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転生令嬢姉妹は平穏無事に過ごしたい  作者: のえる
第三章 学園入学 ~レミリア15歳~
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061.──そして すごい 悪役の令嬢

10/02更新分は10/03に投稿致します。

 一日の終わりに、疲れを洗い流す風呂は格別だわ。それに寮にある大浴場は、この世界においても中々に貴重な大きな浴槽で、文字通り手足を伸ばせるのは最高だと言わざるをえない。

 なんでもこの近くには昔から源泉があり、それをこの魔法学園の生徒達にとの計らいとか。ありがたいことですねぇホント。


 そんな私だが、今日は身体よりも頭脳の疲労が強い。今日の放課後、マリアーネと二人で久しぶりに会議をした。──そう、この世界でバッドエンドへ突入しない為の、大切な作戦会議だ。学園入学前までは、お互いどちらかの部屋で一緒に寝ることも多く、そのついでに話していたと思う、でもここでは部屋も別で、お互い部屋の相方もいる。なので以前のように、睡眠前にちょっと……というワケにはいかなくなってしまった。

 なので久々の作戦会議だったが、内容はもっぱら推しキャラ──もとい、ディハルト・ヴァニエールの話だった。彼のパーソナルデータを始め、ゲームでの設定と裏設定、ついでにボツ設定なんかも話しはじめたところで、


「……レミリア姉さま。本当にヴァニエール先生を、“異性として好き”ではないんですよね?」


 と念押しの問いをされてしまった。

 せっかくなので、改めて丁寧に考えてみることにした。その結果……やはり“異性として好き”という感情は希薄、という結論に到った。

 その理由は極めて簡単。彼──ディハルト・ヴァニエール──は、私にとって乙女ゲーム『リワインド・ダイアリー』の登場キャラクターとして好きだから……だ。

 私が好きになったディハルトは、ゲームの中の主人公(ヒロイン)であるマリアーネと心を通わせる人物。決して悪役令嬢(レミリア)と想いを語らう、そんな存在ではなかった。そして、私はそれでいいと思っている。だってゲームの中では、私は悪役令嬢ではなく、物語のヒロインだったのだから。そこで描かれるディハルトの夢物語は、すべて隣にヒロインがいた。だから、私にとってのディハルトとは、ヒロインと共にあるべき存在だと思っている。

 そう思えたとき、私の心の中にストンと一本気持ちが通り落ちた。だから私は、胸を張っていえる。ディハルトは私にとっての“推し”であって、想いを向ける存在ではないと。

 故に、マリアーネからの質問にはキッパリと答える。


「彼の事は好きよ。でも、それは恋愛感情ではない。私にとって、彼は憧れるゲームキャラなのよ。夢見る少女が『恋に恋する』のと同じよ」

「レミリア姉さま…………」


 私の返事を聞いて、どこか寂しそうに……そして悲しそうな表情を向けてくる。

 そして、ゆっくりと息を吐き出したマリアーネは、じっと私の目を見て。


「精神年齢アラフォー疑惑のレミリア姉さまが、『夢見る乙女』とはいかがなものでしょう」

「な、なによぉ~! そこはさらっと受けるなり流すなりしてくれればいいじゃない!」


 などと、部屋でわいわい騒いでいるとティアナが帰ってきた。なんでもフレイヤと二人でお茶をしていた所、偶然やってきたクライム様に願い出て魔法指導をしてもらうことになったとか。ただ、約束をした事が事後報告になってしまい申し訳なさそうにしていたので、学生は勉強が最優先だから問題ないわよと言っておいた。せっかくのティアナのやる気に、水をさすわけにはいかないもんね。






 翌日、ティアナは終始どこか楽しそうにしていた。だが、基本彼女は表情豊かなので、その微妙な変化に気付いたのはクラスでも私とマリアーネとフレイヤくらいだ。もっともこの三人は事情も知っているので、何もないただの一日と同じような時間が過ぎていった。


 そして夜、大浴場ではティアナを囲んでの報告会をしていた。幸いにもここには、私達四人しかいなかったので貸切状態だった。声も反響するし、ちょっとばかし広いカラオケにでもいる気分ね。

 女が三人集まれば(かしま)しいのに、四人も集まれば唯々女姦(やかま)しいとしか言えないほどに、私達は楽しい入浴タイムを過ごした。

 ただティアナが、クライム様に指導してもらっている時に、見学している人が何人か居た……という話を聞いた時、少しだけ何か頭にひっかかるような気がした。だがそれは、ここ最近あったゲームの記憶復元とは違う気がしたので、気のせいだろうと私はそのまま流してしまった。

 ……そう。この世界での私の“気のせい”は、気のせいでは無いことが多いというのに……。






 それに気付いたのは、次の日の放課後だ。

 やっぱり何か気になるなぁ……と訓練場へ向かう途中、すでにティアナへの指導を行っているはずのクライム様が、誰かを探すようにこちらへ歩いてくる姿が見えた。それを見た瞬間、いやな感じがぶわりと私を襲った。


