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転生令嬢姉妹は平穏無事に過ごしたい  作者: のえる
第八章 三学期 ~レミリア15歳~
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149.令嬢姉妹と祝福されし報告

前半フレイヤ視点、後半ティアナ視点です

 卒業パーティーもそろそろ終盤にさしかかるという頃合で、私達のところにクライム様とケインズ……様がやって来た。

 ケインズ……様は「そろそろ呼び捨てに慣れて欲しいな」と仰るけど、やはりまだまだ難しい。心の中で呼ぶのでさえ、結局は呼び捨てていられないのだから。


「うん、それじゃあ」

「行ってくるね」


 にこやかに手を振ってホールの奥の方へ消えていくレミリアとマリアーネ。これからちょっとしたサプライズがあるのだが、その事を知っているのは教師と生徒会役員だけ。あ、この生徒会役員というのはアーネスト殿下とケインズ……も入っている。

 さてさて、皆さんはどんな反応をするのかしら。そんな、ちょっとイタズラでもするような、不思議なワクワク感を抱いていると──。


「あら?」

「ん? 何だ?」


 ホール全体がすーっと暗くなる。うん、始まったわね。

 室内の照明はどれも点いたままなのに、何故か綺麗に暗くなってしまうホール。おそらく私達以外は、何が起こっているのかわからないだろう。

 だが、そのざわめきはすぐに驚きの声になる。ホールの一番奥にある舞台の上、そこに明るく照らされたアーネスト殿下の姿が表れたからだ。そのアーネスト殿下は、王侯貴族に相応しい装飾の服。闇に輝くその畏怖堂々たす姿に、先程までのざわめきは別の色合いのざわめきに置き換わった。


「これは一体……」

「あそこにいるのはアーネスト殿下か?」

「何かの発表かしら」


 ゆっくりと舞台最前に出てきたアーネスト殿下が、軽く手をあげるとざわめきが収まる。これは流石に貴族の子息令嬢らしい行いか。


「この場を借りて、皆に報告がある」


 離れた場所ににいるアーネスト殿下の声が、大きな声となりホールに満ちる。これは確か殿下の風魔法の応用だと聞いたことがある。レミリアが曰く、声が伝わるのは空気の振動によるもで、その振動を風魔法で増幅したり遠地で起こすことで遠くの者にも消えるようにする……とかなんとか。マリアーネは理解していたようですけど、私には少し難しくてわかりませんでした。

 ともかくそのような魔法により、アーネスト殿下が「報告がある」と言った。内容を知っている私達は期待を、知らない皆様は困惑と楽しみが交わった表情で舞台を見る。


「私アーネスト・フィルムガストは──」


 言葉を発しながら、ゆるやかに左手を自身の左側に差し出す。まるで、そこに何かあるかのように優しく。

 すると──


「「「「!?」」」」


 その手を優しく握り返す一人の女性が突如現れた。真っ暗な舞台の上、唯一光に照らされたアーネスト殿下の隣に、同じように照らされたその人物は。


「あれは……」

「光の……聖女……」

「そうだ、マリアーネ様だ……」


 光に照らし出されたその場所には、目が覚める……とでも形容すればいいほどの、見事な青いドレスに身を包んだマリアーネが居た。その姿は、まさに純なる乙女であり、光の聖女の名に相応しき姿だった。

 アーネスト殿下の手をとり、舞台を見る皆へむかって優雅に膝を折る。その姿にため息すら漏れる会場へ、アーネスト殿下が言葉を向ける。


「『栄光の聖女』、マリアーネ・フォルトランとの婚約を正式に発表する!」


 ホールに響くアーネスト殿下の力強い声。誰もがそれを耳にし、正しく理解をしているのに水をうったような静寂があたりを包む。だがその静寂は、ほんの一瞬で終わる。


「「「「うおおおおおおーーーーッ!!」」」」


 壁や天井をもゆるがすほどの歓声が、ホール一杯にあふれかえった。


「おめでとうございまーす!」

「殿下ー! おめでとーッ!」

「アーネスト殿下ー! マリアーネ様ー!」

「おめでとうございます聖女さまー!」


 怒涛の祝福の声が、何重にもなって舞台上の二人に注がれる。人の数だけ想いはあるけど、今この瞬間二人を祝福する声しかここにはなかった。

 間違いなく皆が二人を祝ってくれている。その事が、何故か自分の事のように嬉しく思えてしまい、いつしか涙が頬をつたっていた。それに気付いたのは、いつのまにケインズにハンカチを差し出されていたことに気付いた時。


「……ほら、フレイヤ」

「う、うん。あ、ありがとう、ケインズ……」


 涙で上手く言葉が出てこなくて、ケインズの名前を呼び捨ててしまった。だがその時、彼がとても嬉しそうな顔をしてくれたので、その事はそっと自分の中に留めておくことにした。

