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転生令嬢姉妹は平穏無事に過ごしたい  作者: のえる
第三章 学園入学 ~レミリア15歳~
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065.悪役令嬢の すごい 平穏を目指して

「レミリア嬢。何故貴女がその事を知っているのですか?」


 微かに怯えを感じさせる声で、ディハルトは私に問いかけてきた。彼が前世の記憶を持っている……という事は、今の時間軸的には本人以外知らないハズだ。ゲームの中で、彼と心を通わせたヒロイン(プレイヤー)だけが知り得る情報なのだから。

 だが、こんな場所でふいに出逢ってしまったため、思わず余計な事を口にしてしまった。おかげで私に向けられる視線の痛いことったら。

 さて、どう説明したらよいのやら……。そう考え暫し沈黙をしていると、じっと此方をみていたディハルトが何かを思いついたようで口をひらく。


「その知識も、聖女の力の一環なのですか?」

「え? えーっと…………そのようなものです……すみません」


 正確にはちょっと違うが、まるっきりの見当違いでもない。なので対外的に……というか、彼向けにそういう事でまとめておくのが無難だろうという結論にいたった。


「……そうですか。わかりました」

「あ、えっと……個人のプライベートな事を軽々しく口にして、本当に申し訳ありませんでした」


 もう一度、先程よりも丁寧に頭をさげて謝罪をする。暫しの静寂の後「わかりました」との声が、下げた後頭部に向けられた。それでようやく顔を上げたが、さすがに今はバツが悪くて彼の方を見れない。

 その状態でまた暫しの沈黙となったが、いつまでもこうしているわけにはいかなかったのだろう。


「……それでは失礼致します。それでは来週、学園で」

「あ……」


 軽く会釈をしてそそくさと立ち去ってしまったディハルトに、どうにもやるせない感じで手を伸ばして……ひっこめる。何を私は乙女チックな事してんのよ! ……なんてセルフ突っ込みする気力も、今はわいてこなかった。

 もう一度大きなため息をつく。そしてティアナの方を見れば、どうしたらいいのかという迷いをにじませた表情を浮かべている。


「ごめんなさい。貴女に同行すると言っておきながら、またしても私事(わたくしごと)のせいで時間を使ってしまったわね」

「あ、いえ……それは全然かまわないんですが……」


 どこか言葉尻を濁すような物言いに「?」となっていると、ちらりとこちらを見たティアナがぽつりとつぶやく。


「レミリア様って、時々すごいうっかりさんですよね」

「んなっ……」


 屈託無い笑顔でさらりと言われてしまった。ティアナがそんな事を言うのか……と、少しばかり驚いた。そのおかげで私の心も多少軽くなる。意図してか無意識か……それはわからないけど、今回はティアナの言葉で気が楽になった。


「……ホラ、余計なこと言ってないでお目当ての本を探しなさい」

「はいっ」


 私の言葉に元気良く返事をして、ティアナはまた本棚へと向かう。私は少しだけ頬が熱く感じたけど、それを鏡で確かめるような事はしなかった。






 その後、マリアーネ達と合流していよいよフレイヤの家へ。その際、図書館でディハルト──ヴァニエール先生に会ったことも話した。……会ったとだけで、余計な事は言わなかったけど。

 それにしても……さっきもそうだけど、ディハルトの事をヴァニエール先生って呼ぶクセをつけたほうがいいかもしれないわね。ゲームの推しキャラだったせいで、名前呼び捨てがデフォだったけれど、来週から教育研修生として学園に来るのだから。名前呼びしてるのを誰かに聞かれ、よけいな誤解が生じないともかぎらないし。

 そんな事を考えながら、馬車に同乗しているティアナの方を見る。私が考え事をしているため、話し相手もいなくて暇をもてあましている──なんてことは無い。窓の外の景色を、ずっと楽しげに眺めている。ティアナにとっては、図書館への道中もそうだが、目的地のフレイヤの家へ行くのは初めてのこと。もし馬車の座席が電車のロングシートみたいだったら、彼女はぜったい靴を脱いでひざ立ちで外を見てるんじゃないかしら。子供の電車内のよくある光景よね。


 そんな訳で特に会話が交わされるでもないが、穏やかでのんびりした空気のまま、私たちはフレイヤの家に到着したのだった。

 そんな私たちを、出迎えてくれる人物がいた。


「皆さん、お待ちしてましたわ」

「えっ! お母様!?」


 出迎えてくれたのはフレイヤのお母様。普通ならば母親が出迎えることに不思議はないのだが、この人の場合は少し違う。なんせ──


「どうしたんですか? お父様と一緒に図書館に居たのでは?」

「フレイヤとそのお友達が来るんですもの、今日のお仕事はちょっとお休みよ」


 そうニッコリと笑みを浮かべるこの人は、フレイヤのお母様であり王立図書館の司書長でもある。ただし、本日は娘が帰宅するので仕事をお休みしたと。おそらくはお父様──館長さんも休もうとか言ってたんだろうね。フレイヤの両親は、娘をことさら可愛がっているから。


「ご無沙汰しております」

「また本日もお邪魔致します」

「ええ、待ってたわ。もちろん大歓迎よ」


 私とマリアーネが挨拶をする。とはいえ、丁寧な挨拶は最初だけだ。フレイヤのお母様……おばさまとは、気心の知れた間柄なので、以降は親しい知人と接するように言葉を交わす。だが、今日はその前にもう一人挨拶を交わすべき人物がいるのよね。


