お嬢様と騎士、ストーカにてデートを始める
よろしくお願いします!
朝、お嬢様とのデートまで残り5時間を切っていた。そんな直前に俺はジェフと練武場にて手合わせを軽くして、汗を流していた。
「今日はここまでだな」
「ん? 早くねぇか?」
「前も話してただろ? 俺は今日忙しいんだよ」
「んー? あぁ! お前んとこのお嬢様とお忍びデートの日か!!」
すっかり忘れていたらしい。なんて失礼な奴なんだ。俺にとっては一大事なんだぞ。
2人でシャワーを浴びに更衣室へ向かいながら、しきりにジェフは俺から話を聞き出そうとしていた。
「しっかし、まぁ、スカーレット様は婚約者もいらっしゃるのに、とんでもないお方だわな。しかも、第二王子殿下の婚約者なんだろ? ヤバすぎだろ」
「それについては同感だ」
ほんとにね。だがまぁ、今更グデグデ言う様な時ではない。それよりも問題はお嬢様とのデートプランだ。一応、使用人仲間やティアベル様にそれとなく聞いてみたが、ランチから先が予想もできなさすぎる。
「まぁ、いいわ。それよりお前服なんて持ってんのか?」
「あるわ、めっちゃあるわ」
そんな俺の言葉にジェフは目を丸くしていた。
「マジかよ……。俺はてっきりシキは、『この身の筋肉こそが最新のファッションにございます、お嬢様』とか言うタイプだと思ってたぜ」
「その言葉、そっくりそのまま返してやんよ」
「お前、本当に俺のことを脳まで筋肉と思ってやがるな……?」
「お互い様じゃねぇか」
普通、筋肉をファッションとしている奴がいるとは考えない。そんなことを話していると、ジェフからふざけた言葉が飛び出した。
「なぁ、その服見せてくれよ? もちろん、着てる姿だぞ?」
「鍛練のし過ぎで、頭が茹だったのか?」
なぜ男のために私服を披露してやらないかんのだ。断固拒否の姿勢である。俺はこっそり出て行く気満々だぞ。
「だってよぉ、お前金のジャケットに銀のパンツ、あとショッキングピンクのシャツと蝶ネクタイとかしてそうだからよ」
お前まじかよ。何で俺のセンスをそこまで詳細に言い当てられんの? 見てたの? 聞いたの?
「そんな奇抜な格好しねぇよ」
「そうかよ。お前のパンツの柄とか寝巻きとかそんなふざけたやつばっかだから、勝手にそう思ってたわ」
ふざけてません。
「ふ、普通に庶民スタイルに決まってるだろ。妙なこと言いやがっちゃ」
動揺して舌を噛んでしまった。くそぅ、そんなに変なのかあれ。今まで誰も何も言わなかったから、何も考えていなかったよ。誰か教えてくれれば良かったのに。いや、よく考えれば今まで寝巻き着てる時は誰とも会わなかったし、洗濯も俺の仕事だったわ。
「つまんねぇの。じゃあいいや、さっさと準備して行っちまえよ」
「元からそのつもりだ、この筋肉め」
身体を洗い終え、そのまま寮に戻る。
そんなに変なのか、あれ……。かっこいいと思うんだけどなぁ。
お嬢様との集合場所は、ストーカの噴水広場だ。よくカップルの待ち合わせに利用されていることもあり、お嬢様からそこに昼少し前に来いというお達しがあった。
学園で合流して一緒に向かえばいいじゃないですか、1人だと危ないですよと言ったら、
「分かってないわね、シキは。デートといえば待ち合わせからなのよ」
なんて呆れた声で返された。ついでにシャツを奪われた。酷くない? それから、
「1分でも遅刻したらスカーレット家の地下室にデートは変更するわ」
とも言われた。元より遅刻どころか1時間前には向かうつもりだったので構わないが、いちいち発言が物騒なお方である。
そんな訳で、早めに集合場所に向かう。きっちり集合時間の1時間前である。前であるはずなのだが……。
いたよ、お嬢様。めっちゃ注目集めてるよ。
「あの方、貴族の方かしら? ずっとあそこにいらっしゃるわね」
「そうよね、服装も地味にしてるけどかなり良い物ってわたしたちでも分かるくらいだし」
「でも、護衛がいるようには見えないわよ」
「ああいうのってお忍びってやつでしょ? 多分、私服の護衛が紛れてるんじゃない?」
「それもそうよね。でも、なんでずっとあそこにいるのかしら?」
「高貴な方のお考えなんて分からないものよ。それにしてもすっごく綺麗……」
なんて会話が聞こえてくる。すいません、その護衛は今到着したんすよ。というかずっと居るって、いつからあそこで待ってるんだろう。
噴水広場にいる方々は皆さん遠巻きにお嬢様を眺めている。そりゃそうだよね。ナンパな野郎でもあの人には声は掛けられないよね。お嬢様、迫力あるし、明らかに貴族っぽいもんね。俺、あそこに声を掛けに行くの……?
