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転生令嬢姉妹は平穏無事に過ごしたい  作者: のえる
第三章 学園入学 ~レミリア15歳~
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062.そこにある すごい 大好き

 ティアナをかばうかのごとく腕を組んで仁王立ちする私に、彼女を取り囲んでいた女子生徒達はおびえるような目を向けてくるばかりだった。

 正直な気持ちとしては、このまま尻尾を巻いて逃げ帰ってくれるとありがたいんだけど。確かにものすごく腹は立ってるけど、ここで何かしたら問題になっちゃうし。それに無許可で魔法を使うわけにもいかないわよね。

 そう思っていたのだが……どうやらリーダー格の女子生徒は、なんとか気丈にもこちらを睨んでくる。だがその睨みも、私には何の効果もない。寝起きに鏡で見る私の顔にくらべたら、それこそ微笑しているにも等しい表情だわ。……あ、ちょっと自分の言葉にヘコむ。

 そんな事を考えてるとは、露にも思わない女子生徒が、私に向かって口を開く。


「レ、レミリア・フォルトラン様! 如何様な理由で、その平民をかばうのですか!?」

「…………ぁん?」


 彼女の言葉に思わず顔がゆがんでしまい、変な発音の疑問符が飛び出てしまう。心の中でゆらりと吹き上がりそうになる怒りを抑え、ゆっくりと彼女の方へと歩み寄っていく。


「先程私が言ったこと、聞こえませんでしたか? ティアナは私の『友人』だと言ったのですが」

「ひぃっ……」


 語気を強めながらずいっと詰め寄る。それに伴い、半身のけぞるようにして女子生徒は後ろへ下がろうとする。


「それに私、学園にいる間はティアナを特別に専属メイドとして雇っておりますの。無論学生だから、最優先は勉学ですが、私が彼女を必要とする場合は常に傍にいて頂くようにしていますのよ」


 その言葉に、そこにいる女子生徒達から驚きのざわめきが広がる。ティアナが私の専属メイドとなれば、彼女を害する事はそのまま私に対しての行いという事にもなるからだ。


「後は……」

「な、なんでしょう……?」

「この学園の生徒であれば、身分の上下は無いとする決まりの筈。全員がただの“一学生(いちがくせい)”にすぎません。貴女方も、ティアナも、無論私もです」


 じっと睨まれながら言われ、更にたじろぐ女子生徒達。


「だというのに貴女達は、自分がまるで貴族であるかのような物言いをする始末……」

「お、お待ち下さいレミリア様──レミリアさん! 決まりの事は承知しておりますが、私達はまるで(・・・)ではなく、正真正銘の貴族ですわ!」


 なけなしの気力を振り絞ったのか、怯えながらも私に向かって反論をしてきた。だがそれは、今の私にとってはあまりにも空虚に感じる行為だった。


「貴女達が貴族……? フフッ、真面目な話をしている時に、冗談はおよしになって下さいませんか?」

「なっ!? い、いくらレミリアさんとはいえ、我家への侮辱は見過ごせませんわ!」


 気丈に振舞う姿に、周りの女子生徒達も同様に頷く。


「……何を言ってるんですか貴女は。私が、いつ貴女の家への侮辱をしましたか?」

「え? で、ですが先程は確かに……」


 そして予想通り、ありきたりな反応をする彼女。なので私はそれに対し、こちらもお約束(テンプレ)言葉を返すことにした。

 ──そう。ゲームや小説で、わがままな貴族の子息令嬢に対するお決まり事だ。


「貴族の家に生まれたから貴族……とでも思っていらっしゃるのかしら? あまり貴族を()めないで頂きたいですわね。貴族というものは、貴族に生まれるのではありません。貴族は()るものなのです」


 両手を腰にあて、少しふんぞり返るようにして言い放つと、女子生徒達は一瞬何か言い返そうとするも、私の顔を見て弱々しくうつむいてしまう。


「今の貴女方のように、その意味も理解せずご自分を貴族だと言うのは、両親を含むすべての貴族への冒涜にも等しい行いですわよ。そして、それら志を等しく学ぶべく、学園では身分の上下を無くすように勤めているのではありませんか?」


 この辺りは私の個人的な推測だ。学園における身分を無くして接する方針には、驕り高ぶった貴族の子供達を見るための意味合いもあるのだと思っている。もちろん、それが全てではないだろうけど、どこかそういう思惑のある規則なんじゃないかと私は考えたのだ。


「他人を陥れる暇があるのでしたら、ご自分を磨かれてみてはいかがでしょうか? ……もう、よろしいですわね。行きますわよティアナ。クライム様がお待ちですわ」

「あっ! そうだ、クライム様をお待たせして────」


 そう呟いたティアナが、この場を後にしようとした時。



「──こんな所にいたのか、ティアナ嬢」



 新たな……それも、男性の声が聞こえた。聞き覚えのある声にそちらを向けば、走り回ったのか少し服装も息も乱れたクライム様がそこにいた。


「クライム様……」


 ほっとしたような、でもどこか申し訳なさを含む声でティアナが呟く。女子生徒達は、とにかく気まずさしか無いようで、できうる限り顔をうつむかせて目を合わせないようにしている。

