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転生令嬢姉妹は平穏無事に過ごしたい  作者: のえる
第五章 夏休み ~レミリア15歳~
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087.想いの連なりこそ家庭円満なり

 それから司祭様とエミリーさんは、教会の方へと戻って行った。日中は基本的に教会にいる事の方が多いらしい。特に安息日──正確には土曜日となるその日は、多くの方々が祈りを捧げにくるのでほぼ教会にいることが多いとのこと。……ミサの日って、本来は日曜日じゃなかったのね。


 とりあえず私とマリアーネは、孤児院で皆といっしょに遊んでいた。普段ならシスターのお勉強でエミリーさんについていくユミナちゃんも、今日だけは私達がいるからとこっちで遊んでくれることになった。

 それじゃあ何をしようか……という話になったとき、ルッカちゃんがお庭に出たいと言ってきた。もちろんすぐに承諾して、私達は中庭へ出る。

 そして何をするのかと思ったら、皆が中庭の一角にある花壇のところへ。この国は女王陛下が富にお花が好きで、よくよく目を凝らせばいろんな場所に花壇があるのだ。ここ孤児院も同じで、何より花の世話をすることで子供達の心を育てる役目もあるとか。

 そんな大切な花壇のところへやってきた。……ふむ、随分と手入れが行き届いているように見える。植わっている花たちも、元気良く咲いてるし葉も先端まで栄養が行き届いて瑞々しい。


「すごく綺麗ね。この花達は、皆がお世話してるのかしら?」

「はい! 皆で水をあげたり、草取りしたりしてます」


 ちょっぴり誇らしげにルッカちゃんが教えてくれる。皆もどこか嬉しそうな笑顔をうかべてる。


「それは偉いわね。でも、本当にちゃんとしてるわね」


 花壇の土にそっとふれてみる。私はティアナほど土に関する知識はないけど、花壇に適した土の状態くらいは多少はわかるようにはなった。学校でも王宮庭園でもいじってるし。


「ここの花壇が今みたいに綺麗になったのは、先生のおかげなんです」

「ん? 先生?」


 ユミナちゃんの言葉にマリアーネが疑問を口にする。うん、私もそこが気になった。


「先生っていうのは、色々な事を教えてくれる人です。今はエミリーさんや、私やカイルが教えたりもしてますが、最初に私達に文字の読み書きとか教えてくれた人がいまして」

「そうなのね。よかったらその人の名前を──」


 知ってる人かな? と、名前を聞こうとした時。


「こんにちは。……おや、珍しい所でお会いいたしましたね」


 この孤児院を訪ねてきたらしき人の声が聞こえた。ここは教会を中庭側に抜けないと来れないので、来る人というのは必ず孤児院に用事がある人だ。


「あ! 先生!」

「せんせー! せんせーだ!」

「先生、久しぶりー」


 孤児たちが声を弾ませて、先程の話にでてきた“先生”であろう人物に駆け寄っていく。随分と親しまれているようで、孤児たちが皆とても笑顔だ。

 だが私とマリアーネは、その人物を見てかたまっていた。それは相手も同じだったが、すぐさま我に返り頭を下げながら挨拶をしてきた。


「こんにちは、聖女様方」


 その行動と言葉に、ようやく私とマリアーネも我に返る。


「こんにちは。……“聖女様”なんて呼び方、少し寂しいのではありませんか?」

「そうですよ。こんにちは、ヴァニエール先生」


 ちょっとだけ皮肉を込めた言葉の矛先相手は、魔法学園のヴァニエール先生だ。

 なるほど、この花壇を整備したのはヴァニエール先生だったというわけか。確かにそれなら十分な知識の元、綺麗な花壇にできるわね。

 それにしても、なんでヴァニエール先生が孤児たちの“先生”なんだろう。そう聞いてみたところ。


「たまたまなんですよ。こちらの教会に訪れた時、偶然中庭へ出てしまいそのまま孤児院の方へ来てしまいまして。そこで花壇の土を整備していたルッカちゃんと会いまして。それで、つい役立てるのならとお手伝いしたのがきっかけでした」

「あら、そうだったの?」

「はい。先生が花壇の土を、お花が植えやすいようにって綺麗にしてくれたんです」


 ヴァニエール先生の魔力属性は火と風だ。つまりティアナのように、魔法でどうこうした訳じゃなく、自分の持ってる知識で整備したのだろう。前世が農民だったため、そのあたりの知識には強いのよね。

