027.おしゃべりで盛り上がってみましょう!
司祭様より連絡を受けた三日後、私達は目的の教会へ向かった。私たち同様にフレイヤも呼ばれていたので、前日に遊びに来てもらいそのまま我家に泊まってもらった。彼女と遊ぶようになってから、こうやってお互いの家に泊まることが結構増えた。
──余談だが、お風呂上りの私達三人は、なんと浴衣を着ているのだ。以前フレイヤが振袖が記述された書籍に同様に掲載されており、私とマリアーネ監修の元作り上げたものだ。振袖に比べたら作りも簡単で、帯の留め方も簡単だから非常に重宝している一品だ。
まぁ、そんな感じでフレイヤも含め三人で教会へ。外出ということで、例の如くメイド姉妹も同行しているが、まあそれはいつも通り気にしない事に。
そんな感じに私達が教会に到着すると、正面玄関入り口に司祭様の姿が見えた。どうやら他の来客への挨拶をしているよう──んっ!?
「ねぇ、あれってもしかして……」
「……そうですね。あ、でももう一方……」
「え、えっ、ええぇっ!?」
三者三様に驚く私達。その中でも一番驚いているのはフレイヤだ。なぜなら──
「あっ。レミリア、マリアーネ!」
「ふふっ、相変わらず兄妹そろっての溺愛ぶりだな」
なぜなら、そこにいるのは私達のお兄様だったからだ。そして隣にいるのは、アーネスト殿下だ。おかげでフレイヤは予定外のエンカウントに驚いてしまったというわけだ。
というか、なんでお兄様たちが教会にいるの?
色々と疑問はあるが、とりあえず馬車を止めて降りる。まずは司祭様に挨拶をした。ここは教会であり、そこの最高責任者だし、なにより今日の本題は司祭様との件だから。
若干フレイヤの挨拶声が上ずっていたが、どう考えてもお兄様のせいだよね。
「──で。アーネスト殿下、そしてお兄様。どうしてここにいらっしゃるのでしょうか?」
私の言葉にアーネスト殿下が少し苦笑いをして半身のけぞる。別に威圧したわけではないけど、この悪役顔で睨むと結構迫力あるらしい。おかげで、お兄様は見慣れているからわかっているらしいが、アーネスト殿下は私が怒っているように思ったようだ。
「あ、いや。何か悪気がわったわけじゃないんだ。気分を害したのであれば謝罪する。ただ、今日はケインズの付き添いで私はここに来たんだ」
「えっと……お兄様の付き添い? ということは、今日はお兄様が用事があって?」
「ああ、そうだ。それについては……」
お兄様が司祭様を見る。どうやら私達のほかに、お兄様も呼んでいたようで。
「そうですね。私から説明しますので、まずは中へどうぞ」
笑みを浮かべた司祭様に促され、私達は教会の中へ。前回きた時は、そのまま通り抜けて裏口から外へ出たが、今回は教会内の一室へ通された。いわゆる応接室だ。ここにアーネスト殿下がいるので、王室護衛が同行しており、うちのメイド姉妹は廊下で待機している。
ソファに座った私達をみて、司祭様が話し始めた。
「まず本日ですがレミリア様、マリアーネ様、フレイヤ様のお三方に、それぞれの属性魔法についての事を学んでいただきます。……とはいえ、既にレミリア様とマリアーネ様は、基本知識と初期魔法は習得されております。なので、まずはフレイヤ様に同じくらいの知識と技術を学んでいただきます」
「わ、私ですか……?」
まさかのピンポイント指名に、フレイヤの顔が……あら? あんまり青くならないわね。元々が色白だから、青ざめるという状態がわかりにくいのかしら。でも、さっきまではお兄様が近くにいるせいで、結構顔が赤かったから丁度±0なのかもしれないわね。
「あの、それでは私やレミリア姉さまも呼ばれたのは……?」
「それはですね。もしフレイヤ様が基礎知識と初期魔法を習得されましたら、次は一緒に学んで頂きたいことがありまして。後は──そうですね、フレイヤ様はお二人がいらっしゃいますと気持ちが安定されますので、よろしければ一緒にいて頂きたいかと」
「なるほど……わかりました、そういう事でしたら」
「私も了解いたしましたわ」
要するに、まずはフレイヤの教育だけど、ちょっと人見知りするフレイヤのために側で支えてやって欲しいってことね。それと後々に一緒に学ぶべきことがある……と。
なるほど、私達三人がまずやるべきことは理解しました。
「それでは、お兄様をお呼びしている理由はなんでしょうか?」
「それはですね……是非とも、水魔法を学ぶ時の指導をしていただきたいと」
「…………ええぇっ!?」
室内にさっきにも聞いたフレイヤの驚き声が響いた。ああ、また顔が赤くなってる。なんか今日のフレイヤって、いつもに増して驚いてばっかりだわ。それでも可愛いのは……ずるいっ。
そんな訳で、まずはフレイヤに水魔法の基礎知識と、初歩的な使い方の講習がはじまった。その際、知り合いであり水魔法を扱える人物として、お兄様が隣で補佐をしている。うん、まだ緊張しているわね。
少し離れた所で、その様子を見ていた私達にアーネスト殿下が声をかけてきた。
「レミリア嬢、マリアーネ嬢。少し話でもいいかな?」
「はい」
「大丈夫です」
色々と思うところもあるが、さすがに国の第一王子に話しかけられて無下にはできない。というか、私もマリアーネも、アーネスト殿下とこうして直接話すことってあまりなかったかも。
「ありがとう。いつもはアライルやケインズがいるからか、中々君たちと言葉を交わす機会もないからね。聞くところによると二人とも魅力的な人間だと聞いているから、是非話をしたかったんだけれど」
