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転生令嬢姉妹は平穏無事に過ごしたい  作者: のえる
第五章 夏休み ~レミリア15歳~
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085.恋バナの行方は一蓮托生で

 魔法学園に入学して、初めての夏休みを迎えた。


 この世界に転生してからの初めての夏休みではあるが、これは前世での学生とは訳が違う。闇雲に目標が定まらずとも勉強をしていた頃とは違い、今は学園での生活も充実している。必要な休みではあるが、あの頃ほど切望していない自分に少し驚いてしまったりする。

 もっとも今となれば、前世における学校や勉強というのは、それを行う事で社会へ出た時の行動原理を身につける意味もあったのだと理解している。何にせよ、学校の勉強はありがたかったわね。


 そんな学生生活も一学期が終わり夏休みとなり、多くの生徒達は早速実家へ帰省していった。まだ寮に残っている生徒もいるが、遅かれ早かれ皆一度は帰省するのが通例らしい。

 ちなみに私は、夏休みの初日に早速帰省した。マリアーネやお兄様も一緒のため、久々に我家が賑やかになったと両親が大いに喜んでくれた。フレイヤやティアナも初日から帰省したので、皆さっそく家族での時間を過ごしているのだろう。

 そうそう、ティアナだけどまだ行儀見習い研修中だけど、幾つか学園での付き人をしてもらっているからと、休み前に賃金を渡しておいた。彼女の感覚からして随分多かったのか、最初は恐縮していたが今後のためとか、帰る時に家族……とくに末っ子のノルアちゃんへのお土産を買ってあげなさいと言ったら、なんとか渋々うけとってくれた。まぁ、彼女の性格からして、とりあえず貯金すると思うけどね。


「……夏休み、なのよねぇ……」


 久しぶりの我家の自室。寮では気心知れた友人とはいえ、ティアナという同居人との相部屋だった。なので久しぶりに本当の一人で過ごす部屋だ。あまりの久々ぶりに、部屋に戻ってきてからずーっとベッドに寝転がっている。あんまりダラけてると、ミシェッタあたりにお小言貰いそうだけど。

 そんな事を考えていると、部屋にノック音が響く。


「は、はいっ」

「レミリア姉さま、マリアーネです」

「あー、どうぞー」


 相手がマリアーネと知り、途端に力の抜けた返事をする。この辺りの対応は、我家での姉妹間では阿吽で周知しているから全然オッケーなのよ。案の定入ってきたマリアーネは私をみるなり「帰って来たと実感しますね」と微笑んだ。そして私が寝転がっているベッドの端に座る。


「平和ねー……」

「ふふ、そうですね……」


 私の他愛ない言葉に、マリアーネが返事をする。特に意味もないが、どうにも今この時間が安穏として平和に感じてしまったのだ。


「そういえばレミリア姉さま。一学期が終わったということは……ゲームでは三分の一が終わった、ということですよね? どうなんですか、その……状況といいますか……」

「あー……えっと、私のバッドエンドが回避できそうかって話?」

「そうです。私はそのゲームを殆ど知りませんので、殆ど何も把握できてませんから」


 そういえばマリアーネは、普段からあまりゲームとか遊ばなかったと言ってたわね。乙女ゲーム『リワインド・ダイアリー』も友人の薦めで、家庭用移植版のさわりをやっただけだったとか。


「今のところ、何か大きな綻びに繋がるようなミスはしてないと思うわ。といっても、結構ゲームとは違う展開になってるから、何か違うフラグが起きてる可能性も否定できないけどね」

「フラグ? ……旗?」

「んっとね……まあ、何かしらの切欠になる出来事ってこと。分かりやすい例で言えば、私が婚約破棄の断罪を受けるためには、まず前もって婚約している(・・・・)という条件が必須でしょ? なら予め婚約しないでいれば、回避できるかもって仮定が成り立つと。ここでの婚約が“フラグ”で、婚約をしないでいる事が“フラグ回避”となるわけ」

「なるほど……ゲームって、そういう事の積み重ねなのね」


 実際はもっと色々と複雑なんだろうけれど、そういう議論をしたい訳じゃないだろうから素直に頷いておく。もっとも私も、ゲームの攻略知識はあっても製作知識はないので、その辺りはわからないけど。

 こういった会話も、流石にマリアーネと二人きりの時でないと出来ない話。学園ではたとえ寮でも、しないに越したことはないと二人とも徹底している。

 なのでマリアーネも、以前から聞きたかったであろう事を聞いてきた。


「あの時は気付かなかったけど……」

「ん?」

「入学式でティアナさんが、アライル殿下にぶつかったでしょ? アレって本当は、私がぶつかる役だったのよね?」


 確かにプロローグでアライル殿下にぶつかるのは、本来であればプレイヤーキャラであるヒロイン(マリアーネ)だ。だがこの世界でのマリアーネは、悪役令嬢(レミリア)にいじめをうける存在ではないから、そもそもの立ち位置があわなくなったのだろう。以前もその辺りの事は何度か考えたけど、言ってみれば私のせいでティアナは表舞台に担ぎ出されてしまったとも言える。申し訳ないとは思うが、流石にもう気持ちは切り替えており、今は前向きに考えている。


