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転生令嬢姉妹は平穏無事に過ごしたい  作者: のえる
第三章 学園入学 ~レミリア15歳~
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046.新入生の すごい 魔力測定

「すみません、遅くなりました」


 学園の訓練場に着くと、既に他のクラスメイトと先生は到着していた。幸いマリアーネがちゃんと伝言を伝えてくれていたようで、特に何も言われずにすんだ。


「では改めて、魔力測定について説明をする。といっても、既にこの学園に入学している時点で、全員一度は魔力測定をしているはずだ。……やってない者はいるか?」


 そう先生が聞くが、誰も反応はしない。どうやらティアナもちゃんと魔力測定をしているようだ。


「……大丈夫そうだな。今からやる測定は、その確認のようなものだ。ただ、中には既に自分の魔力を使いこなせている者もいるだろう。その者は、可能であれば実技も見せてもらいたい」


 今度の言葉には、少しだけザワつきが生まれた。既に魔力を使いこなしている……つまり、魔法を扱えている人物がいるという事に驚いたのだろう。そして次に浮かぶのは『誰がそうなのか?』ということ。それを探してさまよう視線は、アライル殿下や私達姉妹に多く向けられる。やはり王族や領主令嬢あたりなら、測定後更に魔力を扱うこともまで教わってるのでは……という考えなのだろう。

 まぁ、私とマリアーネに関しては半分正解といったところか。魔力の使用……つまり魔法は扱えるが、そこへの過程が多分皆の想像と違っているから。しかし……だとしたら、私かマリアーネがお手本でも見せる事になるのかしら。そう思っていたんだけど。


「では、アライル。魔力測定と、魔法使用の見本をお願いしたい」

「わかりました」


 快諾の言葉を述べ、すっと前に出て行くアライル殿下に、皆から「おおっ」とか「やっぱり」という声が沸きあがる。確かアライル殿下は、火属性の魔力を持っていたはず。ゲーム内の授業風景で、アライル殿下が火の魔法を扱ってるシーンもあったかな。

 そのアライル殿下は、まず魔力測定をするようだ。傍にあるテーブルの上に、以前教会の中庭で見たのと同じような機具がある。宝石が埋められたもので、魔力測定に使う一般的な機具だ。

 その中の一つ、赤い宝石──火属性の宝石がはめられた機具に手を(かざ)す。


「わぁっ……!」

「光が……熱いっ!?」


 その瞬間、宝石から溢れる赤い光が、アライル殿下を中心に輝きの帯を広げる。それは強い意志を感じるほどに熱い光だった。そういえば以前フレイヤが測定した時、優しい青い光が溢れたんだっけ。結構離れてるのに熱く感じるけど、アライル殿下本人は熱くないのかな。

 ちょっとだけ心配したけど、すぐに光は収まった。本人も何でもないような顔をしてるし、どうやら大丈夫そうだ。


「測定の方はこれでよろしいでしょうか?」

「ああ、十分だ。さすがに王族だけあって、すごい魔力量だな。それに既に力の制御が出来ているようだ。きちんと鍛錬をしているようだな」


 今の光景から魔力量の事はわかるけど、鍛錬云々までわかるなんて……先生って結構ちゃんとした魔法指導者ってことなのかしら。


「続けて魔法の実演を行います」


 そう言いながら手を前に突き出して構える。なんか……ファンタジー物の攻撃魔法でも撃ちそうな姿勢なんだけど。って、ここってファンタジー寄りな世界だったわね。もしかして、本当に攻撃魔法とか使えたりするの? そんな疑問を抱いた瞬間。


「【フレイム】」


 アライル殿下の手から一筋の炎が飛び出し、訓練場内にある小山にぶつかる。その表面の砂を少し崩し、当たった部分を焦がした。

 ……あら、本当にファンタジーの攻撃魔法みたいなのね。というか今の【フレイム】って、ダウンロード配信のおまけ『りわだいRPG』の魔法よね? そっちならまだしも、『リワインド・ダイアリー』本編は魔物とかいないし、攻撃魔法なんて使うトコあるの?

 魔法を放ったアライル殿下は、くるりと私達の方を見て優雅に礼をする。それまで呆気に取られていた生徒達は、皆拍手と歓声をアライル殿下に送った。確かに中々に格好良かったので、私も笑顔で拍手しちゃったけど。


「……とまあ、こんな感じで魔力測定をしてもらう。実演の方は可能であれば見せてもらうが、必須ではないので希望者のみで構わない」


 そんな先生の言葉で、皆の魔力測定が始まった。ただ、このクラスはA組という事もあり、入試の試験および面接において優秀な者が集まっているクラスだ。その為か、全員何かしらの実演を見せていた。

 例えばアライル殿下と同じ火属性を持っている女子生徒は、自分のすぐ目の前に火を呼び出していた。隣にいたアライル殿下に、同じ様なものかと聞いてみると、


「あれはまだきちんと魔力制御が出来てないようだな。ただ火を魔力を消費して呼び出しただけだろう。魔力供給を止めたらすぐに消えたのを見ると、火についての理解もまだこれからだな」

