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転生令嬢姉妹は平穏無事に過ごしたい  作者: のえる
第五章 夏休み ~レミリア15歳~
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095.でもその気持ちこそは永劫回帰

 夏休みの家族旅行として、フォルトラン家所有の別荘へ向かう私達。二台の馬車に両親と子供達にわかれ、其々の従者と一緒だ。なので今こちらの馬車にいるのは、私とマリアーネ、私達の専属であるミシェッタとリメッタ、そしてお兄様だ。

 そのお兄様だが、特定の従者はいないらしい。もちろん家で雇っている使用人の中には、相応の仕事を受け持っている担当がいるが、私達のように明確な専属はきめてないとのこと。というか、優秀すぎて何事も一人でそつなくこなしてしまい、ほとんど必要性を感じないらしい。とはいえ嫡男である故に、家督を継ぐようになった頃には専属の執事なりを設けるつもりらしいけど。

 そういう事はよくあるのかと尋ねたら、貴族の子息……ましてや嫡男では珍しいと答えてくれた。お兄様は私達と違って生粋の貴族気質のはずだけど、そういう部分はなんだか不思議な感性持ちよね。


「……どうしたレミリア。何か考え事か?」

「へ? あ、どう致しましたか?」

 

 そんな事を考えていたためか、じーっとお兄様を見ていたようで、それに気付いて声をかけられた。うーん、考えに没頭するあまり意識がとんでたか。


「何か気がかりでもあるのか? 丁度いい機会だから話してみるといい。マリアーネも何かあったら話してくれてかまわないよ」

「は、はい」

「わかりました」


 ……とは返事をしたけど、別段何か気がかりがあるわけじゃない。お兄様って変わり者よねぇとボーっと見ていただけなのだから。なので特に言葉も出ずにいると、こちらが何か言い出しにくく感じてるかのような感じにうけとめられた。

 だが、すぐにその目は優しげな眼差しとなる。


「……それにしても、レミリアから皆で別荘へ行こうと聞かされた時は驚いたよ」

「そ、そうですか? それはどういう……?」


 お兄様の言葉にキョトンとしてしまう。隣のマリアーネも私と同じで顔に「?」という記号がありありと浮かんでいる。


「もう覚えてないかい? 昔……まだレミリアが小さい時、一度家族で別荘に旅行に行こうという話が出たことがあるんだよ」

「ええッ? そうなのですか? それはいつ……」

「ずっと前だよ。私がたしか……いくつだろう、7歳……いや6歳だったかもしれないな」

「あー……」


 お兄様の言葉に、思わず私は納得してしまった。それはまだ私が、転生前の記憶を思い出してない頃の話だ。ともすれば、悪役令嬢の名にふさわしくわがまま令嬢だった時期でもある。聞けばその時の私は、旅行の事を“長時間馬車に揺られて普段より田舎で不自由な場所へ行く”などと言ったそうな。ちなみにこの物言いは、お兄様がわかりやすく要約してくださったもので、本当に私がした発言はもっと稚拙で極端で幼稚な罵りだったらしい。当時の私って4歳くらいでしょ? なんでそんな余計な知識はあるのよっ。

 それを聞いて、思わず私はミシェッタとリメッタを見る。なんせこれから向かう別荘は、彼女達の実家であるノーバス家が所有管理しているし、家も近くにあるとのこと。つまり私が罵ったという場所は、イコールそのまま彼女達の実家周辺だということだ。


「あ、あの、ミシェッタにリメッタ。その、ごめんなさい。もう覚えてないけれど、昔の私がその……」


 相手が自分の従者であっても、言っていいこと悪いことがある。なので少しおびえながらも、私は謝ることにした。もうずいぶん昔の事で、彼女達も忘れてしまっているかもしれないけど、それでも謝りたいと思ったから。


「大丈夫です、もう気にしておりませんから。今のレミリア様がそういう考えをしない事は重々承知しておりますので」

「そ、そう? ありがとう…………ん? もう(・・)?」

「はい。当時4歳のレミリア様に言われた時は、『ふざけんなよこのガキィ』と思いましたが、一切顔に出さずに流しましたので」

「ひぃいいいいっ!?」


 いやーっ、覚えてたー!? 記憶力がいいのは従者としては優秀だけど、そんな事に記憶領域をつかうのはどうかと思うんですけどっ。

 ちなみに横で話をじっと聞いていたマリアーネも、そこで絶句して固まっていたらしい。家のメイド達は中々に肝が据わっていらっしゃる。

 その後ミシェッタは「冗談ですよ」と言ったが、本当に冗談だったのかは私にはわからなかった。






 しばらくして、馬車が停車する。予め聞かされていたが、そこそこの遠出なので途中で休憩を挟みながらの移動となるためだ。

 馬車が停まるとまずはミシェッタが先に下りていく。そして周囲確認をして安全確認を告げられると、お兄様が降りていき、その後私とマリアーネが降りる。私達が降りる際、お兄様がきちんと手をとって下さったのでちょっとドキドキした。


