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転生令嬢姉妹は平穏無事に過ごしたい  作者: のえる
第三章 学園入学 ~レミリア15歳~
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053.親睦の すごい 深め方

 私の部屋にて楽しく歓談をしていたのだが、ふとティアナが窓の外を見て驚いた様子を見せる。


「いつの間にか随分暗くなってますね。お戻りになるのは何時ごろでしょうか?」

「ん? 何が?」

「いえ、ですから……外はもう夕刻ですので、あまり暗くなりますと寮へ戻るのが大変になるのではありませんか?」


 心配そうに言うティアナに、私は安心させるように笑顔で答える。


「大丈夫よティアナ。今日はこの部屋でお泊り会をするからっ」

「………………え?」


 ティアナが驚きのあまりに固まった。そのまま暫く動かないので、おそるおそる呼びかけながらつついてみると、ガッと両肩を掴まれてしまった。


「ちょっ、ちょっと待って下さい! お泊りですか!? 私、着替えとか全然持ってきてません!」

「ああ、大丈夫よー。ティアナ用に新しい下着や寝巻きを用意したから」

「えっ……何時の間に……」

「『備えれば憂いなし』って言葉があってね、ティアナが忘れた場合を想定して用意しておいたのよ」

「忘れたんじゃないです! 知らなかったんです!」

「まぁまぁ、もうここまで来たら泊まっていくしかないでしょ?」


 まだ不満がくすぶっているようだが、ここはもう強めに押し切っておわりだ。なんだか気持ちの整理がつかない感じのティアナに、マリアーネとフレイヤが声をかける。


「ティアナさん、レミリア姉さまが一度言い出したら、もう後は諦めるしかないですわよ」

「そうですよ。ここでゴネたら、もっと色々な条件や約束事を山ほど追加されて、結局最後には押し切られてしまうのがオチです」

「…………あなた達、最近(とみ)に私の扱いがお()なりじゃない?」


 少しむくれるように言い名がらも、ここが文字通りのホームであるため、伸び伸びとできてすごく快適だ。ちょっとばかし自由すぎて、ちょーっとだけティアナも困惑してるみたいだけれど。


 結局なんだかんだと言いくるめ、ティアナも加えて四人でのお泊り会ということになった。なので当然、晩御飯も家で食べることに。ここで、普段であれば「テーブルマナーの勉強よ!」とティアナに指導するところだが、さすがに行き際とお泊りという二段階ドッキリをした手前、これ以上はティアナが倒れちゃうかと思って普通に……本当の意味で普通に食事をとるにとどまった。さほどマナーにうるさくせず、常識範囲内での食事マナーというレベルだ。それでも少しばかり緊張していたようだけど、食べ終わる頃には笑顔を浮かべていたので、楽しんでもらえたようでなにより。


 その後は、少し休んだ後お風呂となった。家のお風呂はそこそこ広いが、さすがに四人一緒は湯船的に無理だと思ったので、二人ずつに分けて入ることにした。とりあえず今日は、私とティアナ、マリアーネとフレイヤという組み合わせ。

 それでティアナと一緒に入ったのだが、さすがに寮の大浴場よりは狭いため、湯船につかるとティアナと横並びになる。ちらりと隣のティアナをみると、普段は何気なく見ているものの、改めてみると……という事に気付く。


「ねぇティアナ。あなたって、けっこう筋肉あるわよね?」

「はい、そうかもしれません。家が農家なので、学園に来る前はずっと家の手伝いをしてましたから」

「ああ、なるほど……」


 前世での現代農業であっても、結構な重労働だ。それならばこっちの世界は、もっと過酷なのだろう。いわゆる農業機械なんかもないから、耕すのも植えるのも全部手作業だろうし。

 しかしまぁ……スリムなんだけど、鍛えられたような感じするわね。……あらま、硬いのかと思ったらすべすべでやわらかいわ。それに張りがあるから、下手な貴族より肌つや良いんじゃないかしら?


「んー……いい肌触りね……」

「あ、あの……?」


 そういえば前世では会社の近くにスポーツジムとかあったわね。よくチラシを配っていたし、会社内にも通っている人がいるって聞いたことあるわ。……私はそんな時間あったらネトゲしてたけど。


「この張りは…………」

「あぁ、あのぉ……」


 こっちにはお手軽な化粧水なんてなさそうだし、それでいてこんなナチュラル肌ってことよね。


「レ、レミリア様っ!!」

「へっ!? …………あぁ、ごめんなさい!」


 ティアナの声で意識を戻すと、顔を赤くしてこっちを困ったように見ていた。ああ、しまった! ついティアナの肌を直に触れることに夢中で、ひどく迷惑をかけてしまったようですわ。


「本当にごめんなさい。貴女の肌が、その……とても綺麗でしたので、つい……」

「いえいえそんな……って、え? 私の肌……ですか? レミリア様たちのほうが綺麗だと思いますけど……」


 そう言ってくるティアナの声には、世辞を交えている様子はない。おそらくは本心でそう思っているのだろう。でも、多分この世界で私とマリアーネだけは、ティアナの方が綺麗だと感じるだろう。私の基準とする“綺麗”は、健康な人間が自然に発する美しさを示すが、皆の“綺麗”は着飾った華やかなものを綺麗だというのだろう。

