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転生令嬢姉妹は平穏無事に過ごしたい  作者: のえる
第三章 学園入学 ~レミリア15歳~
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055.二属性持ちの すごい 秘密

 もう一度「すまなかった」と頭を下げ、アライル殿下は養護室から出て行った。彼が持ってきたのは、私を含めた女性陣の分の弁当のみで、自分の分は別の場所で取ることにしている。


「さて、それじゃあお昼にしましょうか」

「はーい」

「わかりました」

「………………」


 私の言葉に、マリアーネとフレイヤが返事を返すすも、ティアナが軽く表情を強張らせたまま動こうとしない。どうしたのと二、三度突いてようやくハッとした表情を浮かべる。


「レ、レミリア様! さっきの、ア、アライル殿下に、その、えっと……!」

「落ち着きなさいティアナ。貴女ってば、すぐに慌てふためくわね」

「だ、だってその、いくらええっと……触ったからと言って、殿下にあそこまで……」


 そこまでの言葉を聞いて私達は「あぁ~」と声を漏らしてしまう。要するに『アライル殿下は私の為に抱きかかえてここまで運んでくれたのだから、あのように頬を叩くのは些かやりすぎなのでは』……と言うのだろう。


「えっとねティアナ、先程のアレについてだけど……どちらかと言えばアライル殿下の為にやったことなのよ」

「へ? 殿下の為に……ですか? それはどういう……」


 ティアナの表情が困惑にかわる。多分……いや、ほぼ絶対正しく理解できてないのだろう。さすがに「殿下は頬を叩かれるのが好きなの!?」という感想は浮かんでないだろうけど。


「アライル殿下はね、自分を律して厳しくありたいのよ。以前はそうでもなかったんだけど、ある時から相手を気遣うように心がけるようになってね。だから先程の、胸を触れてしまったのも不可抗力だと理解しているのに、申し訳なく思うせいで私を見ることができてなかったでしょ?」

「あ、はい。それは何となく……」

「そこで言葉で説得できればいいんだけど、彼は変な所で意固地だからね。だから少し手荒だけど、あの対処で納得してもらったのよ。……わかった?」


 私の言葉を聞いて少し考え込んだあと、ティアナの口から出た言葉は。


「……要するに、お二人とも不器用ということですか?」

「ちょっ、あなたねぇ……」

「あはは! ティアナさんよく分かってる!」

「うふふ、言いえて妙ですわね。ふ、ふふふ………」

「なっ、何よ二人まで!」


 思いがけないティアナの天然口撃に驚く私に、マリアーネ達からの揶揄が飛ぶ。これが根も葉もない事なら反論するが、私が不器用なのは自覚してるから口惜しい。


「それよりもお腹が空きました。お昼を頂きましょうか」

「あ、はい。準備しますね」


 私の言葉に返事をして昼食の用意を始めるティアナ。といっても、私達のお昼はミシェッタとリメッタによるお手製弁当だ。正確に言えば、更にマインとティアナも参加している。なので私達四人は、全員同じ弁当ということになっている。そうなれば女子四人とはいえ量もそこそこなので、個別にはせずおかず毎に分ける……あれよ、運動会弁当というヤツにしている。もちろんご飯はおにぎりよ。以前クレアのデビュタントで披露したのを、ミシェッタ達にも覚えてもらって作ってもらっているわけ。……まぁ、さすがに家事のプロフェッショナルだけあって、すぐに綺麗なおにぎりを握れるようになったけど。


「それでは、いただきましょう」

「「「はい」」」


 全員で食前の祈りをささげ、ようやく私達は昼食となった。




 体調も良くなったので、午後の授業は復帰した。時々フレイヤやアライル殿下がこちらを見てくるのは、心配してくれているのだろう。ティアナも時々見てくるが、あの子は今日みたいなことが無くてもよく見てくるので平常運転だ。