そんなことをウダウダ考えながら、お嬢様をなんとなく眺めてみる。相変わらず腰まで伸ばした赤髪はしっかりと手入れが行き届いていて美しい。そのスタイルもメリハリがある。服装は確かに普段のパーティドレスのような派手さはないが、よく似合っている。
(……やっぱり美人なんだよなぁ。)
その美人さに気後れしてしまうが、声を掛けねばデートは始まらない。そして、ここでボーッと突っ立っていれば、俺はスカーレット家の地下室行きだ。仕方あるまいと気合いを入れ直し、声を掛ける為に足を進める。
「あ、あのー、お嬢様? お、お待たせしました」
我ながら酷いテンパりぶりだ。周りもざわついてるよ、アイツ終わったなとかやるなぁ! とか色々聞こえてくる。しかし、お嬢様は周りのことなどまるで気にせずに、俺を真っ直ぐ見つめて口を開いた。
「遅いわ」
「集合の1時間前なんですが……」
「わたくしが来た時にはいるべきでしょう」
「ちなみにお嬢様はいつからここに?」
「5時間前位よ」
「無理じゃん?」
俺が鍛練してるくらいの時間にはもうここに居たの? ヤバくない? それってお日様が昇るか昇らないかくらいの時間じゃないですか。
「無理じゃないわよ、シキも鍛練してたじゃない」
知ってるんかーい。いや、もう慣れたけどね。
「それは申し訳ございませんでした。いや、まさかそんな早くにいらっしゃるとは思っておりませんでした」
「まぁ、いいわ。許します」
「ありがとうございます。それにしても大丈夫でしたか? チンピラとかに絡まれませんでしたか?」
そんな時間にこんな場所にいたら、誰かに声を掛けられてもおかしくはないだろう。
「大丈夫だったわ。睨んだら、どいつもこいつも逃げて行ったもの」
それは俺も逃げるやつだ。お嬢様の眼力、半端ないもんね。
「とにかく申し訳ございません、お嬢様。お詫びにご飯代位は出しますよ」
「そんなものは要らないわ。勝手に待ったのはわたくしだもの、そもそも怒っていないわ。あと今日もこれからもわたくしが全額出します」
「うぇ!? な、何でですか?」
「わたくしのがお金があるじゃない」
「じゃあ、どうお詫びすればいいんですか?」
お嬢様は少し思案するように目を瞑って、手袋を外して手を差し出してきた。
え、どういうこと? 全然分からん。
「…………手を握りなさい」
少し頬を赤く染めて、そっぽを向きながら、そんなことをおっしゃった。
「喜んで、お嬢様」
お嬢様、むっちゃ可愛くない? 手を取りながらそんなことを考えて、お嬢様と俺のデートは始まったのだった。
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