024.親友の心意気を感じてみましょう!
今話より第二章となります。
この国の貴族は、14歳になると魔力適正を調べる決まりになっている。その場合、火・水・風・土の四属性のどれかだと診断が下されるのだが、極々稀にそれ以外の魔力を有している者がいる。
そして、その極々稀の存在──私ことレミリアと義妹のマリアーネ。
私は闇魔力を、マリアーネは光魔力を有しており、それぞれが『常闇の聖女』と『栄光の聖女』という存在だ……という事らしい。実際のところ、私もマリアーネもそれぞれの魔力を自覚し、簡単な魔法は扱えるのだが、なんせそれが発現したのが12歳の時。聖女としての資質ありと言い渡されたが、時期尚早なのか具体的なこと特に言われていない。
どうやら「学園を卒業するまでには心構えをして下さいね」という事らしいが、正直まだ実感が無い。とはいえ、私達がそれぞれ聖女の資質ともいえる闇や光の魔法を有しているのは、さすがに二年も経過した今では十分骨身に染みている。けれど独自に魔法研究とかするのは怖いので、相変わらず初歩的な魔法しか知らないんだけどね。
14歳となり、私とマリアーネが出会ってから二年が経過した。当初は私の後を着いてくるような、どこか儚げだったマリアーネも、今ではとても元気で明るくなった。もはやどこへ行っても『性格はそっくりね』と言われるほどだ。
そんな私達、本日は一緒に教会にやって来た。
14歳の貴族が教会にやってくるのは、主に自分の魔法属性を知るためというのが殆どだ。だが、私とマリアーネは当然その必要はない。
ならば、何故今日ここにいるのかというと……
「レミリアさん! マリアーネさん! 来てくれたんですねっ」
「こんにちはフレイヤ、当然でしょ」
「そうですよフレイヤ、友達なんだから」
子犬だったらバタバタと尻尾を振るんじゃないかという笑顔で、フレイヤがこっちへやって来た。相変わらず素肌が白いけど、知り合ったときよりずっと笑顔も増えて、彼女への陰口も最近ではすっかり聞かなくなった。
今日はそのフレイヤが魔力適正測定をするので、野次馬根性込みで私達は教会に来た。
「それで、測定はもうしたの?」
「いえ、まだこれからです」
「そうなんだ。それじゃあ私達も一緒にいいかな?」
「はい。……あ、そうか。お二人は聖──」
そこまで言いかけて、はっとした表情でフレイヤは周りを見渡す。幸いにも周囲に人はおらず、ほっと胸をなでおろしていた。
実はフレイヤには、既に私達が聖女候補だという事は教えてある。以前家で光と闇の魔法を見せた時から、薄々は何かに気付いていたようだが、この齢になり改めて教えた。勿論、それを口外するような事はないし、知ったからといって私達との関係性に変化はなかった。どちらかといえば「教えてくれてありがとう」と、より仲良くなったくらいだろうか。
とりあえず、ここで雑談していても……ということで、測定をしてくれる人物が待つところへ。といっても、私とマリアーネにとってはもうすっかり顔なじみの人物なんだけどね。
「ごきげんよう、司祭様」
「司祭様、こんにちは」
「まあ、レミリア様にマリアーネ様。ごきげんよう」
その人とは、私達に聖女としての初歩的な知識と心得を教えてくださった司祭様だ。前もって私達がフレイヤと親友である事は伝えてあったので、一緒にやって来たことに疑問はないのだろう。ただ、未だに少し人見知りするフレイヤは、初対面の相手だと少し怯えてしまう節がある。
「は、初めまして……フレイヤ・サムスベルクです。本日はどうぞ宜しくお願い致します」
緊張しながらも、丁寧に頭を下げて挨拶を述べる。その様子に笑みを浮かべた司祭様も挨拶をするのだが……
「初めまして。この教会で司祭を務めているサライア・クレマールです」
挨拶を述べてフレイヤを間近で見た瞬間、司祭様の表情が何かに気付いたように変化した。それを見て、今度はフレイヤの表情が強張った。まさか司祭様がフレイヤの外見について、よからぬ事を言うとは思えないが、少なくともフレイヤを見て驚いたのは間違いない。
よくわからないが、何かごまかさないと!
