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終末と戦車 2

►▶飛び続けた、船は、逆さ戦艦と名の。


 あーあ、あんなに雨が降った後の日は出るかな。

 足元に迫る先端の尖ったとてもとても大きな影、その正体を突き止めようと徐々にそちらへ目を向ける。

 こういうときは確か、こう言うんだったっけ。噂をすれば影。

 雲の隙間から音もなく現れ、しかし、確実にその存在は大きい。しだいに雲は晴れ、その姿は太陽の下にそして、私の上に。とんがった船首、重厚な装甲、前後で合計して五つの三連装砲、そしてなにより特徴的なのが、その戦艦は、逆さまであるということ。

 逆さ戦艦。これで、見るのは二回目になるのかな? よし、今度こそ追いかけてみよう。

 以前もその戦艦を見たことがある。二年くらい前のこと、あの時も酷い雨が降った次の日のことだった。




 もー、雨のせいでいろいろ濡れちゃったな。今日は、ずっと干しとかないとこれは乾かないな。はあ、これじゃあ動けないや。

 ビルの屋上で雨で濡れた服やリュック、それ以外にも濡れてしまった荷物を吊るして、私は寝転がって服や荷物が乾くのを気長に待っていた。

 なぜだか、ピタッと風が止んで、静かじゃなくなった。眠かったはずなのに、どうしてか全然眠れなくなってしまった。ふと、目を開けると。

 私は逆さ戦艦の影に包まれていた。雲の合間を航行するそのときの戦艦は今よりも高い位置にあった気がする。けど、その姿に変わりはない。

 このまま、ぼーっとしてても暇なだけだし、追いかけてみたい。でも、服が…。ちょっとだけなら。


 ドォン


 これは、大砲の音?

 逆さ戦艦はなにかを狙って砲撃してるようだった。 砲弾の向かう先には飛行機。いつもの無人偵察機が。

 副砲が絶え間なく発射され確実に無人偵察機の動きを捉えてる。偵察機も狙われていることに気づいてはいるようだけど、非武装の機体では避けることが精一杯。

 人が乗ってない無人機同士なのに、どうして争っているんだろう。当然、軍配が上がったのは逆さ戦艦で、無人偵察機は街のどこかに落ちていった。

 その落ちていった無人偵察機を目で追っている数秒の間に、逆さ戦艦は雲のなかに入ったのか、私はその姿を見失った。




 今は、無人偵察機も動けない事情もない。これといって、やるべきこともないから、今度こそ、逆さ戦艦がどこを目指して航行してるのか突き止めてみよう。

 見た感じでは、戦艦はそこまで速くないから追い付けそうだし。

 さて、今、戦艦はどこに。あれ?

 見失った。仕方ないので、また目的もなく歩くことに、あっちへふらふら、こっちへふらふら、気の向くままに。




►▶本と呼ぶ、並んだそれを、埃被った。


 この十字路は、うん、真っ直ぐ行ってみよう。その次は左で、これは右。

 それからも右に左に、時には引き返したり。食料を求めてその歩みはそうそう止められない。なにより、楽しい。

 あれ?なんだろうこの建物。気になる。よーし、入ってみよう。なにか、面白いものか食料が見つかれるかもしれない。

 その建物は低くて横長で、この辺でよく見るコンクリート造りではなく煉瓦造りの建物だった。やっぱり、窓ガラスはないけど、他のなんの飾り気のない建物と違って装飾も多くて、気になる要素は満載だった。

 大きくて重くて動きの悪い扉を全体重をかけてなんとか開けると、中は外装より損傷はなくて、お洒落な外観と同じく内装も美しい。シャンデリアやランプに豪華な絨毯、それらは埃を被ってはいるけれど、その美しさには目を奪われる。

 この街に、まだこんな場所が残ってたんだ。ここはなんの建物だったんだろう。あっちに、大きな棚がたくさん並んでる。行ってみよう。

 木製の棚は古くなっていて今にも砕けてしまいそう。そんな棚にしまわれていたのは。

 本?こんなにたくさん。それじゃあここは、図書館、かな。うーん、やっぱり、文字読めない。

 古いのが原因でかすれていたり汚れていたりするせいで読めない訳じゃない。むしろ、ここの本は状態がいいくらい。ただ、私が文字を読めないだけ。


 ギギギ


 まずい、棚が!

