騎士、使用人寮にて怒られる
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平日は仕事なので、できうる限りで投稿していきたいと思います。
火花が散る。互いの武器の衝突の余韻だ。
シキもジェフも武器の衝突の勢いで剣を弾かれるが、手放してなるものかと両者堪えた。そのまま互いにバックステップで距離を取り、武器を構え直す。
(驚いたな……俺の大剣もかなりデカいと思っていたんだが……あいつの大剣ヤバいな。身の丈程の長さもそうだが、横幅も厚さもかなりある。クソッ、あの重量を軽々しく振り回すなや)
シキは心の中で思わず毒を吐いた。一撃で手合わせが終わるところだった、しかも獲物を折られるなんてことがあった日には恥ずかしくて死にそうだ。
「おぉ!! やっぱり中央の奴らはやるな! あの一撃で終わらねぇってのは、マジでビビるぜ」
「はっ、抜かせ。俺だって一撃で終わらせるつもりだったわ。ビビるのはこっちだ、クソ」
咄嗟に素で言い返してしまった。俺の思わぬ返事にジェフは目を丸くしていたが、すぐにニヤリと笑った。
「ククク……てめぇ、中々猫かぶりが上手いじゃねぇか」
「執事舐めんなよ、このオーガ」
「おめぇも大して変わんねぇのぶん回してるくせに何を言いやがる」
「長さぐらいだろ、一緒にすんな」
「ハッ! だから勝てませぇん、なんてほざくつもりか?」
「お前がほざいてろ!」
ジェフに言い返すのと同時に、大剣を構えたまま真っ直ぐ突進する。さぁ! どうする? 避けるか、それとも迎え撃つか?
ジェフは、その場の構えを崩さずに迎撃の構えを取っていた。だろうな! さっきの一合で充分に理解してるぜ、お前は狂戦士みたいな野郎だってことを。
体勢を突っ込みながら低くし切り上げる。受け止められて弾かれるのに身を任せ、その場で回転し連撃加える。堪える為に踏み込んだ地面が陥没する。構うな! 振り切れ! だが、これも防がれた。
今度はこちらの番だと言わんばかりにジェフが低い体勢の俺に剣を振り下ろしてくる。これは受け切れないと判断した俺は自分の大剣を地面に突き刺して手放し、半身になって躱す。そのまま突き刺した大剣を軸に、回転を加えた蹴りを顔面に叩き込む。僅かに仰け反る隙を突き、大剣を引き抜いて再びバックステップで距離を取る。
瞬間、ジェフは俺の目の前にいた。
(……野郎! 仰け反ったフリしやがったな!)
横薙ぎに払われる一撃を受け止め、弾き飛ばされた。そのまま轟音とともに壁に叩きつけられ、砂埃が舞う。
その様子を見たジェフは声高々に俺を挑発する。
「ヘッ! 俺の勝ちかねぇ?」
「なわけあるかっ!!!」
ジェフの斜め下から叫ぶ。アイツの反応速度ならまだ動けないはずだ。渾身の一撃をお見舞いしてやる!
「俺の勝ちだな!!」
「てめぇ! どんな脚力とイかれた頭してやがる!!」
無礼な奴だ、だがこの勝負は貰った!そうして俺の逆転の一撃がカッコよく決まる刹那、
「いい加減にしな!! この脳筋どもが!!!!!」
怒られました。
俺たちを止めたのは、使用人寮の寮母さんであるゾーラ・サミエラさんだった。騒ぎを聞きつけて、止めに来てくれたらしい。お疲れ様です。
ゾーラさんは恰幅のいい女性で、怒ると大変気迫があることが分かった。受付の時は気の良いおばちゃんって感じだったけどね……。
「いいかい、あんたら!? ここはどういう奴らが使う寮か知ってんのかい!!」
「色んな家の……使用人の方々です、はい」
「すまねぇな、ゾーラさん。以後気をつけるんで、許してくれや」
こいつはどうやら戦闘しか頭にない狂戦士らしい。反省の色を見せい、反省の色を。ところで、ゾーラさんそろそろ足が痺れてきましたよ? 許して?
「そうだよ! 使用人が使う寮なのさ! 傭兵どもの宿舎でもなんでもないんだよ! このスットコドッコイ!!! そんであんた!」
「わ、私でしょうか!?」
「違うよ! そこの見るからに脳味噌まで筋肉で出来てる男だよ!」
「おい、シキ呼ばれてんぞ?」
「違うっつってただろぉ!? お前のことだよ! 筋肉ダルマ!」
もうダメだ。敬語がすぐ剥がれちゃう。
「もうめんどくさいねぇ! どっちもだよ!」
「も、申し訳ございません……」
「悪かったよ、ほんと」
俺の真摯な謝罪を聞いて(あの筋肉ダルマの謝罪は届いてないと思う)、ゾーラさんは溜息を吐いた後に後片付けと厳重注意で許してくださった。厳重注意については、今後は手合わせなどを行う場合は学園の練武場に行くことや使用人寮では暴れないことといった人間ならば常識的なことだった。
「怒られましたね……」
「怒られたな……」
後片付けをしながら、2人で先程のことを思い出し反省する。筋肉ダルマも冷静になってきたらしい。頭冷えるの遅いと暑い季節はしんどそうだね。
「にしても、なんでお前まだ敬語使ってんの?」
「え? 使用人ですし、当然では?」
敬語を使えない使用人ってどうよ。嫌だよ、そんな無礼な奴。まぁ、俺の敬語はすぐに剥がれるんですけどね!