 そんな私達を見ていたティアナが、同じように涙を浮かべながら。


「ほらフレイヤ、発表はまだ終わりじゃないんですから」

「……そうね。もう一組、私達の大切な人達の発表があるのだから」


 まだ少し涙が残る目を、しっかりと舞台の方へと向ける。心なしか、舞台の上にいるマリアーネが、そんな私達を見て笑みを浮かべたように感じた。

 ……いや、たぶんきっとそうだと思う。なんせ彼女は……彼女達は、とても凄い人達なのだから。


「皆に、もう一つ報告がある」




◆◇◆




「皆に、もう一つ報告がある」


 アーネスト殿下の言葉がホールに響くと、また少しざわめきが起きる。だがこのざわめきは先程とままた違っていた。

 おそらくこの学園の生徒であれば、誰もが思い当たる事柄があるからだ。そして……それは私ティアナが、この一年でもっともお世話になった人物に関する事。

 舞台の上では、アーネスト殿下とマリアーネが少し横にずれる。すると中央の舞台奥から誰かがすっと前へ歩み出てくる。


「あれは……」

「殿下だ! アライル殿下だ!」

「やっぱり! それじゃあもしかして……」


 アーネスト殿下同様に目を惹く衣服のアライル殿下が姿を表すと、どこか期待していたような歓声がわきあがる。

 こと此処に至っては、もはや誰もがこの先の展開を予想している。だがそれを無粋に口にする者はいない。そこには、不敬だからとかそういう考えではない。ただただ、これから自分達に知らされる出来事に、思い切り歓声をあげたいと思ってしまったのだ。


「私アライル・フィルムガストは──」


 先程のアーネスト殿下と同じように、今度は右手をそのまま自身の右側へ。

 そして──この場にいる誰もが思い描いた光景がそこに浮かび上がる。


「「「「おおおぉぉぉッ!!」」」」


 差し出された手にそっとつかまり表れたのは。


「レミリア様ーッ!」」

「やっぱりレミリア様だー!」

「聖女様ーッ!」

「アライル殿下ー! レミリア様ーッ!」


 そして当たり前のように湧き上がる大歓声。そしてこれまた先程と同じように、レミリアが目の前にいる皆に優美なカーテシーを見せる。そのレミリアだが、今は真っ赤なドレスに包まれている。先程のマリアーネといい、パーティー会場に居たときとは全く違うドレスへと着替えていた。

 続く喝采の中、アライル殿下がレミリアへ笑みを向けて。


「『常闇(とこやみ)の聖女』、レミリア・フォルトランとの婚約を正式に発表する!」


 ──瞬間。


「「「「わああああああーーーーッ!!」」」」


 本日一番の大歓声があがる。そこんはアライル殿下とレミリアの事だけじゃなく、先程のお二人の事も加えた感情の爆発からなるものだ。

 この歓声をうけて、アーネスト殿下とマリアーネも舞台中央に戻ってくる。


 見れば舞台中央にて、向かって右側アーネスト殿下、左側にアライル殿下。その外側にはお互いの愛すべき相手、マリアーネとレミリアがいる。

 そんな四人を見ながらも、やはり私の視線はレミリアとマリアーネのドレスへと向いてしまう。


「やはりお二人共ドレス姿が素敵ですね……」

「ええ、そうね。色もお二人にピッタリです……」


 レミリアは燃える様な『赤』。

 マリアーネは澄み渡る様な『青』。

 これはお互いの婚約者から送られた指輪の宝石の色で、いわば二人にとっては“もう一つの大切な色”なのだ。

 その事を知っているのは、やはり私達だけだろう。……もしかしたら、両殿下の魔法の師でもあり、この学園の準教師でもあるヴァニエール先生も知ってるかもだけど。

 ただ……やはり私の視線は、気付けばレミリアに向いてしまう。


 思えばこの学園で、一番私に接してくれたのは間違いないレミリアだ。

 貴族ばかりが通う魔法学園で、どうすればいいのか判らずフラフラしていた為、あろうことかアライル殿下にぶつかり転倒するという大失態を犯した。

 だが、そんな血の気が引く事態をまとめてくれたのは、他ならぬレミリアだった。その後、寮の同室の者に邪険にされた私を見て、問答無用で救いの手を差し伸べてくれた。今ならば彼女の気持ちがなんとなく理解できるけど、やはり優しい人だと思う。

 その後もいろんな事があった。そして……やはり、あの花壇での一件は私の心に大きな一石を投じたものだった。怖い経験もしたけど、そこで聞いたレミリアの言葉は、私にとって忘れられないものだった。


『貴族というものは、貴族に生まれるのではありません。貴族は()るものなのです』


 その言葉が意味する所とは少し違うけど、平民に生まれた私が今や貴族──侯爵家の人間だ。だからこそ、きちんと貴族になりたいと思い……なれるとも思えた。

 思えば学園入学の早い時期から、レミリアは私を学園内での専属メイドとして雇い、社交界でも恥ずかしくないほどの所作を教え込んでくれた。……いくらなんでも、あの頃から既に私の貴族入りを考えていたとは思えないけど。


 ただ、私にとってレミリアは……かけがえの無い存在だということ……それだけは今後も決して揺るがない真実だ。

 その事がどこかむず痒くて、そして──嬉しい。

 どこか照れくさい想いを抱えて舞台の上を見ると、ホールの皆に手を振っていたレミリアがこちらを見て笑みをこぼした。


 何度でも見た唯一無二のその自信満々な笑顔は……今日も眩しかった。


次回で八章は終わり、その後エピローグの終章となります

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