「は、はじめまして。ティアナです」

「はい、はじめまして。……ティアナさんはフレイヤのお友達かしら?」

「えっ、そ、それは、その……」


 おばさまの質問に、少しうろたえるティアナ。私たちにとってはなんでもない質問だが、平民のティアナにとっては「平民の子が、貴族(うち)の子のお友達とでも?」みたいな感じに受け取れなくもないのだろう。もちろん、おばさまにそんな意図は微塵もない。……ちょっとだけイタズラ心は混じってるかもしれないけど。

 返答に困ったティアナはちらりとフレイヤを見る。だが何か言うこともなく、笑みを浮かべているだけである。コレは多分、フレイヤも返答を楽しみにしているっぽいわね。


「……お、お友達……です」

「うふふ。ありがとう、これからも娘をよろしくね」

「は、はいっ」


 安堵した表情を浮かべるティアナと、やはり嬉しそうな顔をしているフレイヤ。ティアナが自分の口で、友達だと言ってくれたことが嬉しいようだ。


「さあさあ皆、中に入ってね」

「は、はい。お邪魔します」


 笑顔のおばさまに手をひかれ、目を白黒させながらティアナは屋敷の中へ。


「……おばさま、とても楽しそうね」

「そうね。さぁ、私たちも楽しみましょう」

「ええ」


 入り口から漏れ聞こえるおばさまの楽しげな声を耳に、私たちも笑みを浮かべて屋敷の中へ入っていった。




 まずはさっそくお昼を頂いた。

 簡単なコース料理だったが、いつもの四人+おばさまという面子での食事。最初は、やはりティアナが緊張気味だったが、食事をしながらのおしゃべりを進めるうちに、いつしかそれも解きほぐれていった。最後にデザートを頂く際には、自分からおばさまに話しかける事ができるほどだった。


 楽しい食事の後は、フレイヤの部屋での時間だ。私はどちらでもよかったのだが、フレイヤが「私の部屋でのおしゃべりは、お母様はダメですよ」と禁止令が出た。それで、ちょっとだけふくれたおばさまが可愛らしかった。


 フレイヤの部屋へ移動するとき、ティアナは屋敷内を見ては感心していた。学園とも、先週泊まった私の家とも違う内装に、目をキラキラさせているのがとても楽しそうだ。


「ティアナ、あんまり余所見ばっかして転んだりしないでね?」

「は、はいっ」


 そう言うと、すぐさま姿勢を正して歩き出す。う~ん……


「……せっかくのフリなんだから、転んでもよかったのよ?」

「ヒドイですっ!?」


 ティアナに心底驚くような目で見られた。こっちでは、やはりノリツッコミ文化が無いのね。後ろでマリアーネはくすくす笑ってるけど。

 理不尽です……と呟くティアナだが、その困惑した顔もフレイヤの部屋へ到着するまでだった。部屋主にうながされドアを開けて入った先は、私とマリアーネには見慣れた……でもティアナには、初めて見る部屋だった。

 私たちの部屋とはまた違う、でも年頃の女の子らしい部屋。その中でも──


「あっ! あの子がフレイヤ様の子ですね!」

「ええ、そうよ。どうぞ手にとってみてください」

「はい!」


 笑顔で手を伸ばしたのはフレイヤのぬいぐるみ。先週教わって自分の分を作った際、フレイヤが自分の子も一緒に並べたいと言っていた子犬のぬいぐるみだ。他の三体と同様に、白色と何かの色を使った配色になっており、フレイヤのぬいぐるみは白と青だ。


「ふわぁ~、この子もかわいいですねぇ。フレイヤ様もこの子を寮へ連れて行くんですよね?」

「もちろんよ。これでやっと皆の子と並べてあげられるわ」


 ティアナより手渡されたぬいぐるみをそっと抱きかかえ、嬉しそうに笑みをこぼす。その光景を想像したら、この世界にスマフォやデジカメが無いのが悔やまれた。実際、色々と良い風景を見ても、それを残す手段がまだこの時代には無いのだ。まぁ、無理なものは無理だ。この世界の発明家さん、一日でも早くカメラとか作ってね。






 その後、夜にはおじさまも帰宅されたのだが、なんと一緒にクライム様も一緒だった。どうやら本日私たちがお泊りするという事で、女性率が高く少々おじさまが居づらいのでは……というのを心配しての事らしい。後は、


「久しぶりに、学園外でのレミリア嬢を見たくてね」


 とも言われたけど、それはまあサービストークでしょ。

 ……いやいや、クライム様からも婚約話を申し込まれてるのは忘れてないわよ。でもそれは、アライル殿下もそうなんだけど、私の未来の平穏無事が確定するまでは返事をするつもりはないのよね。


 今の雰囲気なら、ゲームの悪役令嬢バッドエンドはなさそうにも思えるけど、時々ゲームにそったイベントが発生したりもしてるから油断はできない。

 でもまぁ、ゲームで悪役令嬢が糾弾されるのはタイミング的に三学期のはず。それまでは気をつけた生活をすごしながらも、やはり楽しく過ごしたいものよね。


 来週からは、最後の攻略対象のディハ──じゃない、ヴァニエール先生もやってくるし。


 もしかしたら、ようやく始まるのかもしれないわね。

 悪役令嬢(レミリア)の本当の物語が。




今回で第三章が終了し、次回から第四章となります。

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