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転生令嬢姉妹は平穏無事に過ごしたい  作者: のえる
第三章 学園入学 ~レミリア15歳~
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048.騒がしくも すごい 穏やかな日へ

 翌朝、私達四人は学園への道を歓談しながら歩いていた。前列が私とマリアーネ、後列がフレイヤとティアナだ。

 最初はティアナに私の隣に来なさいと言ったのだが、


「無理ですッ! せ、聖女様であるレミリア様のお隣なんて……。それに、そうなったら同じく聖女様であるマリアーネ様に背を向けて歩くことになってしまいます! そんな大それたこと、私には……ううっ……」


 と、半泣き……いや、ほぼ全泣きに近い状態で訴えられたので、諦めることにした。……今日は。

 昨日私達姉妹が聖女だと教えたときは、そこまで強い反応は見せてはいなかった。だが、一日明けて色々思考整理が済んだのか、初対面の頃とはまた違った距離感をかもし出しているようだ。

 とはいえ、その事に関してはさほど悲観はしてない。昨夜のお風呂でのように、多少強引ではあってもちゃんと話をすれば相互理解はできるのだから。

 それよりも、今考えるべき問題は別にある。私やマリアーネを注視する視線が、昨日および一昨日よりも明らかに多いのだ。それに、私がその視線の方を向くと、驚いた顔を浮かべた生徒がすっと視線を逸らすのである。ええ、そりゃもうあからさまに。


「聖女だと公表したからには、いくらかの視線に晒される覚悟はありましたが……」

「はい。ですが、どうもそれ以外の思惑を含む視線を感じますね」


 マリアーネと二人でため息を漏らす。ただ、ほんの少しだけ補足をするのであれば、そのよくわからない思惑の視線は、主に私に向けられているような気がするのだ。

 マリアーネが視線を向けただけでは、それを受けた生徒達はどこか気恥ずかしそうな笑顔を向けるのだが、私が同じ様にすると途端に気まずさが上回ってしまう。やはりこの徹底的な“悪役令嬢顔”が問題あるのかしら。

 とはいえ今のところ目だった被害もないので、ヘタにつつかないでおく事にしよう。そんな思惑でようやく学園へ到着すると。


「おはようレミリア。少しいいか」

「おはようございますお兄様。……ハァ」


 待っていたらしきお兄様を見て、思わず大きなため息が漏れる。


「……何故いきなりため息をついてるんだ」

「昨日、一昨日と、お兄様が私に声をかけてきた状況を思い出したからですわ」


 その二回ともが、誤解を多分に含んだ噂話だった。それと一緒に頭に浮かんだ言葉は『二度ある事は三度ある』という文言。だからどうしても、好意的には考えられない。


「なら話は早い。また変な噂が流れているぞ」


 はぁ……やっぱりだ。というか、昨日は特になにもしてないよね? 一番話題になりそうなのは、私とマリアーネが聖女だってことを公にしたくらいだし。


 そうそう! それで、実は学園の外ではえらい騒ぎになっているらしい。

 この世界の聖女ってのは常にいるわけではなく、天より神聖な力を授かった者のみがなれる──みたいな存在で、場合によっては何年何十年と不在の場合もあるとか。もちろん聖女がいなくても、力を持った清き人物……教会の司祭様なんかがそうだね。そういった人たちにより、世界は平穏な時を刻んでいる。

 ただ、国に聖女が……それも二人現われたということで、話があっという間に広まっていると。早いうちに隣国その他にも伝わっていくだろう。だからこそ、私たちが学園に入学したタイミングでの発表という事になっているらしい。魔法学園はこの国の未来を背負う者たちの育成の場で、その重要性は国も理解している。そのため学園は厳重な警備がなされ、関連施設への立ち入りは生徒関係者の中でも許可がある人物のみとなっており、学園にいたっては教師と生徒以外の立ち入りは厳罰となっている。つまり私たちは、聖女だと公に発表すると同時に厳重な保護を受けることになったのだ。

 そんな訳で、国民には今まさにじわじわと聖女の話が浸透しているところである。そして学園では、同じように聖女の話が広がっている……ハズなんですけど。


「……それで、どんな噂なんですか? マリアーネが光の聖女で、私は闇の魔女だとかですか?」

「そんな訳ないだろうが。正式に聖女と認められた人物に対しての悪評は、口にするだけで処罰対象だぞ。……よかったな本人で」

「そ、そうなんですね……ホホホ……」


 軽くお兄様に(たしな)められてしまったが、心の中では少しばかり安堵していた。なぜならばこの“闇の魔女”という名称、ゲーム『リワインド・ダイアリー』の中で悪役令嬢(レミリア)に付けられていた呼び名だったからだ。ゲームでは聖女はヒロイン(マリアーネ)のみで、レミリアは嫉妬にかられた結果周りから魔女と呼ばれるようになってしまったのだ。

 だが、この世界にはそんな魔女(レミリア)は存在しない。ここ最近の怪しい風潮も、今回は払拭できたのかもしれない。

 ──だがお兄様の次の言葉で、私が浮かべた笑みはあっけなく崩れ去ることになった。


「なんでも、まずはティアナ嬢を地面にひれ伏せていたが、それを止めに入ったマリアーネも同様に地面に伏せさせたと。その後、闇魔法で辺り一面を闇で覆ったが、それはマリアーネの光魔法で打ち消された……という事らしいのだが」

「……………………はい?」


 つらつらと告げられた言葉は、内容はわかったけど意味はさっぱりわからなかった。

 ティアナとマリアーネを地面にひれ伏せた? それってもしかして、二人が地面の土を手にとるため、しゃがんでいた時の事? そして闇を光が打ち消したというのは、昨日の私とマリアーネの魔法実演のことですわよね? 何ソレ、遠くから見てるとそんな風に見えていたというの!?


