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転生令嬢姉妹は平穏無事に過ごしたい  作者: のえる
第八章 三学期 ~レミリア15歳~
145/153

145.令嬢姉妹と溢れ出す想いのカタチ

前半レミリア視点、後半ティアナ視点です。

 ティアナが侯爵家──要するにフォルトラン家(わがや)へ養女入りしたという話は、瞬く間に学園内をかけめぐった。

 よくある言い回しで『あっという間に』とか表現されるが、まさにその通りとでもいうべき速度で。誰かが大声で叫びながら走り回ったのかと思うほどで、授業休みになるたびに1-Aに野次馬にくる生徒が増えるほどだ。


「ふっふっふ~、いやぁティアナったら物凄い注目ね」

「うう……私、こんな風に注目集めるの全然慣れてないのに……」


 できるだけ体を小さくして、こそこそ私の後ろに隠れようとするティアナ。もっとも、お互いあまり身長が変わらないので、そこにいるというのは誰の目にも明らかではあるんだけど。


「でもティアナもこれからは貴族……それも侯爵令嬢なんだから、もっと堂々としないとダメですよ」

「そうですよ。それに家の爵位なら我が家は伯爵家……侯爵家のティアナよりも下になりますわ。……これからはティアナ様ってお呼びしたほうがよろしいでしょうか?」

「ええぇぇ~、やめてくださいよフレイヤさ──フレイヤ」

「ふふふ、冗談ですわよティアナ♪」


 笑みをこぼすフレイヤをたくましく思う反面、本当に仲良しだなぁとしみじみ思った。なによりこのティアナの侯爵入りは、後々フレイヤのお兄様であるクライム様との縁談のための前段階なのだから。

 ……ただ、本来はまだまだ先のはずだったこの養女縁組。ティアナに対するいじめへの対策と、思いのほか上達した彼女の淑女教育。それらを踏まえ、私達三人で決行したことだった。

 ……それにしても。


「本当に野次馬が多いわね。別にちょっと立場がかわっただけで、今までと左程変わってないでしょうに」

「いやいや、レミリアさ──レミリア、全然違いますってば」


 否定しながらも、まだ私達の呼び方が慣れないようだ。この機会に私達のことも呼び捨てることになったのだ。最初は無理だと言っていたけど、同じ侯爵家となったいま無理な理由はどこにも見当たらず、結局は首を立てに振る事になった。


 ……こんな感じで、普段よりも少しばかり賑やかに午前は過ぎ去った。






 お昼休みとなり、私達はいつものように生徒会室へ──は向かわなかった。

 いや、正確には一人だけは向かった。その人物は……ティアナだ。


「……なぁ、レミリア。これには何か意味があるのか?」


 教室を出た後、生徒会室へと向かうアライルを私達は呼び止める。そしてティアナだけを行かせて、彼をつれて別の場所へと向かう。

 行き先は、本日限り特別に使用許可を頂いた校長室だ。別に他の特別室でもよかったのだが、なんとなく行ってみたくなったのよね。

 校長室へ行く道すがら、私はアライルに今回の事を説明する。いじめについても触れたが、そこはあまり大事にしたくないのでサラッと流すように話す。

 そして本題であるティアナの養女縁組話は、その先にあるクライム様との事を話すと納得してくれた。というか、流石に二人が好き合っている事は知っているので、むしろ安心したような表情を見せた。

 その辺りの説明を大方した頃合で、アーネスト殿下とお兄様が合流して一緒に校長室へ向かう。そちらはお兄様が説明をしておいてくれたようだ。

 そして到着し、アーネスト殿下が校長室のドアをノックするが返答はない。どうしようかと思っていると「失礼します」と声をかけて入っていく。


「予め本日は空けておくと通達されていたんだ。ただ、一応礼儀として確認はするべきだろ?」


 ニコリと笑みを見せて入出するアーネスト殿下。それに私達も続いて入るが、やはり室内には誰の姿もなかった。その事になんとなく安堵してしまう私達一年生女子三人。やっぱり校長室って、独特の雰囲気あるから緊張するのよねぇ。……うわ、鳥の剥製とかあるし。これは……フクロウかしら?


