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転生令嬢姉妹は平穏無事に過ごしたい  作者: のえる
第二章 心構え ~レミリア14歳~
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025.またやってしまったと諦めましょう!

「ごきげんようレミリア、マリアーネ嬢」

「ごきげんよう、アライル殿下」


 私とマリアーネに客人だと玄関ホールで出迎えると、そこにいたのはアライル殿下だった。にこやかな挨拶にマリアーネが返事をする。


「……ごきげんようですわ、アライル殿下」

「いつも言ってるじゃないか。気軽にアライルと呼んでくれと」


 少し寂しげだが、にこやかに返答するアライル殿下。そうなのだ……未だにアライル殿下との、“ちょっとだけやっかいなお友達関係”というのは続いている。とはいえ、その後何か進展があったわけではない。まあ、少しばかり変化があったと言うなら、クライム様も私に対する思いを表明したので同じ土俵に立った……というくらいだろうか。……この世界って土俵ってあるのかしら?

 とりあえず、相手がアライル殿下ということで、そう無下に追い返すわけにもいかず、私とマリアーネとの三人で応接室へ。ちなみにわざわざ言うことでもないが、私専属のミシェッタとマリアーネ専属のリメッタは、特別な用事でもないかぎり日中は私達と一緒にいる。だから今みたいに応接室へ移動する場合も、一人は同行、もう一人はお茶等の手配をする。そして運んできたお茶を入れた後は、部屋隅でじっと待機をしてくれている。


 初めの頃は、意識する……という訳ではないが、現状でアライル殿下と親密に……ましてや婚約するのは悪手だと考え、ある程度の距離を保つようにしていた。しかし、さすがに暖簾に腕押しがすぎたのか寂しそうにするアライル殿下が不憫で、私もマリアーネも以前よりは楽しく話を交わすようになった。

 そして、ふと先日フレイヤが行った魔力適正の事が頭をよぎる。既にゲームで知っているのだが、せっかくだからとアライル殿下に話をふってみる。


「そういえばアライル殿下は、魔力適正は『火』でしたね」

「そうだけど……良く知ってたね。それがどうかしたのかい?」

「いえ。ただ先日フレイヤが魔力適正を調べましたので」


 ごく普通の会話だが、これでゲーム知識とこちらでの知識において、齟齬が生じてない事を確認できた。場合によっては、攻略対象者の魔力適正が異なっていると後々問題が起こらないとも限らないから。

 私としては確認だったのでこれで話は終わったのだが、アライル殿下は興味をもったのか続けて質問をしてきた。


「ではフレイヤ嬢の魔力適正はどうだったのかな?」

「え、フレイヤの……ですか?」


 何故アライル殿下がそれを聞いてきたのか不思議に思ったが、別段この国の貴族は自分の魔力適正を隠すようなことはなし。むしろ、それを告げることも貴族の子息令嬢としての義務ですらある。


「フレイヤは『水』でした。それも、司祭様が褒めるほど純粋な水属性魔力だそうです」

「ほぉ……フレイヤ嬢はそんな才能を持っていたか……」

「……あの、アライル殿下? もしやフレイヤの力を何かに利用……とか考えてませんよね?」


 感心するようなアライル殿下を見て、マリアーネが訝しげに尋ねる。そういえばこの子も、以前より大分アライル殿下に遠慮がなくなってきた気がするわね。私としては好ましいからいいけど、アライル殿下も別段気にした様子もないようなので、今の所はそのまま放置している。


「いや、そんなつもりは無かったのだが……。すまない、何か誤解させるような物言いだったな」

「あ、いえ。こちらこそ、王族相手に失礼な事を言ってしまい申し訳ありません」


 アライル殿下とマリアーネがお互いに謝罪をする。とはいえ、実は私も少しばかりマリアーネと同じ感想を持ったんだけれど。というのも以前アライル殿下は、フレイヤに対して少しその……んー……なんと言えばいいんだろうねぇ。見下す……とは少し違うんだけど、王族であるという立場からつい(・・)言ってしまった……という事があったからだ。

 おそらく今、誰も口にしてないが皆同じ事を思い出していると思う。

 それは──そう、アライル殿下が初めてフレイヤに会った日の事だ。。






 その日私とマリアーネは、遊びに来ていたフレイヤと楽しい時間を過ごしていた。

 そこへアライル殿下がやって来た。別にフレイヤが居る時にアライル殿下が来るという事は、その時が初めてというわけではない。なのでフレイヤも、ぎこちないながらアライル殿下に挨拶をする。

 アライル殿下としても、過去に貴族たちが流していたフレイヤ──というか、サムスベルク家に対する誹謗中傷などは知りもしないし、フレイヤ本人に対しても、


「……ふむ。レミリアの友人であれば、私の友人でもあるか」


 と述べて、よろしくと握手を差し出していたくらいだった。

 だがフレイヤからしてみれば、アライル殿下という存在は貴族であっても中々言葉を交わす機会の無い人物だ。サムスベルク家が伯爵家でそこそこの令嬢であったとしても、フレイヤ自身が以前ほどではないが人見知りをしてしまうタイプだからだ。

 だから本来であれば、私やマリアーネも同じようなものなんだけどね。ただ私はゲームからの知識から、どうにもアライル殿下にそこまで諂うというか、頭を下げるような気持ちにならないわけで。そんな私を隣で見てるマリアーネも、根本は私同様の転生者だからいまいち貴族の社交性が弱いとでもいうのか。最もアライル殿下には、それが気安くていいらしい。これが気難しい王子様だったら、とっくに不敬罪なんだろうね。


