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転生令嬢姉妹は平穏無事に過ごしたい  作者: のえる
第一章 始まり ~レミリア12歳~
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009.厄介事が起きましたって本当ですか?

 驚いたマリアーネの声が会場に響く。幸いにも「きゃあああ」ではなかったので、遠めには『突然現れた王子に驚いてしまった』という風に見られなくも無かったことか。

 そのアライル殿下、にこやかに笑みを浮かべてこちらにやってくる。くっ……ゲームで見た姿よりも3歳程若いはずだが、既に貫禄を感じてしまうのはさすがだ。私がどうしようと考えているうちに、既にアライル殿下は目の前に来ていた。


「お初にお目にかかります、レミリア嬢、マリアーネ嬢。アライル・フィルムガストです」


 丁寧に礼をするアライル殿下を目の前にしながらも、まだ私は迷っていた。彼との仲を進展させるのはまずいと思いながらも、ここで無碍な態度を取ってしまうのもそれは問題だ。どうしたら……と、考えている時、すっと私の前に立つふさがる者が。

 ……しまった!


「レ、レミリア姉さまに何の御用ですか?」

「こっ、こらマリアーネっ」


 動けない私を見て、まるでかばうように前に出たのはなんとマリアーネだった。ダメだってばぁ! そんな事したらアライル殿下に不快な思いをさせちゃうでしょっ。

 あわててマリアーネを引き下がらせる。そんな様子を見ていたアライル殿下は、一瞬ポカンとした顔をするもすぐに破顔し、


「くくっ、いやすまない。ただ挨拶に来ただけなのだが、驚かせてしまったようだね」

「い、いえ。こちらこそ、急な事でしたのできちんと挨拶もできず……あ、申し遅れました。レミリア・フォルトランです」

「……マリアーネ・フォルトランです」


 どうやら驚いてしまった故のちょっとしたハプングという感じになったが、どうにもマリアーネの視線が厳しい。やはり第二王子──攻略対象に関しては、強い線引きをしているようだ。

 さあ、これからどうしようか……と思っていたのだが、アライル殿下は「また後で」と言い、すぐにこの場を離れてしまった。

 とりあえず離れていく殿下を見送っているとマリアーネが、


「塩を撒きたい」

「……こっちにそんな風習はないわよ」


 場違いなセリフとつっこみだった。




「お父様! どうしてアライル殿下が来ているのですか!?」

「うっ……そ、それはだな……」


 ここは屋敷内の一室。室内には私とマリアーネとその専属メイド二人、そしてお父様がいる。そのお父様は私達につめよられて困り果てた様子だ。ちなみに声をまくし立てているのはマリアーネである。普段見せないその雰囲気に、お父様だけでなく、私もメイド姉妹も驚きを隠せない。


「王族が……王子が私達聖女に会わないようにという話ではなかったのですか?」

「ね、マリアーネ? 少しはお父様の言い訳……じゃない、言い分も聞きましょう?」

「……何にせよ私が悪者なのか」


 ハァとため息をつくお父様を私とマリアーネが睨む。マリアーネばかりが文句を言ってるように見えるが、私だって急な殿下の襲来で困惑してるんだからね。


「まずアライル殿下が来たことに関してだが、すまないとは思っている。だが考えても見てくれ。領主である私の娘二人のデビュタントに、国の王子が顔を出さないのはどうだ? 何よりアライル殿下はお前達と歳が同じだ。将来学園へ通う際には、学友としても交流もあるだろう。それに今回、殿下は“聖女”であるお前達に会いに来たのではなく、“領主令嬢”であるお前達に会いに来たのだ」


