騎士、試合終わりにて確信を持つ
よろしくお願いします!
「まさか、負けるとはな。慢心もなかった、完敗だ」
「いえ、ギリギリの勝利でした。次があればどうなるかは分かりません」
いや、本当に。風魔術であそこまで応用効かせられる方は珍しい。そりゃあもう珍しい。あれで俺を切り裂いたり、空気を薄くしたりとかできたらどうなるか分からない。
そんな魔術使われたら、もう殺し合いだから俺のやり方も変わるけどさ。
周りは未だ騒然としている。まぁ、いくらスカーレット家の護衛でも近衛騎士団団長の息子を降すとか思わないよね。
「周りはまだうるさいけど、いい物が見れてよかったんじゃないかな?」
「そうですかね……それより俺、テンション上がってかなり無礼な口の利き方だったので、今後の生活で色々面倒ごとに巻き込まれそうなことが気掛かりですよ」
あいつ生意気、とかで村八分になったら困る。
「いや、そうはならんだろう。なりそうでも俺が止めよう」
「それはありがたいのですが、無礼だったのは間違いないことですし……」
気にするなというのが難しい。俺、お嬢様が相手でも周りに人がいたら、気を遣ってちゃんとした話し方にしてるし。
「まぁ、放っておけ。気にしても仕方あるまい」
「あぁ、それに私も口添えをしよう」
まさかのウーサー様だった。そりゃ学年合同訓練なんだからいるのは当たり前なんだが、護衛も伴わずにいらっしゃるとは思わなかった。
「此度の試合は学園生たちにとっていい刺激になったことだろう、無論私もだ。短い時間の出来事ではあったが、素晴らしかったぞ」
「は、第二王子殿下にそう言っていただけるとは、ありがたき幸せでございます」
「貴様の案ずる事はわかるが、狭量な者どもの嫉妬などヴェルクも言うように気にすることはない」
まぁ、そう言っていただけるからにはそれ相応の計らいをして下さるのだろう。お嬢様の婚約者でもあるし、こんな事で虚言を吐きはしないはずだ。
……それにしてもこれ程下々の民を気にかけて下さる方がキナ臭いなんて、恐ろしい事だ。未だ怪しい素振りもある訳ではないし、案外旦那様の取り越し苦労という可能性もあるんじゃないだろうか。
「シキ、何にせよまた手合わせを頼もう。今日は世話になったな」
俺が考えごとをしながら頭を垂れていると、ヴェルク様はそう言って立ち去って行った。ロブ先生も他の生徒たちの指導に向かったようだ。
この場には、俺と第二王子の2人だけが残された。
「シキよ、1つ聞いておきたいことがある」
「は、何にございましょうか。私で答えられることでしたら」
「貴様はエリザ・スカーレットをどう思っている?」
「……仕えるべき主でしょうか」
それ以上に答えられることはない。というかそれ以外の答えなんて無いと思うのだが。
「あの女は強く恐ろしい女だ」
ウーサー様は俺に語り掛ける。
「人を人と思っていないのだ、シキよ。心当たりがあるのではないか?」
それは少なくとも自分の婚約者に向けるべき言い方ではなかった。まぁ、心当たりはあるけれど。
「あの女は利己的に過ぎる。故に、側仕えの貴様の意見を聞きたいのだ」
「お嬢様は寛大な方にございます。スカーレット家でも多くの方々から慕われております、無論私もその1人にございます」
何が言いたい? 何を考えてこんなことを俺に聞く?
「……そうか、私の勘違いであるようだな」
背筋に悪寒が走る。その声は、低く冷たい。
顔を上げて、視線をウーサー様に向ける。その眼は冷たく、その奥にはドロドロとした昏い炎が仄かに揺らめいているようだった。
「えぇ、お言葉ですが第二王子殿下におかれましては、少々お疲れであるのかと。日々の政争も激化していると聞きます。故に疑い深くなられているのではないでしょうか?」
「そうかもしれぬな。時間を取らせた、もう良いぞ」
「は、失礼致します」
一礼してから、背を向けて歩き出す。
あの眼は俺を人として見ていなかった。そして、確信があった。
……あの男はお嬢様を脅かす。
理由は分からない。何だ、あの眼は。お嬢様は気付いていたのか? だから、あの男を嫌いだと話していたのか?
