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転生令嬢姉妹は平穏無事に過ごしたい  作者: のえる
第一章 始まり ~レミリア12歳~
23/153

023.今日は明日のために……って本当ですか?

「…………はぁ」


 無意識にため息が出てしまう。今日はもうこれで何回目だろうか。

 無理も無い。昨日私は、なぜか攻略対象の一人であるクライム・サムスベルクから告白されたのだから。勿論、そんなシナリオはゲームになかった。あえて接点と言うならば、終盤でヒロインを貶めるため行動したレミリアを、攻略対象がそろって糾弾するあたりだろうか。その程度の関わり合いしか記憶にない。

 ……いやまあ、大きな要因の一つは私達がフレイヤと知り合ったことなのは分かる。でも仕方ないじゃないの、あの状況で無視なんてできなかったんだし。それに、やはりフレイヤと友達になった事は間違ってると思えないから、それに関しては後悔なんて一切してないしね。

 とはいえ、この予測してなかった申し出には驚いたわね。もちろん、アライル殿下の時と同じで丁重にお断りをした。だが、何故かそこでお兄様が余計な事を言ってしまったのだ。──そう。アライル殿下からも告白を受け、『婚約者に一番近い友人』という立場になっているという事を。私としてはソレも認めたくないのだが、あの時の話の流れでとりあえずそういう形になってしまっている。

 それを知ったクライム様は──



「わかりました。では私も、その『婚約者に一番近い友人』に列席させて頂きます」



 そう言って(うやうや)しく頭を下げた。無論すぐに断ろうとはしたが、さすがにゲームでも英才の名を欲しいままにしていただけあり、結果的には言い負かされて渋々承諾させられてしまった。


 しかし、何故にクライム様が私と付き合いたいと言い出したのかわからない。確かにフレイヤは対外的に色々と大変な状況にはあったから、そこへ友人として懇意になった私達に信頼を寄せてくれたのはわかる。というか、私にも信頼を向けてくれたのは本当にありがたい。

 ……もしや信頼を愛情と取り違えてしまっているのか? 確かに賢く、前世知識もある私をも言い負かすほどの英才なのはわかるが、こと恋愛に関しての知識は本では学べないだろう。そんな微妙な感情の機微を、恋愛だと勘違いしているのかもしれない。


「……はぁ。どうしようかなぁ」

「どうもこうも、とりあえずはこのままお友達で行くしかないんじゃないですか?」

「………………そういえばマリアーネもいたわね」

「ひどいっ」


 ここは私の部屋で、私達は“作戦会議”という名目で黄昏ているのだ。お題はもちろん、先ほどから考えていることだが、正直今はマリアーネの言うとおり現状維持しかないのだけれど。


「というかレミリア姉さま。実際のところ、どなたかとお付き合いしたいとかの気持ちあります? 攻略対象かどうかはこの際置いておいて」

「そうねぇ……家の事とか、聖女の事とか、そういうのを一切抜いて考えると……」

「……考えると?」

「ちょっと興味ないかな。もしかして、まだこの世界での年齢が適齢期になってないってのもあるのかもしれないのだけれど」


 中の人年齢と考えた場合、加算してしまうとあっさりアラサー超えなんだけど、基本的な年齢が12歳ということで、そういう事への関心が薄いのかもしれない。


「そういうマリアーネは? 誰かと素敵な恋をしてみたいとか無いの?」

「私ですか? んー……そうですねぇ。前世でも友達と遊んでばかりで、どうにも色恋事は思い出が……。だからなのか、いまいち興味が向きません」


 そう言ってどこか寂しげな苦笑いを浮かべるマリアーネ。うーん、とても12歳のご令嬢がやっていい顔じゃないわね。渋すぎて──むせるわ。


「まあ、なってしまった状況はどうしようもないわ。ヘンに目をつけられて、悪意の対象になるよりはマシだったと思うほかないわね」

「……分かりませんよぉ。こんな感じでは何人も男をたらしこんで、いつの間にか身動きが取れなくなって、最後には痴情のもつれから──」

「いやいや、たらしこんでないから。あと私は悪役令嬢なんで、そんなフラグ立たないし」


 そもそも攻略対象を何人も囲って……みたいなのは、ヒロインの役割でしょ? とは、思っても口に出すわけにはいかない。


「でも、私はゲームあまりやらないから知らないけど、今のレミリア姉さまって“悪役令嬢”って立場なんですか?」

「え? んー……まぁ、どっちかといえば多少表情が怖いくらい? 自分で言うのもなんだけど、悪役と呼ばれるには力不足かな」

「そんな力は不足してくれてていいんですけど……。でもそれなら、このまま行けばゲームの悪役令嬢は登場しないってことで、レミリア姉さまが心配するような悲惨な未来も来ないのでは?」


 それは私も考えた。でも、やっぱりどこまでやれば安全圏だという保障がない。となれば、地道に自分の周りからの信頼を勝ち取り、その上で一定以上の関係性をもたせないという状態を維持するしかないのだろう。


「でもさ、やっぱり用心に越したことはないから。私もマリアーネも、ちょっと例外的にだけどこの齢で魔法が使えるから、15歳になったら魔法学園へ通うのは確定してるしね」

「そうだ! 前々から思ってたんですけど、魔法学園ってどんな所ですか? ゲームの舞台になってたって事は、レミリア姉さまはご存知なんですよね?」

「そりゃあ少しはね。でも、乙女ゲームに出てくる学園風景って、だいたいが朝、昼休み、放課後、それと部活動と学校行事……って感じがほとんどよ。『リワインド・ダイアリー』は魔法学園ってこともあり、結構魔法授業の描写もあったりしたけど」