 一気にまくしたてるお父様。確かに筋は通っているが、これはおそらく私達に追求されたとき用に予め考えていた言い訳だろう。ということは……


「お父様。本日アライル殿下がいらっしゃる事……ご存知でしたね?」

「えっ……そうなんですか、お父様!?」


 私の指摘を聞いて、マリアーネが再び声を荒げる。


「……すまない。知ってはいたが、私にはどうする事も……」


 さすがに言い訳のしようもなく、頭を下げられた。まあ、実際のところ王族命令みたいなものだから、それにたとえ領主といえども物申すこと出来なかったんだろうな。

 なのでまあ、流石にこれ以上ゴネても仕方ない。とりあえずの提案をすることに。


「それではお父様。もし本日中にアライル殿下が『聖女』に関しての話をするようでしたら、司祭様と共に王室の方へ正式に抗議をして下さい?」

「それは……」

「いいですね?」

「……分かった、そうするよ」




 それから私達二人は、ドレスを着替えてホールへと戻った。私達が戻ったのを見た人達は、装いも新たにした私達をまた褒め称えてくれた。

 これによって私達が一度席を外したのは、ドレスを着替える為だと認識してもらえた。よもやアライル殿下の訪問について、お父様に詰問していたとは誰も思うまい。

 さて、戻ってきた私達は……再び先ほどのように──いや、先ほど以上にいろんな人達から話しかけられていた。私達がいない間、用意されたビュッフェを皆が楽しんでいたようで、今は皆が私達の方へ意識がむけられている。

 この場で私達は、多くの方々と挨拶をするべきである。特に年齢の近しい異性からは、アプローチに近い感じの挨拶も珍しくはない。特に私達は領主令嬢である。今回のデビュタントを見れば、どれほどの財をかけて行ったのかわかるのだろう。正確には『どれほどの財をかけたか分からない』事が分かると。なんせ料理などに関しても、私達の現代知識みたいなものがこっそり使われているからだ。


 たとえば今回、陸地ではなかなかお目にかかれない魚の料理も多い。それも油ののった海の魚だ。海辺の町であればまだしも、遠い内地に新鮮な状態で運ぶには特別な方法が必要だ。この世界でそれをするのであれば、水魔法が使える人が氷を作り出して冷やしながら運搬する方法。だがそれは、魔力問題もさることながら、遠距離を延々と持続させるには困難な手法だったりする。

 だが私は趣味の雑学知識でそれを可能にした。方法は簡単で、大きさの違う容器を二つと砂と水。これを使えば天然の冷蔵容器が作れるのだ。原理は土に浸透させた水が、気化するときに熱を発することで土が冷えることを利用している。これによって各地の魚のみならず、新鮮な野菜なども瑞々しいまま我家へ持ち帰ることが出来たのだ。


 他にも料理に関して細かい知識を教えたりもした。まあ、なぜ私がそんな事を知っているのかという疑問はあったようだが、それは聞かないで下さいという事にしておいた。だって説明無理だもん。

 そんな感じで、実はかなり安上がりにしていながらも、対外的には湯水の如く金を費やしている……みたいに見える事も多々あるようで。おかげで年頃男性から声をかけられまくるのなんのって。割合的には少ないけど、他家のデビュタント済みのご令嬢もいらっしゃるので、できればそういった子たちとも話がしたいとは思うのだけれど。

 そうそう、マリアーネはどうしたかしら。あっという間に個別で囲まれてしまったから、直ぐ側にはいなくともどこかで話し相手に捕まっているとは思うのだけど……。

 あ、いたいた。あらま、余所のご令嬢たちとお話しているようね。良い経験になってくれるといいのだけれど……。

 いや、ちょっと待って。何か不自然に女の子ばかりじゃなかった? マリアーネの容姿なら、どちらかといえば男性がよってきそうだと思うのだけれど。そう思った時、ある可能性が脳裏をよぎる。

 この世界が乙女ゲームで、マリアーネがヒロインであればそれに快く思わない人物もいる。それが悪役令嬢であり、世界を構築する因果律でもある。でも、その悪役令嬢の私は彼女(ヒロイン)を貶めるようなことはしない。ならば悪役令嬢は存在しない? いや、そんな事はない。私じゃない誰かが、その悪役令嬢にあてがわれる可能性が高い。