「さぁ、普段の少し遅めの昼食だ。退室も少し早めになるから、色々話もあるだろうけどまずは昼食を頂こうじゃないか」


 パンパンと手をたたいて言うアーネスト殿下に私達は頷いて食事を始めるのだった。




◆◇◆




 どこか張り詰めた空気の中、もくもくと昼食をとっているティアナ(わたし)。手にしたのはレミリアさ──レミリア達が作ってくれたカツサンド。カツをつかったサンドイッチで、彼女曰くどうやら勝利へのキーアイテムらしい。……確かに美味しいけど。

 そんな私の向かいに座っているのは、一つ年上の二年生で生徒会の副会長をつとめているクライム様。

 ここは生徒会室で、いつもの昼休みは生徒会役員全員でにぎやかなのだが、今日だけは私達二人だけである。


「………………」


 うう、間が持たない。元々クライム様は寡黙気味で、どちらかと言えば静かに読書などをしているのが似合うタイプの方だ。

 だが私は知っている。ひとたび役目を背負ったら、とても真剣に、一途に、達成しようとするひたむきさがあること。そしてその理知的な言動により隠れ勝ちだが、とても情熱的な部分がある事も。

 ……ただ、それが主に妹であるフレイヤに関することばかりなのは、ちょっとだけ嫉妬してしまう自分が悲しい。


「…………嬢。ティアナ嬢!」

「えッ!? あ、ハイっ!?」


 少し思考の海にのまれていた私だが、不意に耳に届く聞きなれた声にあわてて顔をあげる。そこには少し焦ったような目を向けるクライム様がいた。


「も、申し訳ありませんクライム様! お呼びなされている事に気付きませんで……」


 慌てて立ち上がり謝罪しようとする私を手で制し、そっと座るように目で伝えてくる。なので私は浮かした腰をそのまま落として姿勢を正す。

 そんな私を見て、いっそう心配そうな目を向けてくるクライム様。


「……聞いたよ、フォルトラン家の養女となった話」

「そ、そうですか……」

「うん。急な話なんで驚いたけど……その事で何か悩んでたりするのかな」

「あ、いえ。そういうわけでは……」


 悩んでいるというか、この場の雰囲気に緊張が押し迫ってるんです! とは当然言えるわけもない。でも私が無理して嘘をついてるのではないとわかってくれたようで、少しだけ表情が和らいだように見える。


「でもそっか……ティアナ嬢は侯爵家の令嬢になったのなら、これからはティアナ様って呼んだほうがいいのかな?」

「あ、あのっ、兄妹で同じ事でからかうのはやめてください~」

「ああ、フレイヤが既に言ってたのか。これは恥ずかしいな、はははっ」

「うう~っ……」


 サムスベルク家の兄妹にそろって同じネタでからかわれてしまった。

 とても恥ずかしい。恥ずかしいのだが……反面、とてつもなく嬉しい。元々私とフレイヤは仲が良いと思っている。でも、ここ最近は特に仲が良いのを自覚している。これは願望でもうぬぼれでもなく、レミリアやマリアーネからも言われている。

 そんな仲の良いフレイヤと同じ軽口を、彼女の兄であるクライム様から頂いてしまった。その事が私は無性に嬉しい。単純な思い込みかもしれないが、それほどに気安く言葉を交わせる間柄なのかもと思えてしまう。


 そんな、何気ない……本当に小さな事だけど。

 今の私の背中を押すには、十分すぎるほどの援護で。


「あ、あのっ、クライム様っ」


 私の今の気持ちを、ありったけの勇気を込めて呼びかける。


「はい」


 それを感じとったのか、クライム様も浮かべていた笑みを消して真剣な顔をでこちらを見る。

 とても真っ直ぐな視線が私を捉え、思わず逃げたくなる気持ちを必死にこらえる。

 でも、その逃げたい気持ちより、もっと強い気持ちが私の中に沸いてくる。

 今の自分の素直な気持ちを伝えたい。ただ、それだけでいい。

 小さく深呼吸をする。……うん、大丈夫だ。

 正面に座るクライム様の目をじっと見る。そして──


(わたくし)ティアナは、クライム様をお慕いしております。どうか私と……結婚を前提としたお付き合いを、お願いしたいと思います」


 そしてゆっくりと頭をさげる。

 クライム様の顔を見るのが怖いから。

 しばらく──もしかすると、ほんの僅かな時間かもしれないけれど、頭を下げている私にクライム様の声がとどく。


「ティアナ嬢、顔を上げて下さい」

「…………はい」


 少し怖かったけど、耳に届いた声がいつもの優しい声。ただそれだけで、素直にいう事をきけた。

 顔をあげて改めてみたクライム様の顔は──やっぱり見惚れてしまった。これまで幾度といろんな表情を見たはずなのに、今浮かべられているのはそのどれよりも……心にまっすぐ届く笑顔だったから。


「私も貴女をお慕いしています。どうかこれからも、私の傍に──隣にいて下さい」


 そう返事をされたクライム様は最高に素敵な笑顔をされた。

 でも、すぐにその表情がよく見えなくなってしまった。


「…………はいッ」


 ──私の両目から止め処なく溢れてくる、この暖かい涙のせいで。



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