 だがそんな空気をモノともせず、クライム様はティアナの前面にまで歩いてきた。


「なかなか姿を見せないから心配したよ。少し遅くなったけど、訓練場へ行こうか」

「あ……はいっ!」


 もはやこの場に用事はないと、きびすをかえすクライム様。ティアナもそれに付いていこうと歩き出す。それで終われば、まあいいや……と思っていたのだけれど。


「……お、お待ちくださいクライム様!!」


 空気を読めないのか読まないのか、この期に及んでまだ何か言おうとする女子生徒が。その声に立ち止まり、振り向いたのを見て慌ててその前へ進み出る彼女。

 だがクライムの表情から、目の前の人物に一切の興味がないように感じられた。


「お教えください! 何故そこの平民──」

「うおっほん!」


 彼女の言葉が少し不快だったので、すぐさまわざとらしい咳をしてみる。顔色を悪くする彼女とは反対に、クライム様はこちらをちらりと見て苦笑している。


「そ、そこのティアナ……さんの魔法指導は了承して、私の申し出はお断りされたのですか?」

「貴女は…………ああ、あの時の」


 ようやくまともに顔を見たのか、まさに今誰か気付いたような口ぶりのクライム様。女子生徒はそのことにも少し顔を歪めるが、返答を聞きたいためか言葉をこらえているようだ。

 だが、そんな彼女に対するクライム様の言葉は、感情ののってない平坦なものだった。


「ティアナ嬢は私に魔法の指導を申し出たからですよ」

「そ、それならば私も──」

「違いますよ。貴女が欲したものは“私の指導”という情景です」


 そう言ったクライム様は、今まで見たことないような鋭い視線を目の前の女子生徒へ向けた。


「自惚れだと取られるかもしれませんが、この学園の皆から私に対する評価は高いと感じております。故に、そんな私に目をかけられたという事象──それを貴女は欲していた」

「そ、それは違います! 私は純粋に魔法の指導を……」

「ならばお伺いします。何故“私”なのですか? お言葉ですが、貴女から感じる魔力属性……おそらくは火属性ですね。火属性魔法の指導であれば、私よりも優れた者はいくらでもいます。それなのに私の所へ来た理由、納得のいく説明ができるならお伺いいたします」


 決して語気は荒くないが、有無を言わさない迫力を伴ったクライム様の言葉に、そこにいる誰もが口をきけなかった。しばし沈黙が続くも、時間の無駄と判断したらしいクライム様は、ちらりとティアナを見るとその険しかった表情がふわりと優しげに変わる。


「ですが彼女──ティアナ嬢は違った。私が土属性魔力を持っているから魔法指導を受けたいと、そう申し出たからです。それに、彼女は他にも私を納得させる理由をきちんと述べてくれましたから」

「そ、それは一体何ですか!?」

「……教えませんよ。それは彼女が、自分で導き出した言葉なのですから。知りたければ、自分が何のために魔法を学ぶのか……それを自分で考えてください」


 そして、今度こそ彼は振り返らずこの場から立ち去った。私とティアナも一緒に立ち去り、残されたのは呆然と見送る数名の女子生徒だけだった。






 訓練場へ向かう私達は、クライムの後ろに私達二人が付いて歩く。


「……ねぇティアナ? 一体どんな言葉で、クライム様に認めてもらったの?」

「ええっ!? そ、それは、そのぉ……」


 私の質問に慌てるティアナ。本音を言えば少々気にはなるが、程度としては気になるゴシップレベル。別段無理に聞き出すつもりはないけど、ティアナの反応がいいからついからかってしまう。

 だから無理やり聞き出すつもりは無いのだが、そのあたりの機微はまだティアナには感じられないのだろう。前を歩いていたクライム様が立ち止まり、振り向いて軽いため息をつく。


「レミリア嬢、その奔放な部分も魅力だと思いますが、ティアナ嬢も困惑しておりますのでどうかその辺で」

「ふふっ、そうね。ごめんなさいねティアナ、気にしなくてもいいわよ」

「え……あ、はい。わかりました……」


 どこか軽い足取りで、今度は私が二人の前を歩く。後ろで並んで歩いているであろう二人の会話が、聞くとはなしに聞こえてくる。


「……お互い、気苦労が耐えないな」

「ふふっ、そうですね」


 聞く気はなくともハッキリと聞こえてくる声。ただ、そこに確かな親しみを感じるので、ほめられている言葉ではないのに妙に心地よい。



「でも……私はレミリア様の事、大好きですからっ」


「…………ああ、私もだ」



 ……

 …………

 ………………

 前言撤回。ちょっとだけ、照れくさいわね。

 結局この後、訓練場につくまで私は一度も後ろを振り返ることはできなかった。



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