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転生令嬢姉妹は平穏無事に過ごしたい  作者: のえる
第二章 心構え ~レミリア14歳~
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041.心の準備をしてみましょう!

本日は予定日ではありませんが投稿致します。

「もう来月からは寮生活ね……」


 私は部屋でお茶を味わいながら、ポツリとそんな事を呟く。


「それを言うなら学園生活、ではありませんか? レミリア姉さまの言い方では、寮に入るついでに学園に通うように聞こえます」


 テーブルの向かいに座るマリアーネが、疑問を口にする。んー、同じようなもんじゃないの?


「それだけレミリアさ──んんっ、レミリアが寮生活を楽しみにしているという事ですよね」


 そしてテーブルの横に座っているフレイヤが口をひらく。前々より約束していた“私達の名前を呼び捨てにする”という約束がすっかり棚上げになっていたが、ここに来てようやく定着させるべく頑張っているらしい。

 そして──


「何にせよ、いよいよ将来への自覚を持って勉学に励むべきであろうな」

「アライル殿下。なんでここに居るんですか?」


 何故かテーブルに向かう四つ目の椅子には、アライル殿下が座っていた。


「なんでとはご挨拶だな。忙しい中、来月からの学園生活を鑑みて久しぶりに来たというのに」

「……忙しいなら無理に来なくても──」

「レ、レミリア、あまり邪険にするのもどうかと……」


 フレイヤに軽く注意されてしまった。私としては邪険にしているというより、『ああ言ったから、こう言う』という、お約束的な発言をしただけなんだけどね。この世界に転生したと気付いて、もう10年近くなるけど、まだ前世での会話癖は残っているのかな。普段のマリアーネとの会話のせいかしら。


「えっと……アライル殿下も、やはり入寮されるんですよね?」

「無論だ。学園では貴族だろうが平民だろうが関係ない。全員が等しく入寮するのが規則だ」


 実際のところは知らないが、規則としては王族だろうが扱いは全員平等になるとの事。ただ、流石に寮生活に関しての部分は賄えない部分もあり、王族や一部貴族は付き人となる者を同伴させて入寮する。ちなみに今ここに居る者は全員がその対象だ。

 アライル殿下の場合も、兄のアーネスト殿下同様城から質の高い執事が派遣されるとのこと。少し話を聞いたけど、特に私の記憶を呼び起こすようなこともなかったので、殿下達の付き人は攻略対象とは無関係のようだった。


「アライル殿下、今度の入学対象者について詳しかったりしますか?」

「まあ程々には……な。自分がどのような者たちと学園での生活を共にするか、気にならないと言えば嘘になる」

「そうですね。では、どなたか気になった方とか……可能な範囲でお話できますか?」


 さすがに他人の情報ということもあって、少しばかり遠慮した聞き方をするマリアーネ。この辺りの気の遣い方が、前世の日本人感覚ってモノなんだろうか。聞かれたアライル殿下は「構わんぞ」と、何も気にせず話そうとするし。


「……お前達だ」


 …………へ? 私達?

 何を言ってるのかな、という表情を浮かべる私達三人。それを見たアライル殿下は、はぁーと深くため息をついた。それはもう、深くふかーく。


「領主であるグランティル侯爵の令嬢とくれば、今度学園に入学する人物の中でも注目されるに決まっているだろうが。……まさか、自覚がなかったのか?」

「ええ、まあ……」


 いまいちピンきませんと私は答える。言われて見れば、そこそこの注目度があるのかぁとは思うけれど。あまり自分の立場ってものを考えないし、感じないのよね。

 どう反応していいのかわからない感じの私を見て、アライル殿下は少し諦めたような顔をしながら、


「……レミリアよ。お前には俺の婚約者候補の筆頭だという噂も流れているのだぞ。そんな二人が同時に入学してくるとなれば、噂好きのご婦人たちの話題にものぼるだろうに」

「はぁぁああ!? 何ですかその話! 私、受けてませんよねぇ!?」


 思いっきり身を乗り出してアライル殿下に詰め寄る。自分で思ったよりも、いい感じでドスの効いた声に酔いしれそうだったけど。私って結構声帯いいのね。


「お、おちつけレミリア。私も王城に勤めている者たちの噂話に聞いただけだ。何度かそれらしい話を聞いて、改めて聞くとマリアーネが私の婚約者の最有力候補だと……」


 慌てて弁明する殿下をみて、妙に納得もしてしまうところもあった。

 もしこれがゲーム『リワインド・ダイアリー』ならば、私はとっくにアライル殿下と婚約をしているハズだ。そして、二人は表面上は理想の婚約者同士を演じている……という状態だったのだろう。

 だが、実際のところ私と殿下は婚約はしてない。殿下からの要請はあったが、私にそういう気持ちがないからと断っており、それでも……という話からの保留状態だ。ゲームの展開を考慮するなら、何の関係性も無いのがベストかもしれないが、とりあえず現状でもセーフだと思いたいところ。


