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転生令嬢姉妹は平穏無事に過ごしたい  作者: のえる
第五章 夏休み ~レミリア15歳~
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094.そして楽しむ為に一念発起する

 夏休みも半分ほどが過ぎ、いよいよ夏本番! という感じになった。といっても、暑くはあっても暑苦しい気候ではなく、風が通る木陰でなら心地良く過ごせる状況だ。

 これが前世の日本ならどうだっただろうか。北海道や沖縄ならまだしも、本州は随分と湿気を感じるムシムシした空気だったと思う。涼を求めて冷房の効いた施設へ逃げ込んでいたかもしれない。そうねぇ……例えばファミレスとか? 友達となら大きなデパートを、観光冷やかしついでに賑やかしてたかもしれないわね。疲れたらカフェやイートインにでも行って。

 ……この世界って街道に屋台や市場はあるけど、遊園地みたいな娯楽設備ってないわよねぇ。娯楽の施設といえば──




「マリアーネ、ちょっといい?」

「はい? どうなさいましたか、レミリア姉さま」


 今日は私同様に自室でのんびりしていたマリアーネ。学園の図書館から借りてきたらしき本を読んでいたようで、椅子に座って本を開いた姿勢でこちらを見ている。


「読書中だったのね。今、大丈夫かしら?」

「ええ、平気ですわ」


 そう言って栞を挟んで閉じる。机の上に本を置いてこちらに向き直り「どうぞ」と、傍の椅子を勧めてくれたので部屋に入り腰掛けた。


「それで、どうなさいましたの?」

「あのね──」


 まずは先ほど考えていた事、この世界での娯楽施設云々に関しての事を話した。前世でいう所のなんちゃらパークとか、なんとかランドみたいな物が無いという話から始まり、次第にこちらでの休暇を過ごすための方法談義へと移っていった。

 だが、よくよく考えると二人とも近しい時代からの転生者。前半はともかく、後半の話は想像をするのが手一杯。ならば手近な所で、そういう話が聞けそうな人は。




「……というわけで、二人に聞きたいのよ」

「私達に……ですか?」


 部屋に呼んだのは、私達の専属であるミシェッタとリメッタ。彼女達は当たり前だが生粋のこっちの人間。おまけにノーバス男爵家の三女と四女なので、貴族の休暇の過ごし方というものを知っているはず。そう思い聞いてみたところ……う~ん、中々ピンとこない返答が。

 まずよくあるのが、別荘などへ行くこととか。確かにお金持ちの貴族なら、別荘くらいもってそうよね。ちなみに聞いてみるとフォルトラン家もしっかり所有していた。……ちょっと興味あるわね。

 後は……趣味に興じるなどらしい。狩りとか芸術鑑賞とか、そういった事に重きを向けることが一般的なのだと。なんというか、これはアレよね。都会の子供が、夏休みに田舎に行って「やることがな~い!」って駄々をこねてる状況っぽいわ。


「えっと、その家が持ってる別荘ってのはどんなのかしら?」

「はい。フォルトラン侯爵家所有の別荘は、ここより馬車で一日半ほどの距離にある高原地にございます。周囲は森林と牧草地に囲まれておりまして、新鮮な牛乳と山の幸が手に入ります」

「ふむふむ……周囲に観光できるような場所とかある?」

「観光ですか……そうですね、近くに流れる清流を少し上流へ向かいますと、大岩をゆるやかに流れてくる滝壺に出ます。水中の岩肌も青く澄んだその場所は、地元の子供達が泳いだりして遊んでいます。また、高原の高台から見下ろす景色は、晴れた日には遠くの裾野までの絶景が拝めます」


 そう聞かされて脳裏に浮かぶのは、滝壺に腰まで使って水遊びをしている光景。ふーむ……


「川に滝……ね。随分と涼しそう」

「レミリア姉さま、もしかして泳ぐつもりですか?」

「泳ぐってほどじゃないけど、水浴びは興味あるわね」

「あ、それなら私も──」

「いっ、いけません! 女性がそんな人前で……」

「そうですお二人とも! もっと節度をもって……」

「「はい?」」


 ふいにメイド達からかけられる強い声に、私もマリアーネも一瞬キョトンとしてしまう。ただ滝壺にてちょと水浴びしたいなぁ……という話をしていただけなのに。そう思ったところで、ふとある事が脳裏によぎる。


「あの、落ち着いてね二人共。もちろん水着を着るわよ?」

「えっ!? 裸だと思っていたの? さすがに私達も水着じゃないと屋外で水浴びはしないわよ」


 驚いて補足をする私達。そりゃそうよ、いくら開放的な気分をもとめてって言っても、水着なしでそんな公共……なのかな? そういう場所で裸は無理よ。

 だが私達の言葉を聞いた二人の反応は、ちょっと予想と違っていた。


「ミズギ……ですか?」

「それは一体……?」

「あら」

「この反応は……」


 思わずマリアーネと顔を見合わせる。もしやこちらでは“水着”というカテゴリの衣類がないのか。川に入って遊ぶというのは、もしかして子供くらいしかやらないのか? 大人がやる場合は、身体の汚れ等を洗い流すための“手段”でしかないとか?

