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転生令嬢姉妹は平穏無事に過ごしたい  作者: のえる
第四章 学園生活 ~レミリア15歳~
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070.悪役令嬢と責任を担う立場と

 花壇に生えている花の整理も終え、あとは肥料と水撒きをするのみ。


「ティアナー、肥料は準備できたー?」

「は、はい。今持っていきます」

「ああ、それは私が──」


 ティアナは返事をして肥料が入った篭……じゃないわね。アレ何? まさか竹蓑(たけみの)? なんでこの世界にそんな道具あんのよ。ともかく、肥料が入ったソレを持ち上げる。軽々と持ち上げる彼女を、クライム様が驚きの顔で見ている。彼女は実家が農家で、手伝いとかしてたからお手の物なのよね。


「レミリア様、これでよろしかったですか?」

「ええ、大丈夫よ……って、なんだかずいぶんホカホカしてますわね」


 ティアナが持ってきた肥料は、随分と解れているのがわかったが、そこから仄かに湯気が立ち上っている。これは一体……あ、もしかして。


「そういえばティアナの魔法使用申請も出してたわね。これって、その影響なの?」

「あ、はい。実はですね、その……」

「ティアナ嬢が上手く説明できなさそうなので、私が代わりによろしいですか?」


 説明しあぐねているティアナを見て、クライム様が何か説明をしてくれるようだ。その様子を見て、フレイヤとお兄様もこっちにやってきた。


「ティアナ嬢に土魔法の指導を何度か行っていくうちに、彼女の魔法の効力がわかりまして」

「え、そうなの!? 何々、どんなの!?」


 思い切り前のめりになる私に、苦笑するクライム様。っと、良く見れば皆も同じ表情だ。くぅ。


「ティアナ嬢の土魔法は、およそ『土』と認識できる物の動きを制御する魔法でした。魔力を流し込んだ土を移動させたり、逆にその場に(とど)めて移動させないようにしたり。今はまだ狭い範囲でしか効果を発揮できませんが、それでも十二分に可能性を秘めている能力です」

「「「「おおっ!」」」」


 説明をしているクライム様と、話題の当事者であるティアナ以外は、その褒めっぷりに感嘆した。そういえば、以前マリアーネはティアナの魔法が凄いかもしれないみたいな事を言っていたが、まさにその通りだったということか。

 だが、確かに凄い能力なのかもしれない。もしその能力を自在に扱えれば、実家の農家にも色々と役立つんじゃないのか? そんな事を思った時、ふと初めてティアナが魔法を使った時の事を思い出す。


「えっと、それなら以前授業で魔法を使った時、土が温かくなったのって高速で振動してたのよね? アレって、ティアナがそういう動きを土にさせてたの?」

「そうなんですが……正確には少し違いますね。その当時のティアナ嬢は、自身の魔法で土が動くとは思っていませんでした。だから目的もなく、只無闇に魔力を土に流し込んでいただけです。その結果、帯びた魔力が飽和した土が、行き場の無い力を発散するように振動現象を起こしていたんです。そして、その動きの副作用で、熱が発生して地面の温度上昇が起こったと」


 どこか楽しげに説明するクライム様。もしかして、こういう説明とか好きなのかしら。確かに英才と呼ばれてるだけあって、分かりやすい話ではあったけれど。


「ともかく、これを応用すれば土塊による物の創造も可能になるかもしれません。永続的な物は難しいですが、ゴーレムなどを一時的に作り出して労力にするとか……」

「土の中に時間がたてば固まる素材を混ぜ込めば、魔法が切れた後もずっとそのまま形が残るのではないのかしら?」

「ほぉ、さすがはレミリア嬢。面白いかもしれないね」

「ともかく凄いじゃない。がんばってねティアナ」

「は、はいっ」


 ティアナの魔法効果が判明し、暫くその話をした後に作業を再開した。まだ少し温かい肥料を、ティアナが器用に満遍なく土に撒く。花の上からではなく、地表に丁寧に敷き詰めるように撒くのは、さすが実家の手伝いをしてるなぁと感心する手際。

 綺麗に撒き終わった後は、フレイヤが魔力で出した水を入れたじょうろで水を撒く。ただ、やはりフレイヤではまともに持てないのでお兄様がこちらに運んできたが、それをティアナはひょいと手に取り撒き始める。……もしかして、ティアナって力強いのかしら。

 水は花の上からも満遍なく撒く。随分と水不足で、花も水をほしがっていた様子だったしね。ただ、ここで一つだけちょっとした出来事が。それは──


「あの、フレイヤ様。この水……何か特別な効力がありますか?」

「え!? な、何かありましたか?」


 水を粗方撒き終わった時、ティアナが不思議そうな声で聞いてきた。まさかそんな事を聞かれると思わなかったフレイヤは、驚いてティアナの方へ。


「そのですね……先程までこの花、少し水不足で萎れて茎も一部茶色くなっていたのですが……」

「……えっと、健康そのもの、ですよね?」

「はい。この水をかけましたら、すぐさま元の色に戻り、まがった茎もまっすぐになりました」


 ティアナの言葉を聞いて、皆は何となく視線を一斉ににマリアーネへ向ける。案の定、それを受けたマリアーネはそーっと視線を外した。うん、これは『私は何も知りませんよー』とトボける大根役者ごっこだな。それを見て、お兄様が一つ大きなため息をついた。