「何となく、分かるような、分からないような」

「アライル殿下が行ったのが魔法で、あの子のは魔力消費の結果……ということですか?」


 私同様、いまいちピンとこないマリアーネが殿下に問いかける


「そんなところだ。普通は魔力保有を自覚しても、簡単に扱えるわけではないからな。もっとも──」


 少しだけ声を小さくし、私とマリアーネだけに聞こえるような声で、


「お前達はすぐさま自属性の魔法を使いこなしたらしいがな」

「ははは……」

「褒め言葉として受け取ります」


 私の場合はゲーム知識からのチート(インチキ)に近いものだし、マリアーネも前世における知識での補正は大きかったと思う。


 そんな会話をしている間も、次々と魔力測定は行われている。ただ見た感じでは、火属性や風属性は多いが、水属性と土属性は少ない。というか……土属性は今のところ見てない気がする。


「火と風は結構いるけど、水や土の属性魔力を持っている人は少ないのかしら……」

「そんな事はないぞ。ほぼ同じくらいの比率のはずだ」


 私の呟きが聞こえたのか、アライル殿下がすぐ答えてくれた。せっかくなのでもう少し聞いてみようかしら。


「今やっている魔力測定で火と風が多いのは、このクラスがA組だからだ。火や風の属性魔法は初級魔法でも扱いやすいものが多い。だから必然的に早い段階で熟練度が蓄積され、結果として高い評価を得やすくなる。だが水や土はそうではない為、魔法についての知識やより強い魔力素質が必要になってくるんだ。だから──」


 そういってアライル殿下がフレイヤを見る。いきなり視線を向けられたフレイヤは少し驚くも、一緒に話を聞いていたのでどこか照れくさそうだ。


「だからフレイヤ嬢は、自信を持っていいだろう。A組で水や土の属性を持っているということは、それだけ優れている証でもあるのだからな」

「あ、ありがとうございます……」

「なるほど、既にフレイヤはクラスの中でも優秀だと認められてるワケだ」


 少しからかうようにニヤついたマリアーネが、ちゃかすように言う。もちろんそこに悪意はまったくなく、友達だからこその言葉である。

 ただ、それを聞いていたティアナが、どこか表情が固い様に見える。


「ティアナどうし──」

「次、フレイヤ!」

「は、はい! では行ってきます」

「あ、うん。いってらっしゃい……」


 話しかけようとしたタイミングで、フレイヤの順番となった。改めてティアナに聞こうかと思ったが、何故かフレイヤの方をじっと見ているので言葉を飲み込んでしまった。なんだろう……水属性魔法に興味でもあるのかしら。


 フレイヤが水属性の測定機具に手をかざすと、以前教会で見たのと同じ青く澄んだ光が溢れた。いや、以前よりもその輝きは強く、より透き通った印象を感じる光だ。アライル殿下の時のような派手さはないが、その輝きは人を惹き付けて話さない魅力があった。


「……これでよろしかったでしょうか」

「ああ、十分だ。しかし随分と質の高い魔力だな」


 測定を終えたフレイヤに、先生が賞賛の声をかける。続けて実演を、という事でフレイヤは容器に水を作り出した。その行程を見て大半の生徒は「あれ?」「それだけ?」みたいな反応だったが、先生はじっとその水を見つめていた。


「これは随分と純度の高い水のようだな。先ほどの魔力といい、フレイヤは優れた魔法師の資質があるようだな」

「ありがとうございます。そちらは教会の司祭様は“真水(しんすい)”と呼ばれております」

「なっ……これが真水だと……?」


 驚きの表情を浮かべ、改めて容器に入った水をまじまじと眺める。その状況に気付いた皆が、少しずつざわつきだした。


「先生、どうかされたんですか? その水が何か……」

「ああ。今フレイヤが作り出したこの水は“真水(しんすい)”と呼ばれるものでな、普段は教会などで何度も浄化魔法をかけて作り出す、純度の高い混じり物の無い水なんだ。これは薬などを作る基礎ともなる物だ」


 それを聞いた途端、先ほどまで軽くバカにしていた人達が押し黙る。教会で作られる薬は、薬師が作るものとは違い、神聖な力を宿した貴重なものだからだ。フレイヤが行った事が、どれほどの意味があるのかは詳しく知らない人でもある程度は理解できる。


「これを真水と言ったのは、教会の司祭様──サライア司祭か?」

「そうです」

「そうか。ならばこれは、本当に真水なのだろうな……」


 水の入った容器をフレイヤに返す。流石に真水となれば、おいそれと手放すことはできないようだ。フレイヤ自身も、まだ一日に多くて数本分しか作れないと言っていた。以前より供給は増したが、それでも貴重であることに変わりは無い。


「さて次は……ティアナ!」

「は、はいっ!?」


 フレイヤの測定が終わり、次はティアナが指名された。


「ほら、ティアナの番よ」

「い、いってきます……」


 ……ふむ。貴族のような立ち振る舞いの前に、落ち着いて行動することが先決ね。まわりが貴族ばかりとはいえ、ずっとあのままでは心身ともに持ちそうもないわね。

 さて、ティアナの魔法属性は……おっ! アレは……土属性の判定機具!? 何なに、ティアナってば土属性なの!?