 もしそうだとすれば、ちょっとだけ躊躇する部分もあるのだが……。どうしようかとマリアーネにそっと耳打ちしてみる。しばし考えた後、彼女の口から出たのは。


「それなら、いっそ作ってみる?」

「…………そうね。ちょっとやってみたいかも」


 無いなら作ってしまえ、というものだった。そこでミシェッタ達に、水着というのは“川や海などで泳ぐ際に着用する濡れても良い衣類”だと説明した。それを言葉で伝えようにも中々うまくいかないので、最後は絵を書いて説明をした──が。


「何ですかコレは!? 下着じゃないですか!」

「お嬢様達は人前で下着で水に入られるおつもりですか!?」


 という反応をされた。うーん、ちょっとばかり予想できた展開だったわね。そうじゃないと説明しても、なかなか上手くいかなかったが、最終的にワンピースタイプ+パレオという形状で納得してもらった。

 ぶっちゃけると、今のスタイルってば随分良いので、前世じゃ着ようとすら思わなかったビキニタイプにしたかったんだけどね……。


 そんな感じで盛り上がったので、そのままお父様とお母様のところへ行って話をした。この夏休み、もし可能ならば別荘へ行かないかと。

 あまりにも急な話なので無理かなぁ~と思っていたのだが、驚かれたがすぐさま了承された。なんでも昔はよく訪れていたのだが、お兄様が生まれた辺りから行かなくなってしまっていたとか。なので私達の提案は、寧ろ喜んで受け入れてくれたとか。

 あれ? でもそれなら、なんでミシェッタ達はその別荘に詳しいのかと聞いたところ。


「その別荘を管理しているのが私の父だからです」

「ノーバス家がすぐ近くにあります故、いつ行かれても大丈夫です」

「「そういう事は早く言いなさいよ~ッ!」」


 思わずユニゾンで叫んでしまった。まったくもう。




 それからすぐに水着の製作に着手した。本当は素材はナイロンとかポリエステルなんだろうけど、当然ここにはそんなものは無い。ただ、耐水性の高いウール素材をベースに保護魔法を施した布で作った。肌に触れる側と外側で、それぞれ別の魔法処理を施して仕上げてみた。

 ちなみにその水着だが、私達の分以外にミシェッタ達二人の分も作成しておいた。出来上がった水着を二人に渡すと、顔を真っ赤にしながら首を大きく左右に振っていた。だが流石にもう作ってしまったと強引に渡すと、諦めて受け取ってくれた。……その後、姿見の前で身体にあててる姿を見かけてしまい、大いに慌てふためくミシェッタの姿というレアいものが見れたのは僥倖だったわね、オッホッホ。


 とまあ、そんな準備が三日で終わった。その翌日はしっかりと準備をして、思いつき五日目には、家族そろって別荘へ遊びに行く……そう、家族旅行へと出発することになった。

 家族旅行というわけで、当然お兄様も一緒です。


「すみませんお兄様。でも、どうしても家族で一緒に行きたくて……」

「気にしなくていいよ。私も別荘を見たことが無く、話を聞いて興味を持ったからね」


 そう言って笑ってくれるお兄様。……今回は急だったから無理だったけど、フレイヤも一緒だったらお兄様喜ばれたかもしれないわね。そうね、今度はフレイヤとティアナも誘いたいわね。

 そんな事を考えながら、私達は馬車へと乗り込む。両親の乗る馬車と、私達兄妹が乗る馬車だ。どちらも少し大きめの馬車で、私達の方にはミシェッタ達も同乗している。


「では行ってくる」

「はい。行ってらっしゃいませ」


 家に残る使用人達に、お父様が言葉をつげると馬車が動き出した。

 家族旅行なんて、前世から通して数えたら何年ぶりかしら。ふふふ、ちょっとわくわくしてきたわ。

 そんな気持ちで隣のマリアーネを見ると、同じように笑みを浮かべてこっちを見てきた。

 さぁっ、夏休みの家族旅行! 楽しむわよー!



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