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転生令嬢姉妹は平穏無事に過ごしたい  作者: のえる
第二章 心構え ~レミリア14歳~
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040.<閑話>とあるメイド姉妹の想い

 私の名前はミシェッタ・ノーバス。ノーバス男爵家の三女に生まれた。私の実家であるノーバス家は、両親が何度か頑張ったのだが四人の子供が全員女であった。さすがにもう五人目を構える気力は起きないようで、姉である長女と次女にはなんとか良い入り婿を望んでいるようだ。

 だが私と四女であるリメッタは、貴族の行儀見習いもかねて高爵位の屋敷にメイド務めに出された。男爵家の三女四女が、そうやって仕えるのは珍しいことではない。辺境伯もしくは伯爵位までであれば、屋敷のメイドは男爵辺りの子息令嬢が行うことも多い。私と妹も、それに過ぎないのだ。


 そんな中、私と妹の仕えることになったフォルトラン侯爵家は、旦那様が領主を勤めていることもあり、実権的には公爵と並ぶほどの家柄となっていた。だが、その実フォルトラン家の皆様は朗らかな性格をしており、とても温かな家庭だなと感じました。

 ……そこの令嬢、レミリア様を除いて。


 フォルトラン家の嫡子は長男であるケインズ様だ。それ故か、それとも単純に娘が愛おしいのか、フォルトラン家の両親はレミリア様を溺愛した。流石に領主家ということもあってか、全部が全部というわけではないが、どう贔屓目に見ても甘やかし具合が濃厚だといわざるを得ない感じだ。

 だが家族はおろか屋敷に勤めている者の大半も「貴族のお嬢様ってのはこんなもんだろう」みたいな感じで過ごしてしまっていた。


 ──それはまさに晴天の霹靂だった。

 ある日の午後。屋敷の廊下を歩いていたレミリア様が、突然お倒れになった。何の前触れもなく、至極静かに寝そべるようにだ。丁度その場にいた旦那様と私は、てっきりレミリア様が脚をもつれさせたか何かで転んだのかと想った。だが、倒れたままのレミリア様は起き上がることはおろか、声をあげることすらしない。思わず血の気が引いた私と旦那様は、すぐさま駆け寄りそっと抱き起こしてみた。案の定息をしているのがわかり安堵するも、何故いきなりこのようになってしまったのか困惑した。

 だがこんな所でレミリア様を放置するわけにいかず、すぐに部屋へお連れしてベッドに寝かせた。メイドの中には医療知識に詳しい者がいたので、異常がないかを一通りみてもらったが、どこにも異常はなく普通に睡眠をとっているようにしか見えないと言われた。おそらくは睡眠不足かなにかで、その蓄積がいきなりきてしまったのだろう……という結論になった。

 だから、レミリア様が目を覚ましたと聞いた時は、誰もがよかったと口をそろえて言った。


 だがその出来事を境に……レミリア様は変わった。

 そして私としてはその事を、喜ばしい事だと感じてしまっていた。何故ならば、以前は少々度が過ぎたわがままを口にする傾向にあったレミリア様が、まわりの者全てに配慮するような言動をとるようになったからだ。

 他の人からは「ようやく侯爵家令嬢としての自覚が出たのかしら」などと気楽な言葉も聞こえるが、私だけはあまりの違いに困惑を呼び起こしてさえいた。なぜならば、私は予めレミリア様の専属メイドになる事を想定してフォルトラン家に仕えるようになったからだ。なので、お仕えするようになったその日より、レミリア様の言動は常に注意深く見ている。

 私だからこそ……ううん、私にしか分からないレミリア様の変化。でも、それがどうにも良い変化にしか思えなくて、そのまま誰に話すこともなく過ごす日々となってしまった。

 しかし、それから何日、何ヶ月、そして何年か経過したが、レミリア様は相変わらずで、いつしか私もそんな事があったことを忘れていた。


 ですがレミリア様が12歳の誕生日を迎えた数日後、フォルトラン家に大きな変化がやってきました。

 とある理由の為、ある一人の少女をフォルトラン家が養女として迎え入れたので。


 その少女の名前は、マリアーネ・セイドリック。

 セイドリック男爵家の令嬢で、年齢はレミレア様と同じ12歳。何故男爵令嬢を、領主でもある侯爵家の養女としたのか、最初は屋敷内でも一部の者にしか教えてもらってなかった。