「ちょっと、ごめんなさい。失礼します」


 私は慌ててその場から移動する。向かうは先ほどマリアーネたちが消えていった先だ。おそらくホールを抜け、その先にある化粧室か何かへ向かったのだろう。

 私の勘違いであって欲しい。そう思いながら足早に廊下をすすみ、少し死角となる曲がり角へさしかかろうとした時。


「マリアーネ様、先ほどのアライル殿下への発言はなんですか!?」


 誰かの声が聞こえて来た。聞いたことない声なので、おそらくは先ほどマリアーネといた令嬢だろう。


「突然大声を出したと思ったら、次は何の用かと聞かれるなんて……」

「王家の方に対して無礼ではありませんか?」

「何とか言ってください、マリアーネ様」

「あ、あの……」


 数人がかりで言葉をぶつけられ、マリアーネはまともに弁明できないようだ。ここから姿は見えないが、困惑してオロオロしている姿が目に浮かぶ。確かに言っていることは間違っていない。間違ってはいないが、数人で連れ出して問い詰めるのは話が別だ。注意したいのであれば、そんな責めるような物言いをする必要がないはずだ。

 となれば、これはアレだ。そう──いわゆる“いじめ”だろう。ならばすぐにでも──と思っている間にも、向こうの話し声はどんどんエスカレートする。


「そもそもマリアーネ様は男爵家でしたよね? それがどうして侯爵家へ養女となったんですか?」

「よろしければ後学のため、その方法を教えてくださいませんか?」

「いいですわね! 私も是非お聞きしたいものです」


 ん? 何か話が全然違う方向へいってるぞ。というか何の話だそれは。まるでマリアーネが、何か目的があって家にやって来たみたいな事言ってないか?

 いかん、流石にこれは止めにはいろう。よし、落ち着いて、冷静に、平常心で──


「なんで貴女のような方がレミリア様の妹に……」

「レミリア様もおかわいそうですわね」

「もしかして、レミリア様も迷惑に思っているのではなくて?」


 ──あぁん? 今、何て言った?

 瞬間、私の中で至極冷静に──怒りが爆発した。そして、あたり一面が瞬時に真っ暗になる。【イレース】でこの付近の明かりを消したのだ。


「きゃああああっ!?」

「何? 何?」

「これって、さっきの……」


 暗くなると同時に駆け出し、マリアーネを少し下がらせてその前に立つ。そして【イレース】を解除する。暗くしていた原因が消え、すぐに元通りの明るさを取り戻す。だがそこには、先ほどはいなかった私が腕を組んで仁王立ちしていた。


「あなた達! 私の妹に一体何をしているのかしらッ!?」

「ひぃっ、レミリア様!」

「そ、その私達は……」


 突然現れたように見えた私に、あきらかに怯えた視線を向ける。今の状況の上、私の持って生まれた悪役令嬢顔がこの上なく怖いのだろう。だが、先ほどの発言……いや! それ以上にマリアーネを怯えさせたのが我慢ならない。


「大勢でこのような振る舞いを……恥を知りなさいッ!」


 感情のまま強く怒鳴ると「失礼しました!」と、一目散に全員が逃げていってしまった。

 全員が離れていったことを確認して、振り返ってマリアーネを見る。


「レミリア姉さま……」

「わ! マリアーネ、大丈夫!?」


 安心したのか一筋の涙を流しながら、ぺたんと膝から崩れてしまった。慌てて私も膝をついて抱き起こすが、今度はそのまま抱きついてきてしまった。


「ごめんなさい、私のせいで……」

「ううん、そんな事ないわ。大丈夫よ」


 それから少しの間だったが、泣いているマリアーネを抱きしめてあげていた。

 リメッタに涙の後を化粧でごまかしてもらって、会場へ戻ったのはもう少し後の事だった。



投稿開始から一週間経過しました。今後は2~3日更新ペースとなります。

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