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転生令嬢姉妹は平穏無事に過ごしたい  作者: のえる
第一章 始まり ~レミリア12歳~
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022.<閑話>人を好きになるって何だろうか?

更新予定日ではありませんが投稿致します。

 サムスベルク伯爵家の長男として生を受けたクライム・サムスベルク。

 立派で優しい父と母を持ち、可愛らしい妹もいて、自分は幸せだと感じていた。感じていた──はずだった。だがその幸せは、少し見方を変えれば周囲にとってはやっかみの元にもなる事も。

 先の国王により設立され、現国王の命で管理される王立図書館。そこの最高責任者である館長は、クライムの父で、同じくそこの司書長が母だ。それ故にクライムは、本好きの両親に似たのか、自身も大変な読書好きに育った。

 そんなクライムの一つ年下の妹。本当に綺麗で可愛いのだが、それが少し……いや、かなり目を惹き、そして反対に……最大の妬みともなってしまった。

 その妹──フレイヤは驚くほど白い肌をしていた。その白く輝くような肌は、綺麗を通り越して人々を魅了するほどに。だが、その他人と違う(・・・・・)という事象が、サムスベルク家を妬む人間にとっては格好の餌でもあった。


“サムスベルク家の娘は呪われている。あの真っ白な肌がその証拠だ”


 そんな謂れもない噂は、あっというまに貴族連中に広まった。そうなると、今まで褒められていたフレイヤの外見が、ことごとく不気味な象徴だと噂されるようになる。黒い髪の毛も、青い瞳も、ただ純粋に綺麗なだけなのに──否、だからこそ誹謗中傷の槍玉としてあげられてしまった。

 助けてあげたいが、自分ではどうすることもできない。フレイヤも段々、外に出ることが少なくなってきてしまった。でも、フレイヤが傷つくより、その方がいいのかもしれない……そう思うようにさえなってしまっていた。




「どうしたクライム。最近のお前、少し元気がないぞ?」


 一人寂しく図書館で読書をしていると、そんな風に声をかけてくる者がいた。俺が館長の息子だと皆知っているから、こんな風に声をかけてくるのは両親以外には一人しかいない。


「……ケインズか。いや、何でもない」

「そうか。まあ、言いたくなったら言ってくれ。とはいえ大したことは何もできないけどな」


 そう言って隣に座り本を読み始める。彼はここの領主であるフォルトラン侯爵家の長男だ。以前、ここの図書館で会って以降、時々会うようになっていつのまにか名前を呼び捨てる仲となった。最初は俺が伯爵家でケインズが侯爵家だから呼び捨ては遠慮したのだが、何度も遊んでいくうちに親友と言える間柄になり、正式な場以外では呼び捨てるようになっていった。

 だからその気遣いは、ありがたいと同時に申し訳なくも思った。ただ……賢いケインズの事だ。おそらくはサムスベルク家の噂なんて知っているだろう。知っていて、変わらず接してくれている。本当に感謝しかないな。

 そう思ったからこそ、つい彼に一つお願いをしてしまった。


「今度、妹のフレイヤのデビュタントに……ケインズも来てくれないか?」


 その言葉に驚くケインズだが、直ぐに笑顔を浮かべて頷いてくれた。






 そしてフレイヤのデビュタント当日。

 多くの貴族方や子息令嬢がやってきたが、本日の主役であるフレイヤとはなかなか言葉を交わしてもらえない。きっとあのよくない噂が広まり、ヘタに声をかけて目を付けられる事を恐れてしまっているのだろう。フレイヤもそれを自覚しているのか、もうどこかへ引っ込みたいとでもいわんばかりの様子だ。

 だめだ、もう耐えられない──そう思ったのだが。


「初めましてフレイヤ嬢。少し遅れてしまって申し訳ない。フォルトラン家が子息、ケインズ・フォルトランだ」


 そこにケインズが現れた。どうやら少しばかり到着が遅れていたようだ。フレイヤの方も、しっかりとした挨拶に驚くも、すぐに平静を取り戻して挨拶を返す。その様子を見ていたケインズが、顔をあげたフレイヤを見て微笑む。


「綺麗な髪ですね。私にも黒髪が綺麗な妹がいます」

「そ、そうなんですか……」


 まさか褒められると思っていなかったのだろう。フレイヤの頬がかすかに赤くなっている。歳の近い男性に、あんな正面から優しい言葉をかけられた事なかったであろう故か。その後もう一度言葉を交わした後、ケインズはその場を離れていく。

