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転生令嬢姉妹は平穏無事に過ごしたい  作者: のえる
第一章 始まり ~レミリア12歳~
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008.予期せぬ来訪者って本当ですか?

 司祭様より聖女云々という話をお聞きしてから数日が経過した。

 その事について思うこともあるが、まず今考えるべきことは別だ。そう! 私とマリアーネのデビュタントについてである。


 まず貴族令嬢のデビュタントにて、一番の評価項目といばやはり料理。どのような料理を、どれだけ出すことが出来るのか。そこは単純だが非常に重要視されるポイントでもある。故にこうした催しでは、基本的にビュッフェ形式で執り行うのが主である。今回の私達のデビュタントでも、ビュッフェ形式で行うことになっている。これに関してはお父様の指示の元、我家の料理人たちがしっかりと勤めを果たしてくれると思うので心配はしてない。


 ならば料理以外で気にしてる事といえば、それはやはり私達のドレスかと。

 先日採寸をしてもらい、その後特注で作らせたそうだ。私はもうそういった事には慣れたけれど、マリアーネはその贅沢な使いように少しばかり恐々としていた。でも、デビュタントで私達が恥かしくないための必要な事なのでと話して納得してもらった。

 そんな中々に贅沢なドレスは──


「レミリア姉さまっ、凄いです! 綺麗だとか、そういうのを超えて……凄いです」

「マリアーネも素敵よ。うふふ、本当に物語のお姫様(ヒロイン)みたいよ」


 ミシェッタとリメッタにそれぞれ着付けをしてもらい、お互いの姿を見た感想がそれだ。

 私のドレスは先の希望通りに、鮮烈な赤を基調としたもので縁などに黒を使った細かい刺繍が施されている。自分で言うのもアレだが、この悪役令嬢ことレミリアにはピッタリすぎる服だ。もしこれで余所のパーティーにでも行ってしまえば、途端に注目を一手に集めて主役食いになってしまいかねない。

 ……そう、思っていたのだけれど。

 その考えは、同じように着付けを終えたマリアーネの姿を見た瞬間に霧散した。白を基調にしたドレスは、私が持つ惹きつける華やかさはないが、そこには一度見たら心を奪われるほどの清純さを感じる高貴さがあった。穏やかなで心地良い太陽の息吹を感じるような純粋な光、そんな感じだ。

 私とマリアーネの互いの印象だけじゃなく、他の人はどうかと思い専属メイドの二人にも聞いてみるが、どちらからも絶賛の言葉を頂いた。普通ならば主人を褒めて当たり前という所だが、この二人は私との数年来の付き合いのうえ、随分と親しくしてきたので私相手には妙な世辞を言ったりはしない。なので本心なんだと嬉しく思った。

 嬉しいといえばもう一つ。このドレスを作った職人が、作り上げた時に浮かんだインスピレーションで更にもう一着ずつ追加作成して合計四着作ったとか。本人としては自分が勝手に作りたくて作ったので、費用を受け取るわけにはいかないと言ったそうだが、受け取りに行ったミシェッタが「これは正規購入費として支払う価値がある」と言い張りきちんと支払ったそうだ。

 ちなみにそのドレスは私は紫を基調、マリアーネは青を基調としたもので、また先の二着とは細かい部分で違う細工のある丁寧な仕上がりだった。なので、折角だからと途中でお色直し的に着替えることになった。うん、ちょっとしたサプライズ演出にもなるね。


 こんな感じで、私達のデビュタントは着々と準備を進めていた。それが順調すぎてどうかとも思ったが、まあ不穏を疑うのもどうかと思っていたのも事実。

 だからこそ思いもしなかった。私達のデビュタントで……あんなことが起こるなんて。






 遂に、私達のデビュタントの日がやってきた。

 当日はもちろん、前日からも屋敷は目まぐるしいほどの忙しさだ。なんせ領主である侯爵の令嬢のデビュタント。それはある意味、この家だけじゃなく領地しいては国内での存在を左右するといっても過言ではないからだ。

 会場である屋敷のホールには、続々と貴族がやって来た。貴族ご夫婦は無論、他家の嫡子令嬢も多く見られる。領主令嬢のどちらかとでもお近付きになれたら、という事なのだろう。