あの眼は今までも見たことがある。あれは下衆で、傲慢で、人を殺すことを躊躇わない獣がする眼だ。
「まず、わたくしの元へ帰ってくるべきではないかしら?」
「申し訳ございません、色々ありまして」
「謝り方がなってないわ。そこは罰として肉奴隷として一晩奉仕させて下さいと懇願もするべきよ」
謝罪って難しいね。
「そんなことよりお嬢様」
「……あなた、逞しくなったわね」
俺の返答にお嬢様が少しだけたじろいでいた。そりゃあもう、割と慣れてきましたとも。
とりあえずお嬢様に先程のことを簡単に伝える。
「そう……あの男、シキにもそんな眼を向けたのね。万死に値するわ」
「その切り返し、流石はお嬢様です」
「元からわたくしには分かっていたことだもの。大して驚くようなことでもないわ」
前から言ってましたもんね。それにしても、と考えていたことをお嬢様についでに伝える。
「あの方、結構考えなしですよね。何でノコノコ自分から来たんでしょう?」
「あの眼を見たら分かるでしょう? 所詮はけだものなのよ。傲慢で、自分の思い通りに事が運ぶと信じ切っているの」
「でも、能力的には第二王子殿下は優秀な方ですよね」
「能力が優れていようが、それを扱う人格がお粗末なら意味ないわ。本人は上手く取り繕っているつもりでしょうけど」
「そういうもんですかね」
お嬢様の言葉に納得したような、していないような返事をする。分からんでもないけど、俺にはその行動が不可解過ぎて不気味だ。もうちょい筋道立てて悪者やれよと思う。ああいう手合いは追い詰められたら、何するか分かったもんじゃないから不安になる。大体がロクなことしねぇ。あ、お嬢様もそのタイプだわ。
「お嬢様、とにかく今後は俺を常に何があっても呼んで下さい」
「いつものことね」
「そういやそうでした」
この人が俺から離れる時ってなかったわ。
「それより食事に行きましょう。今日の食事は特に美味しくなりそうね、気分が良いもの」
「何でですか? 何か俺がいない間にいい事があったんですか?」
お嬢様が俺のパンツとかを手に入れる以外でテンション上がるようなことがあっただろうか。
「シキの良さを有象無象に見せつけられたもの、気分も良くなるわ」
人を人として思って下さい、お嬢様。
「そんなシキの全てはわたくしのものだし、ゾクゾクもするわよ」
「もしやお嬢様、状況を把握する能力が麻痺していらっしゃるのでは?」
気分の良さをゾクゾクするで表現しないでいただきたい。あと、全部捧げた覚えはないよ?
そんな話をしながら、食堂へ向かう。
このお嬢様といると、危機感とかシリアスな俺の雰囲気も台無しである。さっき迄の俺とウーサー様のシリアスな空気を返して。いや、いらんけどさぁ。
「彼奴はダメだ。此方側に引き込むどころか、私の視線に気付いていた」
「……では、怪しまれて警戒が強まったのではありませんか?」
「そうだな、消しておけ」
「彼は強いです。私1人の力では難しいでしょう」
……暫し考える。確かに彼奴は強い。排除しようとなるとそれなりに戦力が必要となるだろう。
「やはり、遠征授業を利用する。そこで奴とエリザを分断し殺せば良い。数は揃えておけ」
「仰せのままに、我が主よ」
「エリザは生きたまま私の元へ連れて来い。いいな?」
「全ては貴方様の御心に従います」
ありがとうございました!
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