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転生令嬢姉妹は平穏無事に過ごしたい  作者: のえる
第一章 始まり ~レミリア12歳~
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002.転生者って本当ですか?

本日投稿分2話目です。本日もう1話投稿します。

「は、初めまして! 私、マリアーネ・セイドリックと申します」


 少しぎこちなくカーテシーをする目の前の少女は、『リワインド・ダイアリー』のヒロイン・マリアーネに間違いないだろう。確かゲームでは、悪役令嬢のレミリアとは血の繋がらない姉妹という設定だったが、まさかこんな形で出会うことになるとは。ゲームでは描かれてなかったけど、たしか設定資料集のコラムにはあったような気がする。


「初めまして。私はケインズ・フォルトラン。フォルトラン家の長男だよ」

「は、はい! 宜しくお願いします」


 マリアーネは緊張した面持ちでお辞儀をする。……ん?


「……初めまして。私はレミリア・フォルトラン。ここの長女で、貴女の姉になるのかしら?」

「は、は、はいっ。よろしく、お願いしまっしゅ」


 ……かんだわ。なんだか緊張しているというよりも、怯えている感じがするわね。私が悪役令嬢顔だからかしら? ごめんなさいね、顔の造形はどうにもできなかったのよ。

 じっと目の前で少し怯えているマリアーネを見る。よく見ると、なにか呟いているようだ。一番近い私は少しそれが聞こえてしまう。──まさかこの子。


「ごめんなさいお兄様、お父様お母様。少し彼女──マリアーネをお借りしますわ」

「へ? え? あ、あの、あの!?」


 がしっと腕をつかんで強引に引っ張っていく。行き先は私の部屋。展開についていけず、私に引かれていくままのマリアーネを連れて、私は自室へ戻りドアを閉めた。


「さあ、これで安心して話が出来るわ」

「え、えっと、何を……」


 先ほど以上に怯えているマリアーネ。だが、私は既にある確信があった。それは──


「マリアーネ。貴女…………転生者ね?」

「っ!?」


 怯えの表情から、一気に驚きの表情に変わる。それだけで得心がいく。間違いなく、この子──マリアーネも転生者なのだ。安直ではあるが、悪役令嬢が転生者ならヒロインだってその可能性がある。そう考えるようになってから、いつかであった時にすぐ見極めようと思っていた。

 そして先ほどの彼女の態度。この世界で宜しくといいながらお辞儀をする習慣はない。それに小さく呟いていた言葉は、私をゲームの悪役令嬢だと確認していた呟き漏れだった。

 ともかく、大きな分岐点のサイは投げられた。あとはヒロインである彼女の出方次第だ。


「っ…………」

「…………」

「……た…………」

「…………」


 何かを言いたそうにこちらを見るマリアーネ。その表情は、何かを耐えているのか眉間にしわがよる。それでもかわいいのはヒロイン補正なのかしら、なんて思っていたのだけれど。


「たす……くだ……」

「ん?」

「助けて下さい、レミリアさぁぁぁぁんっ!!」

「わあぁ!? ど、どうしたの!?」


 大粒の涙をぽろぽろと零して、マリアーネは私に抱きついてきた。一瞬なにごと? って思ったけど、その後の震える体と声で本心からの言葉だとわかる。って、助けてって何?


「と、とりあえず落ち着いて。ね? 大丈夫だから、ね?」

「は、はいっ、はいっ…………ううっ、わぁぁぁぁ…………」


 とりあえず抱きつかれたまま、器用にベッドへと座る。そして横に座ったマリアーネが、そのまま泣き止むまでしばらく私は彼女を優しく撫でてやっていた。




「ご迷惑をおかけしました」

「ふふ、いいわよ気にしてないわ」


 それから暫くしてマリアーネはひとまず泣き止み、落ち着いたようだった。それから彼女の話を聞いてみたのだが、やはり彼女も転生者だった。

 だが彼女の話を聞くと、さすがにソレはキツイわぁ……という内容だった。まず、彼女が転生したのは今日より5日ほど前だった。つまり、我フォルトラン家に養女に来ることが決まり、もうすぐに家を出て行きますよという段階でいきなり記憶が戻ったとか。


 そして、何より困惑したのは……マリアーネは、生前『リワインド・ダイアリー』をほとんど遊んでいなかった事だ。元々あまりゲームをしない性分だったらしく、友人の勧めで家庭用に移植されたバージョンを遊んだらしいのだが、それも序盤を少しやったのみ。主人公であるヒロインと、悪役令嬢は覚えていたらしいが、乙女ゲーに興味のなかった彼女はなまじ攻略対象を覚えてなかったとか。


 なのでせっかくだから私が大雑把に『リワインド・ダイアリー』を説明してあげた。ヒロインであるマリアーネが、いろんな殿方と出会って仲良くなって最後は婚約するという、ざっくりとした説明を。

 ただ、それを聞いてもあまりピンとこない様子。しまいには、「あまり王子様とかに関わらず、のんびりと楽しい学園生活とかおくれませんかね?」と聞いてきた。もちろん、それは私も大歓迎だ。

 そして、最後にこれは少し話し辛いけど、悪役令嬢の役割を説明した。もちろん私はヒロインであるマリアーネにいじめとかしないと補足をしながら。


 だが、最後にちょっとした問題が起きた。もしゲームの通りにヒロインが攻略対象と結ばれたら、周りはどうなるのかとマリアーネに聞かれたのだ。そこで私は、悪役令嬢の哀れな末路の数々を話した。