「あ、あの──」
「成る程……フレイヤ様、目をよく見せていただけませんか!?」
「えっ?」
司祭様の発言に、虚を突かれたように驚くフレイヤと、完全に「?」となる私達。
そのまま司祭様はじっとフレイヤの目を見る。そして何かを感じたのか、
「フレイヤ様、魔力適正を見ますのでどうぞこちらへ」
「は、はい……」
そういわれて司祭様に手を引かれていくフレイヤ。どうやら最初の時とはすこし違う感じで怯えているようにも見えた。そう、まるでどこぞの荷馬車の子牛のように……。
あ、フレイヤがこっちを見てる。なんだかすっごい不安そうだ。教会で司祭様に手をつかまれて、あんな不安そうな顔する人はじめてみたかも。
「……行きましょうか」
「ですね……」
はぁ……とよくわからないため息二つとともに、私達もフレイヤたちが向かった方へ歩いていった。
歩いていく二人についていくと、何故か教会の外へ。そしてそのまま庭に出て行くと、そこにはテーブルと、なにやら宝石をはめ込んだ機具があった。どうやら、これが魔力適正を調べる道具のようだ。全部で四つなので、おそらくは属性別なのだろう。
これを順番に触るなりして調べていくのかなぁと思っていると。
「ではフレイヤ様。こちらを手で触れて下さい」
「は、はいっ」
四つの中から青い宝石が組み込まれた道具を選んで、それに触れて欲しいとフレイヤに言う。おそらくアレは水属性を計る道具なのだろう。しかし、何故アレを選んだのだろう。
だが、その疑問は直ぐに解決する事になる。
「えっ? これは……」
フレイヤ手をかざした途端、青い宝石から揺らぐような光が漏れてきた。それはとても心地良い、まるで穏やかな波のような光だ。淡く澄んだその青い光は、まるでフレイヤの瞳を思わせた。
「……やはり、フレイヤ様は水属性をお持ちのようですわね。それも、とても純度の高い魔力を」
「えっ!? そうなんですか!」
途端フレイヤがこれでもかといわんばかりの笑顔を見せる。
その理由は、司祭様から魔力純度が高いといわれたからではない。単純に、保持している魔力が水属性だったからだ。
水属性の魔力──そう、それはお兄様と同じだからだ。なんせフレイヤは、前々から自分が水属性の魔力を持っているといいなと言っていたのだ。なぜならば、これで身近な水属性持ちの貴族=お兄様という事になり、それも話しかける切欠の一つとなるからだ。
フレイヤのお兄様であるクライム様は、現在15歳であり既に魔法学園へ通っている。そのため、週末や長期の休み、もしくは特別な用事がある時しか、実家には戻ってこないのだ。魔法学園は基本全寮制だが、クライム様は優秀な模範生徒であるため、他の生徒よりも頻繁に家へ戻る許可が出ているとか。もっとも、その理由は、家で一人になってしまうフレイヤを心配してのことなんだけど。だから今年になってから、フレイヤは平日はほとんど私達と一緒にすごしている。勿論、私もマリアーネも喜んで一緒にいるわよ。
ただ、来年になって私達三人とも魔法学園へ行ってしまえば、同様に寮生活となるのでクライム様はほとんど家に戻らなくなると思う。……後、クライム様はフレイヤに会うのと同じくらい、私にも会いに来るんだよねぇ。会うたびにさりげないアプローチをしてくるのが、中々にやり手だなと感じる。もし私が転生者じゃなかったら、あっという間に篭絡されてたかもしれない。ちなみにクライム様とマリアーネは、なんだか性別関係なしのお友達付き合いが成立してるような感じだ。私もそっちがよかったんだけどねぇ。
ともかく、これでフレイヤも来年から魔法学園の生徒となる事確定だ。にしても、先ほどの司祭様の行動の意味がようやくわかったわ。あの時フレイヤの瞳を見て、既に純度の高い水属性持ちだって判断をしていたんでしょうね。司祭様ってのはやっぱり色々知ってるんだなぁと関心していると、そんな私達を見て司祭様が笑みを浮かべながら言った。
「それにしても、これほど純粋な水の魔法適正とは……親友であるお二人との相性もよろしいですね」
「えっと、それはどういう意味でしょうか?」
まだ魔法知識は自分の初期魔法を扱うくらいしかできず、他の属性にまで関心が及んでないのも事実。だから司祭様の言うことは、まったくもって理解ができなかった。
だから思わず聞き返したのだが、その質問を受けて暫し司祭様は考えいたが……
「……そうですね。来年はもう魔法学園に入学する事ですし、そろそろ色々と覚えていくのもよろしいかもしれません。ですが本日はフレイヤ様の測定のみと致しましょう。フレイヤ様、もう少しよろしいでしょうか?」
「はい。お願い致します」
最初の頃の緊張はすっかりほぐれ、その後の測定もハキハキと進めていった。結果、当初司祭様が言ったように、やはりフレイヤはかなり純度の高い水魔力の持ち主だった。魔力量とか、保持してる魔力の総合的な力はさほど飛びぬけてはいないが、水属性としての純度が非常に高いらしい。
「……要するに、水で言うなら名水百選って事かしらね」
「微妙な例えですね。……ところでレミリア姉さま、知ってますか?」
「ん、何を?」
「名水百選って、昭和の名水百選と平成の名水百選、あわせて二百選あるんですよ」
「……………………ホント?」
「ホントです」
マジですか。そういう雑知識って、もうこっちの世界じゃ知ることできないんだよね。それだけは残念だなぁ……。
「お待たせしました。魔力適正判定が終わりました」
「お疲れ様。……フレイヤ、嬉しそうね」
「それはもう、お兄様と同じ水属性だったからだもんねぇ~」
「な、そ、それは……!」
マリアーネのからかう言葉に頬を即座に染める。長い事箱入りだったせいか、年頃の夢見る乙女よりも輪をかけて夢見がちなもかもしれない。
だがフレイヤは、一度深呼吸をしてすぐに落ち着く。そして私達の方を見て言った。
「確かにケインズ様と同じ水属性だったことは嬉しく思ってます。でも、それ以上に……」
「それ以上に?」
問いかける私の言葉に優しく笑みを返し、
「正式に魔法適正が認められたので、来年はお二人と一緒に魔法学園に通えます。今後も、どうぞよろしくお願い致しますね、レミリアさん、マリアーネさん」
その言葉を聞いて、私もマリアーネも頷き笑顔でフレイヤに抱き付いてしまったというのは……まぁ、言うまでも無い事よね。
いつも誤字報告ありがとうございます。相変わらず誤字がありますが、気付き次第修正しておりますので今後も宜しくお願い致します。