お嬢様、地下室にて大爆発
よろしくお願いします!
「………………おれ、なにしてたっけ?」
目が覚めた。
しかし、頭の中がボンヤリとしており、呂律も回っていない。頭痛は感じないが、寝起きの悪い朝のようで気分が悪い。
「確かお嬢様とデートしてて…………」
未だにボンヤリとしている頭を働かせて思い出そうと努力しながら、ムクリと体を起こす。
ガシャン。
起こせなかった。しかし、その金属音で俺の記憶はバッチリ目覚めた。
「あんのお嬢様がぁぁぁぁ!!! またやりやがったなぁ!!」
「ついやってしまったわ、愛故に」
あ、いらっしゃるんですね。
「で、なんでまたこんなことをしやがったんですか? 手錠に足枷までつけて」
そう、俺は今まさに手錠と足枷を嵌められて、ベッドで横にされていた。あんまりである。この前よりも厳重じゃねぇか。
「愛故よ」
なるほどね。どうやら敵は会話による交渉は一切受け付けないという強気の姿勢らしい。愛があるなら、緊縛プレイは互いの同意の上でやるわ。
「愛故にならもうちょい別の方向性はなかったんですか」
「ないわ。わたくしの最大の愛を示すにはこれしかなかったのよ」
「愛の方向性でチキンレースでもしてるんですか?」
ノーブレーキで崖から落ちてるよ? 受け止めきれないよ?
「しかし、俺がこれで愛を受け入れる方向性に舵を切るとは思えませんが」
「あら? 愛ならもう受け入れているどころか求婚してきたじゃない?」
「してませんよ?」
してませんよ?
「あのイヤリングはそういうことでしょう?」
「ちがいますよ! 100歩譲ってそうでも、あんた渡す前に盛りやがったじゃないですか!?」
「ほら認めたわ」
お嬢様の耳は、どうやら都合の良いことだけを切り取って聞く便利な耳なようだ。その耳にはプレゼントしたイヤリングがバッチリと付けられていた。ちょっと嬉しい。
それにしても100歩譲ってのところだけを極めてポジティブに解釈してやがる。
「いや、譲ったところの後が大事なんで、ちゃんと聞いてもらえます?」
「仕方ないわね」
やれやれといった仕草で俺の提案を受け入れるお嬢様。控えめに言って、ムカつく。普通に言って、ぶん殴りたい。
「そもそもわたくしはデートの締めは元々ここのつもりだったのよ」
「ここって……。そういやここは何処なんですか? この前監禁されたところとも学園の地下室とも違いますけど」
「あなたの私室よ」
「嘘つけぇ!?」
こんな牢獄みたいなベッドルームを私室に持った覚えはないわ!!
「あなたの私室よ。未来のね」
荒唐無稽な言葉って、脳が理解を拒否するよね。そんな風に考えながら、俺がお嬢様にまた頭が沸いたこと言ってるよという視線を送ると、お嬢様は更に言葉を続けた。
「ここはスカーレット家の地下室よ。部屋の位置としては、この前シキを監禁した部屋の隣に当たるわ」
「地下室って他にもあったんですね……って、ここスカーレット家なんですか!? 明後日からの学園はどうするんですか!?」
「辞めるわ」
「辞めるな!!!」
すげーよ、お嬢様。なんでここまで行動力が振り切れてるんだよ。
「わたくしもまさか今日が新婚初夜になるとは思っていなかったわ」
「すいません、通訳を呼んでもらっていいですか?」
残念ながら俺とお嬢様の扱う言語は違ったらしい。
「だって前から言っていたでしょう? わたくしはシキを愛してるって」
「それは聞きましたが、新婚でもないし初夜も迎えませんよ」
「イヤリングを男性から送ったら、相手の気持ちに同意したとして結婚になるのよ」
「なんでそんな誇らしげに嘘をつけるんです?」
「嘘はついてないわ。わたくしがそう思ったのよ」
すげーな、何でこんな堂々と法を歪ませてくんの? 女王様でもまずは法制定で提案を出すよ、たぶん。しかし、そんな俺の気持ちはお構いなしに、お嬢様は次々と訳の分からないことを仰ってくる。何てこった、耳を塞げないのが辛過ぎる。
「まず子どもはたくさん欲しいわ」
「まずの段階じゃないです、そこ」
ゴールした後の段階だよ。
「とにかく、まず話すべきは元からデートの締めがここだったということですよ。俺に薬を盛るのは既定路線だったんですか?」
「そうね。計画にはあったけれど、もちろん確実ではなかったわ」
「あ、そうなんですね」
「えぇ、何事もなければ普通にデートをして終わるつもりだったのよ」
マジかよ。なんでそうならなかったの。
「でも、シキがわたくしにプレゼントを買ってくれてることに気づいた時には、プランBのラブラブ新婚初夜作戦に切り替わったわ」
人生最大のプレゼント選び失敗だよ。
「それからの行動は早かったわ。シキに睡眠薬と媚薬を盛って運び出し、近くの馬車を金の力で動かしたわ」
お嬢様、俺をそんな軽々と運んだのかよ。あと、馬車ってそんな易々と捕まえられたっけ。
「そして、ここに来てからはセバスとシアに頼んで手錠と足枷を用意してもらって、シキをベッドに縛り付けたわ。あの2人もわたくし達の結婚に涙が溢れていたわ」
悲しみの涙だよ、それ。あの2人は絶対『おいたわしや、お嬢様』とか考えてるよ。というか外の気配はあの2人か……。見張りとか頼まれてそうだな、不憫だ。
それにしても何かとんでもないことを聞き落とした気がする。何だったかと先ほどの会話を思い返してみると、すぐに心当たりに行き着いた。
「あのぅ、お嬢様? 御質問よろしいでしょうか?」
「構わないわ」
「ありがとうございます。あの……睡眠薬と何を盛ったって言いましたか?」
「媚薬よ。この前のゴミどもに打ち込もうとしたやつ。ちゃんとシキのは希釈して、正しく盛れるようにしたわ」
だから、さっきから俺のエクスカリバーは拘束が解放されてんのね。というか、これは物凄く不味いのでは?そんなことを考えていると、お嬢様が服を脱ぎ始めた。やばい。
「まってまってまって!!!!! それはヤバい! 洒落にならないって!!!!」
「大真面目だもの」
くそぅ、なんて綺麗な身体だ。目を、目を閉じることができない!!
「ほらご覧なさい。シキもわたくしに興味津々じゃない」
「そうですけど! そうなんですけど!! これは違うっていうか!?」
もっとロマンチックな雰囲気がいいの! 鉄格子に囲まれたくないの!
「想いも通じ合っていない未婚の男女がそれは不味いですって!!」
「届くまで何度でも抱いてあげますわ」
「無敵か!!」
これはもうダメだ、おしまいだぁ。お嬢様はもう俺の上に馬乗りになり、俺の衣服を剥いでいる。俺、初めてがこれかぁ。
そうして、いよいよ俺の唇が奪われそうになった瞬間、鉄格子の向こう側の扉が開け放たれた。
「エリザ! ここにいるのか!?」
「チッ、見つかりましたわね」
そうして俺の救いの神は現れた。扉の開けてくださったのはスカーレット家現当主、バーミリオン・スカーレット様である。
ありがとうございました!
初めて感想を頂けました。感無量です。
今後も出来る限り投稿を素早くして続けていきたいです。





