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転生令嬢姉妹は平穏無事に過ごしたい  作者: のえる
第二章 心構え ~レミリア14歳~
35/153

035.分け隔て無く仲良くなりましょう!

 今日は久しぶりにマリアーネと二人で街へやってきた。城下街ではなく、家から程近い場所のいわゆる繁華街的な場所だ。食材や雑貨が売っていて、酒場に食事処などがあり、朝早くから深夜までにぎわっている場所だ。

 そういう場所だと治安も不安だが、ちゃんとそれを監視する警備兵もいる。だから私達も専属メイドが同行するだけで、自由に街をうろうろする事が出来るのだ。


 とはいえ、流石に私達は領主令嬢だけあって、この辺りの人からしてみればいわゆる顔パスだ。だからこうやって屋台通りなんかを歩いていると。


「レミリア様にマリアーネ様! この串焼きいかがでしょう?」

「美味しそうだね。でも、あんまり食べると他が食べれないから一本だけね」

「毎度有り! またよろしく!」


 お金を払って串焼きを一本手にする。後ろからミシェッタの「レミリア様は、また……」と愚痴を零すような声が聞こえたが気にしないでおこう。

 ぱくりと半分ほど食べて、残り半分の串をマリアーネに渡す。それを手馴れた感じで食べるマリアーネを見て「マリアーネ様まで……」とリメッタも愚痴る。いいじゃないの、屋台の串焼きってのはこうやって食べるのが一番美味しいんだよ。持ち帰って冷めたのを口にするなんて、音を立てずに蕎麦をすするようなものじゃない。

 そうそう、当然ながら歩き食いは流石にしてない。買った屋台の側で食べて、串はちゃんと串入れに入れておいたから。


 この後も、街をぶらぶらと気ままな散歩をしていた。屋台とバザー会場を足して割ったような光景に、何故か私もマリアーネもテンション上々だった。前世でも、特にあてもなくウィンドウショッピングするのが好きだったから、ここでもやはり嗜好性が似ているのだろう。

 だから気軽に休憩できるコーヒーチェーン店とかが無いのは少々寂しい気もする。というか、この辺りは紅茶は飲むけどコーヒー自体を見かけない気がする。会社勤めするようになると、コーヒーとの付き合い方も変わってきたからねぇ。

 そんな事をマリアーネと話しながら歩いていると、ふと前方に気になる光景があった。


「ねえ、アレ……何してるのかな?」

「えっと……ここから見える感じでは、若いメイドを男共が取り囲んでるようにしか」

「だよね。よし、行こう!」

「あ、レミリア姉さま!」


 思いついたら即決断。それで後悔するなら、諦めがつくっていうのが私の信条だ。ともあれ見過ごせそうにない光景なのでまずは行動。


「ちょっと! 貴方、何をしてらっしゃるのかしら!?」


 睨みを利かせながら男達に語気を強めて話しかける。


「へっ? 何だ…………って、レミリア様!?」

「私の事を知ってるならは話は早いわね。あなた達は、そこの子によってたかって何をしてらっしゃるのかしら?」

「えっ……ああっ、違います、誤解です!」

「俺達はその、なんかこの子が困ってるみたいだったから……」


 そう言って慌てる男達。なんとなくその慌てぶりが本当っぽい感じもしたので、とりあえず女の子に話を聞くことにする。見たところ私達より2~3歳ほど年下だろうか。きちんとメイド服を着ており、どこかのお屋敷で働いているメイドのようだが。


「……あら。貴女どこかで見たような……」

「レミリア様。こちらは、クレア・ハーベルト様のメイドです」

「へ? クレアの? そうなの?」

「は、はい。私はクレア様の専属メイド見習いの、リィナと申します」


 驚いて本人に確認すると、どうやらクレアの専属のメイドらしい。ただ、まだ見習いだと本人が言ってるけど。言われてみれば以前クレアのデビュタントの時、近くに若いメイドの子がいたような記憶がある。ちゃんとは覚えてないけど、このリィナって子だったかもしれない。


「それでリィナは、何をしてらしたのかしら?」

「その、クレア様と一緒だったのですが、はぐれてしまって……。それで困っていましたらこの方達が」

「取り囲まれたの?」

「い、いえ! 普通に声をかけて下さったんですが、その、私が驚いてしまい……」


 なるほど。どうやらこの子が言ってる事は本当のようだ。つまりこの男達は、別段彼女を取り囲んだり脅したりしているわけじゃないと。リィナさんの話を聞いて振り返って男達を見る。


「……わかりました。あなた達が彼女に何かをしてらしたわけではない事は理解しました」

「ほっ……よかった──」

「ですがっ! いいですか? あなた達のような大人の男が数人で、か弱い女性につめよったら怯えられて当然じゃないですか。親切心で話しかけたようなので、最初の私の言葉は謝罪致します。ですが、もう少し相手の状況を見て行動をするようにして下さいませ。わかりましたか?」