 すると、先ほどまでとは違い何人かの子息令嬢が恐る恐る話しかけ始めた。流石に領主の息子が話しかけた手前、他の領民が主役を無視するわけにいかないのだろう。ケインズの時のように言葉のやりとりはなく、只挨拶のみという場合がほとんどだが、それでも先ほどに比べれば十分な体裁は保たれた状況だった。

 俺は、ひっそりと壁のオブジェになっているケインズの所へいった。


「……ありがとう」

「何の事だ? それよりも遅れてすまなかった」


 お礼を述べたのに、謝られてしまった。遅れた事は心配したが、今の俺がケインズを責めるなんてこと万が一にもありえない事だ。だから二人で顔を見合わせて、同時に苦笑を浮かべてしまった。

 その後、ついでにケインズの妹について少しだけ話した。別段興味はなかったが“妹がいる”という共通事項を、親友と持っていることが何か嬉しかった。

 だが、俺は後々に後悔をする事にる。もう少し妹の話をしっかりしておけばよかったと。






 フレイヤが王宮のガーデンパーティーに参加することになった。これは女王陛下主催の催しで、会場には女性しか入れないという規則があった。だから心配はしたが、お母様が一緒だということで安心もした。


 当日、トラブルでお母様が同行できないと知るまでは──


 もしケインズに妹の話をもっと聞いていたら、その流れで妹同士を知り合いにできたかもしれない。そうなっていれば、こんな場合頼みごとをできたかもしれない……と。

 だが今更仕方ない。俺は馬に乗り、ガーデンパーティー会場である王宮の側までやってきた。だが、当然ながら警備は厳重で、おまけに会場には女性しか入れない。その徹底ぶりは、会場内の警備を女性兵士にしているほどだとか。

 それでもあきらめきれず、俺は王宮の外側をぐるりと馬で歩いてみた。……ダメだ、中に入るのはまだしも様子を伺えるような場所をと思ったが、とてもそんな場所はなかった。


 もう既にフレイヤは会場にいるだろう。……たった一人で。

 最近のフレイヤは噂を避けるため、ずっと自分の部屋にいてばかりだった。そんなフレイヤが一人で来たのであれば、どんな目に会うか想像するだに恐ろしい。


(だが、これではフレイヤを見つけることすら……)


 考えなしにやってきてしまったが、やはりどうすることも出来ないのか。そう思っていたその時、ふいに馬が何かを感じたのか走り始めた。


「お、おい、こら。どうしたッ!」


 この馬は我家で飼っているのだが、それは賢い馬だ。今日だって、もしかしたらフレイヤの居場所を探り当ててくれるかも……という淡い期待もこめて一緒に来た節もある。だが、今馬は会場から逆に遠ざかるように走り始めた。俺の制御もまったく聞かないが、普段よりも速いため飛び降りるのはかえって危険なほどだ。

 あまりの事に驚きながらも、暫くつかまっているとようやくその脚を止めた。どうやら馬が来たかった場所についたのだろう。俺は安堵して、伏せていた顔を上げた。

 そこは王宮から少し離れた場所の小高い丘の上。だがそこからは、ガーデンパーティーとなっている庭の一部が見ることが出来る。そして──


「フ、フレイヤか!?」


 庭の隅、余所からは死角になるように木が茂った場所、数人の令嬢に囲まれているフレイヤがいた。顔はよく見えないほどの距離だが、フレイヤだけはすぐにわかった。そして、その様子から怯えているということさえも。


(どうする!? 今あそこに戻っても中に入ることは……しかし、このままではッ……)


 葛藤するが答えなんて出ない。今の俺は、苦渋の顔でここから眺めるしか無いんだ。自分の無力さに悔しくなり、打ちひしがれそうになった──その時だ。


(誰か来たのか? 誰でもいい、フレイヤを助けてくれ! でも、もしあいつらの仲間だったら……)


 ほんのわずかな希望。それを塗りつぶすほどの絶望が、心を覆いそうになった。遠くてよく見えないが、新たに二人の令嬢がやってきたようだ。その片方が、フレイヤの側にいた令嬢に詰め寄って……引き剥がしたようにみえた。


(黒髪……もしかして、ケインズの……そういえば……)


 少し前にケインズから聞いたことを思い出した。なんでもフォルトラン家はある事情で、懇意にしていた男爵家の令嬢を養女に迎えたとか。それが下の妹となり、元々いた妹とすぐに仲良くなったとか。それを思い出したとき、俺の心には消えかけた希望が涌いてきた。

 あの黒髪の令嬢と、一緒にいる金髪の令嬢。その二人がケインズの妹たちなら──。

 淡い期待の夢物語だと思ったが、その願いが通じた。黒髪の子がフレイヤをかばうように立ち、ほかの令嬢を追い払うと、金髪の子がフレイヤを抱きとめていた。そして、そのまま近くのベンチに座り、なにやら話しかけはじめた。遠いから声は無論、その表情もわからない。でも、先ほど木陰で囲まれていた時とちがい、フレイヤが段々と楽しげに振舞っているのがわかる。