「はぁ……魅力的、ですか」
「えっと、ありがとうございます?」
アーネスト殿下は私達の曖昧な返答に、一瞬驚くもすぐに破顔して笑みを浮かべる。
「うん、アライルが言った通りだな。どうやら二人は、私達が知っている貴族のお嬢様方とは色々と違うみたいだ」
「え? アライル殿下が何かおっしゃってましたか?」
「おっと、これは言わない方がいいのかな。んー……でもまあ、悪い事は言ってないよ。ただ君たち二人は、私達とは違う尺度で物事を考えられる存在だと。まぁ、要するに褒めてたんだけどね」
「そうですか……」
「私が教えたってことは、内緒にしておいてくれないかな」
そう言ってにこやかな笑みを浮かべる。どうやらアーネスト殿下にとって、私達は妹みたいな感じみたいだ。お兄様から受ける印象とよく似ている気がする。
「それにしても……」
「ん?」
「君たちは不思議だね。なんというか……こう、纏っている雰囲気というか、そういう物が今まで出会ったことの無い感じがするんだ」
「纏っている雰囲気……」
どうにも言いあぐねているようにも見えるが、これって“オーラが違う”とかいう事だろうか。それって私らが聖女だからってこと? それとも転生者という要因が、何か異質的な物を感じさせてるんだろうか。
「ああ、すまない、妙な事を言ってしまったね。私はね、相手の存在を感じ取ることが出来るんだよ。どういった原理かは明確ではないが、おそらくは私の持つ風属性の魔力と、王族が受け継ぐ力を融合したものだと思うのだけれどね」
「そんな力が……」
「そういえばアーネスト殿下は、風属性魔力を持っているのでしたね」
マリアーネが何か思いついたのか、アーネスト殿下の適正魔力についての話題をふる。
「ああ、そうだよ。何か気になることでもあるのかい?」
「あ、いえ。気になるってほどじゃないんですけど……」
「遠慮はいらないよ。ここは公式の場じゃない、気軽な会話だと思っていってくれ」
「はい。それじゃあ……以前から思っていたんですが、“風”って属性なんですか?」
「え?」
「お!」
驚く殿下と違って、私は思わず喜色気味な声をあげてしまう。
「私もソレ思った! なんで他が水や火や土なのに“風”なのよって」
「えっと……風では何かおかしいのかい?」
私とマリアーネの疑問が理解できてないようで、アーネスト殿下が困惑気味に聞いてくる。
「何と言うか……私達の感覚だと“風”って『空気が流れている』って事なんですよね。だから、属性というよりも状態表現の言葉みたいな感じといいますか……」
「要するに火や水、土といった存在する物と対比するなら、どっちかと言えば“空気”もしくは“気”って感じなんですよね。まぁ、気属性っていわれてもいまいちピンときませんけど」
「なるほど……」
なんとなく言ってみたが、意外にもアーネスト殿下は興味深げに聞いてくれた。どうやらこの世界でも、空気という認識はあるみたいだ。
「でもレミリア姉さま。空気だと、やはりいまいち認識し辛いですね」
「そうね。大雑把に、酸素だ二酸化炭素だって言われてもよくわかんないし」
「レミリア姉さま、空気に一番含まれてるのって窒素ですよ?」
「え、あれ? 本当? うわぁ~……さすがにもう化学式とか覚えてないわよ」
「えっとですね? そもそも空気は混合物だから化学式ありませんよ?」
「……マジで? そういう事って昔必死に覚えたのに、もうすっかり忘れたわ」
「確か大雑把に窒素が78%、酸素が21%、残りが微量な十数個の成分で構成されてるハズです」
「えっと、なんでそんなに詳しいの? もしかして成績優秀者だったとか?」
「実はですねぇ、テストに向けて丁度その辺りを覚えてた記憶があるんですよねぇ」
「うわ、さすが元現役女子高生だ」
「ちっちっち。JKですよJK」
「あはは! JKなんて単語、何年ぶりかで聞いた!」
「ですね! 私も何年ぶりかで言いました!」
「「あはははは!!」」
「………………」
「「はははは……あ」」
心の底から、少々はしたない笑い声をあげていた私とマリアーネは、すぐ側で驚きの顔で固まっているアーネスト殿下に気付いた。
しまった!! なんかもう、色々としまったぁあああ!!
いや、落ち着け。正直アーネスト殿下では……というか、この世界の人間では理解できない内容だったと思う。だから──
「君たちは、いったい……? あ、いや。そうか、これもあの聖女故の……」
一瞬疑問に思うも、どうやら殿下の中で『聖女』である故に……という理解になったらしい。正確には違うのだが、転生した事で聖女の資格を得たのならば、まあ間違ってはいないか。それにそういう認識となれば。
「いや、すまない。今の話は聞かなかった事にする。……だが気を付けて欲しい。あの事を知られたら、どんな影響が君たちにあるかわからない」
「はい、すみません……」
「以後気を付けます……」
二人してしょんぼりするも、内心余計な詮索はされなくてほっとしていた。
それじゃあ、少し気を取り直して──あら。フレイヤがこっちを見てるわね。それに司祭様とお兄様までも。
「どうやら君たち二人を呼んでいるようだね。……もしかするとフレイヤ嬢は、優れた魔法の才能をもっているのかもしれないな」
楽しそうにつぶやくアーネスト殿下と共に、私達はフレイヤの所へ向かうのだった。