 なるほどと感心していると、エリサちゃんが私の袖をくいくいと引っ張る。


「聖女さま、この花……せんせいがもってきたの」

「え? この花を、ヴァニエール先生が?」


 驚く私にヴァニエール先生は、少し照れながら教えてくれる。


「正確には、今咲いてる花のほとんどは私が持ってきました。孤児院の花壇を整備したので、そこに植えるのに適した花を女王陛下に選んでいただきました」

「ええっ!? じょ、女王陛下がですか?」


 なんとまあ、孤児院の花壇は女王陛下セレクト! ただ、ここにやはり女王陛下の優しさが見えてくるのが凄い。

 ヴァニエール先生の話によれば、世話をする孤児のことを考え、子供でも世話をしやすく、見栄えもよく、花が安定して咲くものがチョイスされているとか。

 パンジー、ビオラ、コスモスといった前世でも花壇とかでよく見た花や、ゼラニウムといった非常に開花時期の長い花も。……あ、これは知ってるわ、マーガレット。よく『好き、嫌い、好き』という花占いで見かけるのよね。昔どこかで聞いたけど、マーガレットって花びらが21枚になりやすいとか。だから最後『好き』で終わる確率が高いから選ばれたなんて話もあったわね。

 そんな感じでチョイスされた花々は、その期待通りに綺麗に咲いている。まぁ、中には開花時期がずれているためか、花が咲いてないのもあるけど。


「ああ、こちらはちょっと面白いですよ。クリスマスローズと呼ばれる花で、その名前の通りクリスマス時期に咲く花です。冬は開花しない品種も多いのですが、この花のおかげでここは華やかです」


 そんな花もあるのかと驚いた私だが、なんとこれ名前に“ローズ”とあるのにバラじゃないんだとか。アネモネの仲間だと教えてもらいました。……アネモネ知っててよかった。


「でも、ここにこんな綺麗な花壇があったなんて、知りませんでした」

「えっと……多分、花壇のお世話はいつもお昼前にしてしまうからです。これまで聖女様たちが来たときは、お昼か午後でしたので花壇の方へ行く事がありませんでした」


 そうルッカちゃんが教えてくれる。そういえばお昼前に孤児院に来たの初めてかも。


「この綺麗な花、今度はフレイヤも一緒に見たいわね。彼女は私達より詳しいから、きっと喜ぶわ」

「そうね。それにティアナさんも呼んであげたら、花の方も喜ぶかもしれないわね」

「ティアナ嬢か。たしかに彼女なら、ここの花壇がもっと良くなるかもしれないね」


 マリアーネの言葉に、ヴァニエール先生も同意する。既に学園の花壇が、生き生きとしているのを十分その目で見ているからだ。


「あの、ティアナさんというのはどなたでしょうか?」

「ん? あ、そうね。まだ彼女とここに来たこと無かったわね」


 質問してきたカイルくんを見たあと、見渡して皆がこっちを見ていることを確認。


「ティアナというのはね、魔法学園で出来た私達のお友達よ。私とマリアーネ、それにフレイヤとティアナの四人は学園ではいつもいっしょにいるわ」


 私の言葉に孤児たちは少し驚きながらも、どこか嬉しそうにしている。たぶん私達の友達ということで、きっと仲良くなれると感じているのだろう。


「それでね、ティアナは農家の子なの。それに土属性魔力をもってるから、土をいじるのがとても上手なのよ。今度一緒に来たときは、ここの花壇の土を見てもらいましょうね」


 それを聞いて皆が少しざわめきたつ。女の子は花壇が一層綺麗になるとの期待で、男の子は土属性魔法ということに興味を引かれたようだ。

 何にせよ、これは近いうちにティアナもここへつれてこないといけないわね。

 そんな決意をしたところで、ヴィニエール先生が「あ、そうだった」と口を開く。なんでも今日は孤児院に、久しぶりの顔見せとお昼を持ってきたんだとか。私達を見て、すっかり忘れていたそうな。

 そしてタイミングよく、孤児院からミシェッタが「昼食の準備ができました」との声が。急遽ヴァニエール先生が追加になったのだが、案の定「問題ありません」とちゃんと人数分用意された。

 また、ヴァニエール先生がもってきたお昼も皆でわけ、教会から司祭様とエミリーさんも呼び昼食をとった。

 こんな感じで、久しぶりの教会訪問は終始楽しく過ごせた。まさか夏休みに入って、先生に会うとは思っていなかったけど。でもヴァニエール先生だったから、結果オーライってことよね。

 うんうん、久々の学生の夏休み、満喫してるなぁ私ってば。



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