143.令嬢姉妹達を想う者達の気持ち
今回は進行上レミリア視点ではありません
「──ああ、そうだった。本日、レミリア、マリアーネ、フレイヤ、ティアナの四名は用事により欠席だ」
俺ことアライル・フィルムガストは、朝の教室にて担任のゲーリック先生の言葉にまず驚いた。予め聞いていなかったのが原因なのだが、その四人で学園を欠席するほどの用件とはなんだろうか……と。
(でもまぁ、きっとレミリアあたりが言いだしっぺなんだろうな……ふふっ)
まったく用件の想像がつかないが、それがまた彼女たちらしいと思えて自然と笑みが浮かんでしまう。そんな俺を見たゲーリック先生は、これまたどこか苦笑を浮かべた。いやはや、理解のある先生でよかったなレミリアよ。
先生が退室すると、少しだけ教室の中がざわざわとする。おおよそ今の話に皆であれこれ憶測をとばしているのだろう。中には俺のほうを見ているクラスメイトもいるが、残念ながら俺も理由は知らない。
(ふむ……昼休みにでもケインズに聞いてみるか)
そんな事を考えていると、教室のドアがあいて教師が入ってきた。よし、まずは学生の本分である授業をうけようか。
そして昼休みとなり、俺はいつものように生徒会室へと足を運ぶ。
無意識に急いていたのか、普段は俺よりも先に来ているケインズやクライムがまだ居なかった。しかし、それでも兄上は居るとは……どれほどの早さできているのだろうか。
とりあえず席に座りケインズの到着を待つことに。しばし間をおいて、ケインズとクライムが生徒会室にやってきた。二人とも部屋にはいる時に「おっ」となったのが、何か新鮮で不思議な感覚だった。
まぁ、まずは昼食をとってからにしよう。会話のおかげで食事がおろそかになっては、その後の行動にも支障が生じるからな。
そう思ったのだが……ああ、そうか。よく考えたら全員がそろってからいつも食べ始めていたな。ならば先に四人が居ない事を報告しなければ。
「今日なんだが、レミリア達は四人とも用事で欠席していると先生に言われた。ケインズ、それは間違いないね?」
「……ああ。今日、レミリアとマリアーネ、そしてフレイヤ嬢とティアナ嬢は四人とも用事で欠席している」
「ほぉ……」
「それは……」
ケインズの言葉に兄上とクライムが驚いた様子を見せる。やはりケインズだけは何か知っているようだな。そんなことを考えて視線を向けていると、軽くため息をついた彼は自分の弁当を食べる準備をする。
「……とりあえず昼食にしよう」
「そうだな」
「わかった」
兄上とクライムが同意して、同じように昼食の準備をする。俺も無言で準備をしながらも、視線はケインズからはずさない。だが、さすがに皆が食事を取る中一人意固地に睨むのも詮無いと思い、程ほどに食事を進めていく。
皆の食事がおおよそ終わった……という頃、ケインズがひとつ咳払いをして俺達を注視させる。
「とりあえず皆は、レミリア達が学園を欠席してまで何をしているのか……それが疑問だと思うのだが」
「………………ああ」
兄上達もそうだが、こっちは朝からずっと疑問に思ってきてたんだ。その事に気付いているのか、こっちを強く見てくるので俺が返事を返す。
だが、それを受けたケインズは次にクライムの方へ視線を向ける。それに関して俺も兄上も、そして向けられたクライムも「?」となるが、それには触れずケインズは話をはじめた……が。
「まず最初に断っておく。あの四人が本日学園を欠席し、何をしているかに関しては教えることはできない」
「「「は?」」」
俺達は思わず脊髄反射的に聞き返してしまう。いやそうだろ、だって話の流れからして教えてくれるべきじゃないのか?
