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転生令嬢姉妹は平穏無事に過ごしたい  作者: のえる
第五章 夏休み ~レミリア15歳~
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092.故に望むのは家内安全

 夏休みも三分の一ほどが終わり、夏の暑さも段々本格化してきた今日この頃。といっても街中でさえ、日本に居た頃の夏よりも快適だ。恐らくは緯度の違いや地形その他諸々だと思うが、一番大きいのは産業排気の有無だろう。日常的に空気を汚す装置なんてものは存在しないので、大気汚染による病気や公害も皆無なのはすばらしい。

 後、どうも私とマリアーネが聖女であるため、無意識に周囲へ浄化効果を及ぼしているらしい。特に先日『聖地』に訪れたおかげで、領地全域にまでじんわりと効果が行き届いてるとか。このあたりは、後日教会で司祭様より聞いた話だから間違いない。


 そんな私達だが、本日は私とマリアーネ、そしてフレイヤで遊びに出かけた。こう聞くと「ティアナは?」と思うかもしれないが、今回の行き先が……そう! ティアナの家なのだ。

 夏休みなので皆で一緒に遊びたいという話は事前からしていたが、いかんせんティアナの家は農家で夏も色々と忙しい。とはいえ、さすがにずっと作業をしているわけでもないとの事で、ならば時間が取れれば一緒に遊ぼうという約束をしておいた。


 という訳で、今日はティアナの家へと遊びに来た。夏休みという事で、今回もお泊り前提の訪問となった。

 一学期の間に、何度か遊びに来て泊まったりもしたので、幾分慣れた……とは思う。


「皆さん、いらっしゃいませ!」


 家の前に停まる馬車の音が聞こえたのだろう、パタパタと元気良く外に出てきたティアナが笑顔で歓迎してくれた。学園入学以来、それこそ毎日見ていた彼女だが、久しぶりにみた彼女は相変わらず元気そうで。あと、心なしか少し日焼けしてるかしら。


「こんにちはティアナ。お元気そうで安心しましたわ」

「レミリア様もお元気そうでなによりです」


 私達が挨拶をしていると、マリアーネとフレイヤも降りてきてお互い笑顔で言葉を交わす。うんうん、ここ最近ご無沙汰だった見慣れた光景ね。そんな事を考えていると。


「聖女さまぁーっ!」


 元気の塊が、こちらに向かってわはーっと駆け寄ってきた。そしてそのまま、私の元へどーんと飛び込んでくる。なかなかいいタックル。漫画だったら背景に「どすこーい」とか書いてあるかもしれないわね。


「こんにちはノルアちゃん、元気だった?」

「はいっ! とってもげんきです!」


 眩しい笑顔を向け笑うこの子は、ティアナの妹ノルアちゃん。初めて遊びに来たときから、特に私になついてくれて「聖女さま、聖女さま」ととにかく一緒にいてくれる。もちろん私もそんなノルアちゃんが大好きだ。マリアーネも妹なのだが、どっちかというと双子感覚に近い。その点ノルアちゃんは、正真正銘の妹ポジション! こうやって懐かれるのは、孤児のエリサちゃんといい大好きだ。……そうねぇ、折を見てノルアちゃんを孤児院に連れて行ってエリサちゃん達に会わせてあげようかしら。年齢も近いし、きっと仲良くなれると思う。


「皆さん、ようこそいらっしゃいました」

「何もありませんが、ゆっくりしていって下さい」

「ありがとうございます。またお邪魔させていただきます」


 後から出てきたティアナの両親にも挨拶をする。あとは弟達が二人いたはずだが、聞いてみると今日は友達と遊びに出かけているらしい。ともかく皆元気そうでなによりね。


「聖女さま、はやくはやくっ」

「ふふ、慌てなくても大丈夫よ」


 せがむ様に手を引くノルアちゃんに促され、私達は家の中へお邪魔する。そのまま「どうぞ、聖女さまっ」という言葉に甘えて椅子に座らせてもらう。そのすぐ隣で、じーっとこちらを見るノルアちゃん。既に何度か遊びにきているので、これが何を期待しているのかわかる。


「いいわよ、いらっしゃい」

「はいっ!」


 元気良く返事をして、座る私の膝の上へちょこんと座る。そんなノルアちゃんと笑いあってると、皆もやってきて全員が腰を落ち着かせた。

 そんなノルアちゃんだが、相変わらずずっとぬいぐるみを抱き抱えている。これは初めて遊びに来たとき、お別れが少しでも寂しくないようにとプレゼントしたものだ。以降、ずっと大事にして肌身離さず持っているとか。でも、そんな風にずっと持ち歩いていれば、当然いくらか汚れてきたりもする。


「そうだ。ノルアちゃん、その子……ちょっと見せて」

「はいっ」


 私の言葉に抱えていたぬいぐるみとすっと私の方へ差し出す。そのぬいぐるみに私は手をかざす。


「【クリーン】」


 私の手からふっと漏れた光が、ぬいぐるみを覆うと一瞬光ってすぐさま霧散する。すると、先程まで少々汚れがあったぬいぐるみが、まるで新品かのように綺麗な状態になっていた。