 思い返せば料理なんかも、やたらと香辛料等で味を濃くしたものが“美味しい”という傾向にある気がする。だがそこには、人間の味覚からくる美味しさではなく、高価な香辛料をふんだんに使った満足感という味の評価が押し出されていた。『(ごう)に入りては(ごう)に従え』との言葉はあるが、それも時と場合によって……よね。


「他人の評価なんて知らないわ。私はティアナの肌、とても綺麗だと思ってるわよ」

「そ、そうですか。その……ありがとうございます……えへへ」


 私の言葉に嬉しそうに相好を崩すティアナ。結局その少し赤らめた笑顔のままでずっといたため、風呂上りの上気した表情からマリアーネたちに「お風呂で何されたの?」と、妙な質問を受けるのだった。


 風呂上りの私とティアナは、部屋でマリアーネとフレイヤを待つ。入れ替わりでお風呂に向かったので、二人が出てきたらようやくパジャマパーティー……じゃない、浴衣パーティーだ。……浴衣会とかのが語呂がいいかしら。

 そんな事を考えていると、ベッドにちょこんと座ったティアナがちょっと遠慮しながらも質問をする。


「あの、レミリア様」

「何かしら?」

「えっと……なぜ部屋の中に、もう一つベッドが運び込まれているのですか?」


 そういって私のベッドの横に運び込まれた、もう一つのベッドに目をやる。何のことはない、コレは隣の部屋から運んできたマリアーネのベッドだ。私もマリアーネも、中身が日本人気質なのか天蓋付きとかじゃなく、極々普通のベッドに寝ている。フレームは木製だが組み立てが簡単な設計で、隣から運んでくる事も容易に出来る。……ええまぁ、ミシェッタ達にやってもらいましたけど。

 元々私達のベッドはダブルベッドなので、二つぴったり並べたことでクアドラプルベッドという事になりましたわ。……嘘です、ダブルのツインです。

 ともあれそんなベッドの、マリアーネのベッド側に私は座っているが、パタンと寝転がってみる。その様子に「え?」という表情のティアナだが、ちょっと面白くなったのでそっちに向かって、


「ほりゃあああ~~~!!」

「わ、わ!? えええっ────あうっ!?」


 ゴロゴロゴロっと転がってみた。当然そのまま進めばティアナにぶつかるんだけどね。


「ふー……。この歳でこんなことするとは思わなかったわ」

「なっ……レミリア様、服がちょっと脱げてます!」

「あら本当。でもこういうときは、『服が(はだ)けてる』って言うのよ!」

「わかりましたから! ともかく前を閉じてください~!」


 わめくティアナに押され、浴衣を着なおして帯を締めなおす。だが、なんだか楽しくなって今度はティアナに抱きついた状態でベッドに寝転がってみる。


「とぉっ!」

「ひゃあああ!?」

「くすっ、なんだか楽しいわ」

「ううぅ~……」


 ティアナとじゃれあっていると、ドアが開いてマリアーネとフレイヤが入ってくる。そしてベッドの上でティアナを捕獲している私を、どこか胡乱(うろん)げな視線で見てくる二人。


「あの……何をしてるんですか?」

「んー…………何をしてるんだっけ?」

「私が聞きたいですよぉぉ!?」


 ティアナが本音を漏らすような叫びをあげる。だって私にもよくわかんないんだもん。なんだか、修学旅行気分とかいうヤツじゃないかしら?


「まぁまぁレミリア。ティアナさんも困惑してますから、放してあげて下さいな」

「フ、フレイヤ様ぁ……」


 フレイヤの気遣いに感動するティアナ。仕方ないのでとりあえず放すけど、まだまだ彼女のことをよくわかってないわね。だって──


「また後で、存分に抱きしめてあげればいいではありませんか」

「えええええっ!?」


 ……ほらね。フレイヤってば、本当にたくましくなってきたわ。誰に似たのかしら……お兄様?

 その後も、何かあるたびにティアナを(さかな)──もとい、話題の主軸にして楽しい時間をすごした。

 とはいえ、さすがに夜更かししすぎは健康によくない。なのである程度でお開きとなった。でも、結局そのままベッドで横になって寝るんだけどね。

 ベッドに端から、ティアナ、私、マリアーネ、フレイヤの順。それじゃあ、お休みしましょうか……という時。


「あ! そうだ、いいこと思いついた~」


 そういいながらマリアーネがベッドから降りる。何をするのかと思ったら、普段はベッドに載せている子犬のぬいぐるみを、窓際に置いていく。私とマリアーネと、今日新しく作ったティアナのぬいぐるみだ。


「ああ~! ずるいです! 家の子だけいませんー!」


 それを見ていたフレイヤが、口をとがらせてずるいを連呼する。でもまあ、さすがにこればっかりは仕方ないとなだめると、


「わかりました! それじゃあ来週は、皆さんぬいぐるみ持参で来て下さい! 絶対うちの子も並ぶんですからっ」

「ふふ、わかったわ」

「いいね、楽しみです」

「…………え? 来週?」


 フレイヤのかわいらしい要望に私とマリアーネは即頷く。だが、ティアナは何のことと目をパチクリしている。あらまあ、これから寝るのにすっかり目が冴えてしまって。しかたない、バレちゃったから説明しておきましょう。


「来週はね、フレイヤの家に皆で遊びに行くわよ。もちろんまたお泊りよ」

「えっ…………えええぇっ!?」


 夜だというのに、私の部屋にはティアナの驚き声が響き渡った。だめよティアナ、夜なんだからもっと静かにしないと。



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