよ」

「あまり理解したくない世界ね」


 お嬢様が俺の言うことをきちんと聞いた上で拒否することって、かなりレアな出来事な気がする。そんないやか。


「まぁ、言いたいことは分かったわ。シキがそこまで言うなら声を掛けてみるわ」

「ありがとうございます。後は、ティアベル様でしょうか」

「それはいや」


 あれ? 俺のグループ編成の意見って全部却下されてない?

 おかしいな。普段は割と聞いてる時は受け入れてくれるのに。


「女はシキを誑かすからダメよ。ただでさえティアベルさんは前科があるから、余計にいやよ」

「ハハハ、まるで乙女のようなことを仰りますね」

「乙女よ」


 めっちゃ笑った。
















 インナーもパンツも持っていかれた、ちくしょう!!!















 グループ編成は講堂で行われた。人数はそれなりだし、広いところを使うよね。確か1学年で120名位はいたと思う。


「それでは今度の遠征授業のグループ編成を行います。各班、およそ6〜8名で編成しなさい」


 ついに始まったか。それにしても股間がスースーするぜ。

 ある程度決めていたグループもあったのか、すぐにまとまり始めるグループもあった。


 あ、これは拙いのではないだろうか。ヴェルク様とか人気だろうし、即座に誘いに応じて決めてしまうのではないか。

 そんなことを考えていると、お嬢様は周りの方々を退けて真っ直ぐにヴェルク様の元へ向かっていった。


「ヴェルク・イージス、わたくしとグループになりなさい」


 お嬢様、皮剥がれてます。傍若無人過ぎませんかね。ほら、周りもめちゃびっくりしてるじゃん。


「これは驚きだ。スカーレット嬢はそんなことをいきなり言い出す方だったか?」


 いきなりの言葉にヴェルク様も目を丸くしていた。そりゃそうだ。この前はすげぇ丁寧で下手に出た話し方だったもの。


「そうでしたわね。でもお生憎様ですわ、今少し虫の居所が悪いんですの」

「そうだったのか、分かった」


 え? そんだけ?


「君のところの側付きは信頼できる。ありがたく応じよう」

「それは助かりますわ。後のメンバーはヴェルク様にお任せしますわ」


 丸投げだよ、それ。ていうかお嬢様、もう取り繕う気無いんですね。いや、元々クラスではそんな感じだったけど、ある程度の身分の人にはそれ相応に仮面を貼り付けていたのに。


「そうか……先程から多くの者に声を掛けられているので、迷ってはいるのだが」


 でも、お嬢様と組んだ瞬間に結構な方々が身を引いてましたよ。

 大公家に近衛騎士団団長の息子とか気後れするのは分かるけどね。それにしても、ウーサー様はどう出るんだ? お嬢様とは婚約者だし、誘ってくるかと思っていたんだけど。


「おい、シキ。お前の差し金か?」


 ウーサー様を探そうとキョロキョロしていると、いきなりジェフに肩を組まれてそんなことを言われた。


「まぁな、ヴェルク様は信頼できるし、お前もいるし」

「なんだそりゃ? 遠征授業なんか大した危険もあるまいに」

「色々あんだよ」

「そうか」


 こいつ、深く聞いてこないの本当に楽だな。何も考えていないんだろうけど、今はそれがありがたい。


「しかし、若旦那は他に誰と組むのかねぇ。あのお嬢様と組んだら他の奴らビビっちまいやがった」

「お前、そのうち不敬罪で首切られそうだな」

「使用人の前でしかこんなこと言わねぇよ」


 当たり前だ。使用人でも忠誠心高い奴だったら、蛇蝎の如く嫌われそうだなこいつ。

 しかし、実際どうされるつもりなのだろう。俺としてはある程度動ける方々を選んで頂けると助かるんだが、そんな奴はそう多くもないし。


「そういや第2王子殿下はどなたと組まれたんだろうか?」

「あん? 見てなかったのかよ、さっさと取り巻きと組んでたぜ。俺はてっきりあのお嬢様を誘うもんだと思っていたんだがな」


 なるほど、もう自分から接触する気はないってことか。あからさま過ぎて、向こうも隠す気無いんだろうな。となると、やはりこっちのメンバーが気になるな。

 ある程度事情が話せる奴がいいんだけど。


 そんなことを考えているうちに、ある程度のメンバーは決まったらしい。ヴェルク様と同様、親類が騎士団に所属する方々だ。やはり、動きやすいチームを組んでくださったか。マジ助かるな。

 ヴェルク様はおそらく戦闘にも参加されるつもりだろう。ある程度はそういったメンバーで固まると予想はついていたが、お嬢様というイレギュラーが不安要素だったので、杞憂に終わって本当に良かった。


 って、ティアベル様あぶれてんな。


「お嬢様、少々よろしいでしょうか?」

「何かしら? 夜這い?」

「昼間っから何言ってんの?」


 このお嬢様、最早ギャグで言ってるんじゃないだろうな。ギャグだったらいいのに。てかギャグであれ。


「冗談よ、何かしら?」

「ティアベル様、やはり誘っていただいてもいいでしょうか?」

「いいわよ」

「やっぱりダメですよね……っていいんですか!?」

「いいわよ、他の羽虫と違って弁えてるもの」


 羽虫て。


「そもそもわたくし、ティアベルさんはそんなに嫌いじゃないわ」

「知ってます」

「ただシキが気に掛けていたのがイヤだったのよ」


 なるほどな。今までの行動を思い出せば納得はできる。


「気に掛けちゃいますよ。お嬢様のデートでプレゼントでイヤリングを贈ったら、喜んでもらえるとアドバイスしてくれたのあの人ですし」


 まぁ、結果としては散々だったけど、実際物凄い狂喜乱舞していたし。あれから毎日付けてくれてるし。


「それを早く言いなさい」


 そこからのお嬢様は早かった。最早拉致してくるレベルの勢いで、ティアベル様を連れてきた。


「ヴェルク様、この子をグループで最後の1人として誘ってもいいかしら。あんなことを言ったけれど、彼女、ティアベルさんが1人だったのが気になりましたの」

「えぇぇぇぇ!!? ス、スカーレット様!? お、恐れ多いですよぅ!」


 ティアベル様は滅茶苦茶ビックリしていた。分かる。驚くよね、あの唐突さ。


「気にしなくてもいいですわ」

「で、でもイージス様は……」

「構わんぞ」


 即答だった。すげぇ、この人実は天然なんだろうか。

 何にせよ、こうして俺たちのグループは決まったのだった。

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