 そしてマリアーネだが、案の定彼女は一切こっちを見る素振りがない。おそらく今までの経験から、何故私が気を失ったのか理解しているのだろう。


 ……それにしても。アライル殿下も随分と変わった……というか、大人になったと思う。以前は第二王子という立場故か、アーネスト殿下よりも奔放な部分も多かったと思う。それは私に婚約を申し出てからもあまり変化が見られなかった。

 だが、そこに一つのきっかけが出てきた。それがクライム様……フレイヤのお兄様だ。彼の方からも婚約を申し込まれ、結果二人はある種の競争相手ということになった。そのクライム様が、歳が一つ違うだけとは思えないほどの落ち着きぶりを見せる英才だった。それからアライル殿下も、王族としての大意振る舞いを更に律して、いわゆる騎士道精神という者をしっかり学んでいったらしい。『男子三日あわざれば──』との言があるけど、久々に会ったときは私も随分驚いたものだった。

 尤も、私はそのどちらともお付き合いをするという意思はないが、さりとて「嫌い」という訳でもないので、少しばかりずるいとは思うがお互いを友人だと言って問題は棚上げしている。なんせ私はこの世界で“平穏無事に生活する”という目標があるからだ。うっかり王族貴族と婚約なんてしようものなら、そこから綻びが生じていつゲームの私破滅エンドへ向かうかわからない。

 幸いにも、今のところは目立った危機は訪れそうもない。だが、うっかり気が抜けて平和の天秤が傾いたら、あっという間に私の人生は沈んでしまうだろう。


(……ん?)


 考え事をしながら授業を受けていると、マリアーネがこっちを見た。といっても、心配しているとかではなく、何か話がしたいとか……ともかくそんな感じだ。その辺りの感情の機微は、何故かよく理解できるのよね。阿吽とでもいうのかしら。

 そんでもって、おそらく聞きたがってるのは攻略対象──ディハルト・ヴァニエールについて。彼女は『リワインド・ダイアリー』をさわりしか見てないから、当然彼の情報を何も知らない。とりあえず、今日は寮に戻ったら一度二人で話をしたほうがいいわね。

 私はマリアーネの方を見て、ゆっくりと頷いた。




 そして放課後。寮に戻った私は、部屋でマリアーネと話すことにした。同室のティアナは、今隣の部屋へ行っている。フレイヤにも話を通し、マリアーネと大切な話をするので暫く来ないようにと釘を刺しておいた。いくら親友でも、さすがに転生だゲーム世界だという話は、荒唐無稽すぎるところだ。


「……さて、どこから話したらいいかしらね」

「その前に確認。朝先生が言ってたディハルトさんって人が、以前から言ってる『最後の攻略対象』で合ってるんだよね?」

「ええ、そうね」

「了解。私達が聞いてるのは名前と伯爵家の次男って情報だけかな」


 おそらくは、そこで私が倒れて話が頓挫してしまったのだろう。まだ先の話とはいえ、皆には申し訳ないことをしてしまったわね。


「まずは基本のプロフィールから。名前はディハルト・ヴァニエール。ヴァニエール伯爵家の次男って所までは聞いてるわね」

「うん」

「貴族だから当然魔力保有者なんだけど……」

「ど?」

「ディハルトは、“火”と“風”の二属性を保有しているの」

「へぇ~……」


 私の言葉に、驚きと感心の声をあげるマリアーネ。この辺りが、やはり感性が転生者ってことなんだろうか。この世界の人間なら、二属性持ちともなればそれは大変な事らしい。ただ、彼が二属性持ちだということは、一部の人間しか知らない情報だ。おそらくは両殿下をはじめとする、王族とそれに近い人のみだろう。


「ただ、二属性持ちという事は、一般には知られてないらしいから内緒よ」

「わかったわ。その辺りも、色々複雑な事情があるってことね」

「そういうコト」


 二属性持ちは珍しい──それは稀にしか居ない存在だからであるが、なぜ二属性を有しているのかは不明である。……が、私はおそらくソレ(・・)を知っている。というか、ある事を知っているから、ディハルトが二属性持ちになっているという事を知っている。