 私とマリアーネはホールの舞台袖で準備をしていた。最初は二人で舞台より挨拶をすることになっているからだ。お互い舞台を挟んで左右に分かれて待機している。舞台に向かって右側の上手(かみて)に私、左側の下手(しもて)にマリアーネだ。しばらくして、舞台にお父様が立ち皆の歓談が止み注目が集まる。もちろん私達は、舞台下からは見えない場所に立っている。


「お集まりの皆様、フォルトラン侯爵家へようこそお越しくださった。心よりの感謝を申し上げたい」


 おお、お父様の挨拶が聞こえる。いよいよ始まったなという気持ちがわいてくる。


「ではこれより、我が娘のレミリアとマリアーネ。二人のデビューをどうぞ(わたくし)共と共にお祝い下さい」


 そう言ってそっと舞台袖に下がるお父様。私の横を通り過ぎるとき「さあ、行っておいで」と声をかけてくれた。私が顔を上げると側にいたミシェッタが反対袖のリメッタに合図を送る。それを受けマリアーネに声をかけ、そしてその目がこっちを見て頷く。

 さあ、私達の艶姿をとくとご覧あれですわ!




 ──瞬間、会場の明かりが一斉に消える。それにより、先ほどの歓談時とは別のざわめきが沸く。


「なんだ? どうした?」

「まだ昼間なのに、なんだこの暗さは?」

「いやまて! ここの明かりはどれも点いているぞ!?」


 驚いている声を聞き、私は笑みを浮かべならが舞台へそっと出て行く。今このホールは真っ暗で、私が舞台へ出ていることに気付いている人は招待客には一人もいない。……そう、この暗闇は全て私の演出なのだ。私が舞台中央から少し右に寄った場所へ立つと、そこに赤いドレスを着た私の姿が浮かび上がる。


「なっ……!」

「あれは、レミリア嬢か?」

「ではこの暗がりも演出だと……?」


 皆の視線が一斉にこちらに向き先ほどの不安な声ではなく、「何かやろうとしてるのか?」という期待を含んだ声に変わる。そんな会場の空気変化を感じた私は、体ごと下手(しもて)へ方へむく。

 すると、それにあわせるように舞台中央から反対位置にマリアーネの姿が現れる。


「おお、今度はこちら側に……」

「あれが新たに迎えたというマリアーネ嬢か……」

「とても可愛らしい……」


 白いドレスで暗い舞台に浮かぶマリアーネは、どこか儚げで神秘的にみえたのだろう。その姿を見たものは皆うっとしとした目で一瞬で心を奪われたようになった。

 私が舞台中央に歩き出すと同時に、マリアーネもこちらに歩いてきた。そして二人で並び立ち、今日来てくださった皆様を舞台上より見る。驚きを中心とした様々な感情を顔に出して、こちらを見てくれているのがよくわかる。

 マリアーネと手を繋ぎ、舞台の一番前まで来る。そして、お互い繋いでない手を高々と伸ばす。

 その瞬間、ホールが一瞬まばゆい光に包まれたかと思うと、すぐに最初の……歓談をしていた時の明るさに戻る。いや、若干その時よりも温かな光を感じる明るさだ。

 どういう仕掛けなのかと驚いている人が多い中、私とマリアーネが揚げていた手を下ろす。会場の皆の視線が私達二人にあつまる。


「レミリア・フォルトランです」

「マリアーネ・フォルトランです」


 私達は二人そろって舞台上でカーテシーをする。その一寸たがわぬ動きに、会場の皆はほぉっと感心したような声をあげる。


「本日私達は、皆様のいらっしゃる社交界へとデビュー致しました」

「皆様、どうぞ宜しくお願い致します」


 カーテシーで摘んだドレスをそのまま、舞台前に設置した階段を下りていく。そこで会場からは割れんばかりの拍手が起きた。

 ……うん、無事に挨拶はできた。よかったよかった。




 先ほどの会場の暗闇などの演出。あれは私とマリアーネの……魔法である。

 司祭様より話を伺った後日、私達は改めて教会へと足を運んだ。光魔法と闇魔法について詳しく聞くためだ。

 急な訪問にもかかわらず、司祭様は笑顔で迎えてくれた。そして私達の意図を話すと、少し驚いた後とても楽しそうに優しく笑ってくれた。そして話をしていくうちに、何か簡単な魔法をそれぞれ習得できないか、という話にまでなった。