「はっ!? フレイヤが居れば、お兄様に手をとってもらい降りてくるフレイヤの姿を!?」

「いいですわね! 今度どこかへ行くときは、余裕をもってフレイヤをつれてきましょう!」

「あのなぁ……」


 きゃーきゃー言ってる私とマリアーネに、ジト目を送るお兄様をわざと無視。いいではありませんか、この世界は写真がまだ無いのですから、そういう場面は貴重なんですよ。


 さて、ここはどの辺りなんでしょうか。考えても答えが出るでもないので、素直にミシェッタに聞いてみる。すると今回の道のりでいえば丁度真ん中辺りだとか。近くに綺麗な川が流れており、御者さんは馬具をはずした馬をそちらへ連れて行ってる。

 なるほど、ここで休憩するのは馬でもあるというわけね。馬は気持ちよさそうに水を飲んでおり、御者さんに水をしみこませた布で身体を拭いてもらっている。


「レミリア姉さま、あれを……」

「ん? ……あら」


 隣にいたマリアーネが、川辺にいる馬の方を見ながら声をかけてきた。何かしらとそちらに目をやると、そこにはここ最近少し見慣れてきた光景が。気持ちよさげな馬はしっぽをふらふらと揺らしているが、その尻尾のまわりを光がふわふわとじゃれるように飛んでいた。うん、精霊だね。

 精霊は比較的どこにでもいるけど、特に水の精霊は綺麗な川や湖に多くいるらしい。この川も馬が飲用するほど綺麗なので、精霊がいても不思議ではないのだろう。


「本当に精霊はどこにでもいるのね」

「そうですね。今まで気付かなかっただけで、常に傍に居たと」

「……そうか、お前達は精霊が見えるようになったのだな」

「「えっ」」


 ふいにかけられた言葉に愕き振り向くと、直ぐ傍でお兄様が私達をみていた。先程の馬車内とはまた違う緊張というか、無言の時間が流れる。


「お前達、そういった話をするときはもう少し周囲に気をつけなさい。聖女であるお前達が精霊を見れるという事象なら、まだ問題はないと思うが……」


 はぁーと息を吐きながら、ヤレヤレという感じで言われてしまった。ぶっちゃけ何をどう気をつけたら……という気がしないでもないが、ちょっとでも他と違うことを話すなら気をつけろってことよね。

 二人で「ごめんなさい」と頭を下げると、相好を崩したお兄様が私達の頭に手を置いてなぐさめてくれた。お兄様だって、私達を気にしてこういう事を言ってくれるんだし。

 するとお兄様が、なぜか少し苦笑している。なんだか今目の前の事に笑っているというより、思い出し笑いでもしているかのようですけど。


「……どうなさいました?」

「いや、すまない。先程少し話していただろう、昔のレミリアの事を。それが一時期随分と素直な子になったなぁと思ったけど、やはりレミリアはレミリアなんだぁと思ってな」

「んなっ!?」


 お兄様の言葉に、私は結構なショックをうける。だってそれは、“悪役令嬢(レミリア)は、どこまでいっても悪役令嬢だ”といわれているように感じてしまったから。

 もちろんお兄様がそんな事を知らないし、知ってても言うわけないと思ってる。それでも不意打ちでかけられた言葉に、私は驚きを隠せなかった。

 だけど、私を見るお兄様の目は思いやる家族の眼差しだった。だからそれ以上は何もなく、私も笑顔を返すことができた。


「お兄様、恥ずかしいのでやめてください」

「あ、あの! 昔のレミリア姉さまって、どんなだったのですか?」

「ちょ、マリアーネ!?」


 やっと落ち着いたと思ったら、なんとマリアーネが昔のわがまま令嬢時代を聞きたいとぬかしよる。


「だってずるいじゃないですか。お兄様やお父様お母様、それにリメッタ達も知ってるんですよね?」

「はい」

「それはもう……ふふっ」


 なぜかミシェッタは笑いを漏らす。むむっ、これはどうみても私を挑発してるな。


「それに他の使用人達も……あ! もしかすると、あそこの御者さんも……」

「ああ、彼も勿論知ってる」

「おふぅ……」


 マリアーネの疑問にお兄様が即答する。あの御者さんは家のおかかえで、私が幼少の頃から仕えているため当然だといわれてしまった。


「というわけで、私にもレミリア姉さまのお話をお聞かせ下さい!」

「ああ、もちろんだとも。いやぁ……あの頃のレミリアは色々大変だったなぁ……」


 しみじみと空を見上げてそうもらすお兄様。その言葉にミシェッタとリメッタ、そしていつの間にか近くにきていた両親もうんうん頷いている。って、川から戻ってきた御者さんも頷いてるしっ。


 そこからしばらく、過去のわがままな私をサカナに盛り上がってしまった。私の話だけど私じゃない、どこか気恥ずかしい気持ちを感じながらも、思いのほか居心地が良いと思ってしまっていたりした。



冒頭で私が別に書いている作品のキャラ名が記述されておりました。大変申し訳ありません。

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