 これはゲーム『リワインド・ダイアリー』で、ディハルトルートを遊んだ者しか知らない事。つまりこの世界では、私と彼本人しか知らない情報だ。だが、さすがに転生者のマリアーネには知っておいてもらうべきだろう。


「それでね……ディハルトには、ある秘密があるの」

「秘密? それってその位の?」

「んー……とりあえずこの世界では、私とディハルト本人しか知らない秘密」

「えぇー……なんかソレ、重くない?」


 眉間に少しシワを寄せて、うわーどうしよーという感じの顔をするマリアーネ。たしかに見方によれば、重いと取れなくもないかもしれないけど。


「でも私も知ってた方がいいかもしれないんでしょ? だから教えて」

「わかったわ。ディハルトの一番の秘密、それはね……彼が『生まれ変わり』ということよ」

「えっ!? ディハルトって人も転生者ってこと?」


 さすがに驚くマリアーネ。だが、実際はちょっと違う。


「そうじゃなくてね、“この世界で生まれ変わった”という事よ。彼は前世は、この世界の別の国の農民よ。今ならわかるけど、それはおそらくこの世界でいう着物の国ね」

「へぇ……この世界で生まれ変わりなんてあるんだ」

「そしてその生まれ変わりっていうのが、二属性持ちの要因でもあるわけ。彼の中にある前世の記憶が、風属性魔力の源になっているのよ」

「それじゃあ、もし他にも二属性持ちの人がいたら……」

「この世界での生まれ変わりなのかもしれないわね」


 全部が全部というわけではないだろうが、二つの属性を持っている理由としてはかなり有力だろう。それゆえに、二属性持ちが稀な存在なんだという事だから。


「でもレミリア姉さま、ディハルトさんってその……教育実習生だっけ? この学校に居るのって一時的なものじゃないの?」

「正しくは教育研修生ね。同じようなものだけど、こっちでの教育研修生は、研修期間を終了したら学校に着任する事が前提になってるの。その辺りは先生にも確認したし、ゲームでも同じ流れだったわ」

「そうなの? でもいきなりどっかの担任とかにはならないよね?」

「確か臨時で学年副主任とかになるわね。……ええ、もちろん一年生よ。だから担任のゲーリック先生が学年主任だから、おそらく一番一緒にいる事になるわね」

「となると、私達1-Aが一番関わる可能性も高い……のかな?」

「おそらくね」


 そこまで話したところで、思わず二人で「う~ん……」と唸ってしまう。やはり、本人を見てみないと話は始まらないということか。

 ともかく、初顔合わせは来週という事だし……今気をつけることは『会っても余計な事は話さない』という事だけかな。特に生まれ変わりの話は、ゲームでもルート確定の上、終盤になってもうトゥルーエンド以外ないだろう……という状況になって、初めて明かされる話なのだから。


「……まぁ、おおよそはこんな感じね」

「わかった。話すときは気をつけるわね。……あ、最後に一ついいかな?」

「ええ、いいわよ。どうしたの?」

「えっとね……」


 これまでの少し緊張した空気はどこへやらと、少し笑みを浮かべるマリアーネ。


「ディハルトさんって、格好いい系? 可愛い系?」


 ……なるほど。それは乙女ならば、是非知っておきたい情報ね。


「ふっ……格好いい系よ」


 自分の事でもないのに、つい自慢げに言ってしまった。

 まぁ、確かに『リワインド・ダイアリー』の中でも、格好いい&神秘的な攻略対象で人気だったわね。

 そして……いかんせん、『リワインド・ダイアリー』において私の“推し”でもあった。ちょとだけ……そう、ちょっとだけ楽しみにしている自分がいたりするのよね。



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