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転生令嬢姉妹は平穏無事に過ごしたい  作者: のえる
第四章 学園生活 ~レミリア15歳~
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078.悪役令嬢と慈愛の女王陛下

 それから何日か過ぎ、学園視察の日となった。

 さすがに国内でも特に高位の貴族が多く来られる為、普段は出入り口くらいにしかいない守衛が、今日に限っては学園外周を等間隔で囲むように配置されている。

 はっきり言って過剰すぎる。でも、それには立派な理由があった。それは──


「まさか国王陛下や女王陛下まで視察にくるなんてねぇ」

「でも自分の息子達が通い、一人は生徒会長、もう一人は授業の様子を見れるとなれば、人の親としては見たくなるのも仕方ないのでは?」


 私の呟きにマリアーネがごもっともな意見を述べる。そうなんだよねぇ……なんと今回の学園視察、当初は参加予定の無かった両陛下が来ることになったのだ。

 過去の学園視察においても、陛下自らが足を運ぶ事は今までなかった。それ故に今回は異例ではあるが、皆の感想としてはそこまで不思議という訳でもないようだ。


 まず陛下の子である両殿下が学園に在籍している。これだけでも陛下が視察に来る意味は重々有るといえる。それに加え今年は聖女が二人──私とマリアーネがいることが大きいといわれた。国という枠組みをはずれ、世界において聖女が存在することの意味を考えると、もしかして両殿下よりも重視されてしまっているかもしれない。

 まぁ、それにくわえ領主の嫡男に、王立の図書館館長の子息と令嬢もいる。見方を変えれば、将来この国を背負っていく若者達が丁度集まっているとも言えるわけだ。国王としても今この時期からきちんと目をかけて。他所の国の横槍をも牽制する意味もあるのかもしれない。

 そんな訳で、当初よりも何倍増しの緊張感を漂わせて、学園視察ははじまったのだった。




 とりあえず一時間目は、自習という名前の待機時間となった。両陛下たち視察の方々は、今職員の方達との話をしている。次の二時間目にいよいよここ1-Aの授業を参観しにくるのだ。

 なので今は実質待機のための時間となっている。だが、さすがに視察団の面子を考えてしまうのか、教室内で普段通り落ち着いているのは、アライル殿下と私とマリアーネくらいだった。

 ……あ、もう一人いた。ヴァニエール先生だ。彼は両殿下の魔法指導として以前から両陛下と面識があるのだろう。そういう関わりを持っていないゲーリック先生のほうが、幾分落ち着きがないようにも見える。授業担当をヴァニエール先生と交代しておいたのは、ある意味大正解だったかもしれないわね。


 そんな状況なので、先生が二人もいるのに自習という不思議な一時間目だったが、各自が心構えをするための時間についやされて終了。時々隣のティアナが不安そうな顔をしていたのを、何度かたしなめたくらいで私は何もしなかった。マリアーネは時折フレイヤと話をしていたが、何を話してたのかまでは流石に聞いてない。


 休憩時間になると、多くの生徒が一旦席を立つ。どうやら皆お手洗いにいくとか。随分と緊張してたみたいで、気付けばティアナも席にいなかった。ともかく次の授業までおとなしく待つ事にしよう。そう思っていたのだが、ふいに教室の空気がガラっと変化するのを感じた。

 いくら私がお気楽気質でも、この変化が何かはわかる。ゆっくりと教室の後方へ視線を向けると──いました両陛下。その隣には、領主とその妻……要するに私達の両親もいるが、やはりここで目を向けるのは両陛下だろう。そう思っていると、国王陛下と目があった。慌てて私は起立して向き直り礼をする。本来であればきちんとした挨拶をすべきだろうが、今の状況ではこれが最善だろう。

 すると国王陛下は軽く頷いて、隣の女王陛下に声をかけて私の方へ視線を向ける。それに伴い、女王陛下が私の姿を見つけると、とても嬉しそうに上品に手を振ってくれた。それに私も、少し裾をつまんで礼を返す。

 その光景にクラスが少しざわついた。学園においては、あまり聖女だ何だと意識されてないので、いわゆる一介の生徒が女王陛下とあのように親しき姿を見せたことに驚いたのだろう。

 そして、その後女王陛下はマリアーネとフレイヤにもにこやかに手を振った。それにもまたざめつきが起きる。


 私達と女王陛下の仲は、毎年行われる王宮ガーデンパーティーから始まった。それは12歳──私とマリアーネが、フレイヤとであった日……ではなく、その翌年のガーデンパーティーだ。

 その頃には既に仲良くなっていた私達は、当然誘い合ってガーデンパーティーに参加した。まだその頃のフレイヤは自分の魔力について知らなかった時期だが、私とマリアーネは既に聖女としての自覚があり、その事は王族と一部の者たちには認知されていた。

 そんな私達はガーデンパーティーで女王陛下に話しかけられ、その日を境にとても仲良くなった。きっかけは私達が聖女だという事柄だったが、なんと後押ししたのはフレイヤの知識だった。今も昔も本の虫であるフレイヤは、ガーデンパーティーを前にいつも以上に花に関する知識を得ていたのだ。それが女王陛下との会話でいかんなく発揮され、女王陛下はもちろん王宮庭園で花の管理人にも大いに感心された。そんなフレイヤが、王立図書館の館長を勤めるサムスベルク伯爵の娘だと知り、より一層仲が縮まることになったのだった。