 その一部の者に私は含まれていた。

 そして──妹、リメッタも含まれていた。




◆◇◆




 私リメッタ・ノーバスは、姉と共に領主であるフォルトラン侯爵家へ、行儀見習いとして仕えるようになった。

 元々家が男爵家であった私達は、基本的なマナーは十分に身についており、メイドとして働き始めるやいなやすぐに頼られる存在へとなっていった。中でも姉は器量も良く、フォルトラン家で唯一手のかかるレミリア様の専属メイドに抜擢された。

 それは嬉しいと思う反面、中々のわがままっぷりに私では無理かなという気持ちもあった。


 そんな中、一つの事件が起きた。それは誰知れず、こっそりと、でも私……否、姉にとってはとんでもなく衝撃的な出来事だった。

 わがままお嬢様の典型だったレミリア様が、とても聞き分けのよい子になってしまわれたのだ。最初は何の冗談だろうと思っていたが、いつまでたってもその様子が以前のような感じに戻ることはない。時々、何か不思議な事を言ったりするけど、それ以外はとても聞き分けの良い令嬢そのものだった。

 そうして過ごしていくうちに、姉はレミリア様の専属メイドとして、どこに出ても恥かしくないようになっていた。そんな姉が羨ましいと思うと同時に、自分ではないという事に嫉妬を覚えてしまってもいた。もちろん、それが何の意味もないことは重々承知していたが、それでも思いはどんどん蓄積されていった。


 そして、さらに心に追い討ちをかけるような事が起きた。

 実家より、戻ってきたらどうだという話がやって来たのだ。それに対し、姉は即断りの返事をした。それもそうだろう、領主令嬢の専属メイドだ。運と実力、両方備わってなければ掴めない立場である。それにひきかえ、私は一介のホームメイドでしかない。一応万が一の為にと姉と一緒に専属メイドとしての立ち居振る舞いもできるようには教育されたが、それが必要になる事はないだろう。いや、むしろあって欲しくない。

 だから私は悩んだ。このままここに居るより、もう実家に戻ってもいいのかな……と。


 そんな気落ちする私に、まさに人生の分岐点となる日がやってきた。

 今度フォルトラン家に養女を迎えることになったとの事だ。セイドリック男爵家の令嬢で、年齢はレミリア様と同じ12歳。名前はマリアーネ・セイドリック。

 その説明を旦那様がする際、何故か部屋にはメイド長と姉と私だけが呼ばれた。そこで聞かされた内容は衝撃だった。レミリア様が聖女であると。そして、今度養女として迎えるマリアーネ様も聖女とのこと。その事が関係して、フォルトラン侯爵家に養女にくるらしい。

 これを聞いて私は、また少し姉に嫉妬した。聖女の専属メイドなんて、それこそ頑張ってもなれるものじゃない。姉妹なのに、いつの間にか随分と離れちゃったなぁ……そんな事を思っていたのだけれど。


「──マリアーネの専属を、リメッタにお願いしたいと思うのだが……どうかな?」

「………………えっ」


 暫し思考が停止した。驚くと本当に息が止まるんだと、その時初めて体験した。言葉がじわじわと脳に届き、そしてゆっくりと理解して……ようやく吐き出した言葉が、間抜けにも驚きの声だった。

 そんな私を見て旦那様が苦笑して、ゆっくりと説明をしてくれた。

 私は姉と一緒に、もしもの為にと専属メイドとしての教育も受けていた。まぁ、想定していたもしも(・・・)とは若干違っていたかもしれないが、私の立場はそれこそおあつらえ向きとも言えた。何よりマリアーネ様は、レミリア様と同い年とはいえ立場としては妹となる。フォルトラン家の令嬢が姉妹の専属メイドが、これまた姉妹で仕えることに。それ自体に意味はないと思うが、姉妹でという事でどこか安心感の上乗せがあるのだろう。

 何より……私が嬉しいと思っていた。


「ありがとうございます。謹んでこの役目、受けさせて頂きます」


 こうして私は、マリアーネ様の専属メイドとなった。

 その日久しぶりに、姉と心からの笑顔を交わして……少しだけ、泣いた。




◆◇◆




 妹のリメッタがマリアーネ様の専属メイドとなった。

 その事について私も妹も本当に嬉しかった。そして、更に嬉しい事にレミリア様とマリアーネ様が、会ったその日から即意気投合し、とても仲良しとなった事だ。その事は単純に嬉しいのだが、それによってお二人が一緒に過ごす時間が大幅に増えることとなる。そのため、お二人の専属である私達姉妹も一緒にいる時間がとても多くなった。

