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転生令嬢姉妹は平穏無事に過ごしたい  作者: のえる
最終章 エピローグ ~それから~
151/153

151.転生令嬢姉妹と元平民の貴族令嬢

 魔法学園に入学して二回目の夏休み。

 私とマリアーネは再び聖地へと足を運んだ。勿論互いの婚約者である両殿下も同行している。そして──


「すごい……まるで御伽噺に出てくる花の地みたい……」

「本当に素敵な場所ですね……」


 辺りを見回しながら呟くのは、私達の親友であるフレイヤとティアナである。本来この聖地には、王族と聖女しか足を踏み入れてはならないと言われていた。だが、ある日お城で女王陛下と話をした際、


「フレイヤさんとティアナさんも聖地に入りたい? よろしいのではないかしら?」


 そうあっけらかんと言った。驚いて色々聞いてみると、聖地に入れるのは王族と聖女だけでなく“聖女に認められた者”にも許可が出るらしい。聖地と呼ばれるだけあって、その地へ立ち入る許可は聖女によってもたらす事が出来るらしい。

 ただ、だからといって意味もなく大勢に出してもしかたない。それ相応の人物にだけというのが良識というものだろう。そんな訳で、既に精霊からも親しまれているフレイヤとティアナの二人を、自信を持って連れてこれたというわけである。

 その結果は──予想通り、聖地の精霊達が軽やかに二人の周りを飛んでいる。何より二人は水と土の魔力保有者。この地の精霊との相性も、非常に良いらしい。二人も精霊と意思疎通しているのか、フレイヤは聖地にある湖の畔に、ティアナは花畑の中にてそれぞれ楽しげに笑みを浮かべている。

 そんな二人を、ちょっと気後れしてみている人物が二人。フレイヤとティアナの将来を誓った相手──お兄様とクライム様だ。


「ほら! お兄様もクライム様も、二人の傍に行って下さいな」

「あ、ああ……でもそのだな……」

「傍へ行っても、大丈夫なのか……?」

「大丈夫ですっ。それにお二人は互いに同じ属性の魔力を持ってるじゃないですか。精霊との相性もいいから、すぐに仲良くなれますよ」

「それなら……」

「行ってくる……」


 マリアーネと私に背中を押され、二人は自身の愛すべき者の元へ。見たところ精霊にも受け入れられているようだ。


 この『聖地』という場所にも、ただ単純に“精霊達の棲む場所”というだけでなく、意味があるのだと感じたのもここ最近になってからだ。この地は、世界の平和を守護するための力をずっと蓄えておく場所なんだと思う。ずっと蓄えながら、その一部を精霊や草木に宿し、それを世界中に届ける……そんな場所なんだと、感じている。


 そういった事に対し明確に気付き始めた時期は、多分あの卒業パーティーを乗り越えた辺りからだろう。あれ以来、以前は時々感じていた違和感──事象の強制力みたいなものを感じなくなったから。

 ゲームに登場した悪役令嬢(レミリア)に先の人生はなかったが、いまここいるレミリア(わたし)は日々未来へと進んでいる。


「レミリアー! マリアーネー!」

「ん?」


 呼ばれた声に意識を向けると、いつのまにかティアナも水辺にてフレイヤとしゃがんで水に触れていた。そして私達の名前を呼びながら、ぶんぶんと大きく手を振っている。

 あの子も侯爵令嬢になって既に一年半は経過したが、こういった仲間内しかいない場所では、淑女の面影よりも元気満載な雰囲気が出てくる。


「いま行くわよーっ」


 なので私も大きな声で返事をする。

 侯爵令嬢だろうと、聖女だろうと、中身は変わらないから。






◆◇◆






 平民ながらも魔力を持つという珍しい境遇におかれた私、ティアナ。

 だが魔力保有者という事で、平民なのに貴族の子息令嬢の方々に混じって魔法学園へ入学することになった。

 そして今は……大恩あるレミリア──フォルトラン侯爵家に養女として迎え入れてもらい、貴族としての毎日を送っている。

 ……といっても長年培ったド平民の感覚はままならず、気を抜けばすぐさまボロをだしそうになって右往左往だ。

 ただ、その様子を見てレミリアもマリアーネも、叱咤や注意をするのではなく「わかるわかるー」という感じで接してくるので、こちらとしてはよく困惑してしまう。何故に生まれから貴族の二人が、そんな感想を持てるのか不思議だ。今度聞いてみようかな。


 そんな風に私が侯爵家に入ることになってしまったが、一番気になっている実家の方なのだが……こちらも色々変化があった。

 元々家はあの辺りでは大口の農家だったが、フォルトラン家との繋がりが出来たことにより、侯爵家の直属的な立場になった。平民ではあるが、家で取れる農作物はフォルトラン家が保証し、正式な格付けのある商品として扱われるようになった。実を言うと、家が管理する土地は精霊……特に水と土の精霊がとても栄えているらしく、ここで取れたものは王家に献上を打診されるほどに良い物になるらしい。

