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転生令嬢姉妹は平穏無事に過ごしたい  作者: のえる
第一章 始まり ~レミリア12歳~
14/153

014.却って親密にって本当ですか?

「レミリア、マリアーネ。アライル殿下と話をする予定が決まった。明後日の夜、この応接間だ」


 そう伝えるお父様に続き、何故か今回は同席しているお母様が口を開く。


「招待客はアライル殿下とアーネスト殿下です。そして今回は、(わたくし)が取り仕切る『サロン』でという事に致しました」

「えっと……サロンですか?」

「レミリア姉さま、サロンって……お部屋の事?」


 私とマリアーネが疑問を口にするが、どうやら内容は違うようだ。なによりマリアーネは『サロン』という単語の意味を知らないらしい。まぁ、普通に日本で生活してると応接間(サロン)って意味だと思うよね。私だって乙女ゲームやってなかったらそう思ったもん。


 とりあえずマリアーネには簡単に説明した。

 ここで言うサロンは、いわば晩餐会に近い感じの内々な夜会であると。勿論、色々な決まりごとなどもあるが、今回はおもいっきり割愛。そういう知識は後々に詰め込めばいいことだしね。

 なので理解としては、王子お二人を我家で執り行う夜食会にご招待します、という感じでいいか。


「しかし、何故サロンなのでしょうか? 話をするだけであれば別にサロンでなくとも……」

「それなんだがな、実は先方からの要望でな」


 お兄様の疑問に、お父様が答える。え? あっちからの要望なの?


「実は先日行ったレミリアとマリアーネのデビュタント……そこで出た幾つかの料理、それを味わってみたいと申されてな」

「え? でもアライル殿下もアーネスト殿下も、来ていたじゃないですか」

「そうなんだが……お二人は、この国の第一王位継承者と第二王位継承者だ。いくら領主主催のパーティーであっても、その場では気軽に食事を取る事は出来ないだろう」

「あー……そういうコト」


 納得した。要するに食べ物に危険がないかわからないので、自由な飲食が出来なかったと。それはご愁傷様というか、悲しいあるある話とでも言いますか。


「でも、だからといって我家の食事を? 王族ならばもっと贅沢な物を食べてらっしゃるのでは?」

「私もそう思って聞いてみたのだがな、どうもあの時に出した料理が貴族達の間ではかなり好評でな。それ故に、目の前にありながら食べ逃してしまった事に両殿下とも心残りだったと」

「あらまぁ」


 理由は単純明快だが、そこまで評価してもらったのは嬉しい。美味しかった理由の一番は、私が家の者達に伝えた色々な料理や食材に関する事が原因だけど。

 特に食材を長距離移動させるための天然冷蔵庫は、普通であれば保存のため塩漬けや燻製にしなければならない肉などを、生肉のまま運ぶ最良の手段として使えた。運びながら調味料による下味をつけ、ハーブなどの葉で香りや防腐を施すなど、この世界では広まってない──でも私には当たり前の事をした。おかげであの日出された食事は非常に好評だったようだ。


 そんな経緯があり、アライル殿下およびアーネスト殿下との話し合いの場は、お母様が主催するサロンにてという事になったのだった。






 ──そして当日。

 一般的な晩餐会と同じく、おおよそ午後7時頃に両殿下はやって来た。


「ご機嫌麗しゅうアーネスト殿下、アライル殿下。本日は()、アルメリア・フォルトランが主催致しますサロンへようこそお越し下さいました」


 玄関ホール正面にいるお母様が、やって来た両殿下へ挨拶を述べる。本日の場はサロンということで、お母様が女主人として主催するという形式なのだ。


「アーネスト・フィルムガストです。本日はご招待頂き感謝する」

「アライル・フィルムガストです。本日のご招待、感謝する」


 両殿下が手を胸にあて、礼をしながら挨拶を述べる。その姿は、まだ14歳と12歳でありながら、堂々とした王族の風格を感じた。んー……やっぱり本物は違うってことかね。

 ちなみに私とマリアーネは玄関ホールにはいない。ホールが見下ろせる正面階段の上の壁から、こっそりと顔を出してのぞいている。

 おっと、挨拶が終わってお母様と両殿下が歩き出した。私とマリアーネは慌てて引っ込み、控え室となっている別室へ退避した。一応私たちも招待客という立ち位置なのだ。


「レミリア様、マリアーネ様。そろそろご準備を」

「ええ」

「はい」


 ミシェッタに言われ、私もマリアーネも少し乱れた髪やドレスを直してもらう。こうやっている間に、両殿下は応接間の方に通されているはずだ。

 今日のドレスは、折角なのでとデビュタントで最初に着たドレスだ。私が赤基調でマリアーネが白基調。それに少しだけ変化をと、お互いの色のフリルで作った花を胸につけてある。そうする事で、よりお揃い感が出てちょっと嬉しい。マリアーネも同じなのか、自分と私の胸にある花を眺めてはなでたりして微笑んでいる。


