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転生令嬢姉妹は平穏無事に過ごしたい  作者: のえる
第五章 夏休み ~レミリア15歳~
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086.幼き願い事は尊く一心精進に

 夏休み初日は、帰宅からの報告を兼ねた家族団欒を過ごした。話題の中心は、主にマリアーネとアーネスト殿下の仲がどうなっているか……的な内容で、話題そらしのために自分を生贄にしたでしょと夜マリアーネに怒られた。それを宥めるため、秘蔵のお菓子とかを幾らか差し出したけどね。


 そして二日目。

 本日は予めお出かけを決めていたので、私とマリアーネは馬車にのって出発する。同伴はいつもと同じく専属メイド姉妹。何の遠慮もいらない四人なので、馬車一台で目的地へ。

 その目的地というのは、教会……もとい孤児院である。

 以前訪れた際に孤児達と仲良くなり、その後も定期的に訪れている。しかし学園へ入学し、しばらく行くことが出来なかったのだ。夏休みということで、ようやく久々の訪問となったのよね。


 馬車にゆられながら、他愛も無い会話を楽しんでいると、ふと窓の外を見たミシェッタより「そろそろ教会です」との報告が。なるほど、確かに外を見れば少し町並みから離れた、でも何度か見た場所にきていた。

 馬車が止まり、先に出たメイド姉妹の手引きで降車すると、そこは教会の正面。そして私とマリアーネの姿を見て、笑みを浮かべてやってくる人物が。


「レミリア様、マリアーネ様。お待ちしておりました」

「お、お待ちしておりました!」


 この教会で、現在シスター見習いとして勤めているエミリーと、そのエミリーに憧れ大きくなったら自分もシスターになると言ってる孤児のユミナだ。エミリーもここの孤児院育ちで、ユミナにとっては憧れであり、大好きなお姉さんなのだ。


「こんにちはエミリーさん。お元気そうですね」

「お久しぶりです。皆様もお変わりないようで」

「こんにちはユミナちゃん。エミリーさんのお手伝いですか?」

「は、はい。シスターのお勉強です。あっ、こんにちはマリアーネ様!」


 マリアーネがユミナに声をかけると、少し緊張しながらもしっかりと挨拶を返してきた。まだたしか8歳くらいだと思ったけど、エミリーさんを見て手伝っているからなのか、実年齢よりもしっかりとしているような感じがする。


「こんにちはユミナちゃん。それでは、ユミナちゃんに案内をお願いしていいかしら?」

「は、はいっ。こんにちはレミリア様! それでは、私がご案内させていただきます。どうぞ」


 そう言って教会の方へと案内してくれた。もちろん場所は知っているが、ちゃんとユミナちゃんの案内で通路を抜け中庭へ出る。そこに面した孤児院が、本日も目的地だ。

 そちらへ向かい歩いていくと、窓から顔なじみの子達の顔がみえる。年長男子のカイルと、年長女子のルッカがこちらを見て頭を下げる。笑みを浮かべて軽く会釈すると、二人とも笑顔で手を振ってくれる。ここの子達とは、こういう感じで遠慮のない仲を私達が望んでいるのだ。

 さて、残るは二人……そう思った時、孤児院のドアが開いて飛び出してくる影が。それは小さな女の子で、もちろん私達のなじみの子だ。


「聖女さまーっ!」

「こ、こら、エリサ!」


 私を見て満面の笑みで駆け寄ってくるのは、ここの孤児院の最年少の女の子エリサちゃん。そのエリサちゃんを心配しながら追いかけてくるのは、エリサちゃんのお兄ちゃんであるエンツくん。孤児院の子達は皆家族ではあるが、この二人は本当に血の繋がった兄妹だ。そのため、基本的に二人はいつも一緒にいる。

 ただ一つの例外、それは私が来たときのエリサちゃんの反応だ。なんとエリサちゃん、初めて会ったときに「聖女さまのメイドになる!」と私に言ってきたのだ。聖女は二人いるが、エリサちゃんが言ってるのは私の方との事。それ以来、私は随分と懐かれてしまったのだ。……うん、勿論すごく嬉しいよ。


「こんにちはエリサちゃん」

「こんにちは、聖女さまっ!」


 少しかがんだ私に、わーっとエリサちゃんが抱きついてきた。おおぅ、今日もいいタックルね。最初の頃は驚いたけど、毎度来るたびに最初はぶちかましてくるので「よし、来い!」みたいな感じで私も迎えてしまっている。……心の中で『相撲のぶつかり稽古ってこんな感じ?』とか思ってるのはナイショだ。