そんな俺達の思いを感じ取ったのだろう、少しだけ考えるような素振りを見せた。
「…………安心してくれ。彼女達に危険が及ぶような事はなにもない。というよりも、むしろ自身の保全の為に働きかけたというべきか。主に──」
そう言ってまたクライムの方を見る。それに気付いたのは、俺だけじゃなく全員。だからこそ、今回のレミリアたちの行動が、クライム──そしてティアナ嬢の為だという事にもたどり着く。
「言えないというのは、レミリア嬢からのお願いか?」
「いや、あいつらは何も。ただ……俺はたまたま知る機会があっただけで、改めて教えられたわけじゃない。だから本人が皆に言うまでは、黙っているのが筋というものだ」
兄上の問いに対する答えは、結局は教えられないという事だった。ただまあ、それがまた彼女達らしいと思えたので、思わず笑みが浮かんでします。といっても、ほぼ苦笑に覆われた笑みだけど。
「まあ、明日は普通に登校してくるだろう。もう一日辛抱してみてくれ」
「……わかった」
「ああ」
「了解だ」
ともかく明日になれば理由もわかるし、何かしらの問題も解決ということか。多少気にはなるが、レミリア達がしでかす事を一々気にしてたら、これからも実が持たないんだろう。
「しかし……」
「ん?」
俺の漏らしたつぶやきにケインズが反応する。
「昔は問題児といえばレミリアだったが、いまやそれが四人それぞれに……という感じがするのは俺だけか?」
「……そうだな。兄の目から言わせてもらうが、レミリアとマリアーネ……本当に根本のところから似てきている気がする」
はぁ~っと、少しばかり大きなため息が出るケインズ。
「だが私もアライルも、そんな彼女達に惹かれ、そして婚約を申し込んだのだからな。色々と気もはやるし焦りもするが、それ以上に楽しくもあるぞ」
「まったくだ。それに関しては俺も兄上に同意する。それに……」
「それに?」
ニヤリと笑いながらケインズを見やると、何だという顔でこっちを見返す。
「どちらかといえば、フレイヤ嬢のほうがずいぶんと変わったんじゃないか? 確か知り合ったばかりのころは、保護欲を掻き立てられる深窓令嬢そのものって雰囲気だった気がするんだけど……ね」
そういいながら視線をケインズから実兄のクライムに向ける。それを受けたクライムは、少しばかり困ったような……でも楽しげな顔をする。
「フレイヤは変わりましたよ。相変わらず部屋に篭って本を読むことが大好きですが、それと同等か以上に親友である彼女達と遊ぶことが大好きなようです。フレイヤに訪れた変化は、貴族令嬢の外面としては非を申し立てる者もいるでしょう。ですが私は、この変化をもたらした友人達に感謝をしておりますよ」
満足そうな発言に、そっと口角をあげる。英才と呼ばれるクライムだが、その笑顔には一切の計算を含まない清々しい心情を感じた。
そんなクライムに、ケインズがどこか楽しげに話しかける。
「……となれば、当然ティアナ嬢もこの一年で色々と変わったのだろうな」
「まぁ、学園内ではレミリアが専属として貴族マナーを叩き込んでたしなぁ」
実際同じクラスである俺は、その光景をよくよく目にしている。他の三人は学年すら違うので、生徒会室での昼休みくらいしかその状況を見てないだろう。放課後の業務では、作業優先で一時的に専属扱いをしていなかったしな。
「ティアナは……うん、色々と変わったと思う」
そう呟くクライム。それを聞いて、うんうんと頷く俺達。ここに居る者は、みな彼女達の変化という名の成長を喜んでいる。
「ともかく、明日は四人とも登校してくるはずだ。何かあればその時わかるだろう」
そう言ってケインズが席を立つ。気付けばもう少しで昼休みが終わりそうだ。
「では、そろそろ教室へ戻ろうか。本日は特別な急務もないため、放課後は集まらなくても構わないぞ」
「「「はい」」」
兄上の言葉に返事を返す俺達。本日の生徒会はこれで終了となった。
「皆さん、おはようございますっ」
翌日の1-Aの教室。そこへ元気よく……いつもよりも何割増しで元気良くレミリアが教室に入ってくる。その姿にクラスメイト達も笑顔で挨拶を返す。別段彼女たちを病気とかで心配していたわけではないが、やはりクラスの中心人物がいないのは寂しいのだろう。
「皆さん、おはようございます」
「おはようございます」
続けてマリアーネとフレイヤも入ってくる。同じようにクラスメイトと軽やかな挨拶が交わされる。
そして──
「お、おはようございます、皆さんっ」
最後に予想通りティアナが、同じように挨拶をしながら入ってきた。
だがその表情は、どこか緊張している様子だった。そんな彼女を、先に入ってきた三人は楽しげに見ている。
いつもと変わらない光景だが、一つだけ……そう、一つだけ違うところあった。
その違うところ、それは──