 マリアーネの光魔法は、簡単だけど活用性のある【ライト】をという話に。魔法で光を出す魔法で、一度呼び出せばけっこう持続して明るくしてくれるとのこと。それを聞いたマリアーネは、


「じゃあ夜にレミリア姉さまの部屋へ遊びに行ったときに役立ちますね!」


 と思いっきり奮起した。その結果……初めて挑戦した時は力みすぎて、生み出した光の玉がまるで閃光弾のようにまばゆい光を放った。それは真昼なのに『部屋の窓から漏れた光が空高く一筋の道筋を描いていた』と目撃者に言われるほどだった。その後、改めて力を抑えて扱えるようになり、マリアーネは【ライト】を習得した。


 では私の闇魔法はどうなのだろうか。実際のところゲームとかで闇魔法って『毒』とか『即死』とかのイメージが強いんだけど。そう思っている私に司祭様が進めてくれたのは──【イレース】だった。これって確か“消す”って意味だよね? まあ、なんとなくそんな感じかなぁって魔法だ。

 でもどういう遣い方をすればいいんだろう? そう思って司祭様に聞いてみると、


「この【イレース】という魔法は、存在を消すのではなく、事象……起こっている事を消すのです」

「……ええっと、よくわかりません」

「つまりですね……」


 そう言って立ち上がると、部屋のカーテンを閉めて暗くする。まったく暗いわけじゃないけど、夕方くらいの暗さにはなったかな。すると司祭様は棚から蝋燭を持ち出してテーブルに置くと火をつけた。それにより少しだけ明るさが戻る。


「今この部屋は蝋燭の火で明るくなっていますが、この“火で部屋を照らしている”という事を理解できれば、火を灯したまま【イレース】で部屋を暗くできます」

「へぇ~…………」


 その不思議な言葉の組み合わせに、私の中のゲーム好き感性が少し刺激された。要するに火によって明かりという光源──光が発生しているため、それが室内に反射して私達の目で視認できるようになると。そういう事ならおまかせよね。私達の前世では、そういった雑学が溢れていたし。きっとこの世界の人には、なぜ光があると人間は目が見えるのかとかわかんないんだろうけど。

 私は無意識にすっと手を前にかざす。魔法をかけるならやっぱりこうじゃないとね。そして火が部屋を明るくしている事象についてのことを思い巡らせながら、


「【イレース】」


 そっと呟いてみる。すると部屋が一瞬で暗くなった。……そう、蝋燭の火を灯す前と同じように。だが目の前にある蝋燭の火は灯ったままだ。


「凄い! 凄いです!」

「ありがとう。でもマリアーネも凄かったわよ」

「はい! えへへ」


 お互いを褒めてると、驚き感心した声で神官様がつぶやく。


「本当にすごいわ。いきなり成功させるなんて……。普通はまず魔法を使う対象のイメージを固めることに随分と手間をかけるものなのに」


 まあその辺りは、いわゆる現代科学の基礎知識ってヤツですかね?

 この後、応用編として部屋に降り注ぐ太陽の日差しを消すことも挑戦してみた。結果、昼間なのに一瞬にして夜中のような暗い部屋になった。

 私とマリアーネは、この覚えたての魔法をデビュタントの演出に組み込んだ。

 その結果は、ご覧の通り大成功だった。




 そんな不思議な光と闇の演出を終え、舞台から降りてきた私達二人はすぐに沢山の人に声をかけられた。ここできちんと挨拶をして、今後の社交界でのお付き合いの基礎地盤を作るのだ。

 マリアーネも少しおっかなびっくりではあるが、きちんと侯爵令嬢らしく対応をしている。


 その時だった。

 ふと別のざわめきが舞台前に集まっている人垣の向こうから聞こえた。そして、その人垣が外から順番に左右に割れていき、ざわめきが近付いてきた。

 誰か特別な人でも来たのかと思っていると、割れた人垣の中をまっすぐこちらにやってくる人物が見えた。そしてその人物を見た瞬間、私の思考が停止するほどの衝撃をうけた。


「マ、マリアーネ……」

「? どうしましたかレミリア姉さま」


 かろうじて隣にいるマリアーネに声をかけた。そして私は──


「あれは……アライル・フィルムガスト王子。ゲームの攻略対象の……筆頭よ」

「えええええっ!?」


 ざわめく会場に、驚くマリアーネの声が響き渡った。



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