 ちなみに私も楽しんでいると皆知っているので、今ではミシェッタもほほえましく見守っている。……唯一人、エンツくん以外は。


「す、すみませんレミリア様! 大丈夫ですか?」

「ふふ、大丈夫よ。心配してくれてありがとうね」

「は、はい……」


 エリサちゃんを抱きしめながら笑顔でお礼を述べると、エンツくんが照れたように頷く。うん、大切な妹ちゃんが心配なのよね。

 よし、これで全員と会ったわね……と思った時。


「ふふふ、お久しぶりですね。レミリア様、マリアーネ様」

「あ、司祭様。お久しぶりでございます」

「ごきげんよう司祭様。お変わりありませんか」


 私とマリアーネが挨拶を返す。エリサちゃんを抱きしめた状態なので、私はしゃがんだままだけど。

 開け放たれた孤児院の入り口から、姿勢良くこちらに来るこの方はこの教会に勤める司祭様で、同時に孤児の面倒を見てくれている方だ。孤児のみなにとっては、大好きな母ともいうべき存在だ。本当に優しい人で、私みたいなステータス上の聖女じゃなく、内面が聖女ってのはこういう人なんだろうって感じる。


 ともかく、これで本当に全員だ。司祭様に促されて、私達は孤児院へ入る事にした。

 すると今まで私にぎゅっと抱きついていたエリサちゃんが、すっと離れる。そしてミシェッタを見て「お願いします」と頭を下げると、彼女の横に並ぶ。

 実はエリサちゃん、私が来ると最初に挨拶のハグをした後は、ミシェッタに付いて回り私の専属メイドの勉強をしているのだ。きっかけは、先程ユミナちゃんがエミリーさんに付いていたのを見たことらしい。それ以降、真似をしてミシェッタについてくるのだとか。最初はミシェッタも少々困惑していたが、徐々に愛着がわいたのか時々説明をしてあげたりしている。言葉を交わした量は、もしかして私より多いかも。

 そんなかわいらしい専属メイドの見習いさんを連れ、私達は孤児院へとお邪魔するのだった。




 そして私達が今いるのは、孤児院の広間である。部屋にあるテーブルを中央に置き、そこに皆座っている。一体何がという顔の子供達をみて、私はミシェッタとリメッタに「では、お願い」と告げる。

 それを受けて動くミシェッタを見て、エリサちゃんも立とうとしたが。


「エリサちゃん、今回は私の隣で座って待ってて?」

「…………はい」


 ちょっとばかり意気消沈してしまったが、隣に座り優しく頭をなでてあげる。大丈夫よー、きっとすぐに笑顔になるからね。

 そして、さほど待つ事もなく二人が部屋に戻ってくる。ただしその手には盆があり、そこに小皿に取り分けたものが入っていた。それを手際よく、皆の前においていく。スプーンと一緒におかれたそれは、以前ティアナの家族にもお土産で持って行ったことのある、アイスクリームだ。


「「「「「………………」」」」」


 子供達の顔が、見たこと無いその不思議なものに釘付けだ。小皿に入ってるし、スプーンも置かれたから、それが食べ物だというのはわかるようだ。だけど司祭様やエミリーさんの教育の賜物か、うずうずしながらも即とびついたりしないのは行儀が良いところね。

 全員にいきわたり、ミシェッタ達も自分達の席につく。もちろん彼女達の分もあるからだ。そうしないとエリサちゃんがちょっと遠慮するかもしれないからね。


「さあ、どうぞ召し上がって下さい」

「ありがとうございます、では皆さん」


 私の言葉にエミリーさんが礼を述べ、子供達に食べましょうと促す。おやつではあるが、皆でそろって食べるためか食前のお祈りをしてから順次食べ始める


「「「「「!!」」」」」


 そして皆一様に驚き、続けて笑みを浮かべながらパクパクと食べ始める。


「あ、あまり慌てて食べないでね? 冷たいので頭がキーンとなることが──」

「おおぅっ!?」


 私の言葉が終わる前に、最年長のカイルくんが声をあげた。あちゃー遅かったか。これって、そのものズバリのアイスクリーム頭痛っていうのよね。多少運搬時の保存方法の影響で、少し溶けかかっていたけど、それなりに冷たいものね。

 その様子を見て、他の子たちが少しだけ食べるペースを落とす。だが、いつしかすぐ夢中になり、結局エリサちゃん以外は皆、アイスクリーム頭痛の洗礼をうけていた。

 では何故エリサちゃんは頭痛を起こさなかったのか。その答えは……なんと、ここでの行いもミシェッタを見ていたのだ。ゆっくりとアイスを楽しむミシェッタを見て、エリサちゃんも一口一口行儀良く口に運んで味わっていたのだった。

 ……ちなみに私だが、勿論アイスクリーム頭痛になったわよ。ふんだ。それでも顔に出さずにいたつもりだが、どうやらミシェッタにはバレていたようだ。

 こういういらん所で鋭いのは、エリサちゃん真似しないでね?



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