「は、はい……」

「すみません……」


 私の言葉に申し訳なさそうにする男達。でもまあ、本当に悪気はなかったようだ。なので、


「ですが、困っている方を助けようとされた気持ちは立派です。どうもありがとうございました」


 そう述べて頭を下げる。本来であれば貴族の頭は、そう簡単に下げるものじゃないらしいが、私は自分が思ったようにしている。感謝を述べるなら頭を下げるくらい当然だと。それにどんな経緯であれ、最初に少し誤解したのは私が悪い。そして後は私達に任せて下さいと伝えると、ほっとした表情でよろしくお願いしますと言って立ち去った。

 さて、それじゃあリィナの主であるクレアを探しに──


「リィナ! そこにいた……えぇっ!? レミリア様!? マリアーネ様!?」


 行こうかという提案が喉から出る直前、かなり驚いた声が私達に届いた。声の方を見ると、案の定リィナの主であるクレアだ。一瞬駆け寄ろうとしたらしいが、リィナの周りに私達がいて足が止まった。

 別にクレアが何か悪い事をしたわけじゃないんだけど、なんか悪戯が見つかって動けなくなった子供みたいでちょっと可愛い。……別にそういう性癖があるわけじゃないわよ。


「こんにちはクレア。今しがたリィナよりお二人がはぐれてしまった事をお聞きしたので、それならば一緒に探しましょうか……という話をしていたところなのです」

「えっ!? も、申し訳ありません! そんなご迷惑を……」

「いいえ、少しも迷惑ではございません。会えましてよかったですわ」

「ク、クレア様ぁ~……」


 ようやく会えたという感じで、リィナが半べそ状態でクリアに寄っていく。なんかこの瞬間だけ切り取ってみると、私がクレアのメイドをいじめていて咎められたみたいに見えない? もしやこういう誤解を生みそうな行動が、後々に蓄積されてバッドエンドに……なんて考えて周囲をみても、そんな視線はまったく感じなかった。


「まったくリィナったら……。あの、レミリア様、マリアーネ様。この度はうちのメイドがご迷惑をおかけしました」

「ううん、本当に大したことはしてないから。……そうですわ、この後何か予定とかあるかしら?」

「いえ、特に予定はございません」

「そう! それなら、もしよかったら一緒にお茶でもしませんか?」

「わ、私とですか!?」


 突然の申し出にクレアが驚く。実際のところ、私と彼女は間にフレイヤを挟んでの知り合いというくらいしかない。なので、こうやってお茶に誘われるとは思わなかったのだろう。

 唖然とした表情をしていたが、さすがに領主で侯爵家の令嬢に誘われたら、子爵家の令嬢としては断れないのだろう。その辺りはちょっと申し訳なかったけど、一度ちゃんと話してみたいとも思ってたんだよね。


「……わかりました。どうぞ、よろしくお願い致します」


 しばし考えた後、了承の返事をしてくれたのだった。






 少し歩いたところにあるカフェに私達は入った。街にあるカフェなので、貴族などが使うような凝った場所ではないが、私もマリアーネもそんなものには興味を示さない。普通にお茶して、お喋りできればそれでいいのよ。とはいえ、多少は気を遣ってもらったのか個室になっている席に案内される。要するに家族客とかが使う席ね。

 私が専属のメイドたちも席についてと言うと、うちの専属メイド姉妹はすぐ私達の隣にすわったが、リィナは「えっ? えっ?」とオロオロするばかりだ。普通は専属でもメイドを同じテーブルに着かせはしないだろうからね。それを見たマリアーネが、にこやかにほほ笑みながら口をひらく。


「大丈夫よ。私達はそういう事を気にしないから。ホラ、一人だけ立ってると気になるでしょ?」

「……リィナ、マリアーネ様からの申し出です。隣に座りなさい」

「は、はい。失礼致します……」


 渋々というよりは、恐縮過多という感じでようやく座るリィナ。それを確認して個室口に待機していた店員に頷くと、すぐさま飲み物をテーブルに置いて立ち去って行った。うん、よく教育されているわね。手際のよいファミレスにいる気分だわ。

 全員の前に、果汁をつかったドリンクが置かれている。店に入ってすぐに店員にお願いしておいたのだ。そして、そのドリンクをリィナが呆けたように見ている。……もちろん、彼女の前にもあるからね。


「あ、あの……」

「ふふ。それはリィナの分ですよ。遠慮せず飲んで下さいね」

「え、あ、はい……」


 言われて困惑しながらクレアに視線を向けるリィナ。クレアも少々驚いてはいるが、リィナほどではないようだ。


「あのレミリア様、マリアーネ様。お聞きしてもよろしいでしょうか?」

「うん?」

「どうぞ」


 私達の承諾をもらい、軽く息を吐いてクレアが聞いてきたことは。


「フレイヤさんから、お二人はその……領民を身分で差別することなく、分け隔てなく接しているとお聞きしました。それは……正しい、のでしょうか?」


 思いのほか、ちょっとだけシビアな味のする質問だった。えっと、この子たしか12歳とかだったよね。日本でいうなら小学6年生? なかなか大人びた思考をしてるかも。それとも、この世界での12歳ってこれが普通なのかしら。