「それを考えたら……そうだ! 校舎裏へ呼び出されて上級生に囲まれるってのも、もしかしてゲームでは私がされる出来事だったとか?」

「うん、そうよ。ゲームだと、とにかく(レミリア)が何かにつけて仕掛けてたわね。アレも裏でレミリアが糸を引いてたって設定だったわ」


 自分(レミリア)の事ながら、なんて陰湿なんだと思ってしまう。もちろん私はそんな事はしないけど、それは前世でのゲーム知識があるせいだとも時々考えてしまう。もし自分がそういう(しがらみ)無く、普通にこの世界にレミリアとして生まれてたらどうだったとか。


「ともかく、今のところは特に問題はなさそうね」

「ですね。毎日楽しいですし」


 この調子で、特に何も無くすごせばいいかなーと考えていると、再び部屋にノック音が響く。目の前にマリアーネがいるので、扉の向こうにいるのは彼女以外だ。


「レミリア様、ミシェッタです」

「あら、どうしたの?」


 扉の向こうからは、聞きなれた私の専属メイドの声。当然ながら彼女と、その妹でありマリアーネの専属メイドのリメッタも帰省している。学園寮では、よほど重要でない限りあまり付き人が部屋まで来ることもないので、こうやって部屋に来るのも久しぶりだ。


「旦那様と奥様がお呼びです」

「わかりました、すぐお伺いしますと伝えて下さい。今マリアーネと一緒なのだけれど」


 多分彼女もだろうと言ってみると、扉の向こうから今度はリメッタの声が。


「左様でございますか。ではマリアーネ様もご一緒にお願い致します」

「ええ、わかりました」


 そう返事をすると、廊下を立ち去る音が聞こえた。私達は「何だろう?」と顔を見合わせるが、答えが出るでもなし。帰宅後に一応学園での様子はお話したけど、もう少し詳しくお聞きになりたいのかしら。






 ……なんて思ってたんだけど。


「つまりお父様たちは、私やマリアーネの恋バナを聞きたいと?」

「その、コイバナというのはよくわからないが、お前達が両殿下と良い関係を築けているとの報告を受けているのでな」

「報告って……」


 チラリと壁際に控えるミシェッタ達を見る。おっと、予め余所見をして視線を合わせないつもりか。


「それにケインズも、フレイヤ嬢との仲が良好だと聞いている。どうなんだ?」

「あ、もちろん私達は二人を応援してるわよ。フレイヤちゃん、かわいいもの」


 お父様の言葉に、お母様が嬉しそうに付け足しをする。確かにフレイヤは、このフォルトラン家にも既になじんでおり、両親は無論のこと使用人達とも笑顔で挨拶を交わす仲だ。


「……フレイヤとは、良好な関係を築けております。将来どうなるかは名言できませんが、皆の期待を裏切るような事は無いようにする心構えです」


 おおっ! ちょっとばかり持って回った言い方だけど、それって「清い交際をしております」って事でいいのよね? ふふふっ、やるわね二人ともっ。

 お兄様の言葉に、お父様もお母様も嬉しそうに頷く。その調子でみたいな言葉をかけた後、視線がこちらへ向く。


「お前達はどうなんだ? 特にその、レミリアは……」

「へ? 私!? ……ああ、なるほど」


 何の事かしらと思ったが、私で恋愛絡みの出来事といえば、つい最近一つだけあったわね。クライム様がご自身の意志をはっきりと示したあの事だろう。その為、消去法でアライル殿下とはどうなっているのだ……という意図での質問か。


「私は以前と何も変わりませんね。アライル殿下とは変わらず……相変わらず(・・・・・)仲良くしております」

「そ、そうか……」


 私の含みある言葉にどこか残念そうにするお父様だが、相手が国の第二王子である故にあまり不敬に繋がりそうな発言もできないのだろう。……仕方ないなぁ。


「とりあえず、私の方は何も進展無いわ。……私の方(・・・)は」

「むっ?」

「あら?」

「ほぉ」

「えっ」


 私のどこか含んだ物言いに、その場にいた家族が反応する。順に、お父様、お母様、お兄さま、そしてマリアーネだが、その声色は四者四様である。


「そうかそうか。それじゃあマリアーネ……聞かせてもらえるかな?」

「うふふ、楽しみだわ。どんな話が聞けるのかしら」

「あ、あの、えっと……」


 両親が目を、ギラギラとキラキラの中間くらいの輝きでマリアーネを見る。当のマリアーネとしては、どうしようかと困惑しているけど、ここは観念して欲しいかな。


「レミリア、お前ってヤツは……」


 軽いジト目で私を見るお兄様。話の流れを完全にマリアーネに振ったのは両親もわかっているのだが、せっかくだから乗ってやるーという感じになったのだ。

 まぁ、私としても、もう少し詳しくマリアーネとアーネスト殿下との話を聞きたいし、ある意味それこそ私の将来に大きく関わってくるから大事なのよ。

 結局その後は、以前よりも前向きに考えている事をマリアーネが告白し、それでまた両親や使用人たちが大いに盛り上がったのだった。



誤字報告いつもありがとうございます。相変わらず毎度のごとく誤字がありますが、報告頂けて感謝しております。

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