「レミリア姉さま、ティアナさんが手を翳そうとしているのって……」

「ええ、土属性の判定機具ね。私の知人では、クライム様に続いて二人目の土属性魔力保有者よ」

「お兄様と同じ……どんな感じなのか楽しみです」


 今まであまり気にしなかったけど、土属性魔法ってどんなのかしら。なんだか土から連想する魔法の産物って、すぐ思い当たるのってゴーレムとかそんなんだけど。

 流石にアライル殿下やフレイヤみたいに、測定機具の宝石から光が(ほとばし)るなんてことはないだろうから、少し近付いて様子をみることにした。案の定すぐ傍まできた時、丁度ティアナが手を宝石に翳したところだった。

 それにより、測定器にはめられた茶色の宝石から、じわりじわりと光が波動のように漏れていた。アライル殿下の時みたいに強い光が迸るでもなく、フレイヤの時のように涼しげな澄んだ風のような力が溢れるのとも違っていた。ただ、どこか温かみを感じさせる光に、何故か気持ちが穏やかになるような感覚を受けた。


「……先生、これでよろしかったでしょうか?」

「あ、ああ、大丈夫だ。しかし土属性魔力を、入学したばかりの生徒がここまで計測機で反応させたのは、昨年のクライム以来だな」


 お、先生がクライム様の事も褒めている。ちらりとフレイヤを見れば、やはり嬉しそうに笑顔を浮かべていた。相変わらずのお兄ちゃんっ子ね。


「それで、ティアナは既に何か魔力運用は出来るのか? もし可能なら、何か見せてもらえると嬉しいんだが」

「は、はい、わかりました……」


 そう言ってその場にしゃがみ込むティアナ。何をするのかなと思ったら、両掌を地面に向けた。なんだかそこから魔法でも打ち出すのかとおもったが、そのまま手を地面の上にそっと置いた。そして暫くそのままの姿勢でいる。……地面に手をついてる女の子を、クラスメイトがじっと見つめるというなんともシュールな時間が過ぎていく。

 さすがに間がもたないと思った先生が声をかけようとしたとき、ティアナがそっと手を地面から離す。


「……っと、こ、こんな感じです……」

「お、おう、そうか。それで、これは……何をしたんだ?」


 今この光景を見ている全ての者が抱く疑問を先生が口にする。というか……先生もわかんない事をしたってこと?


「その……土を…………した」

「ん?」

「土を、あ……温めましたっ……」


 ──訪れる静寂。そして次は、あちらこちらから聞こえてくる声。だがそれは、どう聞いても相手を小馬鹿にしているような不快なものばかり。


「なんだアレ、ちょっと測定結果がよかったからって……」

「土を温めたって? そんなの私でも出来るわよ」

「所詮は平民ってことだろ、なんでこのクラスにいるのかねぇ」


 そんな言葉がティアナにも聞こえたのだろう、顔を俯かせたまま動こうとしない。その光景を見て、思わず私は野次るようにしているクラスメイトの方へ歩き出そうとした。


「待てレミリア! 落ち着け!」

「何よ、アライル! 貴方まで──」


 私の腕を強く掴んだ相手──アライル殿下をキッと睨む。だが、その視線に殿下も正面から視線をぶつけてくる。それを見た瞬間、脳裏によぎったのは過去に感情のまま彼を叩いた時の事。今とは全然違う光景なのに、何故か私はそのことを思い出していた。

 そのおかげで、すぐに冷静になる。気付けば掴まれた腕は、やけに強く握りしめていた。


「…………ごめんなさいアライル殿下、もう大丈夫です」

「わかった」


 私の言葉を信じてくれた殿下は、そっと手を離してくれた。流石にアライル殿下が声を荒げてしまったからか、皆の注目を浴びてしまっている。もっとも、そのおかげでティアナへの悪口はピタリと止まっていた。これ幸いと私達はティアナの傍へ。


「あ、あの、レミリア様、私……」

「なんでそんな泣きそうな顔してんのよ」

「あうっ!? で、ですが……」


 今にも泣きそうになっているティアナのおでこを、軽くデコピンの要領で小突く。あら、私のせいで本当に泣きそうになってしまったわ。

 まぁ、まだ入学二日目だし、まだまだこれからでしょ。気休めだけど、そんな事を言おうと思ったのだが、何故かマリアーネが手を伸ばして地面に触れていた。ちょっと気になってその横顔を見ると、随分と真剣な表情だ。


「マリアーネ、どうかしたの?」

「……もしかしてティアナさんってば……結構すごいのかもしれませんよ?」


 そう言って笑顔をこちらに向けるマリアーネ。その手からは一握の土が、サラサラと零れ落ちていた。



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