お嬢様、デートにて幸せの絶頂を迎える
よろしくお願いします!
明日からまた仕事なんで、更新は不定期です!
デートは穏やかに進んでいた。お嬢様は俺に手を引かれて大人しくエスコートをされていた。しおらし過ぎてちょっと怖いのは内緒だ。
「とりあえずご飯を食べましょうか」
「そうね、お腹が空いてしまったわ」
「そりゃあんだけ待っていれば、お腹も空きますよ」
今回は、ほとんどランチデートみたいなものだ。ご飯を食べて、少し店を回っておしまい。そんなイメージで考えている。以前、隊長に連れ回された時は、デートという名の山賊狩りだったからな……。
そんなことを考えていると、手を握り潰されそうなくらいの勢いで繋ぐ力を込めてきた。イデデデデ。
「今、他の女のことを考えたでしょう?」
「滅相もございません」
え? あれもだめなの?
「あなたは今わたくしとデートをしているのだから、わたくし以外のことを考えるのは禁止よ。いえ、常日頃からわたくし以外の女に一片たりとも思考を割いてはならないわ」
前半だけなら可愛かったのにね。
そんなことを話しながら目当ての料理屋に着く。それなりに格式のある店を選んで予約をしておいたのだが、お嬢様のお眼鏡に叶うのかは謎である。
「あ、着きましたね。ここですよ」
「そう、割と雰囲気が良い店なのね」
「内装も割と良かったですよ」
学園の使用人仲間から事前にリサーチしていたのだ。味はもちろん、雰囲気も良い個室の店ということで聞いて回ったところ、この店を挙げる人が多かった。何でも主人の方々がよく来られる所らしい。
「ところで、どうして内装まで知っているのかしら?」
「あぁ、下見がてら来たんですよ」
「へぇ、誰となの?」
「ジェフですね。あいつと2人で来るのは気まずかったなぁ」
「そう、許すわ」
今、俺大ピンチでしたね。良かった……恥を忍んでジェフと来ていて、本当に良かった。
店内に入り、予約していた者だと伝えて席に案内してもらう。それにしても、テーブルマナーとか自信ないから個室の店は正解だったな。いや、それ以前にお嬢様がお忍びで来てる時点で、個室以外の選択肢は無かったけど。それからはスムーズだった。予約通りのコース料理に舌鼓を打つ。うまい! うまい!
「美味しいですね、お嬢様」
「そうね、シキとなら残飯でも美味しいわよ」
「それ、店員さんの前で絶対言わないでくださいね」
俺が料理人だったらブチギレてると思う。それにしても食事の時は、基本的に俺もお嬢様も喋らんから気楽ではある。
食事が終わりドリンクを味わっている時、俺はついにお嬢様のことを色々聞いてみることにした。
「お嬢様って好きな食べ物はあるんですか?」
「そうね……基本的にさっき言った通りだけど、わたくしはウチの料理長の作るムニエルが好きよ」
「あ〜、料理長のご飯は美味しいですよね」
マジで腕が良いのだ。御当主様は料理への拘りの強い方で、料理長は宮廷で昔は料理を作っていてそれをスカウトしたらしい。王宮の人材を引き抜くって破天荒だよね。
「あ、あと好きな色とかありますか?」
気になる女の子に勇気を振り絞って話し掛けたガキか。
「茶色ね」
「茶色」
渋いな。
「俺は赤が好きですよ」
「そう、ありがとう」
何でお礼言ってるんだろう? ……あ! お嬢様の髪と眼の色じゃん!! すごい下手くそな口説き文句みたいになってしまった……。
「そ、それから……」
ヤバい。もう聞きたいこととか特にないぞ。いや、あるにはあるんだけど心の準備ができていない。
「わたくしも聞きたいのですけど、シキは騎士団に入る前ってどうしてたのかしら?」
「え? 知ってるんじゃないですか?」
「大体知ってるわ」
じゃあ何で聞いたの。
「まぁ、隠すようなことではありませんが傭兵みたいなことやってましたよ」
「その前よ。わたくしが知りたいのは」
「う〜ん、あんまり覚えてないんですけどね」
「あら? そうだったの?」
「えぇ、物心つく頃には傭兵団に世話になってましたから」
本当に覚えていません。物心つく頃には傭兵団で、両親の顔も知らない。だから何だって話ではあるし、この話をすると空気が湿っぽくなるので余りしたくないのだ。もうとっくに俺の中では終わった出来事だし、傭兵やってた頃の日々も嫌だったわけでもないし。
何とか別の話題にしよう。
「そんなことよりお嬢様、今度学園で行われる遠征授業のグループとかどうされるのですか?」
「……まぁ、話したくないなら聞かないわ」
「お気遣い頂きありがとうございます」
俺の露骨な話題逸らしにお嬢様は付き合ってくださった。助かります。
「わたくしは適当な奴らと組むわ」
「身も蓋もありませんね」
「どうせ貴族のハイエナどもが群がって、勝手に決めるわ」
「それは多分そうですが……」
