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転生令嬢姉妹は平穏無事に過ごしたい  作者: のえる
第八章 三学期 ~レミリア15歳~
144/153

144.令嬢姉妹と新しい家族の絆

前半はアライル視点、後半はレミリア視点となります。

「皆さん、おはようございますっ」


 普段と同じ……いや、普段より幾分元気良く教室にやってきたレミリア。その表情はただ明るいだけじゃなく、何か悩み事でも解決したかのような清々しさがあった。

 とはいえ変化は些細なもので、婚約者であり普段から彼女を見ている俺だからこそ気付くことができるレベルだ。

 レミリアに続いて、マリアーネ嬢とフレイヤ嬢もやってきた。その二人も、レミリアの状態を念頭においてみると、どこかスッキリとしたような表情をしているように思う。

 そして──


「お、おはようございます、皆さんっ」


 最後にティアナ嬢も顔を見せる。これで昨日欠席していた四人がそろって出席だ。だが……ティアナ嬢に関しては、どこか必要以上に気を引き締めているよに見える。

 元々彼女は平民という立場ゆえ、この学園では誰に対しても弁えた姿勢でいるのが普通だった。だが、レミリアが自身の専属として常に同行し、マリアーネ嬢やフレイヤ嬢が身分など関係なく接していたため、いつしか教室内では対等の関係……とまではいけなくとも、それに近しい程にはなれた感じだった。

 そんな彼女だが、従来とはまたどこか違う緊張感を纏っているように思えた。そんな彼女にレミリアが笑顔で話しかける。


「もーっ、ティアナったら~……何緊張してるのよ」


 普段の彼女らしい、気安くどこか心地よい会話が出てくる。

 だが、それに対してティアナ嬢が発した言葉に、皆が違和感を覚えて戸惑った。


「い、いえ、何も緊張なんてしてないですよ……レミリア(・・・・)

「「「「……!?」」」」


 教室内で彼女達に注視していた者──俺を含めて全員が、その違和感に気付き息を呑む。今ティアナはレミリアの名前を呼び捨てたのだ。確かに彼女達は親友であり、クラスの者は十二分に熟知している。だが平民である彼女は、さすがに侯爵令嬢であるレミリアを呼び捨てるとは思わなかった。

 以前ある時を境に、“様”付けをしていたのを“さん”に変えた時も結構な驚きがあったが、今回はその非ではない。

 思わず目で追いながらも何の言葉も発せずにいると、マリアーネ嬢とフレイヤ嬢がティアナ嬢に話しかける。


「嘘ばっかりー。すごく緊張してるの丸わかりよ」

「そうですわ。今ここでそんな風ですと、後はもっと大変ですわよ?」

「も、もう! マリアーネ(・・・・・)……もフレイヤ(・・・・)……も、からかわない下さい~……」


 ……やはりか。先程レミリアを呼んだ時と同様、二人に対しても呼び捨てをする。だがその声色や表情からも、大切な友人であるというスタンスは些かも変更ないように感じる。

 だが、やはりどこか不思議に思う感覚も間違いない。そう思って彼女達を見ている俺の視線に、レミリアが気付いてニコリと笑みを向けてきた。


「どうしたのアライル、(とんび)油揚(あぶらあ)げをさらわれたような顔して」

「いや、その喩えはよくわからないが……」


 たまにレミリアはこんな感じでよくわからない発言をする。以前聞いたことがあるが、何でもここよりずっと東方の島国でつかわれている言い回しだとか。彼女達はよく図書館なので色々な知識を得ているようだから、そこで知り得たのであろう。

 それはともかく、俺はどこか違和感を感じるティアナ嬢のことを尋ねた。


「その……先程より、ティアナ嬢が何かいつもと違うように思うのだが。何というのか、具体的に言えばレミリア達への呼び方などが……」

「ふっふっふー、わかる~?」

「いや、さすがにアレは誰でも気付くぞ」


 少しばかり呆れ声をにじませてみたが、どぷにも上機嫌らしきレミリアには通じなかった。そんな彼女は俺に軽く頷くと「さてと──」と、ティアナ嬢の傍へ。


「はいはいっ。皆様、少々よろしいでしょうか」


 そう言いながら手を二回ほど打ち鳴らし、クラスメイト達の注目を集める。よくみれば、丁度廊下を通りかかった余所の生徒も何人か「なんだ?」と彼女に視線を向けている。

 そしてティアナ嬢の隣、レミリアのいる反対側にはマリアーネ嬢も並んで立つ。聖女であるフォルトラン侯爵令嬢姉妹に挟まれているティアナ嬢……これは一体何なのだろうかと思っていると。


「昨日こちらのティアナは、我フォルトラン侯爵家にて養女として迎え入れました。従いまして今後は、ティアナ・フォルトラン侯爵令嬢として接して下さる様よろしくお願い致します」