 たった一冊だけ本を手に取っただけで、もともと老朽化で崩れやすくなっていた棚がバランス失い、ドミノのように次々と倒れていった。

 あー、やっちゃった。まあ、この棚、力いれたらすぐ砕けちゃうくらい脆くなってたし、仕方ないかな。


 ドシャーン


 あ。

 おそらく、今の棚の倒れたときの揺れが原因で吊るされてたシャンデリアが落ちてきてしまった。

 あー。まあいっか。次はあっち行ってみよう。

 砂埃が派手に舞い上がり冷えきった風が吹き荒れる図書館の奥。何台もの戦車が図書館裏側の壁を食い破るような状態で停止している。

 表側からは気付かなかったけれど、反対側は崩れていたみたい。あ、この戦車、乗れそう。

 主砲は先の方が折れ曲がっていて撃てそうにはないけれど、無限軌道やそれらの部品に問題がないから、動かないことはないように見える。

 そういうことだから私は、さっそく戦車に乗り込んでみた。中は暗くて狭い。けど。

 えっと、確か、ここはあーして、こーして。

 慣れていないふらふらな手つきだけれど、操作は的確だったうえ、燃料もある程度残っていたらしく、戦車は力強く起動した。

 動いた。燃料さえ確保できれば、これからずっと使えるかも。そしたら、今までよりもずっと移動が楽になるし荷物もたくさん積み込める。

 迂回して図書館を離れ、さっきまで歩いていた道に。この図書館に寄ってよかった。




►▶願い事、届かなかった、ホネスケさんの。


 あれ?このメーター、なにを表してるんだろう。だいぶ、低い値を示してるけど。それに、画面のこの赤い表示。なんだかタンクのシルエットに見えなくも…。あ、もしかして燃料が切れそうなのかな。分からないけど、動かなくなっちゃったら嫌だしどこかで調達しないと。

 この街にはガソリンスタンドというのがあって、旅の途中それをよく見かけた。だから、そこに行けば燃料の補給はできる。

 世界がこうなるほんのすこし前、こうなってしまうことを予測していたじいじが、まだ幼かった私にこういう世界での生き方を教えてくれた。

 じいじは元軍人で、こういうことにはすっごく詳しかった。教えてくれたから今の私が生きていられる。じいじには感謝しないと。

 でも、それなら文字もついでに教えてほしかったな。

 あれこれ考えていたり、そうこう思っていたりしている間に、ガソリンスタンドを見つけた。

 やっぱり、不馴れふらふらな手つきだけれど、なんとか燃料の補給をすることができそう。補給の間は暇だし、ちょっとこの辺を見て回ろうかな。まずは、あの建物。

 それはこのガソリンスタンドの一部で、本来ならスタッフがいるんだけど。

 やっぱり、誰もいないか。食料か、なにか役に立つものはないかな。

 食料はあったという形跡はあるけど、荒らされたのか、すべて食べられてしまってなにも残っていなかった。

 それでも、探し続けた結果。

 あ、人だ。

 奥の部屋で椅子に腰かける白骨化した人を見つけた。服装からして、たぶんだけど、この人は軍人。武装がない。けど、斜めがけのバッグがあったから失礼して中を確認してみると。

 これは、地図だ。

 地図が入ってた。どうやらそれはここら一帯の地図で、このタンクのような形をした印はガソリンスタンドのことだと思われる。

 これがあればあんまり迷わなくてすみそう。ありがとう、ホネスケの軍人さん。

 他にもいろいろ入っていた。書くときに使ったであろう定規とペン、書きかけの地図、白紙の紙、開封済みの食料、小さなライト、そして。

 握りこぶしぐらいの大きさの鉄製の球体。ボタンとレンズの部分、そして複数の穴が空いている部分がある謎の球体。

 これ、なんだろう。ボタンがあるし、押してみようかな。


 カチッ


 あれ。なにも起こらない。電源がないのかな。


「センサーで文字を認識できませんでした。もう一度、センサーに文字をかざしてください」


 あ、なんか急に喋りだした。センサー、このレンズのことかな。文字、試しに机にあるこの紙でやってみよう。


「いつか、私のことを見つけた者のために、この書き置きを残す」


 すごい、文字を認識させたら音声で読み上げてくれるんだ。よし、続きも聞いてみよ。


「これを誰かが読む頃には私は死んでいるだろう。だから、私の私物はすべて持っていって構わない。バッグには私が書いたこの辺りの地図、それにリピトやペン、あとはライトなんかが入ってる。一応、リピトの使い方を書いておく。レンズを文字にあわせてボタンを長押しだ。そしたら勝手に読み上げを始める。いろんな国の文字に対応してる。充電はレンズの部分を太陽に向ければいい。太陽電池になってるんだ。うまく使ってくれ。最後に、頼まれてほしいことがある。もし、この先、この街のどこかで、赤い髪で白いワンピース姿の女の子を、どこか違和感を感じる女の子を見つけたら、 俺には でき」


 あれ、読み上げが止まっちゃった。なんでだろう。もういっかい。


「文字が読み取れません」


 途中から文字はただのぐにゃぐにゃの線になり、人の目でも、なんて書いてあるのか確認できない。おそらく、書き終えるあとすこしのところでホネスケさんは。

 お疲れさま、ホネスケさん。

 そろそろ、戦車の燃料がいっぱいになるかな。そしたら、移動先でガソリンスタンドがなかった用の燃料もドラム缶か何かに入れよう。あの戦車ならいくつか積み込めそうだし。

 施設の裏にあったドラム缶の山から比較的無傷のやつを三つ選んで、戦車に積み込んで固定したら、それぞれに燃料を入れる。満タンになったら。

 戦車に乗り込みエンジンをつけて、そのガソリンスタンドを後にした。

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