「正しいかどうかは、その時によって違うかもしれないわね。当たり前の事だけど、社交界での振る舞いに身分という区分けは付き物よ。晩餐会などの主賓へ挨拶をするのも、私と貴女が並んでいたら私からするのが道理ね。場合によっては、貴女は一度下がったほうが良い場合もあるかもしれない」


 私の言葉をじっと聞いているクレア。その表情は何かを得たいと真剣だ。といってもねぇ、今のはごく一般的な事なのよね。だって私は、


「でもねクレア。私自身としては、誰とも分け隔てなく接した方が楽しいのよね」

「楽しい……ですか?」

「そう、楽しい。だって、貴族だろうが平民だろうが、美味しいものは美味しいし、不味いものは不味いでしょ。そりゃ個人差はあるかもだけど、それは平民だろうが、貴族だろうが、ヘタをすれば孤児だってかわらないわ」


 私の言葉に驚くも、どこか嬉しそうな表情をしているように見えるクレア。同じ様にそれに気付いたマリアーネが、私が聞きたかったことを聞く。


「クレアはどうしてそんな事を聞いたの? 誰か仲良くしたい平民でもいるの?」

「そ、それは……」


 マリアーネのド直球な質問に、思わず視線をリィナに向けてしまうクレア。いわゆる『目は口ほどにものを言う』というヤツだ。ということは──


「もしかして、リィナって……」

「……はい。私は元は孤児でした。今はハーベルト様の所で見習いメイドとして住み込ませて頂いております」


 おおっと……平民だとおもってたら孤児だったよ。

 でもねぇ、私からしてみると特に違いはないんだよね。貴族も、平民も、孤児も。さすがに王族は無礼すると首がとんじゃうけどね。

 だから秘密の告白をして落ち込んでいる、みたいになっているリィナと、それを心配するクレアを見て私は立ち上がる。それを見たマリアーネも笑みを浮かべて立ち上がった。私が何をしようと思ったのか理解したのだろう。


「えっ……」

「あ、あの……?」


 驚くリィナと、それで不安がよぎるクレア。私とマリアーネはすっと、リィナの席のとなりへ。

 声にならない悲鳴でもあげそうなリィナを見て、ちょっとばかりイタズラ心が芽生えたけど、どうやら純粋すぎるような子なので今回はヤメておこう。そっと屈んで、顔の高さをリィナにあわせて。


「それじゃあ今からリィナは」

「私達とお友達ね!」

「ひうぅぅっ! …………え?」


 左右からぎゅっとだきついてそう宣言すると、一瞬息を吸う様な悲鳴をあげるが、言われた言葉を理解してとても可愛らしく疑問の声をあげた。


「は? え? ええ? で、でも……」

「でもじゃないの! 私が友達になりたいと思ったから友達!」

「とういうわけで、これからもよろしくお願いしますね!」

「あ……はい、よろしく……お願いします……」


 そうお礼を言って、リィナは泣き出してしまった。無論そこに笑顔が漏れ見えるので、うれし泣きだということは分かっている。

 私達が離れると、隣の席のクレアがそっと近寄り抱きしめた。それでまた改めて泣きだしてしまったけど、その姿が仲良し姉妹みたいで心地よい。

 そのまま、しばらくリィナは笑顔で泣き続けていた。




 ──で、その後なのだが。

 せっかく仲良くなったからと、やっぱりちょっとだけイタズラ心が向いてしまった。といっても、意地悪をするわけじゃない、良い意味で……そう、良い意味でのイタズラだ。


「リィナ! 私達と友達ということは、自然と私達の専属メイドとも仲良くするということよ」

「は、はい! 先輩方よろしくお願いします!」


 立ち上がり、綺麗なお辞儀でうちの専属メイド姉妹に頭をさげる。


「いい心がけねリィナ。それじゃあミシェッタ、折角なので専属メイドの先輩として、しっかりリィナを一流の専属メイドに鍛えてあげてね」

「えっ」

「それは良いですわね。ではリメッタもお願いできますか?」

「あの、そのっ」


 先程までの笑顔は一瞬で消え失せ、どこか少し青ざめた顔のリィナがいた。侯爵家の令嬢の専属メイドからの指導という、他家で普通ならば受けられない恩恵が色んな意味でプレッシャーとしてリィナにのしかかった。もちろん、ハーベルト家に迷惑がかかるようなことはしない。ただ、専属としての立ち居振る舞いをちょっとだけ教えてあげて……くらいの事なんだけど。

 それでもリィナにとっては、かなりのイレギュラーな大事である。


「ううっ、クレア様……」


 さっきとは違う半泣き顔で、主にすりよるリィナ。そしてその主は、


「頑張ってねリィナ」

「そんなあぁぁぁ……」


 とても素敵な笑顔で専属メイド見習いを応援した。

 この日クレアは、ちょっとだけフレイヤから聞いた言葉を実感した。



『あのお二人と一緒にいると、自分もどんどん変われるんです』



 そう言ったフレイヤの笑顔は、きっと今の自分と同じだろう……クレアはそう思い、優しい笑みをうかべるのだった。



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