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転生令嬢姉妹は平穏無事に過ごしたい  作者: のえる
第三章 学園入学 ~レミリア15歳~
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047.不思議な力と すごい 光と闇の聖女

「ティアナさん。先ほどと同じ事を、今度はここへお願いできますか?」

「は、はいっ」


 マリアーネに呼ばれ、慌てて地面に手をつけて魔力を流し込もうとする。この辺りが、やはり平民気質というところなのだろう。……というか、この学園には彼女以外は貴族しかいない。もうちょっと環境になれないと気疲れしちゃうんじゃないかしら。とりあえずメイドの躾けとして、幾分落ち着いてもらうようにしていきましょう。


「で、では始めます」


 そう言って力を込め始める。とはいえ、何か強烈な光が(ほとばし)るでもなく、実に静かなものだ。またさっきみたいに暫くこのまま……と思っていたのだが。


「はい、止めてください」

「ふぇっ!? あ、はいっ」


 さあこれからだ、という段階でいきなりマリアーネがストップをかける。驚いたティアナはすぐさま手をひっこめた。だが先ほどに比べると、まだ何もしてないに等しい状態だ。これではティアナが行う“温める”という効果も起きてないだろう。

 そう思っている私達の視線の先で、マリアーネがその地面に手を伸ばして──軽やかに土を掴んだ。


「やっぱり……」

「はい。時間が短かったので、土が温まってません」


 マリアーネの言葉を「時間が短すぎた」という意味だと思ったティアナは、同じように土を掴みあげて呟いた。だが、マリアーネはそういう意味で言ったのではなかった。


「ティアナさん、それは違うわよ」

「えっと……何が違うのでしょうか?」

「ティアナさんは『土を温めたから柔らかくなった』と思ってるでしょ? でも、実際はそうじゃないの。逆よ」

「逆、ですか?」


 その言葉の意味がよくわからないと、ティアナは不思議そうな表情を浮かべる。だが私は、マリアーネの言葉でようやく何が起きてるのか理解した。この辺りは現代の……というか、日本なら誰でも知ってるような初歩の科学知識のようなものだろう。


「そう、逆よ。『土を温めたから柔らかくなった』んじゃないわ、『土が軟らかくなったから温かくなった』のよ」

「ええっと……よく、わかりません」


 マリアーネの言葉を聞いても、ティアナは困惑したままだった。ちなみに周りの人達も、よくわからないという顔をしている。


「そうね……。では最初に訂正しておきますわね。ティアナさん、貴女が今行った魔力現象は『土を温めた』ではなく『土を高速で振動させた』です」

「土を高速で振動……?」

「ええ。もう少し詳しく言うのであれば、土を粒子レベルで高速に振動させることで、土塊をきめ細かい砂に戻したのです」


 今のマリアーネの言葉で、自分の考えが当たっていたことに確信が持てた。


「つまり、その粒子の高速振動で衝突した際に発生した熱エネルギーが、土を温めるという効果になって現れていた……というわけね」

「正解です。さすがレミリア姉さまですね」

「いいえ、私も貴女が指摘するまでは気付かなかったわよ」


 確かにこれは“温める”なんてモノではないわね。でも、()属性だと考えるならば、ただ単に温度上昇をさせるというより、よほど理にかなった現象ではあると思う。それに……まぁいいわ。もう少し詳しく調べてからの方が面白そうだわ。


「……あの、つまりこれって凄いことなのですか?」

「ええ、私はそう思うわ。少し詳しく調べないといけないけれど、もしかしたら随分と面白い事になるかもしれませんわね」

「私もそう思います。レミリア姉さま、よろしければ後でまたティアナさんと一緒にお話しませんか?」

「もちろんよ。ティアナもいいですわね?」

「え……あ、はいっ」


 私自身も、ちょっとティアナの力に興味があるのですぐに快諾。話もまとまったので、


「というわけです先生、これでティアナの実演もよろしいでしょうか?」

「お、おう。そうだな、ティアナご苦労だった」

「はい」


 これでティアナの実演は終わりとしてもらった。

 なんだか周りの生徒は、どこか腑に落ちないような表情をしていたけど……まあ、ちょっとこの世界の科学知識だと理解し難い事だったかもしれないわね。




「……さて。後残るはレミリアとマリアーネか」


 先生の言葉に、全員の視線が私達の方を向く。その視線には、どこか興味やら期待やらのほか、微妙に畏怖のようなものが混じっている気がする。なんだか、謂れのない風評被害の気がするわ。

 一応私とマリアーネが前へ進み出る。だが、当然ながら私達の属性──光と闇の魔力測定をする機具など置いてない。だから測定はせず、実演だけするという事だ。


「何をしましょうか?」

「“フィールド”でよろしいのでは?」

「そうね、それじゃあ……」


 すっと右手を上に掲げ、その人差し指で天を示す様に伸ばす。この体勢自体に意味はないが、こうすることにより魔法発動の中心位置を指先に意識しやすくなるのだ。その状態で私は──


「【ダークフィールド】」


 魔法を発動した。瞬間、私を中心として訓練場に半球の黒い空間が出現した。


「ひぃっ!?」

「な、何だこれ!?」

「何も見えない……」


 途端ざわめきだす生徒達。今私が発生させた空間の中は、単純に視界が奪われているのだ。だがそれ以外のことはなにもしていない。もし誰かが空間より外へ出てしまえば、その人は地面にできた黒い半球の空間に驚くだろう。