「行きましょうかマリアーネ」

「はい、レミリア姉さま!」




 応接間に入ると、既に両殿下は待っていた。


「ごきげんよう、アライル殿下、アーネスト殿下」


 まずは私から挨拶を述べる。ただ、今日の私が会話を交わすべき相手はアライル殿下だ。なのでその事を明確にするべく、アライル殿下の名を先に告げた。両殿下ともその意図を理解してくれたようだ。


「ごきげんよう、アーネスト殿下、アライル殿下」


 続いてマリアーネが挨拶をする。彼女は私のような用件対象はいないので、普通に第一王子であるアーネスト殿下の名を先に告げた。

 なのでこの後、私達は向かいに座るが当然アライル殿下の正面は私だ。なのでマリアーネはアーネスト殿下の前となるが、彼女的には指して興味もなさそうだった。まあ、以前のように突っかかるような事がなければそれでいいかな。


「それでは早速ですが、まずは食事と致しましょう」


 主催であるお母様の言葉により、次々と料理が持ってこられる。普段であればコースとして順番に出すのだが、今回出す料理はベースが以前のビュッフェということもあり、その雰囲気も味わってもらえたらと簡易的なビュッフェ形式になっていた。まずスープで少し口を湿らせた後、綺麗に盛り付けられた料理をとっていく。この食事は両殿下への物でもあるので、先にお二人にとってもらった。

 殿下達が食べ始めたのを確認して、私とマリアーネもいくつか取り分ける。そうしながらも、お二人の反応を見ていたのだが、真剣な顔でもくもくと食べていた。王族ほどの者ならば、食べながら話をするなんてことは非常識なんだろうね。

 無論、私とマリアーネはそこまでじゃない。食事中のおしゃべりは慎むけど、軽く相槌を打ったりこそっと一言二言交わすくらいはしている。そんな感じでのんびりと食事をし、私達が二往復で終える頃合いで、アーネスト殿下がフォークを置きお母様に話しかけた。


「食事中の会話がマナー違反なのは重々承知だが、その上でお聞きしたい事があります」

「かまいませんわ。本日の食事は、殿下より希望されたものですので」

「ありがとうございます。では……」


 そう言いながら、自分の前にある料理を少しだけ前に出す。あれは……ムニエルかな? 使ってる魚はこの世界の魚で、鮭にそっくりな魚だ。姿もそうだが、身が紅色なのも同じだ。ってことは、前世で食べてた鮭みたいに本当は白身魚なんだろうね。


「こちらの魚、おそらくは海で獲れるサーモンかと思うが……」


 あ、名前一緒なんだ。さすが乙女ゲームっぽい世界、都合がいいわね。


「このような内地の領地で食すには、色々と制限があるかと思う。だがこの料理は……」


 そう言ってサーモンの身にフォークをさし、ポロリと身をくずす。そこから湯気が立ち上り、脂がのった証拠とでもいうべきか身がテラテラと輝いている。


「このように、まるで海辺で獲ったばかりの魚を調理したような感じをうけた。この魚からは、塩漬けにした感じも、干して乾燥させた痕跡もない。魚だけでなく肉や野菜においても、遠方より運んだと思われる品がどれも痛みもせず調理されている。これは、どのような手段を用いたのか知りたい」


 そう問われて、お母様が私を見る。元々こういった知識は私発信であり、それをどうしたいかというのは私にお任せな部分もあった。私自身、別に秘密裏にしているわけでもない。ただ素直に聞いてこないで、こっそり盗み見ようとするような人には教える気はないけどね。


「アーネスト殿下。その方法については私からご説明いたします」

「え、レミリア嬢が……ですか?」

「はい。それについてですが──」


 私は運搬に使用した簡易冷蔵方法の話をした。だが、さすがにまだ殿下は14歳と12歳。それにこの世界での科学や物理の知識では、とうてい理解できない内容だったようだ。ただ、私が少しばかり異質な知識を持っているという事は理解したようだった。


「──という感じで、水が気化することで熱が地中から大気へ移動し、それに伴い土が冷えることを利用しているのです。このような現象を、確か……」

「エネルギー保存の法則ですわね、レミリア姉さま」

「そうそう! それよそれ」


 うわー懐かしい単語だなぁ。これって物理学の話だっけ? 教科書で見たのって、もう何年前になるんだろう。そう思っていたら、


「マ、マリアーネ嬢! 貴女もレミリア嬢のような知識を持っておられるのですか!?」

「えっ!? あ、ええっと……はい。そこそこには……」


 尻すぼみで肯定するマリアーネから、声が聞こえなくなる瞬間「高校の物理レベル?」とボソッと聞こえた気がした。確かに前世が高校生だったマリアーネの方が、物によっては詳しいかもね。