 中でも我が家の家族が手がけると、品質は更に向上し──


「あはは、お姉ちゃん! ほら、水の精霊さんがこんなに!」

「ちょ、待ちなさいノルア!」


 我が家の末っ子ノルアは、どうやら水の精霊に愛されているようだ。最初は精霊に愛される性質なのかな……と思っていたのだが、何度か見ていてわかったことがある。ノルアは特に“水”の精霊に親しまれている。

 今度、フレイヤかケインズ様とノルアが会う機会があれば確認してみよう。多分、ノルアは水属性魔力の保有者だ。魔力保持の平民って珍しいって聞いていたのに……はぁ。

 夏休み期間は、せっかくだからと生家に帰ったのだが……ふふっ、なんとも心地よい疲れを感じてしまっていた。






 二年生の学園生活は、去年とはまた違って色々大変だった。まず何より違うのは、私とクライムの関係がハッキリしていること。

 生徒会長であるクライムと、生徒会会計である私。その二人が恋人関係……というか、正確には婚約関係であることも、既に生徒のみならず教職員にも広まっていた。しかし今年の生徒のうち、一年生には生徒会役員の上級生、二年生にはあの(・・)レミリアが目をかけてる大事な妹分、三年生にはクライムの婚約者ということで、昨年のような嫌がらせの類は一切起きる事はなかった。

 それに基本クラス換えがほとんどないこの学園、3-Aや3-Bは去年の2-Aや2-Bである。特にその二クラスは私と仲良くしてくれた方も多く、そういった方面からも守られているのかも……という感じだ。


 校舎裏の花壇にいけばサニエラさんやリミエさんと談笑し、校内でカリーナさんに会えば今度は一緒に劇をしませんかと誘われたり。

 ともかく、去年までの私はどこへといわんばかりの変わりようだった。ただそれが大変だけど楽しいので、困ってしまい嬉しい悲鳴が止まらないというのが本音だ。


「──あら?」


 ふと意識の隅っこに魔力を感じて足を止める。見れば一年生の女子生徒が、訓練場で魔法を行使しようとしている。だがどうにも上手くいかず、それで気持ちが焦り落ち込み、余計に空回りの悪循環をしているようだった。

 その姿を見て……私は自然とそちらへ歩いていった。脳裏に浮かぶのは、クライムに魔法について指導してもらっていたあの頃の自分。


「こんにちは。魔法の練習かしら?」

「ひゃあっ!? あ、え、えっと、その……」

「ふふ、ごめんなさい。私はティアナ──ティアナ・フォルトラン、二年生よ」

「は、はいぃっ。ノ、ノメル・アルマイヤー、一年生です!」


 緊張している彼女──ノメルさんの手をそっととると、一瞬驚かれるも振りほどいたりはしてこなかった。……自分の時を思い出しての行動だったけど、急だったかしら。

 ただ、その繋いだ手から感じるのは……ノメルさんの魔力。これは──


「ノメルさんは土属性魔力を持っているのね」

「は、はい。どうして……って、そっか……ティアナ様も確か……」

「私の事ご存知なのですか? ありがとうございます」

「い、いえ……」


 私の言葉に何故か頬を少し赤らめてしまうノメルさん。……うん、下級生ってやっぱり可愛らしいわね。


「ノメルさんは結構しっかりした魔力を持っているようですが、もしかして魔力運用があまり得意ではないのですか?」

「あっ……それは……」


 どこか寂しそうな表情を浮かべ視線をそらす。そして、少し逡巡した後ポツリと話しはじめてくれた。

 曰く『土魔法は人気が無い』『土属性持ちだからまともな魔力運用指導をしてもらっていない』とか。

 その言葉は思いのほか心にグサリと来た。でも……だからこそ、私は無償にやる気に満ち溢れてしまった。こういう考え方って、多分あの人(・・・)の影響かな。


「ねえ?」

「……はい」

「私と一緒に土魔法の練習しよ。きっと楽しいよ?」

「……え? は? えっ!?」


 いきなりの誘いにノメルさんは目を白黒させている。……うん、これは可愛らしいし、なんだかいじりたくなる気分もわかる! くぅ~! あの人ってば、なんて悪いことを私に教えてくれたのかなっ。


「うん、決まり! それじゃあ明日の放課後から、ここで一緒に魔法の練習! わかった? わかったよね! はい、返事!」

「え、あ、はいっ! …………はい?」

「よーし! それじゃあまた明日ね!」

「あ、えっと……はい、また明日……」


 呆気にとられてるノメルさんをおいて、私は訓練場を後にした。

 でも、どうせ明日の放課後にはまた会えるから。


 どこか去年までの自分に似ている彼女。そんな彼女と明日から魔法の練習を始めるのだが、その事が妙に楽しみに思っている自分がいる。


「……ふふっ、楽しい♪」


 日々は常に、新しい出会いの繰り返しだ。

 だからこそ、出会いを、毎日を、私は全力で選び進んでいく。

 自分とあの人に対して──恥とならない生き方をするために。



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