 礼をして席に座った私を、となりのティアナが呆けるように見ていた。どうしたのと軽く突くこと数回、ようやく「はっ!?」と意識を戻したティアナは私に聞いてきた。


「あ、あの! レミリア様は女王様と仲がよいのですか?」

「ええ、仲はよろしいかと思います。あと、女王様ではなく女王陛下と呼ぶようにね」

「は、はい。わかりました」


 仲間内で話すならそれでもいいけど、多分ティアナはそういう使い分けをしてないわよね。そういった会話での癖に昔から触れてない為、『偉い人には“様”を付ければ大丈夫』みたいに思っているのだろう。


 まだ少しざわついている教室に、二時間目の予鈴が鳴る。それでも普段なら、先生が来るまでは雑談に興じる人も多いのだが、流石に今日は皆席に付き先生を待つ。そして、先生も既に廊下で待っていたのか皆が席に付いたと同時に入ってきた。

 担任であるゲーリック先生は教室の隅に待機し、ヴァニエール先生が教壇に立つ。


「まず最初に。本日は学園視察ということで、本クラスでの授業を参観して頂きます。そのような訳でして、教室後ろには視察の方々がお見えになっておりますが、普段通りの姿を見せれば良いのです。では授業を始めます」


 そう言って、どこか楽しげな顔をするヴァニエール先生。おおぅ、度胸あるわね。

 ちなみに授業はこの国と魔法の歴史という、結局のところ視察団にも配慮した授業だった。途中いくつかの質問を先生がなげかけ、その一つは私が答えることになった。ちくしょー、本当に私を当ててきたよ。私の場合は両陛下よりも、両親の前ってのが気になる要因なのに。




 参観授業はつつがなく無事に終わった。落ち着いてみえたヴァニエール先生も、さすがに終わった時に安堵の息をはきだしてた。まあ、さすがにね。

 折角なのでと私は教室後ろへ行き、両陛下へ挨拶をした。国王陛下とはあまり言葉を交わしたことがないが、女王陛下とはそこそこ会話をしている。へたすれば、他所の貴族方よりも話しているかも。

 ちなみに私は、隣のティアナを連れてきている。両陛下がすぐ傍にいて、軽く……いや、かなり逃げ腰及び腰の状態だが『逃げるな』と視線で捕まえている。そんなティアナを見て、私のお母様であるアルメリア・フォルトランがぱっと笑みを浮かべた。


「ティアナさん、お久しぶりね」

「は、はい! アルメリア様もお元気そうでなによりです」


 まだ表情の固いティアナだが、今ここにいる大人達の中で一番会話ができそうなお母様に声をかけられて、少しばかりホっとしている様子が見て取れる。

 その様子を見ていた女王陛下が、お母様に声をかける。


「アルメリア、そちらの……」

「ティアナさんですわ陛下。こちら娘のレミリアとマリアーネのご学友です」

「まぁ、レミリアさん達の……はじめましてティアナさん」

「は、はひぃ、は、はじめまして……」


 優しい笑みをたたえ、女王陛下がティアナに声をかける。だが、さすがに相手が陛下ということで、ティアナはとてつもなく緊張している。なんとか挨拶は返せているが、おそらく普通に会話するのは無理なんじゃないのかしら。

 だがその空気を、読めてるのか読めてないのか……お母様は平然と陛下に次の情報を話す。


「ティアナさんってば土魔法が凄いのよ。家の花壇の土に、すこし魔力を注いでもらったのですが、その後に咲いた花がどれも瑞々しくて、まるで輝いているかのように」

「まぁ! そうなんですか?」


 お母様の言葉に女王陛下が思いきり反応した。なんせ陛下は王宮の庭園に咲き誇る花々をこよなく愛している。なので今お母様がなさった話は、当然ながら見過ごせないのだろう。案の定ぱっと両手でティアナの手をつつみ、思い切り顔を覗きこむように話しかける。


「ティアナさん、よろしければ一度王宮の庭園の花を見に来ませんか?」

「えっ! あ、で、でも、私は……」


 まさかの言葉に驚き、そして助けを求めるようにこちらを見るティアナ。それもそうだろう。よりにもよって、この国で最高位の人物から間近でお誘いをうけているのだ。アレは私でもかなりびびるわよ。

 とはいえこれは流石に私が間に入るべきだ、仕方ないわねぇ。


「陛下よろしいでしょうか。彼女──ティアナは平民である自分が、王宮の庭園に訪れるのは分不相応だと考えているようです」

「平民? ティアナさんが?」


 驚く女王陛下の声とともに、他の貴族方がざわざわとする。クラスメイトたちは既にティアナが平民だからという考えはなく、何も思わないが大人はそうはいかない。よく見えないが、きっと中には顔をしかめている者もいることだろう。


「……そう。貴女が今年現われたという魔力を有した平民ですのね」

「………………はい」


 じっと見らながら女王陛下の言葉に返事をするティアナ。どこかつらそうな様子に、思わず私がまた声をかけようとしたのだが。


「素晴らしいですわね! では、ぜひとも一度いらっしゃいな。よろしければ、私も一緒に庭園を見て回りたいものです」


 ティアナの手をもう一度しっかりと包むように握り、女王陛下は優しくそう言われた。思い返せば、フレイヤがガーデンパーティーで()()だとさげすまれていた時期も、女王陛下は笑顔で言葉を交わされていた。この女王陛下は、人そのものが本当に女王陛下なのだ。

 その言葉を聞いて、呆然としたティアナの肩を私は軽くたたく。ハッとしてこちらを見たティアナに、私はゆっくりと頷く。


「……ありがとうございます。私も是非、庭園の花々を見てみたいです」


 しっかりとそう返事をしたティアナに、女王陛下は「ありがとう、約束よ」と優しく微笑むのだった。



本来の更新予定日である明日はお休みを致します。

11月は仕事が少し多忙なため、投稿が出来ない事が多くなるかもしれません。

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