 さらには、そのお二人がとても私達の事を大切にしてくれた。たとえ専属のメイドであっても、名前すら覚えない呼ばないという主は、さして珍しくもない風潮がある中、お二人はつねに私達の事を気遣ってくれる。面白い話を聞けばすぐ教えてくれる、美味しいお菓子があれば一緒に食べようと言ってくれる。それは主とメイドの関係としてはどうかとも思えたが、お二人が本当に心を砕いて接してくれるので、私達もお二人を本当に大切に思い、常に役立ちたいと思えるようになっていた。


 そんな華やかな日々を送り始めた頃、私の主であるレミリア様がとんでもない事をしてしまった。

 ご自身のデビュタント当日、招待された方の中にアーネスト殿下とアライル殿下がおられたのだが、なんとそのアライル殿下の頬を(はた)いてしまったのだ。幸いにも、パーティー終了後の応接室での出来事であり、その事は両殿下と屋敷内の一部の者しか知ることはなかった。

 だが、第二王子であるアライル殿下に対しての無礼な行いである。どう見ても処罰は免れないであろう。いくら領主令嬢とはいえ、殿下とは何の縁もないのだから。いや、下手をすれば本人だけでなく家のもの全てになんらかの処罰がくるかもしれない。そう思っていた矢先、王室より届いた手紙。そこに書かれていた内容は、私たちの斜め上へいく内容だった。

 アライル殿下が……レミリア様を許婚にしたいとの言葉が綴られていたからだ。


 ……それから暫くの間、アライル王子がちょっと変わった癖があるという話がフォルトラン家の執事メイド間で囁かれたのは言うまでもない。






 それから暫く経過し、王宮にて女王陛下主催のガーデンパーティーにお嬢様方が出席された。

 こちらは完全男子禁制のパーティーであり、尚且つ普段傍仕えしている私達も入り口までしか行くことができなかった。中で警備をしている人も全て女性だとか。

 逆に外は男性警備兵がガッチリと固めており、万が一にも不審者が入り込むことはないとのこと。仮に出席者の家族であっても、男性であれば近寄ることも不可であるという。主催が女王陛下ということで、仮に公爵や王子殿下であっても、処罰を免れないと言い渡されている程だ。

 そんな状況ゆえ、私と妹は一度家へと戻った。以前マリアーネ様は余所の令嬢よりいやがらせを受けたこともあり、彼女の専属である妹はずっと心配そうにしていた。


「大丈夫よリメッタ。もしまたあの方たちがマリアーネ様に何かしようとしても、レミリア様が引っ叩いて追い返してくれるから」

「くすっ、姉さんったら……レミリア様が聞いたら怒りますよ。……納得ですけど」

「まあっ、ふふ」


 二人で一緒に笑ってしまった。仕事上、同じ場所にいることが多い私達姉妹だが、こうやって笑みを交わすことは中々ないので、ちょっとだけ楽しいと思ったことを覚えている。


 ちなみに、お嬢様のお迎えの馬車には兄であるケインズ様も同行した。やはり色々と心配していたのだろう。だが、戻ってきたお二人からの話では、新たにお友達ができたとのこと。サムスベルク伯爵家のご令嬢で、フレイヤ様という方らしい。その事を話すときのお二人は、とても楽しそうだった。






 あぁ、また(・・)レミリア様がやらかした。

 またしても、アライル殿下を引っ叩いてしまったのだ。それも、同じ場所──フォルトラン家の応接間で。

 レミリア様曰く『ついなんとなく?』らしい。つい、でこんな心臓が破裂しそうな行動をしないで欲しいと切に思ってしまう。同席していたフレイヤ様も、どうしてよいのかとハラハラしっぱなしだった。

 結局アライル殿下が謝罪をして退室していったが、どうにも殿下とレミリア様って普通じゃない気がする。良い意味でも悪い意味でも、対等のお友達感覚みたいなのが強すぎる気がする。ただ、時折レミリア様が妙に大人っぽかったりする事も、その不思議な関係の要因なのかもしれない。


 幸いな事に、今回もお咎めなしという結果になったが、流石にマリアーネ様も呆れ顔で苦言を呈しておられた。

 マリアーネ様が養女に来て早二年ほどになるが、流石に領主令嬢としての自覚も貫禄もついてきたように思われる。妹も曰く以前よりも覇気があり、頼りがいが出てきたとか。もっとも、そのせいで少し自分が頼られる場面も減って寂しいなどとも言っていた。