 幾つか話し、その全てに救いがないことも彼女も理解した。すると、


「わかりました! 私、絶対に攻略対象と仲良くなりません! レミリアさんがいなくなってしまうなんて、絶対に嫌です!!」

「え? あ、あのね?」

「もちろん義兄であるケインズ様とは仲良くはします。でもそれは、家族としてです!」

「あ、うん、そうだね……」


 なんかよくわからないけど、妙なスイッチが入ったみたいだ。まぁ、積極的に攻略対処と仲良くなって私を破滅させるよりは何倍もマシだとは思うけど。

 勢いに押され呆気にとられている私の両手を、正面からマリアーネがぎゅっとにぎる。


「レミリアさん! いえ、レミリア姉さま! これからどうぞ宜しくお願いします!」

「あ、うん、よろしくねマリアーネ」

「はい! えへへ……」


 可愛らしい笑顔を向けるマリアーネに、私は思わず守ってあげたくなる気持ちが涌いた。うーん、これがヒロイン補正の力か。

 でもまあ、とりあえず丸く収まったのかな?




 あの後、皆を待たせているだろう居間へ戻った。戻ってきた私達を見た両親とお兄様は、皆一様に怪訝そうな表情を浮かべた。……主に私の腕に抱きついているマリアーネを見て。


「ええっと……レミリア? どういう事か説明してくれるかな?」


 困惑しながらもお兄様が私に聞いてきた。なので一度腕にしがみついているマリアーネを見て、それから視線をお兄様たちの方へ向ける。


「その、ですね……私とマリアーネは、ご覧の通り仲良くなりました」

「はい! 私とレミリア姉さまは仲良しです!」

「あ、うん、そうなんだ」

「えっと、おめでとう?」

「その、よかったわね?」


 全員がどこか疑問が残るような声で返事をする。まあ、言ってる本人の私もちょっとよくわかないって感じがあるけどね。でもまあ、すごく私に懐いてくれたマリアーネを無下にはできない。というか、したくないし、してはいけない。


「ま、まあ、いいことじゃないか。それじゃあマリアーネの事は、レミリアにお願いしてもいいかな?」

「えっとそれは──」

「はい! よろしくお願いしますレミリア姉さま」

「あ、うん。宜しくお願いします」

「はいっ。えへへ」


 その様子を見ていた家族は、すごく優しく温かい視線を送られた。なんか、すっごい人懐っこい犬に全力で懐かれたような気分だ。悪くは無いし、かわいいとは思うけど……でっかい分岐をまっすぐ突き進んだような気がするなこれ。


 ともかく、こんな感じで『リワインド・ダイアリー』のヒロインと悪役令嬢の出会いは、予想外の展開で幕を開けたのだった。




 ──その夜。

 あれからすっかり懐かれてしまい、お風呂まで一緒に入ってしまった。まあ、一緒に入ってもまだまだ余裕の広さだったからいいけど、なんというか……とにかく疲れた。

 屋敷のメイドたちの反応も気になっていたのだが、私とマリアーネが仲良くしている姿を見てとても微笑ましい視線を送ってくる始末。まぁ彼女が受け入れられたようなので、良しとしておきましょう。

 そんなこんなで、ようやく寝ましょうか……というその時。部屋のドアが少し遠慮がちにノックされた。


「レミリア姉さま、起きてますか?」

「へ? マリアーネ?」


 驚いて返事をすると、カチャリとドアが開いて隙間からマリアーネの顔が覗く。どうしたのかと思ったが、そのままにしておけず手招きへ部屋へと呼び入れる。

 そして入ってきたマリアーネを見て、少しばかり思考が止まる。可愛らしい寝具を着ているのはいい。それが私と色違いなのも可愛いしちょっと嬉しい。問題は、


「えっと……マリアーネ? その手にあるのは……?」

「…………枕、です」


 うん、そうだよね。枕に見えたけど、一応念のために聞いてみたんだよ。


「一緒に寝るのはダメですか? その、今日来たばかりで落ち着かなくて……」

「あー……そうか、そうだよね」


 何となくわかった。今日来たどうこうというより、転生した記憶が戻ってまだ数日。そのため気持ちが落ち着かないのだろう。私は結構ふてぶてしいからそうでもなかったけど、マリアーネは繊細そうだ。きっとこの数日間、まともに睡眠をとれてないのだろう。そこへ、同じ転生者である私が現れた。昼間の様子からみて、しばらくは依存先になってあげてもいいと思っている。

 私はベッドの方へいき、まず自分が乗る。そして、


「いいわよ。いらっしゃい」

「は、はい!」


 嬉しそうにパタパタと近寄ってきて、ばふっと枕を私の枕の隣にならべる。にへらっと屈託ない笑顔をみせながら。


「お邪魔しま~す」

「はいどうぞ」


 ベッドにあがり私の横に入ってい来るマリアーネ。そして、向き合った状態で視線を合わせると、どちらともなくくすくすを笑みを零す。


「それじゃあ電気……じゃなかった、明かりを消すわよ」

「あ、なんかつい電気って言いますよねぇ」


 私のいい間違いに、思わずマリアーネも素の言葉遣いをする。まあ、この時間だし問題ないか。

 ふっと蝋燭を消して部屋を暗くする。もぞもぞと姿勢を戻してベッドに横になる。


「おやすみなさい、マリアーネ」

「おやすみなさい、レミリア姉さま」


 少しすると、どちらからともなく規則正しい寝息が聞こえて来た。

 そしてその日、私もマリアーネも久しぶりにぐっすりと眠ることが出来たのであった。


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