 暫く様子を見ていたが、遠目に見ても仲良しの友達にしか見えない光景だ。俺は深く息を吐き出した後、隣でじっとしていた馬をなでてやった。


「ありがとう、お前のおかげで安心できたよ」


 そう言ってなでると、やさしく顔をすりよせてきた。そうか、お前もフレイヤが心配だったんだな。

 もう一度だけ遠くで仲良く談笑をしている三人の姿をみて、俺は帰路についた。




 その日、帰宅したフレイヤはご機嫌だった。そこには演技はなく、本当に楽しかったという表情がありありと浮かんでいた。その理由はもう知っているが、俺はそ知らぬ顔でフレイヤを迎える。


「フレイヤ、帰ったのかい」

「お兄様っ」


 俺の顔をみて笑顔でやってくる。なんか、久しぶりに本当のフレイヤの笑顔をみた気がする。それについて色々思ったためか、つい大きなため息が出てしまった。だが、自分のそんな考えが恥かしくて、ついフレイヤを心配していたから出たため息という演技をしてしまった。

 無論フレイヤはその額面どおりに受け取り、そして今日のガーデンパーティーで友達になったという令嬢の名前をあげた。レミリア・フォルトラン嬢とマリアーネ・フォルトラン嬢だ。

 恥ずかしながら、俺はそこに至って初めてケインズの妹達の名前を覚えた。そんな事すら覚えていなかったのかと、自分の行動の浅はかさに少しだけ恥かしくなった。


 その後も、フレイヤは本当に楽しそうに話してくれた。それに今度は、フレイヤをフォルトラン家に招待してくれるとも言ってくれたとか。これが余所の令嬢宅ならば、何かの悪巧みを疑ったかもしれない。だが、今日のあの様子と、ケインズの言葉を信じるなら、彼女達──レミリア嬢とマリアーネ嬢は信頼に値する人物だ。

 だからその時は、私も同行したいとフレイヤに言った。その申し出にフレイヤは、とても楽しそうに笑ってくれた。それは私もきっと同じだったと思う。彼女達に会いたいと思うその気持ちは──。






 フォルトラン家に招待された日、玄関ホールに入り少し待っていると二人の少女がやってきた。


「あっ! レミリア様、マリアーネ様」


 フレイヤがそれはもう嬉しそうに手を振って二人に声をかける。以前少し遠くから見た少女たちだ。やはりあの時フレイヤを助けてくれたのが、レミリア嬢とマリアーネ嬢だったのだな。

 その場で挨拶をしていると、すぐにケインズもやってきた。フレイヤは彼の妹たちにつれられて行ってしまい、私はケインズの部屋へ行くことになった。

 いつものように彼と話していたが、時々彼はこっちを見て驚いたような素振りを見せた。どうかしたのかとたずねると、


「……いや。今日はやけに楽しそうだなと思ってな」


 そういわれた。おそらくここ最近憂いとなっていた妹が、本当に幸せそうだから俺も嬉しいのだろう。そういう事だと自分で結論を出し、ケインズには何でもないよと言っておいた。

 ……そう。フレイヤが幸せだから、俺も楽しいのだと。

 帰りの馬車の中、フレイヤが今度はレミリア嬢とマリアーネ嬢を我家に招待する約束をしたと聞かされた。その時も本当に楽しそうだった。だから、俺も楽しい気分だった。……そうだな、その日は俺も家に居ることにするか。






 ──参った。もう、ごまかせそうにない。

 俺は……彼女に、レミリア・フォルトラン嬢に惚れている。

 フレイヤと同じ齢ながら、その一挙手一投足に華があった。ただ単に優雅だ可憐だというのであれば、レミリア嬢よりも優れたものがいるだろう。だが、彼女の行動は、その発言は、全てを納得させてくれるほどの安心感をも含んでいた。

 図書館に通い、なまじそこらの大人貴族よりも博識だという自負もあったが、それとは別次元での知識を見せられたりもした。

 ……そうか。今日、彼女が来ると知ったから、私はここに居るのだな。

 そう思ったら、もう自分の気持ちがとめられなかった。

 彼女の前に立ち、言葉を交わして礼をする。

 そして──



「レミリア嬢。……いや、レミリア・フォルトラン嬢。私は貴女をもっと知りたい。そして、私をもっと知ってほしい。よかったら、私と恋人としてお付き合いをしていただけないだろうか?」



 私の想いをこめた言葉が、口から出てしまったのだった。



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