「そうなんですね……。でも授業って何をするんですか? 私達って基本的に、自分の持つ属性の魔法しか扱えないんじゃないですか」

「ああ、それはね──」


 それを切欠に、私達はゲームの学園生活話から前世の学校生活話で盛り上がった。

 どんな学校に通い、流行っていた出来事は何か……等々。そこに多少の年齢差によるギャップもあって、盛り上がりのスパイスともなった。当初の作戦会議とは随分と反れてしまったが、胸の中のモヤモヤはいつのまにかすっかり消えていた。いつしか外が暗くなり、ミシェッタとリメッタが夕食だと告げにくるまで、延々と話しこんでしまっていたのだった。






 そして翌日。

 私とマリアーネは、とある事を聞こうとお兄様──ケインズ・フォルトランの部屋を訪れていた。お兄様の部屋は、間取りこそ私達と同じなのだが、家具等の雰囲気から『貴族子息の部屋』という雰囲気がしていた。そんなお兄様と話をしたかった事、それは──


「私の魔法属性か? それならば“水”属性だが……それがどうかしたか?」


 そう、お兄様は14歳ということで、この国の定めによりどの魔法属性が適しているのか既に認知しているのだ。貴族は皆魔法の適正属性があり、それを14歳で鑑定してもらう。それにより翌年の魔法学園への入学に関する方向性が決まると言ってもいい。極稀に平民でも魔法適正を持つものがいるらしいが、基本的に平民がそれを調べる機会がないため、偶然魔法を使ってしまう等しない限り発覚しないそうだ。


 そんな中、私達のお兄様だが……うん、ぶっちゃけ知ってたんだけどね。この辺りはゲーム『リワインド・ダイアリー』にも記述されていたから。とりあえず記憶との齟齬が生じてないか確認しただけ。

 もちろん他の攻略対象も全員魔法適正を持っている。アライル殿下は火属性、アーネスト殿下は風属性、クライム様は土属性と、見事に属性は分かれている。あ、クライム様はまだ13歳なので、本人も知らない情報なんだけどね。

 ちなみにこの四人がバランスよく分かれているのは、ゲーム仕様に向けて故意に割り振ってあるからだ。なぜならこの魔法属性、ゲーム本編ではさほど重要視される事は少ないのだが、スタッフが遊びで作ったおまけゲームではこれでもかといわんばかりの本領発揮をしているから。


 おまけゲームの名前は『りわだいRPG』。名前の通りRPGで、スタッフがお遊び片手間で作ったわりに、やたらしっかり作りこまれていた。当初はゲームに付いてなかったのだが、スタッフがSNSでこのおまけを作った事をつぶやいた事で、ファンから見たいとの要望が殺到、結果ダウンロード配信となった。起動するにはパソコンに製品がインストールされている事が条件なので、ゲームを持っている人の多くはダウンロードして一度は遊んだはずだ。

 内容は攫われたヒロイン──マリアーネを救出すべく、攻略対象達が手を取り合って戦いへ赴くというごく普通の展開だ。……え、私? そんなもん、ヒロインをかっさらったラスボスに決まってるでしょ! まぁ~、このゲームの終盤に挿入されるイベントCGでの私の悪どい顔ったら! 私ってば悪巧みを思いついたらこんな顔するのね……って思うと引きこもりたくなるレベルね。スタッフ出て来いやぁ!


 ……まあ、おまけゲームの事は置いといて。


「そうですか、お兄様は水属性なんですね。確かアライル殿下とアーネスト殿下は、それぞれ火属性と風属性だとお聞きしましたが」

「よく知ってるな。あと、お前達が知ってる人物なら、クライムが土属性だぞ」

「えっ!?」


 お兄様の言葉に私は驚いて声をあげてしまう。なぜなら、


「クライム様はまだ13歳だから、魔法適正の調査はその……」

「ああ、そういえばそうだな。クライムは両親の影響か、読書好きでな……よく図書館に通っては本を読んでいるんだ。勿論年齢制限のある魔法書の閲覧はまだ出来ないが、それでも魔法に関する本はいくらでもある。それらに書かれている事から自分で、魔法の適正を調べ上げたらしい。たいしたものだな」


 そういってお兄様は笑ったけど、それってかなりの出来事じゃないのかしら。とりあえず、その事はあまり言わないほうがいいと、お兄様とマリアーネに言っておいた。


「しかしそうなると、フレイヤは何属性なんだろうね」

「兄弟であってもアライル殿下とアーネスト殿下の様に、異なる場合があるから土属性とは限りませんしね」


 さすがに光や闇という事はないだろう。私達の属性は特別で、それを受けた者が力を受けたら教会なりで司祭に信託という形でお告げがあるらしい。時々私達は司祭様のところへお伺いしているが、私達以外に光や闇の属性を持った者は今現在はいないとの事だから。




 こんな感じで、少しずつだが私達はゆっくりと進んでいる。

 アライル殿下とクライム様から、うっかり好意を向けられてアプローチされているのは誤算だったが、それでも悪い方向には進んでいないと思う。

 既に学園へ通っているアーネスト殿下は、あまり接点が無いけど悪い印象はもたれてないだろう。

 お兄様に至っては、私が転生者だと意識して以来ずっと良好な兄妹関係を維持できている。

 フレイヤはゲームでは見なかった子だけど、私たちにとって大切なお友達だ。

 そしてマリアーネ。ゲームでは仇敵のような立場かもしれないが、今の私達はかけがえの無い間柄となっている。そこには聖女だとか、転生者だとか、そういった物を含めて全部の想いがあるのだろう。


 ともかく、今のところは順調だ。

 この賑やかしくも楽しい日々を、じっくりと進んで行きたいですわね。






 ──そして、二年の月日が流れた。



次話より、レミリア達は14歳となります。

後、誤字報告ありがとうございます。

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