「わあぁ~……すごい! 聖女さま、ありがとう!」

「うん、喜んでくれて嬉しいわ」


 わーっとぬいぐるみを抱きしめて笑顔を浮かべるノルアちゃん。そのぬいぐるみを見た皆も、愕いた様子を見せる。


「レミリア姉さま、今のってもしかして……」

「ええ、【クリーン】っていう物を綺麗にする魔法よ。効果としては、付着している汚れの浄化魔法だから私の分野ね」

「そうなんですね。んー……便利そう、私も使えたらなぁ」


 残念そうに言うマリアーネ。私と彼女は共に『聖女』ではあるが、お互いの属性が闇と光と異なるため、当然使える魔法も違ってきてしまう。大雑把なくくりをすれば、私の魔法は浄化や解除のような“消去”系統なのに対し、マリアーネは回復や再生という“活性”系統なのだ。効果系統をポーションで例えるなら、私の魔法は状態回復ポーションで、マリアーネは体力回復ポーションみたいな違いだ。


「貴方は物を活性化させる魔法を使えるでしょ。……今はまだ若いからないけど、そのうちお肌のシミとか出来ても新陳代謝を活性化して除去とかできるでしょ。私の魔法だと人肌には使えないのよ」

「ああ、なるほど……」


 どこか残念そうにしているマリアーネに、こっそりと美容に使えることを教える。案の定「ほうほう」と興味深そうに頷く。聖女である私達は、そうそう肌が荒れたりしないだろうけど、そういう事が出来るというのは私からみても羨ましいかぎりだ。


「ところで農作業の方は大丈夫なんですか? 今日はお休みがとれると聞いて、私達お邪魔したのですけれど……」


 少し遠慮がちな声でフレイヤがティアナの両親に尋ねる。この時期がどれほど忙しいのか知らないけど、来る時期はやはり気になるというものだ。


「ええ、大丈夫です。特に今日のためにと、ティアナがここ最近随分がんばっていましたから」

「そうなんですの?」

「え、ええ。その、私も今日が楽しみだったので……」


 どこか照れくさそうに言いながらも、本当に楽しみにしていたとわかる笑みを浮かべるティアナ。そこから、どんなお手伝いをしてたとかの話をしばらくした後、両親は「ではゆっくりしていってください」と席を外された。

 ちなみにノルアちゃんだが、少し寝てしまったのでそのままティアナのお父様が抱えていった。昨日からずっと楽しみにしてはしゃいでおり、今の今までずっとテンションあげっぱなしでちょっと疲れたのだろう。起きてきたらまた一緒に遊びましょう。


「……それにしても、なんかちょっと不思議な気分です」

「ん? 何が?」

「その、学園に入学してからはレミリア様と一緒の部屋でしたから、それこそ毎日話をしてました。マリアーネ様やフレイヤ様とも、ほとんど一緒で顔を見なかった日はほとんど無かったですし」

「私もそうですわ。でも、元々ティアナさんは別の方と同室だったのですよね?」

「はい、ですがそこへレミリア様が──」

「ちょっ、何か文句でもあるの?」


 急に私が槍玉にあげられて思わず口をはさんでしまう。思い返せばそんな事があってそろそろ四ヶ月ほど経過するのか。そういえばあの時の彼女、今どうしてるのかしら。別の棟でしたし、正直興味が無いので調べたりもしませんでしたけど。


「文句なんてありません。レミリア様のおかげで、私の学園生活がどれほど恵まれたものになっているか……本当に感謝しております」

「そう? まぁ、私がやりたいようにしているだけなんだけどね」


 そういいながらも内心では結構安堵している自分がいる。なんせティアナという存在は、ヒロイン(マリアーネ)悪役令嬢(わたし)の筋書きを、大きく変えたことによって出てきてしまったとも言えるわけだから。そういうのって、やっぱり気にかけてしまうものだ。ティアナほどじゃないにしても、フレイヤも元々は設定しか知らなかった人物だし。こんなに表舞台に出てきて学園に通ったりしてるのは、私とマリアーネがガーデンパーティーで関わったからなのは確定だろう。


「レミリア姉さまは色々と突っ走りますけど、自分の思いを貫き通すのがすごいですよね」

「ですね。私もレミリアと共に過ごして、ちょっとくらい嫌なことがあっても笑顔で追い払えるくらいになりましたわ」

「あ! わかります! 私もそうです!」


 気付けば皆がじっとこちらを見ている。


「な、何かな?」


 別に睨まれているとかじゃなく、むしろ優しげな視線を向けられているが、どうにも居心地が悪い。


「いつかレミリアに、恩返しみたいな事ができれば良いのですけれど……」

「難しいと思いますよ? レミリア様が解決できない問題に、私が役に立てるかどうか……」

「寧ろレミリア姉さまがピンチになる事態なら、先に私達がもうダメになってるわよね」


 そんな事を言って三人は「あははは」と声をそろえて笑う。いやいや、そんなことないってば。あれよ、どっかの公女じゃないけど、“泣こうと思ったらいつでも泣ける”ってヤツよ! ……思ったこと無いけれど。


 でも……そんな日はこないほうがいい。こうやって馬鹿馬鹿しいことを言いながら、わいわい姦しくすごせる日常が一番だ。

 ちょっとばかし聖女だとか色々あるけど、望むのはこんな平穏無事な日々なのだから。



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