「はぁ~~~~……」


 思いっきり脱力する。なんといいますか……世界が私の存在を、全力で“悪役”に担ぎ上げてるようにしか思えないわね。

 そんな私たちのやりとりを、そばで見ていたフレイヤが助け舟を出してくれる。


「あの、違うんですケインズ様。実はその……」

「わかってるよフレイヤ。ただ、そういう噂が流れていると自覚してもらいたかっただけだ」


 そしてフレイヤから本当の事を聞かされたお兄様は「明日はもう会いに来るような事しないでくれよ」と言って、笑いながら去っていった。そんなの知りませんわよぉ……。




 とりあえず朝から、軽くへこんだ私たちは教室へ。ここ魔法学校の1クラスは16人。前世の日本の学校といえば、おおよそ30人位だったと思う。それに比較すると少ないかもしれないが、授業内容とかを考慮したらこんなものだろう。

 教室に入ると、私たちに注目した人達の会話が途切れ静寂に包まれる。視線はやはり私に多く集まるが、別になんとも思わずに席につく。……が、すぐに立ち上がり教壇に。おかげで今、クラスの全員の視線が私に集まっている。


「えーっと……昨日言ったように、私とマリアーネは司祭様より聖女だと認められています。ですが、まだまだ未熟者であり、皆さんにも多大な迷惑をおかけすると思います」


 私が話し始めると、マリアーネはすぐさま隣にやってきた。ほかの人は、みなこちらの話に耳を傾けてくれている。


「そして何より、私たちは同じ学園の生徒です。特別な扱いはせず、同じ生徒同士として仲良くしていただけたら幸いです」


 そう言って私たちは頭をさげる。その行為に一瞬ざわつくも、フレイヤがいち早く拍手をしてくれる。それを見てティアナが拍手をし、いつしかクラス全員がこちらに拍手を送ってくれていた。

 しばらく続いた拍手がようやく収まってくると、今度はマリアーネが口をひらく。


「それでは皆様、せっかくですので、何か私たちに聞きたい事はありませんか? 私とレミリア姉さまが答えられそうな事であれば、何でもいいですよ」


 その言葉に、先ほどとは違うざわめきがおきる。中には「何でも!?」とか言ってる人もいるけど、答えられそうな事だけだからね。

 とはいえ、これはクラスメイトとの仲を深めるための行動だ。できるかぎりは、ちゃんと答えたいとは思っている。しばらくして、一人の女子生徒がおずおずと挙手をした。


「はい、どうぞ」

「あ、あの……レミリア様は、その……アライル殿下とは恋人の間柄なのでしょうか?」


 女子生徒の質問に、教室中の生徒が「おおっ!」と声をあげる。というか、何だその質問は。そんなことが知りたかったのかしら? んー……なんだか甘い青春の香りねぇ……。ではここは、ハッキリと。


「違いますわ。仲の良い友人関係です」

「うぐっ」


 殿下の方から何か切ない悲鳴のような声が聞こえてきたが、まあ気にしないでおこう。

 だが、これをきっかけに女子生徒達から、怒涛のごとく恋愛話──そういう系統の話題を投げかけられるようになった。


「それでは、レミリア様とフレイヤさんのお兄様が……というお話も聞いたのですが」

「クライム様ですね。そちらも同じです、大切な友人ですわ」


「あのあの! マリアーネ様がアーネスト殿下と恋仲であるとの噂も聞いたことがありますが」

「私の方も同じです。アーネスト殿下とは、とても良い友人関係を築けております」


「あの! 先ほど名前が出たフレイヤさんが、実はお二人のお兄様と恋仲だという話も……」

「「それは本当です」」

「ちょ、ちょっと待ってください! レミリア! マリアーネ!」


 突然の流れ弾がど真ん中に当たったフレイヤが、顔を真っ赤にしてあわててこちらへ来る。おとなしいフレイヤがそんな態度を見せたため、教室内は先ほどとは違う方向に盛り上がりをみせる。思えばフレイヤもずいぶんと元気になったわね。相変わらず色白だけど、昔と違って健康そうに見えるし。

 結局そのまま、女子を中心にした騒ぎは先生がやってくるまで途切れることはなかった。




 そのちょっとした騒がしい朝のおかげか、それ以降クラスの生徒……特に女子生徒は、結構話しかけてくるようになった。

 そして中には──


「ティアナさん、袖元が少し崩れてますわよ」

「え? あ、本当です。あの、ありがとうございます……」

「気にしなくていいわよ。私たちはクラスメイトなんでしょ?」

「は、はい!」


 平民であるティアナに声をかける者も。

 今のところ、まだ学園生活は平穏だ。どうやら無事に学園デビューができたといえる。

 これがいつまで続くかわからないけど、今しばらくはこうのんびりとした時間を満喫したいものだ。



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