「「「「………………」」」」


 堂々と、そしてしっかりと皆の耳に届くレミリアの言葉。だがその内容に驚くばかりで、全員がしばし何も言えずに固まってしまう。

 暫しの間があり、そして──


「「「「えええ~~~っ!?」」」」


 静寂の反動を打ち消すほどの絶叫が、教室の中に響き渡ったのだった。




◆◇◆




「「「「えええ~~~っ!?」」」」


 教室内に響く大声に、私達は思わず笑みを浮かべそうになるのをこらえる。いやぁ~、やっぱり驚いたわよねぇ。

 元々この計画は随分と前から進めていたけど、推し進める時期はまだまだ先のつもりだった。だが、先日のティアナへのいじめが発覚したのを受け、私とマリアーネ、そしてフレイヤは早急に事を運ぶことを決めたのだった。


 決めてからの私達はそりゃもう行動は迅速だった。私達三人は、翌日学園を欠席してそれぞれが目的の場所へと向かった。


 マリアーネは実家のフォルトラン家へ向かい、すぐにでもティアナを迎え入れる話を進める旨を伝えに。ちなみにお兄様へは、昨日中にミシェッタに頼んで話を伝えておいた。理由など細かい部分は伏せたけど、知的なお兄様のことだきっと感づいているだろう。


 フレイヤはティアナと一緒に、ティアナの家へ。既にあちらの両親には話をしてあったが、時期が大きく前倒しになったのでその説明を。急な話になり戸惑われるかと思うので、そこはティアナに説得をお願いする。もちろん、養女として向かえたからといってすぐさまティアナが家から出て行くことでは無いことも伝える。学園を卒業したら、まずは実家であるそちらへ帰ることを約束して。


 そして私は王城へ。正確には女王陛下のところだ。女王陛下が親を抱く平民のティアナに関する事柄でもあるし、何よりこの件に動きがある場合は報告して欲しいと常々言われていたので。

 なので私は早速女王陛下に会いに行った。幸いにも女王陛下の時間が取れ、相手が聖女である私ということですぐに話をすることができた。

 いじめに関しては伏せ、諸事情により早急にティアナを養女入りさせたいとう私の願いは、あっさりと女王陛下に認めてもらえた。むしろ「よくやりました!」といたく喜ばれた。なんでもこれで次回からの王宮庭園のガーデンパーティーにティアナが堂々と呼べるとのこと。まぁ、それは表立った理由っぽくて、本心ではティアナの事を心配してくれているらしかったけどね。


 そんな訳で私は、女王陛下の許可というお墨付きを頂いて実家へ。

 先に到着していたマリアーネと一緒にフレイヤとティアナの到着を待つ。しばらくして、フレイヤとティアナおよびその家族がやってきた。


「ああっ、聖女さまっ」

「ルノアちゃん、いらっしゃ~い!」


 私を見つけたティアナの妹、ルノアちゃんが元気良く抱きついてきた。うはぁ、かわいいわねぇ~。

 驚きながらその後ろに、ティアナの両親と兄弟のタリックくんとフーリオくんもやってくる。だがその視線は、屋敷内をキョロキョロしており落ち着き無い。ふふっ、なんだか可愛いなぁ。

 そんなティアナの家族の前にお父様とお母様が進み出る。


「はじめまして。いつも私の娘たちレミリアとマリアーネがお世話になっている。領主のギルバート・フォルトランだ」

「妻のアルメリアです。ふふっ、お会いできて嬉しいわ」

「は、始めまして! ティアナの父のダインですっ」

「つ、妻のメーリアです! 本日はお招きありがとうございますっ」


 お互いの両親が挨拶を交わす。それを見てどこか気恥ずかしい気持ちと、なんともたとえがたい嬉しい気持ちが沸く。それはティアナも同じようで、なんだか照れ笑いのような表情を浮かべていた。


 そして二家の両親は、本題を話し合うために応接室の方へと歩いていった。その様子をみていたティアナの弟妹は、室内を興味深そうに見ながらもこっちを気にしている。


「ん~~~……よし! それじゃあ皆、家の中をいろいろ見て回ろうか?」

「え! いいの? 見たいみたい!」

「僕も! 探検だ冒険だ!」


 すぐさま楽しそうにはしゃぐタリックくんとフーリオくん。それを見て赤面するティアナ。だが妹のノルアちゃんは、私の袖をぎゅっとつまんで見上げてきた。


「……聖女さまも一緒?」

「もちろんよ!」

「うん! 一緒!」


 わはぁーと笑顔を浮かべて私の腰に抱きついてきた。

 こうして私達が、賑やかしく屋敷の中を散歩しながらおしゃべりをしてすごしていた間に、両親によりティアナの養女入りはスムーズに進行していったのだった。


いつも誤字報告ありがとうございます。この場をかりてお礼申し上げます。

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