お嬢様、牢屋にて脅迫をする
よろしくお願いします
「あっ、も……申し訳ございません! あまりに驚いたもので、軽率な口の利き方をしてしまったことを深くお詫び申し上げます!」
「構わないわ。それより話を続けてもいいかしら?」
よかった……。罰せられずに済むそうだ。エリザ様はもしかしたら噂よりも全然お優しい方なのかもしれないな。さっきの口の利き方も何も言われていないしな。
「わたくし、あなたを気に入ったのよ。シキ・トアル。以前、わたくしを護衛した時のことを覚えているかしら?」
「もちろん覚えております。しかし、あの時は私は一騎士団員として職務をこなしていただけなのですが……」
「そうですわね。でも、気に入りましたの。あの時もわたくしたちは会話をしましてよ」
……全然記憶にございませんが。え? 俺、エリザ様と話してたの?
「とにかくあなたを気に入ったのよ。だから側付きの騎士として働かないかと尋ねているのですわ」
「それは……光栄極まりないお話でございますが、なぜこのような場所で? というかどうして私は縛られているのでしょうか?」
エリザ様は俺のその質問を聞くと、少し思案してとんでも無いことをのたまった。
「わたくしの趣味よ」
「‥……‥‥‥‥‥‥…‥‥‥‥‥‥…‥‥‥‥‥‥…‥‥‥‥‥‥…‥‥‥‥‥‥…マジすか」
やべーよ、このお嬢様。俺もそれなりだと思ってたのに、寝てる時にまるで気付かねえんだもん。
「それは当然のことでしてよ。あなたの食事に睡眠薬をたっぷり仕込んで、寝てる間も打ち込んだもの」
「鬼か」
食事ってことは、昨日の飯屋は買収されていたということなのだろうか。匂いで気付かなかったということはかなり上等な睡眠薬を盛ってくれたらしい。というか、なんで思ったことに対して返答できてるんだろう。
「あなたの顔を見れば何を考えているかくらい分かりますわよ」
「今、何考えているか分かります?」
「このお嬢様やべえな、ですわね」
「そ、そんにゃこと思っていましぇんよ」
このお嬢様やべえな。
「とにかくそういうわけなので、引き受けていただけませんこと?」
「大変有り難い申し出であり、千載一遇の好機ではありますが……私は薬を盛られたことにも気付かない弱者にございます。ですので、今回の件はなかっ‥‥‥‥‥‥」
ゴトッ。
「謹んでその命を承らせていただきます。粉骨砕身で尽力をさせていただきますので、そちらの拷問器具の数々は仕舞っていただけないでしょうか?」
「まぁ! ありがとう! そう言っていただけると思っていましたわ」
見たこともない器具もあったが、ヤバそうなことだけは伝わってきたよね。
「それでは、この誓約書にサインと血判をお願いしますわ。もちろん魔力を込めて、ですわよ」
「はい、スカーレット様」
「エリザで構いませんわよ。これからは常に共にある者同士というのに、そんな他人行儀である必要はないわ」
「いえ、それは恐れ多いと言いますか」
怖いので、嫌です。
「まぁ、おいおいでいいかしら」
「しかし、契約魔術紙まで用意することはなかったのではないでしょうか? 私ごときにそんなものを使うとは‥‥‥‥‥‥」
魔術は、多くの人間が使うことができるが、魔術を紙に込めるというのは非常に難しい。俺も魔術なんて身体強化くらいしか扱えない。魔術師は派手な魔術を使うが、そんな魔術師でさえ自分以外の何かに永続的に魔術を与えるというのはできない者の方が多いのだ。だからこそ、契約魔術を使うことは絶対の約束として、国家間の条約締結などに利用されている。それを俺みたいな一騎士団員に使うなど、申し訳ないが頭が沸いてるのではないかと疑ってしまうほどだ。
「それを使えば、あなたが逃げられなくなるなら安いものですわ」
そこまでして俺が欲しいってのもよく分からんなぁ。まぁ、貴族のお嬢様の道楽だろうし、考えても仕方ないか。それにしても怖いわぁ。
「では、契約を交わしますわよ」
「はい、お願いします。」
契約方法はぶっ飛んでいるが、契約内容は確認したところ普通の護衛騎士と変わらなかった。命にかけても護衛対象を守り抜く。それだけ。給料も支払われるし、休日もある。それなのになぜそこまで、契約を厳重にしたのか理解するのには、随分時間をかけることになる。
足元に魔法陣が煌めく。
「汝、シキ・トアルは護衛騎士としてエリザ・スカーレットに生涯の忠誠を誓うことをここに誓いますか?」
「誓います」
「汝、シキ・トアルは男としてエリザ・スカーレットに愛の忠誠を誓うことをここに誓いますか?」
「誓います‥‥‥‥‥‥え?」
足元の魔法陣が輝き、契約が完了してしまった。が、聞き逃せないことがあった。
「男として愛を誓うって! どういうことですか!? しかも一方的に俺だけですよ!?」
「あら? 騎士として忠誠を誓うのも、男として愛を誓うのも同じようなことではなくて?」
「大いに違いますよ! 何をほざいてるんですか!!」
詐欺だ……さっきの契約魔術が込められた紙にはそんなことは一言も書かれていなかった。それはつまり、かなり高度な方法で契約魔術の紙に細工をしたのだ。契約を目的とする魔術を欺くとは、恐ろしすぎる。一体いくら金をかけたらそんなことになるんだ?
「これで晴れてわたくしの騎士となったわけですわね。それでは、枷を外しましょう。」
手錠や足枷が取られていく。しかし、もはやそんな拘束は意味もない。そんなことをしなくても、俺はもう彼女の騎士なのだ。これから先の日々は何が待ち受けているのか、想像をするだけで吐きそうである。
「ついていらっしゃい。わたくしの屋敷を案内しますわ」
「かしこまりました、スカーレット様」
「もっと気安く呼びなさい。心の中では呼んでいるようにね」
「かしこまりました、お嬢様」
「気安く呼びなさいと言ったのに」
もう心の内を読まれているなら、大胆に行こうとは思うがそれはそれだ。ついでに死んだとしてもそれはそれだ。
「このまま階段を登れば、わたくしの私室に着くわ。地下からわたくしの部屋までだから少し長いのですけどね」
「あぁ、やっぱりここお嬢様の屋敷だったんですね」
なんで牢屋と私室が直通なのかは考えないようにしておく。
「では、お父様や騎士団の方に連絡もありますから、わたくしの部屋で待っていなさい。」
ガシャン。
「ガシャン?」
そして、お嬢様が部屋から出て行くと同時に部屋が檻になった。お嬢様らしい部屋に鉄格子は、似合ってなさすぎてかなりのホラーである。
もう何も言うまい。
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