「でもそんな噂が流れているのでしたら、レミリア姉さまとアライル殿下が特に注目されても、致し方ないと言うより他ありませんわね」


 諦めてくださいねーと笑みをたたえて言うマリアーネ。なんだかちょっと面白がってるのがわかる。でもね──


「何を他人事の様に言っているのだマリアーネ嬢。そなたもだぞ?」

「……えっと、何がでしょうか?」

「だから、噂の的になっているのはマリアーネ嬢も同じだといっているのだ。そなたも兄上から婚約を申し渡されて保留にしておるのだろう?」

「ええぇっ!? 私もですかぁぁああ!?」

「わっ、姉妹でそっくりですね」


 驚いてがばっと身を乗り出すマリアーネを見て、フレイヤが感心したように呟く。私って客観的に見てるとあんな風なんだ……。


「落ち着けといっておるだろうが。姉妹そろって無駄に元気があまっているな……。マリアーネ嬢の場合は、レミリアとはまた違う形で学園では注目されるぞ。なにしろ兄上は来年度の生徒会長となるからな。その注目度合いは学園内ならば、他を寄せ付けぬほどだぞ」

「ええぇ~、それは困ります……ならばいっその事、あの話は完全に無しにすれば……」

「いや、さすがにそれは勘弁してくれ。兄上が悲しみの海に沈んでしまう」


 たしかにアーネスト殿下はゲーム開始時で生徒会長だった。それは今年度末で行われた、来期の生徒会長選挙で選ばれたと聞いた。それで生徒会長にアーネスト殿下、副会長にお兄様とクライム様となった。

 にしてもまぁ、私もマリアーネも入学当初はちょっと面倒くさそうね。

 そんな私達二人を、フレイヤがちょっと困り顔で見ている。


「な、なんにせよお二人とも、来月からは一緒に学園生活ですから。頑張りましょうね」


 そう言ってるフレイヤを見て、アライル殿下がもう一つため息をついた。おっ、これはもしや……。


「……フレイヤ嬢よ。そなたも以前と比べずいぶんと変わったな」

「え? な、何がでしょうか?」

「先ほど俺が言った『お前達』の中に、よもや自分が入っていないとでも思ったのか?」

「…………え。えええっ!?」


 驚きながら両手を口にあて、その叫びが過度に大きくならないようにしている。どこかおしとやかな驚き方は、なんとまあお嬢様なこと。……私ら姉妹とは大違いね。


「もっぱらの噂であるぞ。そなたとケインズ殿との恋仲話だ」

「こ、恋仲だなんて……ケインズ様は、私にとってはその、ええっと……」


 言葉に迷いながら私やマリアーネを見る。それは助けを求めるというよりも、家族である私達がいる前でその話をする気恥ずかしさのようなものを感じた。

 実際のところ、お兄様とフレイヤの仲は良好そうだ。お兄様も、かつては妹の友人枠レベルでの親しさだったようだが、今は普通に気にかけてあげる相手として扱っている。もちろん私達の親友だから、というのはあるだろうが、それを差し引いても大切な存在になってきていると感じる。


「でもフレイヤがお兄様と結婚したら、私達の義姉(あね)ってことになるのよねぇ」

「け、けっ、結婚って、あの……!」

「フレイヤがお姉様か……。あ、でも最近はクレアのお姉様ポジションだし、以外とアリかも?」


 ニヤっと笑ってフレイヤを見る。多分今の私の笑顔は、どこに出ても恥かしくない悪役令嬢顔よ。ホッホッホ!

 そんな中、マリアーネが新たな爆弾を投下する。


「あっ! でもレミリア姉さまって、クライム様からも婚約の申し出をされてましたよね?」

「っ!?」


 その言葉を聞いて目を細めるアライル殿下。ちょっ、マリアーネあんた今のわざとでしょ! あなたは悪役令嬢じゃなくてヒロインだから、そんな顔しちゃダメなのよ!

 だが、そんな私の視線もヒロイン補正で軽々わかし、楽しそうに言葉を続ける。


「もしレミリア姉さまとクライム様が結婚されたら、フレイヤは義妹(いもうと)って事になりますわね。義姉(あね)義妹(いもうと)……どちらがお好みですか?」

「ええええっ!? そ、そんな事急に言われましても……確かに義姉(あね)というのは魅力的ですが、たぶん性格的には義妹(いもうと)の方が近いと思われますし……いえ、ですが……」

「い、いやフレイヤ嬢よ、せっかくだからそなたは姉という立場の方がよいのでは?」

「アライル殿下、別にフレイヤとお兄様が結婚したからといって、レミリア姉さまがクライム様と結婚しないとは限らないのですよ?」

「いやっ、だからそれは……」


 取り留めの無い話を、無責任ながら目を輝かせて話す皆を見ていると、なんだか楽しい。自分が望んだ、穏やかな日々とはちょっと違うけど、この騒々しくも心落ち着く空気が心地良い。


「っと、レミリア姉さま、なに笑ってみてるんですか。一番の当事者なんですよ」

「当事者って……なんかすっかり置いてけぼりなんですけど?」


 無意識にしょうがないわねぇという表情が浮かぶ。

 なんだかよくわからないけど、とにかく楽しいと感じている。


 この賑やかしい人達と、来月からは魔法学園へ通うことになる。

 魔法学園──それは乙女ゲーム『リワインド・ダイアリー』の舞台だ。

 ゲームのオープニングは主人公のヒロイン(マリアーネ)が、学園に入学するところから始まる。そこに描かれてはいないが、当然悪役令嬢(わたし)も入学する。

 その全てがいよいよ始まるのだ。


 願わくば、無事に学園生活を過ごせますように。

 そんな想い(いだ)きながら、少し冷めた紅茶にそっと口をつけた。



第二章終了です。

次回から第三章となります。

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