「マリアーネ。今回は見逃すが、ちゃんと学内での魔法使用は申請するように」

「はーい、わかりました」


 そう言ってニコニコと笑みを浮かべる。それを見てお兄様は私を見ながら、


「……昔は素直で大人しかったのに、誰に似たのやら」

「ちょ、お兄様!? 今のはどういう意味ですの!?」


 まさかの跳弾発言に声をあげるも、周りは皆楽しげに笑みを浮かべる。というか、マリアーネ! なんで貴女もさもありなんみたいな顔で笑ってるのよっ。

 私の隣に戻ってきたティアナも、当然のように笑顔だ。


「レミリア様は、本当に皆様から愛されておいでですね──って、痛たたたッ!? 痛い、痛いですレミリア様っ!?」


 思わずティアナのこめかみをぐりぐりしてしまう私。嬉しそうに馬鹿な事を言うからよ、もう。

 とにもかくにも、これで花壇の整備も完了した。これからは、定期的にお世話をすれば大丈夫だろう。


 そんな事を思っていたのだが、後日事態は好転することになった。

 実はお兄様とクライム様の様子を伺っていた女子生徒の中に、花が好きで自身でも育てているという人がいたのだ。その人は校舎裏の花壇を知らなかったようで、私達の行動を見てその後のお世話を買って出てくれたのだ。またその方には園芸仲間がいて、仲間数人で花壇のお世話をすることになったとの事。

 もちろん私達もたまに様子を見に行くし、ヴァニエール先生も気にかけてくれているらしい。そんな訳であの花壇は、無事これからも綺麗な花を咲かせてくれることになるだろう。




 翌日の放課後、私は一人生徒会室に居た。一応書記という役割があるため、昨日行った花壇整備の顛末を記録する為だ。書記の仕事というと、何となく会議などの議事録というイメージだが、私としては文章として残すべきもの全般だろうと考えている。

 なので本日は一人で事後処理的な作業をしている。皆も一緒にいようかと言ってくれたが、書き物作業をするので集中したいからと断った。……まぁ、本心はこんな事につき合わせるのは申し訳ないという事だが、おそらくそれもわかっているのだろう。

 そんな訳で一人黙々と昨日の出来事を記録していく。すると、誰も居ないはずの生徒会室のドアが開く音がした。


「お疲れさまレミリア嬢」

「あら、アーネスト殿下。どうなさいましたか?」


 姿を見せたのはアーネスト殿下。書き物をしている私を見て「ご苦労様」と声をかけながら、生徒会室に入ってくる。


「書記のレミリア嬢が生徒会活動をしているなら、会長の私が居ないわけにはいかないと思ってね」


 そう言って自分の席に腰を下ろす。確かにもっともらしい意見ではあるけど……。


「……他には?」

「ケインズに頼まれたんだ、自分は用事でちょっと行けないからと。あいつに頼まれたのに行かなかったら、後で俺がどうなるか」


 苦笑いを浮かべるアーネスト殿下を見て、何をしてるんだよお兄様と心の中でツッコミをいれる。気持ちはわかるけど、一国の王子──第一王位継承者をこき使うなんて。


「申し訳ありません、兄がとんだ我が儘を」

「いいよ、気にしてない。寧ろ気兼ねなく言ってくれるから、気楽でこっちも嬉しい」


 そう快活に笑う殿下には気遣いの雰囲気は感じない。本心からそう思っているようだ。

 だからだろうか、そんな姿にこちらも少しだけ気軽に話しかけたくなってしまった。


「そうですか。でも……」

「ん?」

「もしここに一人でいる人物が、私じゃなくマリアーネであったなら、アーネスト殿下は誰に言われるでもなく真っ先にお越しになっていらしたのでは?」

「……ははは。うん、そうだろうね」


 一瞬言葉につまるも、すぐさま素直にその言葉を肯定する。この当たりの対応は、僅か二歳差とはいえ十分大人だなと思う。伊達に国政にからんでいるわけでは無いってことか。

 笑顔を浮かべたアーネスト殿下は、表情を少し引き締めると私に聞いてくる。


「私がマリアーネ嬢に好意を抱いている事、姉であるレミリア嬢はどうお考えであろうか」


 後少しで書き物が終わる──というタイミングでの質問だった。しかもなかなかヘビーだ。

 暫し私の物書き音のみが響く生徒会室。そして書き終わりパタンと記録帳を閉じ、顔をアーネスト殿下の方へ向ける。


「私が何かを言うことは御座いません。大事なのは当事者の気持ちではありませんか?」

「…………そう、だな。ああ、その通りだ」


 普通であれば、王族の相手は政治の道具に過ぎない。だがマリアーネは“聖女”だ。聖女という存在は、時に国王と同等かそれ以上にも祀り上げられる存在。実際問題、殿下が聖女を自身のパートナーにしたいという考えに、国の重鎮貴族達は反対することは殆どない。

 だから後は本人の気持ち次第だ。


「すまなかった。なんだか問いかけておきながら、内容は愚痴を漏らしているようだった」

「お気になさらないで下さい。それだけ(マリアーネ)を気遣ってくれているという事ですから。(わたくし)としても好ましい事ですわ」

「そう言って頂けると、こちらも気が軽くなる」


 にこやかな笑みを返すアーネスト殿下。よし、話は終わったかな……と席を立とうとしたのだが。

 ふいに殿下がニヤリと笑う。……あら、なんだか悪い顔に見えますわね。


「ところで……レミリア嬢」

「な、何でしょうか?」

「そちらの方はどうなっているのかな?」

「えっと…………どちらの事でしょうか~……」


 ニヤニヤと笑み浮かべ、楽しげな声でこっちに話しかけてくるアーネスト殿下。国の代表がしちゃいけないような顔してますよっ!?


「もちろんアライルとの話だ。それとも、ケインズとの話の方がいいか?」

「くっ……、こ、この……」


 思わず『腹黒王子!』とか叫びそうになったが必死にこらえた。

 結局この後、しばらくは私を巡る二人の話を根掘り葉掘り尋ねられることになった。

 もちろん、うかつな返事はしなかったが……なんだか凄く疲れましたわ。



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