 だがその杞憂は、ちょっとだけ違う姿で妹に降りかかるのだった。




◆◇◆




 私がマリアーネ様の専属となって二年ほどが経過した。

 最初は義理の姉にあたるレミリア様にくっついている印象が強かったが、今では横に並ぶ対等な立場であると自覚しておられるようだ。

 それでもお二方は、互いを本当に大切に思っている。最近ではそこにフレイヤ様も加わって、三人で談笑している事は日常の風景になっていた。


 マリアーネ様がしっかりなされて、以前のように私に頼ってくる頻度も減り、すこしばかりの寂しさと充実した幸せが私の感じる毎日の気持ちだった。

 だがある日、その事を違う意味で実感してしまう出来事がおこった。


 マリアーネ様が、アーネスト殿下を引っ叩いたのだ。


 もし家の者に『お嬢様が殿下を叩いた』と言えば、全員が『レミリア様がアライル殿下を叩いた』と解釈しただろう。それほどに、マリアーネ様とアーネスト殿下という組み合わせは衝撃だった。

 そうなると何故そうなったのか、という疑問が当然出てくる。それに関しては『殿下がレミリア様を悪く言った』と言う話が漏れ聞こえたが、おそらくは全て真実という訳ではないのだろう。ただ、アーネスト殿下の発言に対し、マリアーネ様がお怒りになられたのは確かだと思う。

 後は……そうね、マリアーネ様が近頃はレミリア様に似てきた、というのもあるかと。容姿も声もまったく違うのに、たまに並んでいる二人を見るとそっくりに思える自分がいる。その事を姉に話したら、自分も同じような事を感じることがあると言っていた。

 だが、よもやこんな所まで似てくれるとは……そう思わずにはいられなかった。


 ──そして後日。

 アーネスト殿下とアライル殿下も、やはり兄弟だという事なのだろうか。

 先のアライル殿下からの婚約話の時と同様、アーネスト殿下からも婚約の話が届いた。もちろん相手はマリアーネ様だ。


「……姉さん、やっぱり殿下──王族ってのはそういう(・・・・)癖が……」

「しっ! だめよリメッタ。……たとえ思っていても、口に出しては」

「姉さんも思ってるんじゃないですかっ」


 手紙が届いてからの数日間は、また以前の噂話がひそかに囁かれたのだった。




◆◇◆




 そんな息をつく暇もない……ある意味充実した日々を送っていた私達姉妹だが、徐々に近付いてくる大事に備えて少しずつ準備をするようになっていた。


 レミリア様とマリアーネ様の魔法学園入学だ。

 全寮制ということで王族や高爵位の子息令嬢は、付き人も一緒に入寮する。無論私達も一緒に入寮することになっている。


 お二人は『聖女』という特異な立場ゆえに、入学早々に色々注目もされるだろう。また、二人共がそれぞれ殿下に好意を向けられている事も、何かしらの騒動を呼びそうだと思わずにはいられない。

 だからこそ私達は、お二人の為に全力で補佐をすることに決めている。


「……なんか、面白いわね」

「ん? どうしたの急に」


 早朝のお勤めをしながら、私は妹にそう呟く。いきなり面白いといわれた妹は、なんのことだと不思議そうな顔を浮かべる。


「ううん、なんでもないわ。ただ……」

「ただ?」

「こんな楽しい日々、これからもずっと続くといいなって」


 掃き掃除を終え、道具をしまいながらそう言う。それを聞いた妹は笑顔を浮かべ、


「続くに決まってるじゃない。それもどんどん面白くなるわよきっと」


 そう言って視線を向けるは、レミリア様たちの部屋の方。


「……そうね。そろそろお嬢様たちを起こしにいきましょうか」

「賛成~。それじゃあ、今日はどっちの部屋にいると思う?」


 いたずらっ子のような顔で私に聞く妹。お嬢様二人は、いまだによくどちらかの部屋で一緒に寝ていることが多い。たまに別々に寝ていると「喧嘩でもしましたか?」と聞きたくなるほどだ。


「んー……今日は、二人ともレミリア様の部屋」

「じゃあ私は、二人ともマリアーネ様の部屋」


 お互い笑い合って、並んで廊下を歩いていく。向かう先は、私達の大切な主であるお嬢様の所。

 今日も一日、張り切って行きましょう。



あと一話で第二章は終わりとなります。

第三章はようやく魔法学園です。

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