大公家の娘で、王族との婚約者だ。お嬢様とコネクションを作りたい方なんて、学園中にいるだろう。だが、ロクでもない貴族様だったら困るだろうに。
「女性と組まないのですか?」
「どっちも大差ないわ、それに使用人は連れて行っていいのだし」
言外に俺が居ればどうにかなると言ってくださるのは光栄ですけどね。お嬢様はこの話についてはこれ以上何かを言うつもりはないようだった。もう後は本命を聞く位しかないか。
「…………あの、ずっと気になってたんですけど」
「何かしら?」
「お嬢様は、あの護衛任務のいつ俺と会話をしたんですか?」
ドリンクに口をつけようとしていたお嬢様の手が止まった。
あの日のことを思い出してみたのだ。お嬢様の護衛任務はおよそ2年ほど前のことだ。その時、俺はまだ中央騎士団の下っ端も下っ端で、お嬢様と会話をするようなタイミングはなかった。
「シキ」
「はい、お嬢様」
「それは知る必要のないことよ」
どうやらこれも教えてくれる気はないらしい。以前からずっと感じていたが、お嬢様は俺に想いはぶつけてくるが、俺にその源泉を教えようとはしない。その理由は分からないが、どうにも事情があるようだった。色々と思案してみるが……俺如きの頭脳では解決策など浮かぶはずもない。というかお嬢様に口を割らせるなんて、ドラゴンを討伐するのと同じ位の難易度だ。よし、諦めよう。
「まぁ、俺も聞かれたくないことってありますし、お互い様ってことで」
「そうね、そうしてちょうだい」
「仕方ありませんね」
お互いに微笑みあって、無かったことにした。なんて和やかな終わりだろう。想像の100倍くらい優しい終わり方だ。そろそろ会計をして、お店を出よう。
「お嬢様、行きましょうか」
「そうね」
それからお嬢様の希望でストーカを見て回った。何でも普段は絶対に出来ないので、街巡りというのをやってみたかったらしい。それはもうお嬢様は楽しそうにしていた。
露店の安っぽいアクセサリーを見たり、屋台に立ち寄ってみたりと本当に庶民のデートだった。他にも貴族がよく来るという本屋に行ってみたが、そこでは売られている本の値段に目玉が飛び出るかと思った。宝石屋にも行ってみたが、これまたそのお値段に目玉が飛び出るかと思った。こっそりプレゼント用のイヤリングを買っておいたが、背伸びし過ぎた感は否めない。
そんなこんなで日も暮れて、お嬢様とカフェで少し水分補給がてら休憩を取ることにした。
「今日は思った以上に楽しめたわ」
「それは何よりです」
「それにお土産も用意してくれたのよね?」
「……バレてましたか」
流石お嬢様でございます。
「どうぞ、さっきの店で見つけたイヤリングですよ。赤い色がお嬢様によく似合うと思ったんです」
「ありがとう、嬉しいわ。このまま召されてもいいくらいよ」
「それで召されると、御当主様と次期当主様に俺が殺されますよ」
「一緒に死ねるわね」
発想がシリアルキラーのそれだよ。
「それにしても……イヤリングとはね」
「何か不味かったですか?」
「そうじゃないわ、むしろ最高よ」
ニヤニヤとお嬢様が笑う。あ、これ高笑いくるのでは?
「身に付けるアクセサリーのプレゼントなんて、告白みたいなものよ。独占欲の現れなんて言われてるわ」
「そうなんですか、知りませんでした。だから、他意はないです」
「いいえ、シキは深層心理でわたくしを求めているのですわ……フフ……フフ……それもイヤリングねぇ。わたくしの側にずっと居たいのですわね!! オーホッホッホッホッホッホッホ!!!!」
「お嬢様、人目もあるのでお鎮まり下さい」
「オーッホッホッホッホッホ!!!」
聞いちゃいねぇ、このお嬢様。もう大注目だよ。みんなの視線を釘付けにしてるよ。
「フー……フー……あぁ、最高の気分ですわ。これはわたくしもお返しをしなければなりませんわね」
「大丈夫ですよ」
まじで。
「いいえ、受け取ってもらいますわ。もう差し上げましたもの」
「どういうことですか?……ッ!?」
急に抗い難い眠気が襲って来た。これは……また一服盛られたのか。不覚過ぎる……。
「お嬢様……何……を……?」
「この前飲ませたものと同じで害はありませんわ。安心なさい」
そういう……問題では……ない。
霞む視界には舌舐めずりをするお嬢様が見えた。やばい……。
「プレゼントを楽しみになさい。大丈夫でしてよ、シキもきっと気に入りますわ」
その声はもう俺には聞こえない。
ボンヤリと消えていく意識で考えたのは、お嬢様はやっぱりテンション上がるとですわ口調に戻るんだなぁというどうでもいいことだった。
ありがとうございました!
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次回も引き続き、お嬢様暴走回となる予定です