 とはいえ、さすがにアライル殿下も社交界の頂点。しっかりとマナーを心得ているようで、次第にフレイヤとも言葉をかわせるようになってきた。そんな中、私達のお兄様であるケインズの話題になった時のことだった。アライル殿下のお兄様である第一王子アーネスト殿下は、お兄様と齢が同じでこの年から学園に通うようになっていた。二人は元々の知り合いだったが、学園寮に入り今ではよく一緒にいるとか。そんな近況をまじえたお兄様達の話をしていると、それをうっとりした顔で聞いているフレイヤに気付いた。

 それを見たアライル殿下は、フレイヤがケインズ(お兄様)に惚れているという事にも気付いてしまったようだった。

 その事を普通に尋ねると、当然ながらフレイヤは答えに困り赤面してしまう。別段それに気を悪くするようなことはなかったが、少し何かを考える様子を見せた後、


「……ふむ。よければ私から、ケインズ殿に話をしてみようか? フレイヤ嬢の気持ちを──」


 ──気持ちを私が伝えてもよいが……という言葉が、口から出る前にアライル殿下の顔に痛みが走った。それは、どこか悲しい痛みで、そして……彼の記憶にある“痛み”だった。


「ッ!! レミリアさん!?」

「……ハァ、またですかレミリア姉さま」


 驚いて私の名を呼ぶフレイヤと、どこか呆れながらも嬉しそうなマリアーネ。

 そして、しばらく横を向いたまま茫然としているアライル殿下。


 私は──また、アライル殿下の頬を(はた)いたのだ。


 暫し茫然としたまま、ゆっくりと手で叩かれた頬をおさえる。そして何かに気付いたように、慌ててこちらを……私を見るアライル殿下。


「……失礼を致しました。ですが──アライル(・・・・)、彼女は自分の意思で、想いを遂げようとしています。確かに貴方より口添えをされれば、フレイヤとお兄様の仲に進展があるのかもしれません。ですが、その結果にどんな意味がありますか。……アライル。貴方は他人が与えてくれた物で、満足するのですか? 自分を誇らず手にする事に、どんな価値がありますか? 彼女の想いを──無駄にしないで」


 そう告げた後、ゆっくりと頭を下げた。その行動には、王族であるアライル殿下への無礼への謝罪も含まれてはいるが、一番込めた気持ちは願い(・・)だった。

 しばらく沈黙が部屋を包む。マリアーネはじっと私を見ているようだが、フレイヤはどうしてよいのかとオロオロしている空気が見なくてもわかる。

 そして……私の前にいる人物──アライル殿下の吐く息音が聞こえた。


「頭を上げてくださいレミリア・フォルトラン。ここで貴女に頭を下げられたら、私はもう何も言えなくなってしまいます」

「…………はい」


 ゆっくりと顔を上げると、どこか清々しい顔で私を見るアライル殿下がいた。だが、その目は少し寂しげに揺れている。そして、申し訳ないが頬についた手形がちょっとシュール。……うん、ごめんなさい。


「すまなかった。……フレイヤ嬢、大変失礼な事をした。申し訳ない」

「あ、いえっ、全然大丈夫ですから!」


 アライル殿下に思いっきり頭を下げられて謝罪されたフレイヤは、初めてアライル殿下と挨拶を交わした時以上に涙目になって返事を返していた。頭をさげていたアライル殿下は気付かなかったようだが、フレイヤが気持ちのやり場に困り両手をぶんぶん振り回している様子は、音だけ消して見てれば怒髪天のフレイヤと平謝りのアライル殿下に見えたかもしれない。


「……今日はこれで失礼する。本当にすまなかった」


 そう言って振り返ることなくアライル殿下は部屋を出て行ってしまった。

 しばらくボーっとしていたが、トサッとフレイヤがソファに座る……というか、腰を落とす音でなんとなく意識が戻ってくる。


「もう、レミリア姉さまったら……またですか?」

「あ、えっと、だってさあ……」


 とたんマリアーネが少し呆れたように言ってくる。それになんとか反論したかったが、私もつい行動してしまったので弁解の余地が無い。なんというか……脊髄反射みたいな?


「しかもまたこの部屋ですか? レミリア姉さまは、この部屋にアライル殿下を呼ぶと必ずひっぱたきたくなる病気ですか?」

「えええ~っ!? ま、まさかレミリアさんは以前にもアライル殿下を……」

「…………はい。ぱちーんと」


 軽くスナップを聞かせて手をぴしっと振ると、フレイヤは「ふわはぁ」と、よくわからない驚きの声を上げ、より脱力してソファに座り込んだ。普通なら王族に手をあげたなんて事になったら、その処罰はとんでもないはずだからだね。私の場合は前回も今回も、自分的に許容できるラインを越えた瞬間にそうなってしまったからだけど。


「でも、アライル殿下って……本当にそういう癖(・・・・・)ってワケじゃないわよね?」

「……レミリア姉さま、多分その発言が一番の不敬罪ですよ」


 うーん、そんなもんか。


「でもさ、次にアライル殿下が訪問してきた時、笑顔でこの部屋に来たがったりしたら流石にドン引くわよねぇ」

「……さすがにレミリア姉さまも、一度注意されたほうがいいのでは?」


 さらに大きなため息をつくマリアーネ。そんな私達を見ていたフレイヤは、


「うう……お二人の会話がよくわかりませんが、多分触れてはいけない会話みたいです……」


 そう震えながら、壁際に待機している家の専属メイドを見る。だが、少し悲しげな目をしたメイド姉妹は、ふるふると首を振るだけだった。


 この日フレイヤは、ちょっとだけ大人という意味を知ったような気がした。



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