「マリアーネは、ジャンルによっては私よりも詳しいですわよね。だって元女子校生だし」

「ジョシコーセー?」


 私の言葉にアライル殿下が「?」という顔をしている。そりゃ知らないわよね。後、おそらく一生知らなくていい言葉ですわよ。

 ただ、アーネスト殿下は少しだけ真剣な表情を浮かべる。よもや転生とか、そういった事象がばれたとかじゃないと思うけれど。


「レミリア嬢、マリアーネ嬢。今の私達が“アレ”についてあなた方に問うのは宜しくないことだと理解しております。しかし、一つだけお答え願えないでしょうか?」


 改まって姿勢を正すアーネスト殿下と、それを見て同じように姿勢を正すアライル殿下。おそらく彼の示す“アレ”というのは“聖女”の事だろう。それに現状では触れてはいけないという約束、きちんと守っていてくれたようだ。

 それを承知で、あえて聞きたいというのであれば、さすがに聞き入れないわけにもいかないか。なんといっても相手は王族だしね。


「……はい、どうぞ」

「ご配慮、感謝致します。お二人の、その特別な知識は……“聖女”であることに関係しているのでしょうか?」


 殿下の質問は、ある意味予想通りだった。私達が聖女となる資質を持つ者だからこそ、稀有とも言うべき知識をもっているのか? という疑問だ。

 無論答えは『ノー』だ。別に私達が聖女だから持ってる知識ではない。どちらかと言えば、転生して知識をもっている存在だからこそ、聖女の資質を持つ人物になってしまった……という方が正解だろう。だがそれを言って理解できる者は、おそらく世界で私達二人だけだ。なのでここは「違いますよ」と返事をするにとどめた。余計な事は言わないほうがいいからと。


 その後は、予想に反して会話がはずんだ。

 なぜならば“聖女”という事に関して、しばらくは干渉しないという王族側の意思が分かったのが大きい。そのため私達も少し気を楽にして話をすることができたと思う。やはりというか、両殿下は話し上手で聞き上手だった。そのため私もマリアーネも、いつしか楽しく歓談をするという時間の過ごし方をしていた。まあ、それこそが本来のサロンの姿なんだろうけど。


 ──なので。

 そろそろ頃合いかなと思った私は、ようやく当初の話をすることにした。


「……アライル殿下。お話がございます」

「はい、なんでしょうレミリア嬢」


 立ち上がり、アライル殿下の前まで進み出る。それを見て、殿下もきちんとこちらを向く。そしてしっかりと目が合うのを確認して、私は丁寧に頭を下げる。


「申し訳ありませんが、先の婚約のお話……辞退致したいと思います」


 はっきりと気持ちを述べ、ゆっくりと頭を上げる。どのような表情をしているかと思ったが、思いの外普通の表情に見えた。……いや、王族ならではの外に向ける表情だ。体の横に添えた拳が、心なしか強くにぎられているようにも見える。


「……理由を、聞いてもいいかな?」

「はい。私はまだ未熟ゆえに、殿下の隣に立つにふさわしき人間ではないと思う為です」


 理由はまあ、それっぽい当たり障りのない事だ。さすがに私のバッドエンド支援なんて嫌ですから、なんて言っても通じないだろうし。あ、さすがにもうマゾ疑惑は持ってないよ。……タブン。


「……うん、わかったよ」

「それでは──」

「これからは私を知ってもらい、親密な関係を築けるように努力をさせていただくよ」

「…………あれ」


 何だろう、なんかちょっと話が通ってない気がする。アライル殿下が変な所で王様(おれさま)気質だぞ?


「あの、私は──」

「分かってる。まだしばらくは『婚約者に一番近い友人』でいいよ。それでいて、これからどんどんお互いを知っていこうじゃないか。大丈夫、無理やり強要はしない。ゆっくり知っていけばそれでいいから。ね? そうでしょうレミリア嬢?」

「え、え? あ、はい」


 ぐいぐいと責めてくるアライル殿下を前に、予想外の展開で思わず返事をする。言葉の中にあった『友人』という単語で、つい返事をしてしまったよな気もするけど。

 気付けば私の手をとり、アライル殿下がそっと口付けをした。

 ええええっ!? 私の手にキスした!? 何それ、どっかの王子様!? あ、いや、王子様だけど!

 軽くパニくっている私に、掌から顔をあげて微笑むアライル殿下。


「これからどうぞ宜しくお願いしますね、レミリア(・・・・)


 ……やばい。流れ的に前よりも断りにくい状況になった気がする。しかもこの状況って、見方を変えれば『他に好きな人ができたら簡単に解消できる関係』と言えなくもないか? それってつまり、よりゲームでの悪役令嬢ポジションを盤石にしたってこと!?

 あああ、どうしよう……。涙目でマリアーネを見るも、


「何やってるんですか、レミリア姉さまぁっ!」


 私と同じように涙目で怒られた。ううっ、ごめんなさいぃぃっ!



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