「そうじゃなくて、俺に敬語を使ってる訳だよ」
「?」
「俺には使う必要ねぇだろ? あの時化けの皮は剥がれちまった訳だしよ」
「なるほど、確かに一理ありますね。ですが、常日頃から使うようにしておかないと、すぐに忘れてしまいますし、口調が荒くなってしまうんですよ」
実際、俺はかなり無理をして敬語を使っている。それはもうほんとに大変なのだ。お嬢様には、もうかなり敬語もどきになっている気もするが。
「うーん、じゃあ俺から頼むぜ。敬語はやめてくれ。ダチに敬語使われるとムズムズすんだ」
「ダチ?」
「あんだけやり合って笑い合えてりゃ、それはもうダチみてぇなもんだろ? 別に人前では敬語でいいけどよ、2人で話す時とかはさっきの話し方で頼むわ」
言われて納得する。確かにあんなに楽しいことをしておいて、仲良くなってないってのは嘘な気がする。
「そうですね。確かに私はダチには敬語は使わないです」
「だろ?」
「じゃあ、改めてよろしく頼む」
「おうよ!」
ジェフに差し出された手を握り返す。こいつ、脳筋だけどいい奴だな。鍛練の相手にもなるし、いい出会いがあってよかった。
「そういやよ、シキの大剣はどこいった?」
片付けもほとんど終わり、ジェフが自分の大剣を担いで部屋に運ぼうとした時に話しかけてきた。
「ずっと持ってるぞ?」
「持ってる? ……ってあぁ、随分と珍しいもん持ってるんだな」
「スカーレット家に仕えることになった時にいただいたんですよ」
「アクセサリーウェポンで、あのレベルの業物って一大財産だろ……」
アクセサリーウェポンというのは、いわゆる魔導具の一種だ。魔導具は以前お嬢様が俺との契約に使った契約魔術の込められた紙だったり、ボタン一つで明かりを灯せるランプだったりと様々なものがある。アクセサリーウェポンは名前の通りアクセサリーが武器に変形する道具である。俺のはペンダントタイプのもので、普段は首からぶら下げている。変形させるには、飾りの部分に登録した術者の魔術を流すだけでいいらしい。細かい仕組みも受け取りの時に説明されたのだが、難しくてよく分からなかった。頭のいい人って何考えて生きてるんだろうね。
執事がゴツい大剣を常に持ち歩くわけにはいかないだろうとスカーレット家が用意してくれたのだ。といっても、お嬢様が以前から準備していたらしいのだが。流石に断ったのだが、お嬢様の笑顔と首筋に当てられたナイフの圧力に負けて受け取ってしまった。怖い……。
「昔から愛用してるのは自室に保管してあるよ」
「まぁ、そりゃそうだろ」
昔は色んな武器を試していたものだが、結局は両手剣に落ち着いた。それすらお嬢様は把握していたようだ。もらった武具は引くほど俺にフィットしていた。
「耐久力もかなりのもんだったしな、あれ」
「だろ? 最初は脆くてすぐ壊れるんじゃないかって思ったよ」
「あぁ、アクセサリーウェポンって普通の武具より脆いのが一般的だもんな」
ジェフもあれほど精巧なアクセサリーウェポンは見たことがなかったようだ。俺もない。
「それも驚きだが、最後のあのスピードも謎だったわ。最初は手加減してたのか?」
「そんな風に見えたか?」
「いや、全然? だから不意を突かれたわけだしな」
「あれこそ単純な話だ。俺、身体強化の魔術を下半身に限定したんだよ」
身体強化は戦士なら誰もが扱う魔術だ。この魔術のおかげで人間は他種属とも魔物とも近接戦で闘えるようになる。しかし、それをどこか一部分にだけとなると難易度はかなり変わってくる。魔術は全身を流れる魔力を使っている。そして、身体強化はそれを膂力に変える魔術だ。だからこそ部分的に身体強化というのは、割と難易度が高いとされているのだ。
「下半身だけって、器用だな」
「まぁ、そこは日々の鍛練だな。そう易々と使いこなされても困る」
「しかし、そんなこと話して良かったのか? 次は対策するぜ、俺はよ」
「バレてもいい手の内に決まってんだろ。別に俺はそれだけで強くなったわけでもねぇ」
好戦的なジェフの言葉に俺も強気で返す。お互いにしばし睨み合い、すぐに笑い出した。
「うし! 飯にしようぜ! 酒も呑むか?」
「ありだが、俺は明日も日が昇る前には女子寮に行かなきゃならんから、酒はまた今度だ」
「お前んとこ、厳しいな……」
そんなことを話しながら、使用人寮に戻って行った。どうにも面白い仕事仲間が増えてよかった。明日からの生活は、もっと楽しくなりそうな予感がした。あれ? 俺ってばもしかしてとっても前向きな子では?
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