「レミリア嬢! 貴女のご学友であるティアナ嬢を見ませんでしたか?」

「……ティアナでしたら、もう随分前に指導を受けに行くと訓練場に向かいましたわ」


 私は所用で暫し教室に滞在していて、今さっきこちらへやってきたばかりだ。すぐさま訓練場へ向かったティアナがたどり着いてない筈がない。


「そうですか……。少し待っていたのですが、なかなか姿が見えないので探しに来たのですが」

「どうしたのかしら。あの子、昨日もとても嬉しそうに魔法指導の話をしてくれましたし、今日もクライム様の魔法指導を楽しみに……」


 そこまで言って私は、自分の言葉に含まれる何か(・・)に気持ちがざわつく。


「……レミリア嬢? どうしましたか?」


 私の様子に、どこか心配げな声をかけてくるクライム様。だが今の私は、自分の発言を振り返ることで精一杯だ。一体何にひっかかったの? ……そうか、クライム様の魔法指導……これに何か──。


「…………まさか」


 ポロリと出たのは、もしやと驚く自分の声。キッと顔を上げてクライム様を見る。その表情が鬼気迫っていたのか、一瞬驚くようなそぶりを見せるクライム様。


「ティアナが女子生徒達に呼び出されてるかもしれません! 探しましょう!」

「えっ…………ちょ、レミリア嬢!」


 すぐに(きびす)を返して走り出す。背後でクライム様が何か叫んでいるが、説明をする時間も惜しいと思ってしまう。

 走り出した私の中には、ゲームの中で起きたイベントがしっかりと思い出されていた。


 それはゲーム『リワインド・ダイアリー』の序盤のイベントの一つだった。

 ゲームでは唯一の聖女であるヒロイン(マリアーネ)だが、義理の姉である悪役令嬢(レミリア)のせいで、まともに魔法を学ぶ機会にめぐまれなかった。そんな中、学園でも英才と呼ばれるクライム様に出逢い、そこで魔法の基礎──魔力運用を教わるのだった。

 だが悪役令嬢はその事を良しとせず、クライム様に想いを寄せる女子生徒を従え、ヒロインを人気の無い場所へ呼び出すという内容だ。もちろんゲームでは、進行に合わせてちゃんとクライム様が助けに来てくれ、悔しげに立ち去る悪役令嬢……という展開に。


 では、この世界は?


 何もないならそれで良いと思う。でも、今ティアナが行方不明になっているのはどうしてだろう。

 そういえば、以前もティアナがヒロインイベントをこなした事があった。入学式の日、アライル殿下とぶつかったのはティアナだった。

 その時も一瞬だけ、脳裏をよぎった推測がある。そして、それは今また湧き出てきた。


 ──もしかして、ティアナはこの世界でのヒロインが辿る物語を、補正するための存在?


 彼女はゲームには居なかった。フレイヤのように名前と設定のみ……というレベルではなく、まったく原型がない。にもかかわらず、初めて会った日から私達と十分に関わってきた。

 そんな存在の彼女が、ゲームでヒロインに起こるイベントを受け持つ役目があるなら──


 そんな仮説を組み上げながら、脳の別の場所ではティアナの居場所を推測していた。

 ゲームであのイベントは、普段生徒がなかなか近寄らない校舎の裏側だったはず。それに関しては設定資料の学校見取り図に、“ここでイベントあり”と記述されていたから知っている。私は制服が少しばかり乱れるのも気にせず、全力でその場所へ走っていった。






 目的の場所へ一直線に来た私が目にした光景は、校舎を背にしたティアナと、それを取り囲んで逃げられないようにしている数名の女子生徒だった。

 これを見た瞬間、私の中で何かスイッチが入ったような感じをうけた。

 久しぶりに……本当に久しぶりに、湧き上がる感情そのまま、声高らかに叫んだ。




「あなた達! 私の友人に一体何をしているのかしらッ!?」




 私の声が、人気(ひとけ)の乏しい校舎裏に響く。その声に驚き振りむく女子生徒達は、次に私の顔をみて卒倒しそうな顔を見せる。どうやら私の事をお知りになっておられる様子で。

 そして本来の私の目的であり……大切な友人、ティアナ。


「…………レミリア様」


 私を見ると、どこか気の抜けたような声で名前を呼ばれた。今にも倒れそうな様子だが、幸い何かされたという様子はなさそうだった。

 走ってきたことで少々息が上がったが、流石に15歳の健康な身体ね。もう呼吸も整ってきた。一つ大きく息を吐き出すと、周りの女子生徒達がビクっとする。


「ティアナ、貴女こんな所で何をしているのかしら? 訓練場はこちらじゃなくてよ?」

「え、あ、はい……」


 私の言葉に、一瞬状況を忘れたかのように呆けた返事をするティアナ。

 そんな彼女に向かってわたしはずんずん歩いていく。その進路上には、ティアナを罵っていたであろう女子生徒達が。中でも私の正面にいる人が主犯格なのだろう。だが、今の私にそんな事は知ったこっちゃない。意に介せず近寄ってくる私を見て、女子生徒達は横へどいていく。

 そして、ティアナの正面までやってきた。


「うぅ……レミリア様ぁ……」


 直ぐ目の前に私が来たことで安心したのか、ふらふらとこちらに手を伸ばしてきた。

 なので、私もティアナに手を伸ばして────


「ていっ」

「いったあああぁっ!? レ、レミリア様ッ!?」


 おもいっきりデコピンをしてやった。

 ティアナは勿論、周りの女子生徒達も、事の成り行きに唖然としているのが手に取るようにわかる。

 そんな彼女達をぐるりと見渡すと、またしても怯えるような表情を向けてくる。


 どうやら今の私、私史上(わたくししじょう)最高に最強で最恐な顔をしているようですわね。



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