 ちなみにこの中でも、私とマリアーネだけはちゃんと皆が見えている。薄く黒い半球の空間が広がっているのも見えるが、他の人のように視界を塞ぐ闇という状態ではない。

 隣にいるマリアーネに視線を送ると、無言で頷き返してきた。


「【ライトフィールド】」


 同じように指を天へむけ、マリアーネが魔法を発動した。途端、今度は白い光が闇を打ち消すように広がっていく。すぐさまその広がりは収まり、黒い半球空間は跡形も無く消えていた。


「えっ……何が……」

「黒いのが、消えた……?」

「今のってもしかして……」


 先ほどとは、また違う形でのざわめきが広がる。そして当然ながら、視線はより一層強くこちらを向いている。

 それを受け、私とマリアーネは皆の方へ向きなおし一度深々と礼をする。

 そして──


「私ことレミリアは、“闇”の魔力をこの身に携えております」

「そして私ことマリアーネは、“光”の魔力を携えております」


 それを聞いた皆から、また先ほどとは違うざわめきが漏れる。驚きと困惑が折り重なった、不思議な音色を奏でるざわめきだ。


「教会の司祭様より、『常闇(とこやみ)の聖女』との名前を頂いております」

「同じく司祭様より、『栄光の聖女』との名前を頂いております」


 そしてもう一度深く礼をする。

 学園へ入学したのでいつ公表してもよかったのだが、せっかくなのでまずはクラスメイトに最初に教えようという事になり、この公表タイミングとなった。予め知っていたフレイヤとアライル殿下、それと先生以外は一様に驚いているようだ。

 とりわけティアナは私達の方をみながら「ふわぁぁ……」と声をあげただけで、微動だにしなくなった。……生きてますわよね?

 後、中には「これってデビュタントの……」という声も聞こえてきた。どうやら私達のデビュタントの時の事を覚えていた子がクラスにいたようだ。


「中々に大層な名前を頂いておりますが、中身は皆とおなじ魔法学園の生徒です」

「どうぞこれから宜しくお願い致します」


 こうして、本日の魔力測定の過程は無事……そう、無事に終了した。






 そして夜。

 私達は、女子寮内の大浴場にいる。この大浴場は、それぞれの寮の建物に設置してある。各部屋にはシャワールームはあるが、バスタブはなくしっかり浸かるならここへ来るほかないのだ。

 こういうファンタジー物って、あまり大きなお風呂とかないイメージだったけど、この世界ではちゃんとあるのでそこは評価したい。日本人気質というのか、やっぱりお湯にしっかり浸かりたいのよね。


「あ、あの、レミリア様。やはり私が一緒に入るのは……」

「いいから早く入りなさい! いつまでもうだうだ言うと、視界真っ暗にして湯船に突き落とすわよ」

「は、はい! 分かりましたっ!」


 中々湯船に入ろうとしないティアナを怒鳴ると、慌ててようやく湯船に入ってくる。昨日もだが、この子は私達と一緒に入ろうとしない。というか、下手すればお風呂にはいらずシャワーですませようとさえする始末。昨日も「シャワーですら私には……」なんて事を言い出すんだから。


「あのねティアナ」

「ひぃっ、す、すみません!」

「……なんで謝るのよ、もう」


 湯船に浸かり俯いている彼女に近付き声をかける。仕方ないとは思うが、平民である自分が貴族と一緒のお湯に浸かることが、とてつもなく申し訳ないみたいな感じになっている。


「あのねティアナ。例え他が貴族だろうがそうではなかろうが、他人と一緒にお風呂に入るのを嫌う人間は最初から大浴場に来ないわよ」

「で、ですが、平民の私ではやはり……」


 なかなかに苦手意識というか、固定観念は打破できそうにない。何より平民でありながら、魔力を持っていることで色々と辛い目にもあっていたらしいし。でも、だからこそという気持ちも涌いてくる。


「……そう。それじゃあ今からティアナの身体を私が洗ってあげるわ」

「えええッ!? な、なんでですか! 普通は逆……いえ! 私とレミリア様では、逆もないですっ!」

「いいから来なさい。学園では貴女は私のメイドなんでしょ? ならば身だしなみをきちんとするため、ちゃんと身体をしっかり洗いなさい!」

「そ、それは……」


 私の屁理屈攻撃でひるんだ隙に、手をつかんで湯船から引き上げる。そのまま椅子にすわらせて、おろおろしている間に背後にまわって背中を洗い始める。


「ううっ……」

「ほら、ちゃんと洗ってもらいながら指示を出しなさい。どの辺りがいいの? それとも強くする?」

「いたたた! ちょ、ちょっと痛いですぅ……」


 中々泡立たないので少し強めにしたら痛がられた。私達が普段使ってるのと質が違うのかしら。一度流して、もう一度ゆっくり馴染ませたら段々泡立ち始めたけど。


「いいこと? 貴女は私のすぐ傍にいるのだから、身だしなみは常に清潔にすること。わかったわね?」

「はい、わかりました。……ありがとうございます」


 うん、どうやらわかってもらたようだ。やはり古典的だけど、仲を深めるのは裸の付き合いというヤツね。ベタすぎると思ったけど。案外バカにできないものだわ。

 ちなみにこの後、マリアーネとフレイヤが「混ぜて!」と言ってきたので、四人で洗いっこをする事になった。

 洗い終わって、改めて全員で湯船につかる。何の気なしにとなりのマリアーネに、


「なんかこの感じ、懐かしいわね……」

「ですねー。なんというかこれって……」


 頭に浮かぶのは前世の記憶。そして、おそらくマリアーネもそうだろう。


「銭湯みたいね」

「スパみたいですね」


 …………あう。残酷かな、これが世代差。

 この後、私は少しだけヘコんだ。その理由がわかったのは、もちろん私とマリアーネだけだった。

 頑張ろう、明日の笑顔の為に……。



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